- 2018-07-13
- 建設ITガイド
はじめに
国内外のBIM推進の活動が進展している中で、異業種分野間におけるBIMデータ連携が求められるようになってきている。設計段階におけるBIM活用が発展してきている状況下、施工分野におけるBIM活用も活発になってきている。施工現場とBIMデータが接点を持つことにより、MR(MixedReality: 複合現実)、IoT(Internet Of Things)、製品流通コードタグなどを含むさまざまな情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)とBIMの連携の可能性が高まってきている。これら多様な分野との情報連携を行うため、クラウド上で信頼性の高いBIMデータ連携を行う仕組みにも注目が高まり、CDE(Common Data Environment)、IFC(Industry Foundation Classes)モデルサーバ、ブロックチェーン技術などのテーマがbuildingSMARTの国際会議においても取り上げられるようになってきた。
本稿ではbuildingSMARTの国内外における活動内容を共有するため、buildingSMART Japanが行っているIFC検定において、2017 年度に新しく加わった鉄骨IFC検定の概要と、2017年10月末に英国ロンドンにおいて開催されたbuildingSMART International Summit(ロンドンサミット会)の全体像を以下に紹介したい。
鉄骨ファブから設備へのIFCデータ連携
2016 年、buildingSMART Japan構造設計小委員会に設置された鉄骨IFC検定WGにおいて、鉄骨IFCデータ連携をテーマに、BIMデータ連携仕様IDM(Information Delivery Manual)の検討が開始された。2017年度には、そのIDMを基に鉄骨ファブから設備へのIFCデータ連携を対象としたIFC検定が開始されることになった。
建築鉄骨の分野では、構造計算ソフトウェアにより柱・梁などの主架構の鉄骨データが生成され、多くの場合、鉄骨ファブの鉄骨CADへデータ連携して、接合部や仮設材などの付帯鉄骨を追加する。その鉄骨モデルを基に、設備会社において配管ルートや機器の計画を行い、梁のスリーブ要求などの情報を鉄骨ファブに伝達する。スリーブによって梁に補強が必要になる場合は補強メーカーに情報を渡して補強リングを決定する。通常、スリーブ位置調整は複数回のやり取りを経て決定され、最終的な鉄骨モデルデータが施工会社に渡り、外装材やエレベーターなどとの干渉チェックに用いられる。以上が、鉄骨分野のBIMデータ連携の全体像であるが、2017年度に実施される鉄骨IFC検定では、鉄骨ファブから設備会社へ主要な鉄骨部材および付帯鉄骨部材(デッキ受け)をIFCデータとして連携し、配管計画や干渉チェックを行うプロセスをBIMデータ連携シナリオとしている。
鉄骨IFC検定のために、鉄骨CADおよび設備CAD間におけるBIMデータ連携を基に、以下の情報を含む鉄骨MVD(Model View Definition)が策定された(図- 1)。
●鉄骨部材および構成要素の幾何形状情報、材質、寸法などの属性情報。
●鉄骨部材の開口情報。
●梁貫通可能領域の情報。
鉄骨分野における、より詳細な鉄骨部材、鉄骨梁貫通補強情報、設備側からのスリーブ要求情報、エレベーター分野との調整など、より広いBIMデータ連携に関しては今後検討を行い、IDM・MVD策定、ソフトウェアへの実装、IFC検定へ展開する予定である。
buildingSMARTロンドンサミット会議について
2017年10月末、buildingSMART International Summitが英国ロンドンで開催された。参加者はヨーロッパ地域だけでなく米国、日本、中国、韓国、オーストラリアなどから設計、施工、エンジニアリング、ソフトウェアデベロッパー、政府、大学関係者など、世界各地のBIM関係者が約400 名参集した。日本からは16名が参加した。
英国におけるBIM推進
今回の会議での基調演説では、英国政府主導のBIM導入計画“Digital Built Britain”について、英国政府側のBIM推進組織BIM Task Groupより英国におけるBIM推進ビジョン、現時点での状況についての講演が行われた(図-3)。
BIMを導入することで、竣工後の国土空間情報のデジタル化を進め、英国の設備投資、運用投資およびアセットが生み出すサービス価値を向上させ、英国の競争力を強化させるという内容であった。これは、日本においてICTを最大限に活用し、サイバー空間と現実世界とを融合させた取り組みにより、「超スマート社会」を実現するというSociety5.0に近い概念であるといえる。英国では、政府主導のBIM Task Groupだけでなく、最近では民間におけるBIM推進組織として、buildingSMART英国支部が中心となり、住宅、高速道路、鉄道、水道、自治体、中小企業などを含むグループが英国BIM連盟(UK BIM Alliance,http://www.ukbimalliance.org/)を設立し、英国におけるBIM推進を行っていることが報告された。また英国におけるBIMの発注者、受注者などの関係者に必要となるBIMプロセスにおける要求事項が、BS-1192シリーズ(British Standards: 英国標準)においてBIMガイドラインとして定義されてきており、今後国内のBIM/CIMガイドライン整備にも参考となると考えている。
英国におけるBIM活用事例報告では、大規模な複合施設プロジェクトのBIM活用において、意匠、設備、構造など各分野のBIMモデルをbuildingSMARTが策定したBIM国際標準のIFC形式で重ね合わせをして、効率的に分野間モデルの調整をした例や、原子力発電所(Hinkley Point Cプロジェクト)施工BIM事例(数量積算、鉄筋BIM、溶接記録とBIM連携など)が紹介された。
ヨーロッパにおいては国単位のBIM推進活動の上位活動として、EUレベルにおけるBIM推進の枠組みがEUBIM Task Groupとして進められており、ドイツ、フィンランド、フランス、オランダ、ノルウェー、スペイン、英国、デンマークなどの政府系BIM推進機関の連携の状況、ISO(国際標準化機構)やCEN(欧州標準化委員会)などの標準機関との連携、EU BIM Handbook(EUにおけるBIMガイドライン)発行などについて報告があった。
buildingSMART Internationalの各Room
buildingSMART International(bSI)における活動内容を説明するため、現在どのような委員会活動が行われているのかを以下に紹介したい。Roomと呼ばれているのが、分野ごとに設立された委員会相当の活動単位である。
・Building Room:建築分野のBIMガイドライン、BIM教育、IDM、MVDなどの標準、ドキュメント、技術仕様などの検討、策定。
・Infrastructure Room:道路、橋梁、鉄道、トンネル、港湾分野へのIFC拡張。
・ Product Room:BIMに関連する用語、分類体系コードなどをデジタル辞書フレームワークbSDD(buildingSMART Data Dictionary)によりオントロジー(概念体系)として扱うことでBIMライブラリなどへ活用する運用手法の検討。
・Regulatory Room:建築行政、建築申請分野へのBIM活用ガイドライン策定や、自動チェックシステムの研究。
・Technical Room:IFC拡張・メンテナンス、IFC開発ツールキット、Linked Dataなど新領域の技術をIFC活用へ連携する研究。
・Construction Room:施工分野におけるBIM活用の事例研究、建設現場におけるICT活用、AR(拡張現実)やMR(複合現実)とBIMの連携、BIM-IoT連携、4D-BIM、BIMデータ連携に関するCDEなどに関する課題把握、協調領域の検討。本サミットでは製品流通コードの国際規格の標準化、普及を進めているGS1(日本では一般財団法人 流通システム開発センター)と、建設サプライチェーンにおけるBIMと流通コードの連携の可能性について意見交換を行った。
・Airport Room:空港分野の資産管理、運用管理の視点から空港施設ライフサイクルへのBIM活用に必要なIDM 、MVD、ガイドラインなどの策定。
Infrastructure Room においては、これまでに行われてきた道路、橋梁、鉄道分野に加え、トンネル、港湾施設分野へのIFC拡張が開始されることになった(図-5)。
特に鉄道、港湾施設分野のIFC標準化には、中国のプレゼンスが高まっている。国内のBIM・CIMの展開を一層活性化させる必要性が高まってきている。
また、bSI国際戦略諮問委員会(SAC: Strategic Advisory Council)において、今回中国からCCCC(China Communications construction company Ltd.: 中国交通建設)がゲストとして招かれた。中国政府の一帯一路政策、高速鉄道輸出などの政策と戦略的にBIMの標準化活動を連携しており、今後の中国国内の航空旅客数増大による空港建設需要などのポテンシャルを背景に、BIMを革新的技術開発テーマとして位置付けているとの報告があった。
建設現場や維持管理分野におけるBIMとIoT、製品流通コードなどとの連携、建築確認プロセスにおけるBIMとブロックチェーン技術の可能性なども討議され、今後のサミットにおいても継続的にこれらのテーマを取り上げていくことが決議された。
BIM個人能力認証開始
bSIでは、国際的に共通なオープンなBIM個人能力認証の仕組みを確立するため、2016 年秋に準備WGを結成して下記項目を目的に準備活動を進めてきた。
●BIMの教育・トレーニングコンテンツの標準化と提供
●教育・トレーニング機関への支援とBIM教育・トレーニングコース認定
● テストおよび個人能力認証(certification)
これまでの活動において、BIMの学習成果基準(LOF: Learning Outcomes Framework)が2017年春に策定され、その後オンラインテスト問題データベースのベータ版策定を経て、ドイツ、ノルウェー、英国、スペイン、カナダ、スイス支部などが、BIM個人能力認証を開始する段階まで進展したことが、本サミットにおいて報告された。現在のLOFはフェーズ1段階として、BIMに関する基本知識の理解を目的とした基本編の位置付けで、以下の内容を範囲としている。
●BIMについての基本的な用語・背景知識の理解
●BIMによるプロジェクト推進の利点に関する理解
●BIMプロセスにおける情報フロー計画の必要性を理解
●オープンで相互運用可能なソリューションの必要性に関する理解
●BIMプロセスに取り組むために必要な組織の能力について
今後フェーズ2として、BIM Manager,BIM Coordinatorなどの応用学習レベルの認証の仕組みを検討する予定である。
building SMART Awardについて
bSIでは、IFC 、BCF( BIM Collaboration Format)などbuildingSMART標準を活用したオープンBIMの普及促進を目的に、2014 年からbuildingSMART Awardを年一回実施している。春に応募を開始して、秋のサミット国際会議において設計、施工、維持運営、学生の4部門の審査発表、表彰式を行う形式である。2017年度は、北米から5、ヨーロッパから13、アジアから3の計21の応募があり、7つの応募チームにAwardが授与された。Awardの判定は、オープンなBIM標準であるIFC, BCF, COBie(Construction Operations Building Information Exchange), bSDD,IDM,MVDなどの活用、およびユースケース(空間調整、数量積算、コスト分析、エネルギー分析、環境シミュレーション、建築確認、4D/5D-BIM、維持管理など)の状況などが総合的に審査される。
例えば、今回の施工部門Award(図-7)では、IFCにより建築・構造・設備などの分野モデル間の調整が行われ、課題管理にはBCF、情報抽出にはCOBieが使用された点が評価へとつながった。また、学生部門Awardでは、ドローンによって取得された建設現場の画像データから、IFCデータで表現された4D-BIMデータに対して現時点での進捗状況を自動的に更新させて4D-BIMを自動化させる手法提案が評価された(図-8)。
おわりに
本稿では、現在buildingSMART Japanが進めている鉄骨分野におけるIFC検定の概要、および英国で最近開催されたbuildingSMARTサミット会議の概要を紹介した。
2018 年には、buildingSMARTサミット会議がフランス・パリ(3 月26日~29日)および東京(10月16日~ 19日)において開催予定となっている。特に東京サミット会議においては、国内外から数多くのBIM関係者が参集することが予想され、日本からの情報発信やネットワーキングの良い機会となる。また、buildingSMART International Awardには、これまで日本からの応募、入賞はまだないため、2018 年春のAward候補募集開始までには、日本からの参加、および審査員の推薦などを積極的に進める働きかけを行っていく。
buildingSMART Japanでは、今回のサミットからのアウトプットを基に、以下の活動へとつなげていく予定である。
・BIM個人能力認証への対応
・bSIが進めているIFC4以降のIFCソフトウェア認証への対応
・buildingSMART International東京サミット2018への日本からの情報発信準備
・Infrastructure Roomにおける道路・橋梁・鉄道・トンネル・港湾分野へのIFC拡張プロジェクトへ対応するため、
国内に設立された国際土木委員会とのコラボレーション強化
・BIMとIoT,AI、ブロックチェーン,製品流通コードなどの連携を進めるため国内の関連活動とのネットワーク構築
buildingSMART Jap anでは、英国のBIM Task GroupやUK BIM Allianceのように、国内外の関連団体とBIM普及推進の連携を進めていく体制を強化していきたいと考えている。これらの活動の原動力となっているbuildingSMART Japanの各小委員会、WG等へ、ご興味のある方はぜひ参加していただきたい。
参考文献
●buildingSMART Professional Certification(BIM個人能力認証):
https://www.buildingsmart.org/compliance/professional-certification/
●buildingSMARTAwards2017:
https://www.buildingsmart.org/news/bsi-awards-2017/
●buildingSMART International Standards Summit,Tokyo:
https://www.buildingsmart.org/event/international-standards-summit-tokyo/
buildingSMART Fellow
足達 嘉信 博士(工学)
【出典】
建設ITガイド 2018
特集2「BIM」
最終更新日:2019-01-17