建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 水処理施設の運転管理支援技術 〜JS実施のB-DASHプロジェクトから〜

 

はじめに

日本下水道事業団(JS)技術戦略部では,試験研究/技術開発の一環として,国土交通省の「下水道革新的技術実証事業」(B-DASHプロジェクト)を地方公共団体,民間企業,大学などと共同で受託・実施してきている。令和2年10月末現在での累計実施数は23件(実規模実証19件,FS調査4件)で,令和元年度末で計20件が完了している。
 
このうち本稿では,下水処理場の水処理施設の運転管理を支援する技術として,以下の2件を紹介する。
 
ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理技術(平成26,27年度実規模実証)
 
AIを活用した下水処理運転管理支援技術(平成30,令和元年度FS調査)
 
 
 

1. ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理技術

(1)技術の概要

反応タンクの曝気風量を自動で制御する新たな曝気風量制御技術に二つのリモート(遠隔)支援技術を組合せることで,反応タンクにおける硝化性能の維持と省エネ化の両立,維持管理性の向上などを図る運転管理支援技術である(図−1)。具体的には,「NH4-Nセンサーを活用した曝気風量制御(NH4-N/DO制御)」技術を反応タンクに導入すると共に,リモートからの支援を行なう「リモート診断技術」として「制御性能改善技術」および「多変量統計的プロセス監視技術(MSPC技術)」を導入する。
 

図−1 「ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理技術」のシステム構成のイメージ



NH4-N/DO制御技術:反応タンク(好気タンク)内の下流部にアンモニア性窒素(NH4-N)計および溶存酸素(DO)計を設置し,NH4-N濃度の計測値に基づきDO 制御の目標値(DO濃度目標値)を自動で変化させることで曝気風量の低減を図る技術で,いわゆる「アンモニア制御技術」の一種である。
 
制御性能改善技術:上述のNH4-N/DO制御技術の運用において,同制御で使用するパラメータ値を自動で診断・最適化することで,DO濃度目標値に対する制御の追従性を向上させる技術である。
 
MSPC技術:稼動中の施設・設備から収集される各種計測データを使用して,当該プロセスにおける異常を早期に検出すると同時に異常の要因解析を行う技術である。NH4-N/DO制御技術で使用するNH4-N 計の計測異常(ドリフトなど)を早期に検知可能である他,流入水量・水質の異常や機器の動作異常など,水処理プロセス各所の異常を検知可能である。
 
本技術は,適用対象として硝化促進運転を行う標準活性汚泥法の下水処理施設を想定しており,導入効果として,(a)放流水質の安定化,(b)消費電力量・温室効果ガス排出量の低減,(c)維持管理コストの低減,(d)放流水質の悪化など処理性能が悪化する事態の回避,の4点を掲げている。

(2)B-DASHプロジェクト

本技術は,平成26,27年度にB-DASH実証研究「ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理技術実証研究」として,「株式会社東芝・日本下水道事業団・福岡県・公益財団法人福岡県下水道管理センター共同研究体」により実規模での実証実験などが行われたものである。
 
実証研究では,宝満川浄化センター(福岡県宝満川流域下水道)の既設水処理施設1系列2池(標準活性汚泥法;1池当たり処理能力2,700㎥/d)にNH4-N/DO制御技術を導入し実規模の実証施設とするとともに,中央監視室内に設置したLCD監視制御装置から計測信号をリモートサーバへ伝送し制御性能改善技術およびMSPC技術をリモートで運用するシステムを構築した。
 
平成26年12月に本実証施設の設置工事を完了し,平成27年1月以降,本施設を連続的に運用しての本格的な実証実験を実施した。平成28年2月までの実証期間において得られた主要な成果は以下の通りである1)。
 
NH4-N/DO制御技術:処理水のNH4-N濃度を概ね1mg/ℓに維持しながら,従来のDO一定制御(DO濃度目標値:2mg/ℓ)と比較して曝気風量を平均10.3%(省エネ性を重視した制御モードによる運転期間の平均値)削減可能であった(図−2)。
 

図−2 「NH4-N/DO制御技術」による曝気風量低減率(対・DO一定制御)の実績(制御モード別の期間平均値および標準偏差)




制御性能改善技術:NH4-N/DO制御技術のDO濃度目標値への追従性が改善されることが定量的に示された。
 
MSPC技術:各種異常を想定したシナリオ試験により,異常検出が実用的に十分な時間内で可能である点が実証された。
 
経済性:処理能力50,000m3/日規模の下水処理場への導入を想定したケーススタディにより本技術の導入に係る経費回収年(導入に係る建設費÷正味の維持管理費削減額)を試算した結果,NH4-N/DO制御技術を単独で導入するケースで1.8年,3技術全てを導入するケース(リモート診断対象として8処理場を想定)で2.3年と,本技術が十分な経済性を有していることが示された。

(3)その後の展開

上記のB-DASH実証研究の成果を受け,平成28年12月に本技術の「導入ガイドライン(案)」1)が公表されており,実機導入に供する技術として位置付けられている。また,共同研究体では,平成28年度以降も当該施設を利用した実証実験を継続しており,各要素技術に改良を加えるとともにさらに充実した実証データを取得しているところである2),3)
 
また,NH4-N/DO制御技術に係る実証実験結果については,JSが令和元年度に実施した「アンモニア計を利用した曝気風量制御技術の評価に関する報告書」4)にも反映されている。
 
 
 

2. AIを活用した下水処理運転管理支援技術

(1)技術の概要

「水処理制御支援技術」,「画像診断支援技術」というAI(人工知能)を活用した2つの要素技術により,水処理施設の運転管理を支援する技術である(図−3)。各要素技術は,(a)運転操作値の変更に係る検討(変更要否の検討を含む),(b)活性汚泥の顕微鏡観察における微生物の同定および計数という,現状では相当の経験を要する運転管理項目を代替するもので,熟練技術者によるものと同等の運転管理水準を,AIにより簡易に維持することを意図している。
 

図−3 「AIを活用した下水処理運転管理支援技術」のイメージ



水処理制御支援技術:下水処理場において連続的に採取されている多数の計測データに基づき,水処理施設の運転操作値(例:曝気風量,余剰汚泥引抜量)をガイダンスする技術である。具体的には,過去の計測データに基づき予測モデル(機械学習アルゴリズムの一つである「ランダムフォレスト」を使用)を構築した上で,刻々と変化する計測データに対してリアルタイムで運転操作の推奨値(予測モデルよる予測値)を出力する。運転員は,本予測値に基づき,運転条件変更の要否を判断した上で,変更する場合には新たな設定値を決定することになる。
 
画像診断支援技術:活性汚泥の顕微鏡観察画像に対して,ディープラーニングによる画像認識技術を使用して微生物種の同定および計数を自動で行う技術であり,活性汚泥法において広く実施されている微生物顕鏡試験の実施を支援するものである。
 
これらの要素技術により,水処理施設の運転管理の効率化・省力化や,熟練技術者不足・技術継承への対応といった導入効果を期待するものである。

(2)B-DASHプロジェクト

平成30年度および令和元年度のB-DASHのFS調査「AIを活用した下水処理運転管理支援技術に関する研究」として,「(株)安川電機・前澤工業(株)・日本下水道事業団共同研究体」により本技術の予測手法や予測精度に係る検討が実施された。
 
水処理制御支援技術については,規模が異なる下水処理場3箇所から入手した3〜4年分の計測データを使用し,予測対象として曝気風量と余剰汚泥流量を選定した上で,ランダムフォレストによるモデル構築条件の検討,予測精度の検証などの机上検討を実施した。一方,画像診断支援技術については,下水処理場1箇所において定期的に活性汚泥の顕微鏡観察画像を撮影・収集し,大きさや形態が異なる3種類の活性汚泥微生物(微小後生動物としてRotaria,原生動物としてArcella,Epistylis)の画像認識を試みた。
 
これら2カ年度のFS調査の主要な成果は以下の通りである5),6)
 
水処理制御支援技術:過去1年間の運転実績をAIによる予測結果と比較した結果,最適なモデル構築条件で「学習」した予測モデルにより,1年間の平均的な予測誤差率(MAPE値=実績値に対する予測値の誤差率の絶対値の年間平均値)が曝気風量について4.2〜9.9%,余剰汚泥流量について4.9〜8.4%と,実用上十分な予測(目標値:10%以内)が可能であることが示された(図−4)。なお,十分な予測精度を得るためには,予測モデルの構築条件(学習用データの項目数・日数,ランダムフォレストのパラメータ値)を処理場ごと・予測対象ごとに最適化する必要があることも明確となった。
 

図−4 「水処理制御支援技術」における予測モデルの性能検証結果の例(1年間の検証用データを用いた曝気風量の予測結果を実績値と比較した例)



画像診断支援技術:十分な枚数の画像データ(Rotaria:200枚,Arcella/Epistylis:500枚)を用いて「学習」させることで,適合率(100枚の検証用画像データにおいて対象微生物と認識された枚数に対する正解率)として84〜89%が得られ,活性汚泥微生物を対象とした画像認識が実用的に可能である点が示された(図−5
 

図−5 「画像診断支援技術」におけるEpistylisの検出例




 

(3)その後の展開

上記のFS調査により,AIを用いた二つの要素技術が実用的な性能を持ち得ることが示された。いずれも,限られた対象数(水処理制御支援技術:操作値2項目×3処理場,画像診断支援技術:微生物3種)における検証結果であり,運転管理支援技術として確立するためには,対象数を増やしたさらなる検証などを継続する必要がある。
 
なお,水処理制御支援技術については,上記の検討ではAIによる出力をガイダンスとして使用する(実際の操作は運転員が行う)利用形態を想定したが,これを自動制御へと応用するための基礎的検討をJSと(株)安川電機の共同研究により開始したところである。
 
 
 

おわりに

本稿では,JSが実施したB-DASHプロジェクトのうち,下水処理場の水処理施設の運転管理支援を目的とする2件を紹介したが,これらは,JS技術戦略部が実施してきた試験研究/技術開発のごく一部である。その他のプロジェクトなどを含めてJSのHP内「JS-TECH〜基礎・固有・技術開発の扉〜」(https://www.jswa.go.jp/g/gi.html)にて紹介しているので,併せてご覧頂ければ幸いである。

謝辞

本稿で紹介した二つのB-DASHプロジェクトは,おのおのJSを含む共同研究体が国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究として実施したものである点を明記するとともに,各プロジェクトの関係者各位に深く感謝の意を表する。
 
 
参考文献
1) 国土交通省国土技術政策総合研究所:B-DASHプロジェクトNo.15 ICTを活用したプロセス制御とリモート診断による効率的水処理運転管理支援技術導入ガイドライン(案),国土技術政策総合研究所資料No.939,2016.
 
2) 小原卓巳,山中理,難波諒,平岡由紀夫,橋本敏一,糸川浩紀,高木雄史,矢野洋一郎:リモート診断機能を付加したNH4-N/DO制御の長期運用評価および機能改良,第55回下水道研究発表会講演集,pp.965-967,2018.
 
3) 小原卓巳,山中理,難波諒,平岡由紀夫,糸川浩紀,山下洋正,高木雄史,奥薗剛:リモート診断機能を付加したNH4-N/DO制御の長期運用による性能および経済性評価,第56回下水道研究発表会講演集,pp.1022-1024,2019.
 
4) 日本下水道事業団技術評価委員会:アンモニア計を利用した曝気風量制御技術の評価に関する報告書,日本下水道事業団,2020.
 
5) 平林和也,藤原翔,大場正隆,綿引綾一郎,石川進,張亮,グエンタンフォン,糸川浩紀,橋本敏一,松橋学:AIを活用した水処理制御支援技術による運転管理設定値の予測の汎用性検証,第57回下水道研究発表会講演集,pp.895-897,2020.
 
6) 藤原翔,平林和也,大場正隆,綿引綾一郎,石川進,張亮,グエンタンフォン,糸川浩紀,橋本敏一,松橋学:AIを活用した活性汚泥の画像診断支援技術による微生物認識率の検証,第57回下水道研究発表会講演集,pp.892-894,2020.
 
 
 

日本下水道事業団 技術戦略部 技術開発企画課長  糸川 浩紀

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2021年1月号



 

 

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