建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 建設業者と連携した快適トイレの 設置について〜逃げ遅れゼロに向けて〜

 

はじめに

平成30年7月豪雨により甚大な被害が生じた岡山県倉敷市真備町では,再度災害の防止を目的に小田川合流点付替え事業や堤防強化などの工事を実施しています。しかしながら,再度災害防止として,もっとも重要な工事である小田川の合流点付替えは,令和5年度末の完成を予定しており,それまでの間は特に避難が重要になります。
 
高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所(以下,「小田川事務所」という)では,住民の避難を円滑に実施するため,マイ・タイムラインの作成と併せて,建設業者やNPOと連携した快適トイレの設置など,避難所の環境整備についても協力しています。
 

図−1 真備の被災経験を踏まえたマイ・タイムライン ヒント集の一部




 

1. 逃げ遅れゼロに向けた要配慮者マイ・タイムライン

真備町では平成30年7月豪雨災害により51名(災害関連死除く)もの尊い命が犠牲になりました。小田川事務所では,逃げ遅れゼロを目標に,令和元年9月から,真備町地区住民やNPOと連携して,国土交通省関東地方整備局下館河川事務所が作成し,普及・啓発に努めている「小中学生向けマイ・タイムライン検討ツール〜逃げキッド〜」を,真備の被災経験を踏まえて改訂し,「平成30年7月豪雨を踏まえたマイ・タイムライン検討ツール〜逃げキッド〜」(以下,「逃げキッド」という),として真備町地区住民や倉敷市内の小学校を中心にマイ・タイムラインの作成支援を実施してきました。
 
一方で,災害により亡くなられた51名のうち88.2%にあたる45人は65歳以上と,高齢者の割合が高く,また,要介護・要支援者(以下「要配慮者」という)が死者全体の3分の1強を占めていました1)。要配慮者は自力避難が難しい場合もあり,また,高齢化が進むほど災害時の行動について自ら考えることが難しくなる割合も高くなります。つまり「逃げキッド」を活用したマイ・タイムラインの作成を自力で行うことが難しい人ほど犠牲に遭う可能性が高いことが分かってきました。
 
そのような中,真備町地区内の福祉事業所および地域包括支援センターから,要配慮者のためのマイ・タイムラインを作成したいという要望をいただき,福祉事業所,地域包括支援センター,小田川事務所の3者協働でマイ・タイムラインのひな形の作成にとりかかりました。
 
作成に当たっては,福祉事業所,地域包括支援センターから,地域の要配慮者が全員避難できるようにするには,福祉事業所や民生委員だけの力では限界があり,隣近所など普段から付き合いがある,または顔見知りである人の支援が必要不可欠との指摘がありました。また,簡単にマイ・タイムラインを作れるようにするため,できるだけ考える項目は減らし,チェックリスト形式のほうが望ましいという意見をいただき,図−2に示すような要配慮者,家族,近所,組織(福祉事業所)等の組織の4者が協力してマイ・タイムラインを作成するひな形を作成しました。
 

図−2 要配慮者マイ・タイムラインの例




このひな形を活用して4者が集まり,避難場所や支援できる内容について話し合いをしながら要配慮者のマイ・タイムラインの作成を進め,これまで真備町全体で約20名の要配慮者の方々のマイ・タイムラインを作成しました。
 
要配慮者やそのご家族からは,「これまで避難することが周囲に迷惑をかけることになると思っていたので,声をかけられても避難をためらっていたが,今後は積極的に避難をしたい。」という声や,「隣近所の方がいざという時に声を掛けてくれることは心強い。」といった感想がありました。また,隣近所の方々も,「気にはなっていたが,どこまで関わって良いのか分からなかったので,今後は積極的にお節介をしたい。」「要配慮者のプライバシーなどを考えるとどこまで聞いて良いのかわからず,悶々とする気持ちだったが,自分ができるときにできることをやれば良いことがわかってよかった。」という感想をいただきました。
 
現在,作成に携わった人たちの意見をまとめ,「地域連携型要配慮者マイ・タイムライン作成ヒント集」(以下,「作成ヒント集」という)を関係者や民生委員,社会福祉協議会,学識者と連携して作成・公表したところです。今後更により多くの方がいざという時に逃げ遅れないよう,マイ・タイムラインの作成を地域と連携しながら進めていきたいと考えています。なお,作成ヒント集は小田川事務所および倉敷市のウェブサイトにて公表しています。
 
 
 

2. 建設業者,NPOと連携した神社への快適トイレの設置

要配慮者マイ・タイムラインの作成に当たり,実際に要配慮者の自宅を訪問し,平成30 年7 月豪雨時の避難状況や,今後の避難についてどのように考えているかを伺うことができました。その際,ほぼ全員から共通して出た意見が,自分たちが使用できるトイレがない場所には避難が考えられないということでした。
 
真備町の最も西側に位置し人口約1,900名の呉妹地区では,地区内に指定避難所が無かったため(現在は小学校を避難所として指定),平成30年7月豪雨時は約200名が地区内の小高い場所に位置する熊野神社に避難しました。しかしながら,熊野神社のトイレは和式で非常に狭く,衛生面にも課題がありました。そのため,呉妹地区でマイ・タイムラインを作成した方からは,次に災害が起きる場合は熊野神社には避難せずに自宅の2階に避難する,という意見も聞きました。熊野神社周辺は浸水深が5m近くあり,住居の2階が1m程度浸水した人も多くいます。そういった状況下にありながら,トイレを理由に自宅にとどまり避難しないということを被災者自らが選択せざるを得ない状況でした。また,神社は地域の氏子の寄付や賽銭で運営が行われており,トイレの改修を行うことは予算の面からも非常に厳しい状況でした。
 
そのような背景から,トイレを理由に避難を思いとどまることがあってはならないと考え,小田川事務所と小田川合流点付替え事業の工事受注者である荒木組が連携して,快適トイレを神社に設置することとしました。
 
熊野神社の総代からは,「和式トイレは昔の仕様で狭いうえ,衛生面でも問題があった。設置してくれてありがたい。」という感謝の言葉をいただきました。また,地域の方々からも「トイレが使えないので避難したくないと思っていたが,有事の際はためらわずに避難したい」という声をもらいました。
 
地域の建設業者は地域の安全確保や地域貢献に非常に熱心に取り組んでいますが,これまでは,工事現場周辺の清掃活動や工事現場のPRを兼ねた活動が多かったように思います。もちろんこうした活動は重要なことですが,地域が望む避難先の環境改善という課題に対し,快適トイレの設置という,誰もが使いやすいトイレに普段から接している建設業者だからこそできる貢献は,新しい地域貢献のあり方になるのではないかと感じています。
 
なお,今回は,地域の実情が令和2年5月に判明し,その後快適トイレの設置に向けて準備を行ったものの,快適トイレは受注生産であることから,設置の決定から完了までに2ヶ月近く要しました。そのため,目前の梅雨には設置が間に合わないため,西日本豪雨の被災者支援を実施しているNPO法人ピースウインズ・ジャパンに小田川事務所からお願いし,梅雨の間,快適トイレをレンタル・設置していただきました。
 

写真−1 要配慮者マイ・タイムライン作成の様子

写真−2 熊野神社のトイレ

 

写真−3 熊野神社に設置した快適トイレ




 

おわりに

熊野神社のトイレの改善は,地域からどこにも要望があがっていませんでした。理由を聞くと,神社は行政機関の所有物ではなく,トイレの改善を誰かに頼むという考えに及ばなかったというものでした。
 
今はコロナ禍でもあり,避難先の密は避けたいが,使用できるキレイなトイレがある場所でないと避難したくないという声を多く聞きます。避難先として考える場所は,普段から利用する場所です。そのため普段からトイレのニーズがある可能性は高いはずです。一方で,トイレを新設することになれば維持管理コストも含めて誰が管理するかが問題になります。コロナ禍で分散避難が求められている現在,建設現場の快適トイレを避難時に活用することも含め,建設業界が地域と連携してできることは沢山あるのではないか,また,それが普段から建設現場を地域の方に見ていただくことにもつながるようになればと思います。
 
現在,呉妹地区ではさらなる避難先の確保を目的に,地区内に位置する神社やお寺を地域住民の避難先とするため,施設へのお願いとあわせてNPOにも協力いただき,避難した際に必要な物資を神社や寺に置かせていただく取組みを進めています。今後も,引き続きハード対策の推進による地域の「安全」確保はもちろんのこと,地域の声を聞きながら,一人でも多くの人が「安心」を感じてもらえるよう,全力で取り組む所存です。
 
 
参考文献
1) 平成30年7月豪雨災害検証報告書 2019年3月 岡山県「平成30年7月豪雨」災害検証委員会

 
 
 

国土交通省 中国地方整備局 高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所 所長  桝谷 有吾

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年12月号



 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品