建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 2021年建設経済の見通し 建設経済モデルによる建設投資見通し

 

1. はじめに

一般財団法人建設経済研究所は,NEEDS日本経済モデル(日本経済新聞社)をベースに,政府建設投資,民間住宅投資,民間非住宅建設投資等の建設関連部門を充実させた「建設経済モデル」を使用し,四半期ごとに「建設経済モデルによる建設投資の見通し(以下,「建設投資見通し」または「見通し」という)」を公表している。
 
直近では,2020年度および2021年度の「建設投資見通し」を2020年10月28日に公表したところである。本稿は,2020年11月中旬に執筆しているが,新型コロナウイルス感染症の影響などによる社会経済のさまざまな変化や,これに対する政府の施策など,「見通し」公表後にも刻々と事態は変化しているところであり,例年以上に不確定要素の多い見通しとなっている。本稿では,「見通し」の内容を解説しつつ,事態の変化を踏まえ,建設経済の見通しについてまとめた。なお,次回の「見通し」の公表は,2021年1月末の予定である。
 
 
 

2. 日本経済の概況

緩やかな回復基調にあった日本経済は,2018年度から徐々に減速し始めていたが,2020年度に入って新型コロナウイルス感染症拡大の影響により急速に悪化し,極めて厳しい状況に陥った。2020年4〜6月期の実質GDPは,季節調整済み前期比で△8.2%(年率△28.8%)となった。7〜9月期には,5.0%増(年率21.4%増)と持ち直し,「民間最終消費支出(個人消費)」が前期比4.7%増,「政府支出」が2.2%増,「輸出」が7.0%増となったが,「設備投資」は△ 3.4%,「民間住宅投資」は△7.9%と,企業と家計の投資部門は,減少傾向が続いている。なお,「公的固定資本形成」は,0.4%増となり,今のところ堅調を維持している(いずれも2020年7〜9月期GDP(1次速報・内閣府)による)。
 
西村経済財政政策担当大臣は,「持ち直しの動きが続いている」一方で,「依然として,経済は,コロナ前の水準を下回った状態」にあり,「欧米を中心とする感染再拡大による輸出や生産への影響や,足元における国内の感染者の増加による個人消費への影響など下振れリスクに十分な注意が必要である」との談話を発表した。政府の対策により,消費等は一時的に持ち直しているものの,企業の設備投資や家計の住宅投資など前向きな投資活動は依然として減少しており,コロナの影響が長期化することが懸念される。政府は,「感染症の拡大防止」「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」「防災・減災,国土強靱化の推進など安全・安心の確保」を柱として,具体的な対策の検討を進めている(本稿掲載時には,新たな対策の内容が明らかになっている可能性が高いと思われる)。
 

図表−1 マクロ経済の推移(年度)


 

図表−2 名目建設投資の推移(年度)


 

図表−3 名目政府建設投資の推移(年度)




 

3. 建設投資の現況と見通し

2020年度の建設投資は,前年度比△2.3%の63兆8,500億円となり,2021年度の建設投資は,前年度比△8.9%の58兆1,800億円となる見通しである。

(1)政府建設投資の見通し

2020年度の政府建設投資は,「防災・減災,国土強靱化3か年計画」や,2018年度第1次および第2次補正予算,2019年度補正予算,さらには東日本大震災復興特別会計に係る事業などが多く契約・執行されており,2020年度中までは,政府建設投資は,堅調に推移するものと考えられることから,前年度比4.1%増の25 兆8,800億円と見込んだ。
 
2021年度について,「建設投資見通し」公表時に得られた情報によれば,①2020年度の第1次および第2次補正予算では,新型コロナウイルス対策が中心で,公共事業関係費がほとんど手当てされなかったこと,②「防災・減災,国土強靱化3か年計画」の計画期間が満了すること,③東日本大震災の復興事業がほぼ終了しつつあること,④東京オリンピック・パラリンピック関連の公共事業がほぼ終了していることなどから,2021年度は前年度比△ 18.1%の21兆2,200億円と予測した。しかし,上で述べたように,改めて防災・減災,国土強靱化に向けて対策を講じるとの政府・与党の方針が示されているところであり,積極的な財政措置等がなされれば,政府建設投資の減少幅がこれよりも小さくなることが予想される。

(2)民間住宅投資の見通し

住宅着工戸数は,2019年度の88.4万戸から,2020年度は,79.7万戸(△9.8%)となる見込みである。2020年度4〜5月は,ハウスメーカー等が十分に営業活動をすることができなかったが,これについては,秋にかけて盛り返していると見られる。しかし,もともと,2019年度の消費税率引き上げに伴う前半の駆け込みと後半の反動減や,相続税制の改正による貸家建設の投資メリットの低下,マンションの価格高止まりによる契約率の低下などが影響して,2020年9月までで,持家は14カ月,貸家は25カ月,分譲住宅は11カ月,総戸数は15カ月連続で前年同月比が減少するなど,減少傾向が続いている。民間住宅投資額は前年度比△7.5%の15兆1,200億円となる見通しである。
 
2021年度は,上記のような傾向に加えて,コロナショックの長期化から,企業業績が低迷することが予測され,それが,勤労者所得の低下や雇用情勢の悪化,地域経済の停滞につながり,回復には時間がかかるものと考えられる。2021年度の後半から下げ止まり,総戸数は前年度比0.7%増の80.2万戸と予測するが,出来高として投資額が実現するには,契約・着工から一定の時間差が想定されるため,民間住宅投資額は,むしろ2020年度の着工戸数の減少が影響して,前年度比△ 4.4%の14兆4,600億円となる見通しである。
 

図表−4 住宅着工戸数の推移(年度)



(3)民間非住宅建設投資(建築+土木)の推移

新型コロナウイルス感染症拡大の影響は,国内・国外で長期化しつつあり,経済の先行きに不透明感が広がっている。2020年10月の内閣府「月例経済報告」は,景気は「依然として厳しい状況にある」が,「持ち直しの動きがみられる」としている。2020年度の実質民間企業設備は前年度比△6.0%,2021年度は回復が期待されており,前年度比2.2%増と予測する。
 
2020年度の民間非住宅建設投資は,前年度比△4.1%の16兆7,900億円と予測する。製造業の設備投資が2019年度からすでに減少傾向に入っているほか,新型コロナウイルス感染症の影響により宿泊施設や店舗の減少が予測される。一方で,いわゆる「手持ち工事」が約11兆円蓄積しており,倉庫・流通施設が堅調である。
 
2021年度の民間非住宅建設投資は,前年度比△2.2%の16 兆4,200億円と予測する。引き続き,倉庫・流通施設は堅調であり,全体としても徐々に回復の動きが見えてくるものと思われるが,2020年度における受注の減少が影響し,回復のスピードは緩やかなものとなると見込まれる。
 
事務所は,大都市圏を中心として今後とも大型プロジェクト等の投資が継続されるが,空室率の上昇等もあり,新規の受注が減少し始めている。店舗は,中長期的に減少が続いているなか,さらに減少傾向が続くと見込まれる。
 
工場は,能力増強や更新の動きの勢いが鈍り,減少傾向が続いている。諸外国では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており,世界経済の減速が輸出産業に与える影響も懸念される。
 
倉庫・流通施設は,宅配サービスの一層の普及や,EC市場の拡大の中で,感染防止の観点からも評価が高まっており,高機能・マルチテナント型物流施設等の着工の増加も引き続き見込まれる。
 
医療・福祉施設は,高齢化社会への対応に向けて堅調に推移してきたが,足元では着工が減少している。
 
宿泊施設は,インバウンド需要により急成長してきたが,2017年度をピークに頭打ちとなり,さらにコロナショックによる外国人観光客の減少の影響で,2020年度は,急激に着工が減少している。
 
民間土木投資は,これまで増加してきたが,景気の急速な減速により受注が減少している。新型コロナウイルス感染症による鉄道・交通事業者の業績悪化が影響することが懸念される。
 

図表−5 名目民間非住宅建設投資の推移(年度)


 

図表−6 民間非住宅建築着工床面積の推移(年度)



(4)建築補修(改装・改修)投資の推移

2020年度の建築補修(改装・改修)投資は,前年度比△7.1%の7兆4,800億円と予測する。政府建築補修(改装・改修)投資は,前年度比2.0%増の1兆4,200億円,民間建築補修(改装・改修)投資は,前年度比△9.0%の6兆600億円となることが見込まれる。
 
2021年度の建築補修(改装・改修)投資は,前年度比0.9%増の7兆5,500億円と予測する。政府建築補修(改装・改修)投資は,前年度比2.0%増の1兆4,500億円,民間建築補修(改装・改修)投資は,前年度比0.7%増の6兆1,000億円となることが見込まれる。
 
政府建築補修(改装・改修)について,「建築物リフォーム・リニューアル調査」によると,2019年度の政府建築物の改装・改修工事の受注高は,前年度比で増加しており,「建設工事施工統計調査」の維持・修繕工事の完成工事高も,中長期的には緩やかな増加傾向にある。庁舎の防災機能や安全性の向上および長寿命化に資する工事は今後とも安定的に推移すると見られ,生産性の向上や新技術の活用による効率的な投資が見込まれる。
 
民間建築補修(改装・改修)について,「建築物リフォーム・リニューアル調査」によると,2019年度の民間建築物の改装・改修工事の受注高は,前年度比で増加した。「建設工事施工統計調査」の維持・修繕工事の完成工事高も,中長期的には緩やかな増加傾向にあり,省エネルギー対策,防災・防犯・安全性向上などの建築物の高機能化に資する工事は,今後とも安定的に推移していくことが見込まれる。2020年度については,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により減少すると予測するが,2021年度には回復し,微増となる見通しである。
 
 
 

4. おわりに

2020年7〜9月期のGDPに急速な回復の動きが見られたが,消費支出と公的需要によるものが中心であり,持ち直しの兆しは見られるものの,投資,生産といった本来の企業活動の回復にはまだ時間がかかる見通しである。また,新型コロナウイルスの感染拡大は,国内,国外とも続いており,かつてのインバウンド需要のような先行きの明るい見通しにつながるものがない。各種調査によれば,企業は設備投資の意欲はあるものの,景気先行きに不透明感があることから,態度が慎重になっている。
 
現在の建設市場は,民間・公共工事とも手持ち工事を多く抱えており,景気回復が早ければ,受注減少の影響をそれほど大きく受けずに済む可能性がある。しかし,コロナショックの長期化で,その可能性は低くなりつつあるように思われると同時に,仮に景気低迷が長引き回復が遅れれば,それよりもさらに1〜2年遅れて回復する傾向がある建設投資へのマイナスの影響は,大きくなることが予想される。
 
2021年の建設経済に向けては,政府の財政措置の規模・内容と円滑な公共工事の執行が当面の焦点となる。さらに,建設市場の本格的な回復と成長のためには,民間非住宅建設投資に見られる各産業の積極的な投資活動の回復も重要である。
 
現在は経済を見通す上でコロナを切り離しては議論できない時代となった。
 
安定した経済社会を基盤に,それを信頼してはじめて正常な企業活動が可能となり,設備投資意欲が回復するものと思われる。ワクチンの開発などに関して希望的な報道も散見され始めているが,その可否はともかく,新しい年には,コロナ後の社会についての不透明感がある程度払拭され,社会に対する信頼が回復し,企業の意欲と活力が建設市場にも波及していくことを期待したい。
 
 
 

一般財団法人 建設経済研究所 研究理事   三浦 文敬(みうら ふみたか)

 
 
【出典】


積算資料2021年1月号



 

 

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