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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2019年 建設産業の動向 新・担い手3法成立,魅力ある産業へ 国土強靭化対策のさらなる拡充不可欠

 
「令和」の新時代が幕を開けた2019年。建設産業を取り巻く環境が大きく変わった1年になった。日本の労働慣行を抜本的に見直す「働き方改革関連法」が施行され,時間外労働(残業時間)の罰則付き上限規制の適用がスタート。建設コンサルタントや建築設計事務所はICT(情報通信技術)を積極的に活用し,作業の効率化に努めている。2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業など一時的な建設需要の増加に伴う人手不足が懸念され,2024年3月末まで適用が猶予される建設業も,発注者との協働で現場の週休2日確保や適正な工期設定に取り組むなど,対策を先行する。
 
6月には「新・担い手3法」が成立。公共工事品質確保促進法(公共工事品確法),建設業法,公共工事入札契約適正化法(入契法)という3本の法律が三位一体で改正された。建設産業の最優先課題となる将来にわたる担い手確保・育成に向け,働き方改革や生産性向上をより強力に後押しするための制度や規定が整備された。
 
4月には建設技能労働者の確保・育成を目的とする二つの仕組みも動きだした。技能者一人一人の就業履歴や保有資格などを蓄積する建設キャリアアップシステム(CCUS)の本運用が開始。改正出入国管理法(入管法)に基づく新在留資格「特定技能」を取得する外国人労働者を受け入れるための準備も進んでいる。
 
一方,建設投資は官民とも堅調に推移している。国の2019年度当初予算は政府が昨年12月に閣議決定した「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018~2020年度)を推進するための特別計上枠「臨時・特別の措置」が設けられた影響もあり,公共事業関係費として前年度を大幅に上回る9,310億円増の6兆9,099億円が計上された。2020年度の公共事業費も,特別計上枠が設けられていない従来の水準に比べ大幅に積み増しされる見通しだ。ただ地方の建設業団体からは依然として工事量の地域間格差があり,是正を求める声が上がっている。
 
今年も昨年に続き各地で大規模な自然災害が発生した。特に10月の台風19号による記録的な大雨は,関東甲信地方や東北地方の広範囲にわたって河川堤防の決壊による浸水被害や土砂災害,鉄道や水道施設などの損壊といった深刻な被害をもたらした。被災地では発災直後から国や地方自治体などと災害時の協力協定を結んでいる建設会社が現地に入り,24時間体制で応急復旧工事に従事。「地域の守り手」として貢献する建設業の役割を改めて認識する機会にもなった。
 
くしくも「平成」の30年間,建設業は建設投資の浮き沈みや根拠のない風当たりといった紆余(うよ)曲折を経て,魅力ある産業へと試行錯誤を重ねてきた。令和の新時代ではこれまで以上に「人」や「現場」を大事にし,魅力ある建設産業を築いていくことが求められる。
 

【写真-1 台風19号で堤防が決壊した越辺川・都幾川堤防(埼
玉県川越市)で応急復旧工事を進める建設業者】




 

新・担い手3法成立 品確法,緊急時の入契方式選択

6月に「新・担い手3法」が成立し,公共工事品質確保促進法(公共工事品確法),建設業法,公共工事入札契約適正化法(入契法)という3本の法律が三位一体で5年ぶりに改正された。建設業の長時間労働を是正するための働き方改革やi-Constructionの推進による生産性向上といった新たな課題に対応。新たな担い手として若者や女性が入職・定着したくなる,より魅力ある産業へと発展していくための制度や規定が盛り込まれた。さらには,相次ぐ災害を受け,建設産業が地域の「守り手」として役割を果たし続けるための期待も込められている。
 
改正公共工事品確法は,①災害時の緊急対応の充実強化②働き方改革への対応③生産性向上への取り組み④調査・設計の品質確保─の四つの柱で改正。6月14日に施行された。基本理念に,災害時対応を含む社会資本の維持管理が適切に行われるよう「地域の担い手の育成・確保」「緊急応急対応や復旧工事の迅速で円滑な実施のための体制整備」を規定。働き方改革の対応として「適正な請負代金・工期(履行期)による公正な契約の締結」「公共工事従事者の労働条件の適正な整備」などをうたった。
 
発注者の責任としては,「災害時に緊急性に応じて随意契約・指名競争入札など適切な入札契約方法の選択」「建設業団体などとの災害協定の締結」などを規定。働き方改革で「休日,準備期間,天候などを考慮した適正な工期設定」を明記するほか,「債務負担行為・繰越明許費の活用による翌年度にわたる工期設定」などを規定し施工時期の平準化を図る。
 
公共工事の実施者の責務も規定。2次や3次などの下請契約にも働き方改革の取り組みを浸透させる。生産性向上への取り組みでは受発注者ともにICT の活用などにより,調査・設計から施工・維持管理の各段階で生産性向上を図るよう規定する。
 
公共工事に関する測量,地質調査,設計などの各業務を公共工事品確法の対象として明確に位置付けたのも改正の柱になる。適切な維持管理に向け,国や地方自治体などの責務も明記された。
 

【写真-2 6月5日の参院本会議で全会一致で可決した建設業法と公共工事入札契約適正化法(入契法)の一括改正法】


 

【図-1 新・担い手3法のポイント】




 

建設業法・入契法,極端に短い工期での契約禁止

改正建設業法と改正入契法は①建設業の働き方改革の促進②建設現場の生産性の向上③持続可能な事業環境の確保─の三つの柱で改正された。
 
改正建設業法は「工期」の概念を導入し,国の中央建設業審議会(中建審)による「工期に関する基準」の作成・勧告や,著しく短い工期による請負契約の締結禁止などを措置する。
 
1971年に採用した建設業許可制度の許可要件を初めて見直した。経営能力の許可要件となっている経営業務管理責任者に関する規制を緩和。従来は建設業経営の5年以上の経験を「個人」に求めていたが,経営管理責任体制の確保を「組織」に求める。社会保険加入対策を一層強化するため,社会保険への加入を許可要件化する。許可の空白期間なく円滑に事業承継できる制度を創設し,許可の事前の審査・認可を可能とする。
 
技術者に関する規定を合理化する。元請の監理技術者を補佐する制度を創設。補佐する者がいる場合は監理技術者に複数現場の兼務を認める。下請の主任技術者には,一定の要件を満たすと配置を不要とする「専門工事一括管理施工制度」を創設する。
 
建設資材の製造業者を初めて規定。資材を起因として不具合が生じた場合,許可行政庁は建設業者などへの指示に併せて,再発防止のため建設資材製造業者に対して改善勧告・命令できる仕組みを構築する。
 
工期の確保や施工時期の平準化については改正入契法で措置する。入札契約適正化指針に公共発注者の取り組むべき事項として,工期の確保や施工時期の平準化を明記。公共発注者に必要な工期の確保策と施工時期の平準化策を講じることを努力義務化する。
 
改正建設業法と改正入契法は,19年9月1日,20年10月1日,21年4月1日の3段階で施行。初弾の9月1日に施行されたのは,改正建設業法の「建設工事従事者の知識・技術・技能の向上」「復旧工事の円滑・迅速な実施を図るための建設業団体の責務」「工期に関する基準の作成など」と,改正入契法の「適正化指針の記載事項の追加」の計4規定となる。
 
 
 

基本方針と運用指針が閣議決定運用指針は年内にも

政府は法改正の理念を現場で実現するため,公共工事品確法の「基本方針」と「運用指針」,入契法の「適正化指針」を改正する。このうち公共工事品確法の基本方針と,入契法の適正化指針の改正は10月18日の閣議で決定した。公共工事品確法の運用指針は年内の改正を目指す。
 
公共工事品確法の基本方針は,災害時の緊急対応が迅速で円滑に実施される体制を整備することを規定。具体策として,緊急性に応じ随意契約や指名競争入札の適切な選択などを盛り込んだ。
 
法定福利費などに必要な保険料や工期を的確に反映した積算による予定価格の適切な設定を規定。施工時期の平準化に向けた繰越明許費や債務負担行為の活用による翌年度にわたる工期設定,中長期的な発注見通しの作成・公表も明記した。
 
「発注関係事務の適切な実施」や「受注者の責務」といった各項目を,それぞれ「工事」と「測量,調査および設計業務」に区分。公共工事の目的物の適切な維持管理に関する事項も新設した。
 
入契法の適正化指針は,公共発注者の取り組むべき事項に工期の確保や施工時期の平準化を明記。公共発注者に必要な工期の確保策と施工時期の平準化策を講じることを努力義務化する。自治体に対し,指針に基づき平準化を要請することが可能となった。
 
工期確保の方策として,政府の「建設工事の適正な工期設定ガイドライン」(2017年8月策定,2018年7月改定)を引用。平準化策としては,国土交通省が取り組み事例を踏まえ分類した5分野(平準化の先進事例「さしすせそ」)を列挙した。公共工事品確法の運用指針は,発注者共通のルールとなる。施工時期の平準化や総合評価方式の工事入札の改善など,改正法で追加・強化された事項を明文化した。
 
国交省が10月にまとめた運用指針の改正案では,地方自治体による施工時期の平準化をさらに推進するため「(地域発注者協議会等で)他の発注者の状況も把握できるよう公表するよう努める」と明記。一定規模の工事契約件数のある都道府県,人口10万人以上の市を対象に重点的に働き掛けつつ,すべての自治体に対し発注者責任として平準化に取り組めるよう支援する。
 
長期的な発注見通しの公表では,現行の「入札情報サービス」(PPI)にコンテンツを新設。プロジェクト単位を基本に,事業計画通知や計画などで既に公表している情報を集めて掲載する。
 
総合評価方式の工事入札の改善では国の直轄事業を対象に,「労務費見積もり尊重宣言」を踏まえたモデル工事(試行)や「登録基幹技能者の活用」を特記仕様書に明記する工事(試行)などに取り組む。
 
生産性向上に関する取り組みも列挙。BIM/CIMを活用した事業の品質確保やオンライン電子納品の取り組み,技術者情報ネットワークの構築,「海外技術者評価制度」(仮称)の創設などを盛り込んだ。
 
 
 

CCUSが本運用開始 技能者の処遇改善促進

国土交通省と建設業界が推進する業界共通の新たな制度インフラとして,4月から本運用が始まったCCUS。技能者一人一人の就業履歴や保有資格などを業界横断的に蓄積し,能力や経験を適切に評価して処遇改善に役立てる。若い世代にキャリアパスと処遇の見通しを示し,入職と定着を促進。将来にわたっての担い手確保・育成につなげる狙いがある。
 
CCUSは技能者の経験(就業日数)や知識・技能(保有資格),マネジメント能力(職長や班長としての就業日数など)を蓄積するシステム。これらのデータを使って技能者の能力を評価し,客観的に4段階にレベル分けする。システムに登録した技能者にはレベル1 =白から始まり,2=青,3=シルバー,4=ゴールドと段階に応じて色分けしたカードを配布。日々の就業履歴は現場に設置したカードリーダーにかざすことで自動的に蓄積される。
 
運営主体の(一財)建設業振興基金(振興基金)によると,9月30日時点で累計登録数は技能者11万6,290人,事業者2万2,516社となった。技能者登録数のうち,最高位ランク(レベル4)のゴールドカードを1万2,742人が保有している。申請書類に不備がなければ申請から2週間程度で登録が完了する。
 
国交省はCCUSで客観的に把握できる情報の活用策を検討している。具体的に技能者の「能力評価制度」と,専門工事業者の施工能力の「見える化制度」を構築し,連動させる。これにより技能者は能力と経験に応じた処遇を受けられ,良い職人を育て雇用する企業が選ばれる。こうした処遇改善や人材投資の好循環を生み出す仕掛けとなる。
 
能力評価制度はCCUSにより客観的に把握できる経験,知識・技能,マネジメント能力での評価を基本にレベル1=初級(見習い)技能者,レベル2=中堅(一人前)技能者,レベル3=職長として現場に従事できる技能者,レベル4=高度なマネジメント能力を有する技能者(登録基幹技能者など)─という4段階で行う。
 
専門工事業団体など能力評価の実施機関が職種ごとに基準を策定し,国の認定を受け,実施方法などを届け出る。能力評価の基準と実施規定に基づき,能力評価を行うスキームになる。国交省は登録基幹技能者講習実施機関に対し,19年度中に基準案を取りまとめ,国交大臣への申請完了を要請。4種類のカードが技能者に行き渡る環境整備を進める。
 
見える化制度については,18年9月の有識者会議の中間取りまとめを踏まえ,制度の具体化に向け議論を進めている。業界統一の企業評価に関するガイドラインを来春までに策定する予定。専門工事業団体はガイドラインに基づき業種ごとの評価基準を策定し,見える化制度の運用に入る。
 
国交省はレベル分けされたカードを技能者に早く交付できるよう,CCUSと連携して技能水準を簡易に評価する「レベル判定システム(仮称)」の開発に着手。就業日数や保有資格と,職種ごとに策定する能力評価基準とを照らし合わせ,技能レベルを判定できるようにする。20年度をめどに稼働させる計画だ。
 
官民で技能者と企業がCCUSに加入するメリットを高める具体策の検討も進んでいる。勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部(建退共)が掛け金納付の新方式として導入準備を進める電子申請方式のアプリケーションと,CCUSの連携がその一つ。元請に対する請求書類や就労実績報告書を電子的に作成でき,建退共事務を効率化する。
 
建設分野で受け入れる外国人(技能実習生,外国人建設就労者,特定技能外国人)と受け入れ企業に対し,CCUS登録が義務付けられた。国交省は外国人の適正な就労環境の実現を支える「外国人就労管理システム(仮称)」を構築。CCUSを核にレベル判定システムと外国人就労管理システムを機能させ,日本人,外国人ともに適正な処遇を受けられる環境を整える。
 
経営事項審査(経審)の評価方法も見直される。CCUSのレベル判定を活用して優れた技能者を雇用する企業を評価する。技術者・技能者の継続的な教育に努める企業を新たに評価。技能者についてはCCUSの能力評価基準でレベルアップした技能者の雇用状況を評価する方向だ。
 
CCUSを公共発注に活用する動きも出始めてきた。国交省は直轄工事でCCUSの検証を行うモデル工事の実施を表明した。地方自治体では山梨県が10月1日以降に発注する土木一式工事を対象に,CCUSの活用に取り組んでいる企業を評価。総合評価方式の評価項目に「技能者の登録」を追加した。福岡県では入札参加資格審査でCCUS登録企業を評価項目に追加。20年度の入札参加資格名簿から反映される。
 

【図-2 CCUSを活用した建設技能労働者の能力評価制度のイメージ】


 

【写真-3 キャリアアップカードを読み取ると,顔写真が表示され入退場を確認できる。大成建設(株)が施工する(仮称)麹町五丁目建設プロジェクト(東京都千代田区)と,鹿島建設(株)が施工する(仮称)赤坂5丁目プロジェクト(東京都港区)で】


 

【図-3 建設分野での特定技能外国人制度の運用イメージ】




 

新在留資格「特定技能」創設 外国人労働者受け入れ拡大へ

4月に施行された改正出入国管理法(入管法)に基づく新在留資格「特定技能外国人」制度がスタートした。政府は人口が減少局面に入り産業間の人材獲得競争が激化する中,同制度により外国人材の受け入れ拡大へと舵を切った。国内産業の持続的な発展につなげる狙いがある。
 
特定技能外国人制度は,一定の技能を持った外国人を日本の労働力として受け入れる制度。在留資格には「特定技能1号」と「同2 号」がある。1号の在留期間は上限5年。即戦力として働ける水準の技能を求める。2号は職長レベルの人材を想定。在留期間は無期限(更新制)で家族も帯同できる。
 
建設分野の受け入れ見込み数は5年間で最大4万人が上限。政府は初年度の19年度について11職種(型枠施工,左官,コンクリート圧送,トンネル推進工,建設機械施工,土工,屋根ふき,電気通信,鉄筋施工,鉄筋継手,内装仕上げ)を対象に,5,000~6,000人の受け入れを見込んでいる。
 
建設分野は同制度の開始以前から「技能実習生」と,その修了者が対象の「外国人建設就労者受入事業」を導入しているが,外国人材の失踪や不法就労などの課題があった。
 
国交省は建設分野で特定技能外国人の適正・円滑な受け入れを実現するため,独自のルールを設けた。受け入れ企業に対し,正会員として計24の専門工事業団体や元請団体が参加する(一社)建設技能人材機構(JAC)への加入や,特定技能外国人および受け入れ企業のCCUSへの登録などを義務化。外国人材が即戦力として能力を発揮できるよう官民を挙げて環境整備に力を注ぐ。
 
国交省は建設業の特性を踏まえた受け入れ計画・審査の仕組みも構築した。外国人材の入国に先立ち,受け入れ企業による計画の作成,国交省の独自審査,法務省による入国審査と3段階の手順を踏む。外国人材の処遇では,同等の技能の日本人と同等以上の報酬を月給で支払うほか,技能習熟に応じた昇給などを徹底する。
 
受け入れには,①海外訓練と試験(日本語能力と技能)②試験のみ(訓練などは受け入れ企業が実施)③試験なし(技能実習・建設就労からの移行)─の3ケースがある。特定技能1号の試験は,国交省が提携する訓練校の在校生から希望者を募り,現地の短大や専門学校で行う。日本語と日本式施工の訓練をした後,学科・実技の技能試験を課す。ベトナムとフィリピンで来年2月にも実施する予定だ。試験回数や実施国は順次増やしていく。特定技能2号の試験は21年度からを予定している。
 
国交省は制度の普及に向け,特定技能制度で受け入れる建設分野の外国人労働者の対象職種を拡大する。受け入れ計画の認定数は順調に増加中。9月末時点で59社142人を認定した。142人はすべて,試験が免除される技能実習生または建設就労者からの移行者。内訳を職種別に見ると,建設機械施工が43人と最も多く,鉄筋施工28人,内装仕上げ21人,左官20人,型枠施工16人,コンクリート圧送14人の順となった。国別ではベトナムが最も多い102人で,フィリピン16人,中国14人,インドネシア5人,カンボジア5人の順に続いている。
 
特定技能の期間を終えて帰国した外国人材は日本式の施工法を習得している。海外進出した日本企業が現地で特定技能外国人を雇えば,適切な現場運営や品質管理を実現できる。特定技能外国人制度は国内の人材確保だけでなく,海外との懸け橋になる人材育成にも期待が高まる。
 

【写真-4 建設分野での特定技能外国人の受け入れに向け,6月25日にベトナムで現地関係者と意見交換した国交省や建設団体などの関係者】




 

今年も各地で大規模災害が頻発 公共事業予算の持続的確保必要

大阪北部地震,西日本豪雨,台風21号,北海道胆振東部地震…。政府は18年に各地で相次ぎ発生した大規模な自然災害を踏まえ,同年の12月14日に「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018~2020年度)を閣議決定した。総事業費は約7兆円。河川堤防のかさ上げや基幹交通インフラの整備といった計160項目の対策を官民で推進している。
 
今年も各地で歴史に残るような大規模災害が頻発した。特に被害が広範囲にわたって拡大したのが水害。8月末に九州北部地方を襲った大雨災害では,大雨特別警報が出された佐賀と福岡,長崎の3県を中心に被害が拡大。9月上旬の台風15号では記録的な暴風や断続的な大雨などの影響により,千葉県を中心とする南関東に大きな被害をもたらした。そして10月中旬の台風19号は関東甲信地方や東北地方の広域にわたって被害が発生。国交省によると,10月30日午前6時までに河川の堤防決壊が確認されたのは,計20水系71河川140カ所。このうち国管理河川が6水系7河川12カ所,都道府県管理河川が20水系67河川128カ所となっている。土砂災害の発生件数は690件。鉄道や水道施設などのインフラにも被害が広がった。
 
政府は台風19号を大規模災害復興法に基づく「非常災害」に指定し,被災した地方自治体が管理するインフラの復旧を国が代行できるようにした。同法の指定は2016年4月の熊本地震に次いで2例目。水害では初めてとなる。
 
今後も気候変動の影響などに伴い,台風や洪水といった災害のさらなる頻発が懸念される。さらに国内の災害では過去最大級の被害が予想される南海トラフ巨大地震も,政府の地震調査委員会が今後30年以内に発生する確率を70%から「70~80%」へと引き上げるなど,災害に強い国づくりは待ったなしの状況になっている。
 
菅義偉官房長官は台風19 号の被災地を視察し,国土強靱化緊急対策の追加策の必要性を表明した。水害対策など追加的な課題が明らかになったとし,「検証を行い,早急に対策を講じていく必要がある」との考えを示した。台風19号など今年発生した一連の災害対応を巡っては,まず19年度当初予算の予備費のうち1,316億円を支出し対応。19年度補正予算も編成し,執行までに一定程度の期間が必要な対策に充てる。
 
緊急対策を3年間で実施する方針を巡っては,相次ぐ災害を受けて,与野党から期限延長など対策の強化を求める声が出ている。
 

【写真-5 10月17日に八ツ場ダム(群馬県長野原町)を視察した自民党の二階俊博幹事長(左から4番目)。八ツ場ダムは台風19号で満水となり,利根川流域の安全確保に大きく貢献した】


 

【写真-6 台風19号で決壊した阿武隈川の堤防(須賀川市浜尾)

【写真-7 台風19号で法面が崩壊した住宅地(仙台市泉区)】



 

2019年度建設投資見通しは2.2%増 62兆円 2020年度もほぼ同額予測

建設経済研究所と経済調査会が9月26 日に発表した建設投資見通しによると,19年度は前年度比2.2%増の62兆2,100億円と予測。このタイミングで初めて示した20年度の見通しは前年度比0.8%増の62兆7,100 億円とした。今後,19年度当初予算の執行や20年度予算の編成などが進めば上方修正の要素となる見通しだ。
 
政府建設投資は,19年度が前年度比3.1%増の21兆3,400億円,20年度が0.6%増の21兆4,700億円と予測。このうち20年度の見通しには,国の「防災・減災,国土強靱化3か年緊急対策」(2018~20年度)などで構成する特別計上枠「臨時・特別の措置」分が含まれていない。
 
民間住宅投資は,19年度が1.8%増の17 兆2,200億円,20年度が1.2%減の17 兆200億円と見込む。住宅着工戸数は,19年度が6.4%減の89.2万戸,20年度が4.2%減の85.4万戸。14年度以来5年ぶりに90万戸を割り込むと予測した。
 
民間非住宅投資(建築+土木)は,19年度が1.9%増の17兆4,100億円,20年度が2.9%増の17兆9,100億円。企業の設備投資が底堅く推移していくと予測する。民間の土木投資は,リニア中央新幹線など大型プロジェクトへの投資が見込まれ,底堅く推移するとみている。
 
 

地方まで行き届く 持続的・安定的な予算編成不可欠

10月に各地で行われた(一社)全国建設業協会(全建)と国交省による19年度の全国ブロック会議では,全建側から依然として工事量や賃金を巡る地域間格差が存在するとの指摘が相次いで出た。さらに地域建設業の経営安定化という観点から,中長期視点で公共事業予算を持続的・安定的に確保するとともに,社会資本整備の投資計画の明示を求める意見もあった。
 
今年も各地で相次いだ災害では,発災直後から全国の建設会社が被災地に入り,24時間体制で応急復旧に当たってきた。さらに平時からの防災・減災,国土強靱化対策をはじめ,インフラ老朽化対策や経済の活性化を促す基幹交通網の整備など,社会資本整備の課題は山積している。担い手の確保・育成という観点からも,中長期視点での地域建設業の経営安定化が最優先課題になる。
 
政府は20年度の当初予算編成でも19年度に続く時限措置として,「防災・減災,国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018~2020年度)などに充てる特別計上枠「臨時・特別の措置」を設け,公共事業関係費を手厚く確保する方針だ。
 
国土強靱化緊急対策終了後の21年度以降の予算編成を巡っては,6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2019(骨太の方針)」で,「緊急対策後も(18年12月に改定した)国土強靱化基本計画に基づき必要な予算を確保し,オールジャパンで対策を進める。国家百年の大計として災害に屈しない国土づくりを進める」との方針を打ち出している。こうした方針を具体化するためにも,当初予算で十分な公共事業関係費を持続的・安定的に確保し,地域建設業に行き届くような適切な配分が不可欠。当面は災害に強い国づくりを急ぐためにも19年度補正予算でも十分な公共事業関係費を確保し,より安定した事業量を見通せる切れ目のない財政出動が求められる。
 

【写真-8 2019年度の全国建設業協会と国土交通省による全国ブロック会議では,業界側から工事量などの地域間格差の改善を求める声が相次いだ】


 

【写真-9 堤防が決壊した千曲川の仮堤防の補強工事(長野市穂保)】

【写真-10 応急復旧が完了した利根川上流の水系(群馬県嬬恋村田代)】



 
 
 

株式会社 日刊建設工業新聞社  片山 洋志

 
 
【出典】


積算資料2019年12月号



 
 

最終更新日:2020-12-10

 

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