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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 発注者が主導するBIM -その効果と課題-

 
当社は、生業とするITサービス業のインフラレイヤーソリューションとしてデータセンタービジネスも手掛けており、全国17拠点の自社ビルを中心に延べ床面積で60万㎡超を運用している。
 
これらのビルは、電電公社から分割・民営化の際に受け継いだものが大半を占めており、高年次化が進んでいることから随時主要設備を更新するとともに統合と再構築を進めている。今回、その過程の一部として既存の三鷹ビルの隣地に新たなデータセンターを建設した。本稿ではこのプロジェクトにおけるBIMの活用とその効果、課題、今後の展望、などについて述べる。
 
 

建設概要

今回の建設概要は図-1の通りである。
 

図-1




 

プロジェクト要件

世界的なデジタルトランスフォーメーションのトレンドと相まって、その基盤となるクラウドとつながりの深いデータセンターでのビジネスは非常に盛況であり、市場予測では2021年にはクラウドのシェアがコロケーションを追い抜く見通しである。また、ここ数年続いた大都市型データセンターの建設ラッシュは多少トーンダウンしているが、増設・増床のトレンドに変わりはなく、さまざまな変化と競争はさらに加速し激しさを増すだろう。
 
このような状況に対応し、さらに先取りするためわれわれ発注者側が今回のプロジェクトに求めた要件は以下の通りである。
 
(1)性能要件
データセンターの数値的な性能、スペックについての要件であり、以下の3項目である。
 
■高負荷対応:ラック当たり8~20kVA相当の負荷に耐えられる設備容量とする。
■高効率:基本PUEを1.3以下とし、気象条件などによってはさらに上積み可能とする。
■高信頼性:Tier3をベースとし、部分的(あるいは全体)にTier4にも対応できる設備構成とする。
 
(2)運用要件
データセンターの収支は、竣工後の「使いやすさ」すなわち主用設備増設や更改、点検や保守などの容易さ=運用性の占める要素が非常に大きいため、以下の3項目を設定した。
 
■高い汎用性:将来にわたってさまざまなニーズやレイアウトに対応できるモジュール構成。
■高い運用性:効率的な動線や容易な施工性、保守や点検などでの優れた作業性。
■省リソース:既存データセンターとの一体運用による人員配置の効率化。
 
(3)時間的要件
本プロジェクトでは新たに用地を取得しており、建設に要する投資と合わせると非常に大きな支出となる。投資回収と収益確保の観点から可能な限り短期間で建物を竣工させ、サービスを開始する必要があった。そのため、建築工程を圧縮する必要があり、工法の工夫と並んで意思決定の迅速化と手戻り作業の最小化が必須であった。
 
 

BIM導入の目的

今回のプロジェクトでは、前述の各要件への対応と竣工後のFM業務の高度化を目的としてBIMを採用した。その具体的な内容は、以下の通りであるが、大きくは建設フェーズと竣工後のFMフェーズに分けられる。
 
(1)建設フェーズ
■意思決定の迅速化:IPDの採用
設計者は設計監理、施工者は施工技術と多職種の管理等、おのおのがそれぞれ知見を持つが、多くの建物所有者も建物運用(いわゆるFM業務)についての知見を持つ。当社は、冒頭にも書かせていただいたがこれまでに長年にわたって多くのデータセンターを運用してきた実績があり、FM業務についての相当な知見が蓄積されていた。三者おのおのが持つこれら設計、施工、運用に関する知見を融合させることにより、高性能かつ運用性に優れたデータセンターを限られた期間で構築できると考え、発注者が主体となるIPDを採用した。また、その意思決定のためにBIMを、情報共有のためにクラウドストレージを活用した(図-2)。
 

図-2


 
■運用性の事前検証:
限られた時間で運用性能を確認するため、各階ごとにモデルアップした段階でデジタルツインとして仮の引き渡し(VHO)を受け、BIMのウォークスルー機能を活用し動線や操作性の検証を行うこととした。この段階で指摘が発生した場合は、修正が確認され発注者が確認・了承した段階でモデルが承認されたとして実際の施工に移行することとし、これらはIPDの一環としてBIM実施計画書(以下、BEP)に明記された(図-3)。
 



図-3




 
(2)FMフェーズ
■FMデータの一元管理:
これまでのFM業務では、中長期修繕計画、故障履歴管理、設備台帳管理など業務ごとにさまざまなデータが存在し、また、その様式や保管方法もまちまちであり体系的な管理ができていないことが多かった。そこで、今回の建物ではBIMデータをFM業務の中核と位置付け、業務に必要な全ての情報にアクセスできる唯一のインターフェースとすることを目指した。
 
その第一歩として、設備台帳システムとオブジェクトの属性情報をつなぐデータ連携が可能な仕組みを構築し、属性情報自体もFMで活用することを前提に項目を設定した。
 
これらの項目は、RFI、RFP、発注要件書等にBIMの活用方針として明記され、また、BIM専任担当者の配置も要件とした。
 
 

BIM活用の効果

本プロジェクトでの工事が最盛期を迎えた2017年の夏場は、記録的な長雨によって躯体工事が大幅に遅延し、もともとタイトであった工程はさらに厳しくなった。そのような状況であったが、BIMがその効果を遺憾なく発揮し工程の遅延防止に大きく寄与した。以下にその詳細を述べる。
 
 

意思決定の迅速化

IPDのツールとしてBIMモデルによるプレゼンテーション活用し、総合図の確認や承認の迅速化が図れた。
 
 

運用性能の事前確認

VHOは実際の運用性能を確認するVHO(1)と、それに加えて外部システムとのデータ連携を確認するVHO(2)に分けられたが、その実施により効率的かつ実践的に運用性能の事前確認ができた。VHO(1)での指摘や改善依頼事項は100を超えたが、施工前の段階で全て完成検査時に運用性能に関する指摘事項はゼロとなり、手戻り作業がほとんど発生しなかった。その結果、当初想定どおりの期日でサービス開始にこぎつけることができた。結論として、IPDにおける意思決定、VHOにおける運用性検証にはBIMが極めて有効なツールであり、建設プロジェクトのマネジメントを高度化し得ることが確認できた(図-4)。また、建物運営に必要なさまざまなデータの一元管理についてのベースを築くため、今回は設備台帳システムとのデータ連携にも取り組んだ。これについてはVHO(2)を実施し、データ連携に問題がないことを確認した。合わせて属性情報の入力内容についても確認し、入力作業の手戻りも削減することができた(図-5)。
 

図-4




 

図-5




 

BIMの普及に向けた課題

今回のプロジェクトでは、これまでの記述の通り建設フェーズ、FMフェーズ双方において発注者がBIMの導入を主導することの大きな有益性を確認することができた。また特にFMフェーズでは将来的な業務改善に向けた大いなる可能性も確認された。しかし、今回ここに至るまでには少なくないコストと社員稼動を要し、また、BEPやモノ決めルールの制定についてもさまざまな試行錯誤が必要だったことも事実である。当社では当初から必要なリソースを想定して充分な内部説明をすることでそれらを確実に確保できたが、常に同様にできるかどうかは確実ではない。それは当社以外でも同様であるだろうし、BIMの導入と活用について発注者にとっての決して低くはないハードルであろう。
 
この命題に対し、著者が考える対応方法を以下に述べる。ただし、これらはあくまで私見であり異論があるのは承知であるので、その点はご了承いただきたい。
 
(1)課題
課題は、当然ではあるがBIMのさらなる普及と発注者の意識改革である。この二つはある意味では相互補完的である。施工フェーズにおける設計者、ゼネコン、サブコンでのBIMの普及、デフォルトツール化による幅広い普及は、必要なコスト削減にもつながる。そこに発注者の意識変化が加われば、相乗効果的に発注者によるBIM活用も増加していくであろう。
 
(2)課題への解決
では、どのように解決すればよいのだろうか。BIMの普及については、まずは公共工事におけるBIM活用方針の明確化とガイドラインの整備が挙げられる。2018 年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」で「i-Construction」を建築分野にも拡大する方針とともに、官庁営繕工事における施工BIM等の施工合理化技術の活用の試行、BIMガイドラインの改定等について示されている。これを受け国土交通省は、建築分野における生産性向上に向けた基準類改定の第3弾として、BIMガイドラインの改定等を行った。内容は「共通編」、「設計編」、「工事編」の構成となっており、特に「設計編」や「工事編」については、ガイドラインとしてある程度まで活用できるレベルに引き上げたことは評価すべきであろう。しかし、諸外国、例えばイギリスなどと比較すると、到達レベル目標やその期日目標が明確になっておらず、BIMの体系的な普及に向けた戦略的な方針が見えてこない。一定規模以上の建築プロジェクトではBIM化を推進(原則採用)し、また、レベル的には○○年までにレベル○を実現する、といった行政による明文化された方針提示が必要であろう。
 
このガイドラインの整備と方針提示については、発注者主導のBIMの普及についても同様である。
 
多くのアセットや建物資産を持つ企業や団体は、主なところでは以下の3つに分類される。まずは大手のデベロッパーや不動産会社、もともとは政府系や公的な機関だったが現在は民営化されている企業、そして政府系や公的な機関である。これらのうち政府系や公的機関は、公的なガイドラインに制定された内容については導入のハードルが格段に下がる。
 
また、もともと政府系や公的機関であった企業も同様の傾向がある。しかし、現在のガイドラインでは、FM領域でのBIM活用については全く触れられておらず、BIMの持つ可能性を考慮すると片手落ちであるといわざるを得ない。「工事編」の中に「収まり調整」の項目はあるが、主に施工各社の取り合いについての観点のみで、運用性についての事前確認の観点、すなわち動線や作業性の確認についての記載は見られない。これら以外にも、FM観点での属性情報の記載事項や設備台帳システムとのデータ連携などについては、基本的な方針だけでも明示してほしいところである。もっとも、この領域については、ほとんどの諸外国のガイドラインでも同様であり、日本国内だけの問題ではないことは確かである(だからこそ世界に先駆けてほしいのだが)。
 
次に、BIMソリューションベンダーの営業方針も要因の一つではないかと考える。
 
ほとんどのBIMベンダーは、設計、施工各社以外の発注者側にはほとんど提案活動をしていないが、販売量を鑑みるとこれは全く致し方ないことである。しかし、建物所有者も顧客になり得るという観点も持つ必要があるのではないだろうか。
 
BIMをFMに積極的に活用しようという明確な意思を持つ発注者は、現時点ではまだまだ少数であろう。しかし、建設フェーズと合わせてFMフェーズでのBIM活用の有効性や将来的な可能性について、発注者の課題解決の観点から提案を受けられるのであれば、興味を示すケースも多いはずである。そして、その中の幾つかは導入に踏み切ることもないとはいえない。
 
最近、さまざまな機会で今回のプロジェクトでの取り組みを紹介しているが、その反響から発注者には潜在的なBIM需要が非常に多いと感じる。日本国内でBIMをより発展させるためには、行政による将来を見据えたグローバルレベルの骨太な方針設定、公共事業をメインに施工BIMのデフォルト化によるコストダウン、ならびにソリューションベンダーの積極的な提案活動による発注者の潜在的な需要を掘り起こすことが必要だと考える。
 
 

おわりに

これらの関係各所の取り組みは、BIMが浸透し発展するために必要ではあるが、著者は、BIMはその情報を発注者が有効活用してこそその使命を全うすると考える。
 
そのためには、発注者が設計・施工ツールとしてのBIMだけではなく、ライフサイクル全般を管理できる統合建築情報としてのBIMの価値もよく理解する必要がある。そして、明確な目的と強い意志を持ってBIMの導入を推進することが肝要である。
 
 
 

株式会社NTTデータビジネスソリューション事業本部ファシリティマネジメント事業部PM推進担当 
佐々木 淳 

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 

最終更新日:2019-04-22

 

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