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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > アジア諸国における水害対策の最前線《前編》

 

一般財団法人建設経済研究所 研究員
竹内 広悟

 

1.はじめに

我が国は、細長い国土形状で山地が列島の中央を貫く国土構造となっており、
国土の70%が山地・丘陵地となっているため地形が急峻であり、居住可能なまとまりのある平地部が少ない。
また、年間降水量が多いことに加えて、梅雨期や台風シーズンに降雨が集中することから洪水、土砂災害が起こりやすい環境にある。
さらに、近年では、短時間集中豪雨の発生件数が増加しており、これまで以上に水害や土砂災害の発生の危険性が高まっており、
今後も気温が上昇し、大雨の頻度の増加、台風の強度の増大、海面水位の上昇、降雨の変動幅の拡大等が予測されている。
 
一方で、日本以外のアジア諸国においても、これまでに水害や土砂災害をはじめとした様々な災害に見舞われている。
近年は気象変動に起因する災害も増加傾向にあり、アジア全体として高度な対応が求められている状況にある。
 
こうした状況を踏まえ、本稿では、我が国における水害・土砂災害の発生状況および先進的な取り組みに触れたうえで、
アジア諸国における取り組みについて紹介することとする。
アジア諸国の水害対策等については、
当一般財団法人建設経済研究所の呼びかけにより1995年から開催されているアジアコンストラクト会議において
各国から発表があった内容を中心に紹介する。
 
なお、昨年のアジアコンストラクト会議はインドネシアにおいて2013年11月14日から2日間の日程で行われ、
日本(当研究所)、インドネシア(建設業育成委員会)、マレーシア(建設産業開発局)、シンガポール(国家開発省 建築建設局)、
香港(香港理工大学)、韓国(建設産業研究院)の計6カ国・地域が参加した。
 
 

2.我が国の水害・土砂災害対策

2.1 水害・土砂災害の発生状況

図-1 平成14年~23年 水害・土砂災害の発生件数

図-1 平成14年~23年 水害・土砂災害の発生件数
出典)国土交通省「平成24年度国土交通白書」


我が国においては多くの市町村で年間あたり1回以上水害・土砂災害が発生しており(図-1)、多大な被害を被ってきた経緯がある。
近年では短時間集中豪雨の発生件数が増加しており、
水害・土砂災害の発生の要因となっている。
1時間の降水量が50mm以上の短時間強雨(図-2)や、
1日あたりの降水量が200mm以上の大雨の発生数の長期的な変化傾向をみると、
いずれも増加傾向にある。
これまで河道の拡幅、築堤、放水路の整備や、洪水を一時的に貯留するダム、
遊水地等の治水対策を進めてきたことにより、
治水安全度は着実に向上してきているが、堤防決壊などの被害が後を絶たない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図-2 1時間降水量50mm以上の年間観測回数

図-2 1時間降水量50mm以上の年間観測回数 (出典) 気象庁


 
土砂災害の発生要因は「集中豪雨」「火山」「地震」など様々であるが、近年では2013年7月の山口県や島根県の豪雨、2012年7月の九州北部の豪雨、2011年の台風第12号など、集中豪雨による土砂災害が特に頻発している。
2011年の台風12号においては「深層崩壊」が同時多発的に発生するなど、集中豪雨による土砂災害は大きな被害をもたらしている。
 
 
 
 
 
 
 
 

2.2 水害・土砂災害における取組とその効果

前述のとおり、1時間の降水量が50mm以上の短時間豪雨や、
1日あたりの降水量が200mm以上の大雨の発生数の長期的な変化傾向をみると、
いずれも増加傾向にあるため、様々な対策が講じられてきた。
ここでは、水害・土砂災害対策について、先進的な取り組みを中心に取り上げることとする。
 
①関東における都市型水害対策
東京においても、1時間50mmを超える豪雨が増加しており、こうした大雨は、一部地域に偏在して降る傾向がある。
また、今後とも豪雨の増加傾向が持続する可能性が指摘されている。
 
東京の神田川流域では、浸水被害の軽減を図るため、
環状七号線の地下に54万㎥の洪水を貯留する神田川・環状七号線地下調節池(環七地下調節池)の整備に取り組み、
2004年10月の台風第22号では、1993年の台風第11号とほぼ同規模の雨量を記録したが、
環七地下調節池に川の水を貯留することにより(図-3・4)、1993年当時と比較して、
神田川中流域での浸水被害が大幅に減少している(図-5)
 

  • 図-3 シールドマシーン

    図-3 シールドマシーン(出典) 国土交通省

  • 図-4 調整池の内部

    図-4 調整池の内部
    (出典) 国土交通省

  • 図-5 被害状況の比較

    図-5 被害状況の比較(1993年と2004年の比較)
    (出典) 国土交通省資料より作成

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このほかにも、埼玉県の東部においては、世界最大級の地下河川である首都圏外郭放水路が建設されている。
首都圏外郭放水路は国道16号の地下約50mに建設された延長6.3kmの地下放水路であり、
施設は、各河川から洪水を取り入れる流入施設、地下で貯水・流下する地下水路、
そして地下水路から洪水を排出する排水機場等で構成されている。
首都圏外郭放水路は平成14年の部分通水から、平成25年3月時点で73回の洪水調節実績があり、
中川・綾瀬川流域の浸水被害は大幅に軽減されている。1)
 
②土砂災害対策
近年、多くの大規模な土砂災害が発生している状況にあるが、ここでは2011年の台風12号を取り上げ、その対策について紹介する。
 
2011年の台風12号は大型で動きが遅かったため、長時間にわたって台風周辺の非常に湿った空気が流れ込み、
西日本から北日本にかけて山沿いを中心に広い範囲で記録的な大雨となった。
近畿地方では、死者72名、行方不明者16名、負傷者65名、住家全壊・半壊合わせて3,390棟、床上浸水4,398棟、
床下浸水9,336棟(消防庁調べ2012年3月19日時点)となった。
 
この台風では「深層崩壊」と呼ばれる大規模な土砂崩れが多発したため、被害を未然に防ぐことができるよう、
深層崩壊が発生した場合にその場所や規模の情報を早期に把握・共有するシステムが不可欠との認識のもと、
国土交通省は関係自治体と連携し、
振動センサーや衛星画像解析等の各種技術を駆使して大規模崩壊を監視・警戒するシステムを世界で初めて紀伊山地に導入した。
 
深層崩壊が発生した場合、大規模な土砂移動を振動センサーが検知し、3点以上の振動センサーの振動到達時間差から発生位置を推定し、
衛星レーダーにより昼夜・悪天候を問わず位置を特定し、規模を計測する。その後関係者へ発生情報が共有されることとなる(図-6)
 

図-6 大規模崩壊監視システム (出典) 国土交通省資料より作成

図-6 大規模崩壊監視システム (出典) 国土交通省資料より作成


 

参考文献

1)国土交通省江戸川河川事務所ウェブサイトより。
http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/gaikaku/

 
 
 
アジア諸国における水害対策の最前線《前編》
アジア諸国における水害対策の最前線《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年06月号
特集「豪雨・台風・海岸防災対策資材」
積算資料SUPPORT2014年06月号
 
 

最終更新日:2023-07-11

 

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