建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 土木施工単価 > 北海道の道路デザインブック・ 道路景観チェックリストについて 〜道路景観の改善からみえる持続可能な道路管理〜

 

1. はじめに

北海道では雄大な自然や雪景色など,他の地域にはない貴重な景観資源を有し(写真−1),増加する来道者が移動中に景観を楽しむ機会が多い(図−1)。また,「シーニックバイウェイ北海道」1)など,沿道の美しい景観を地域資源として活用した地域振興等や魅力ある観光空間づくりも継続して行われ,観光振興の面からも道路景観の向上は昨今の道路事業における地域貢献として重要なテーマとなっている。
 
一方,人口減少社会の時代を迎え,道路事業費の大幅な増加が見込めない中,将来とも持続可能な道路整備や管理が求められている。本稿では,積雪寒冷地の道路景観の改善に向け,これを適正かつ効率的に実践するための考え方とルールと実例を示す「北海道の道路デザインブック(案)」(以下,デザインブック)と「北海道における道路景観チェックリスト(案)」(以下,チェックリスト)の紹介と,今回の改訂作業で得られた知見を通して,道路景観からみた持続可能な道路管理に関して考察する。
 

【写真−1 地域資源ともなる沿道に広がる魅力的な景観】


 

【図−1 来道観光入込客数と新千歳空港でのレンタカー貸出し数】
(出所:北海道経済部,提供:新千歳空港ターミナルビルディング株式会社)




 

2. 北国の道路景観向上に資する2つの技術資料

2.1 技術資料の概要

本デザインブックは,全国を対象とした「道路デザイン指針(案)」(国土交通省:2005.7 発刊,2017.10 改訂)2)に対して,北海道のローカルルールとしての位置付けで作成された。また,現場技術者が地域特性を活かし北国の美しい道路づくりを実践するために必要な考え方や具体の手法について,道路の企画・計画,設計,施工および維持管理段階の全てを対象に参考となる実例を挙げ,実践的で具体的な道路景観向上の手法を示している(図−2)。
 
一方,チェックリストは,デザインブックの実践編として位置付け,現場技術者が景観への課題や改善のポイントを直感的に理解できるよう写真やイラストを多用したチェックリスト形式としている(図−3)。また,記載項目ごとのタイトルを疑問形とし,道路景観の検討に熟練していない現場技術者でも改善策を見つけやすいよう配慮している。そのため,チェックリストは現場技術者のみならず道路景観の向上を目指す地域団体の方々にも利用され好評を得ている。
 

北海道の道路デザインブック(案)四訂版

【図−2 北海道の道路デザインブック(案)四訂版(2019.3)3)】

【図−3 北海道における道路景観チェックリスト(案)改訂版
(2019.3)4)】


これらの資料は,道路景観向上のための技術資料として,2004 年12月に国土交通省北海道開発局内で「北海道の道路景観整備ブック」として参考配布され,さらに議論を重ね2010年4月に三訂版としてデザインブックおよびチェックリストを発刊した(図−4)。その後,一定期間が経過し各種技術基準の改訂や社会ニーズ等を踏まえ,2019年3月のデザインブックとチェックリストの改訂に至っている。
 

【図−4 景観行政施策と道路デザインブック・チェックリストの位置付け】



2.2 デザインブック改訂の概要

【図−6 デザインブック3)での解説事例(自治体からニーズが高い「道の駅」も記載)】


今回の改訂に当たっては,第一に近年の道路景観に関連する新たな法律・施策等の動向や社会ニーズを踏まえた内容の充実,および「道路デザイン指針(案)」をはじめ前回改訂版発行以後の各種基準改定や知見を反映させた。この際,道路インフラを取り巻く社会環境の変化や将来を踏まえ,「コスト」,「持続可能性」,「取り組みやすさと実現性」に加えて「地域貢献」を新たな柱として改訂を行った。
 

デザインブックの改訂は全167カ所(三訂版140頁→四訂版188頁)となっており,このうち30カ所で項の新設や既存の記載内容の見直しを行った。以下に代表的な内容を記す。
 
①維持管理段階を考慮した道路景観向上や景観改善箇所の優先度の考え方を充実(図−5
②景観法や景観協定,さらには建築協定や都市計画法の活用などについて記載
③道路附属施設関係,特に道路標識(色彩,集約)に関する記載の充実
④景観に大きな影響を与える道路占用物である電線電柱や屋外広告物に関する記載の充実
⑤「道の駅」の魅力に大きく貢献する施設レイアウトや駐車場設計に配慮する事項の記載(図−6
 

【図−5 デザインブック3)での解説事例(維持管理段階における考>え方を解説)】


 
特に道路景観の改善は現場での実践が重要となることから,釧路シーニックバイウェイや各種の技術相談などの知見を新設した「維持管理段階における考え方」に大きく反映させたほか,景観改善に効果的な手法などをコラム4編(シェブロンマーカー,無電柱化および屋外広告物,歩行空間)(図−7)として新規収録している。


【図−7 デザインブック3)でのコラムの記載例(シェブロンマーカー
の解説事例)】



2.3 チェックリスト改訂の概要

チェックリストの改訂は全215カ所(初版74頁→改訂版82頁)となっており,このうち21カ所で項の新設や既存の記載内容の見直しを行った。以下に代表的な内容を記す。
 
①維持管理段階を考慮した記載の充実(図−8),デザインブックの更新に応じた記載の修正
②道路空間の再配分に関する記述,道路の仮設時や暫定供用時の景観配慮について記載
③無電柱化,屋外広告物,ビューポイントパーキング5)等について記載
 

【図−8 チェックリスト4)での維持管理を考慮した解説事例(雪崩防止柵の雪下ろし作業の削減例)】




 

3. 道路景観の改善からみえる持続可能な道路管理

3.1 小規模附属物のストック対応と景観対策

国土交通省の道路技術小委員会では,2016年度から小規模附属物のマネジメントの検討を行い,門型標識以外の標識及び道路照明を対象とした「小規模附属物点検要領(2017 年3 月)」6)を発出し,例えば路側式では巡視時に車内からの目視,片持ち式では巡視に加え中間点検と詳細点検が求められている(表−1)。
 

【表−1 片持ち式標識の点検区分等(小規模附属物要領6)より作成)】




また,「道路メンテナンス年報(令和元年8月)」7)によると全道路の1.9%を占める直轄管理区間23,681kmで約102万施設の小規模附属物を抱えており,国道から市町村道までの総道路延長約122万km(図−9)を考えると膨大な量の小規模附属物があることが容易に理解できる。そのため,現在メンテナンスのための予算に余裕が無い中,これらの点検や更新コストを縮減するため,小規模附属物ストックの見直しが強く求められていくものと考えられる。
 
これらを踏まえると,道路管理の効率化から今後は小規模附属物の削減が進むと予想され,更新時期を活用した道路景観の向上の検討が必要になる。
 

【図−9 高速自動車国道を除く道路の種別と延長割合(道路統計年
報2018 8),道路メンテナンス年報7)を基に筆者らが作成)



3.2 道路管理の効率化と道路景観向上の両立

道路附属施設物は道路空間に求められる機能を補完するため,計画・整備されている。しかしながら,附属物相互の関係性などを考慮した総合的・統合的な設計がされている事例は少なく,その結果として,景観への影響のほか,期待する機能が十分に発揮されていない附属物や機能の重複や過剰をもたらしている事例も少なくない(写真−2)。このような附属物の多さは,整備・維持管理・更新にかかるコストの増大をはじめ,冬季除雪に対する障害や吹きだまりの発生要因ともなる(写真−3)。
 

【写真−2 附属物の過剰設置による機能と景観が低下する例(道路空間の最適化の視点の欠如)】

【写真−3 F型標識背面の人力除雪作業に伴うコストの増大(附属物の設置の負の側面)】


設置基準等のない補助標識類の中には,過剰な設置であったり,伝達すべき機能(内容など)が不明瞭なものがみられる9)。その結果,施設同士の重複や錯綜(さくそう),煩雑などを招き,景観上の問題のみならず,「見づらい/理解しづらい/走行上のストレスになる」など,道路利用者が快適で安心に走行する上で負の印象を生じさせ,また施設個々が発揮する機能(案内誘導や注意喚起など)の低下をもたらしていると考えられる。
 
一方,小規模附属物設置ではなく区画線をはっきりと明示することで,道路線形が容易に認識されて安全性が高まるほか,コントラストが効き道路景観が印象的(景観向上)に映る(写真−4)。
 

実際の写真

フォトモンタージュ

【写真−4 区画線による誘導と景観向上の効果(イメージ)】

これらに関することとして,宗広10)らは北海道郊外部の実道を対象とし道路附属物の配置と沿道景観との調和性に関する現地実験とフォトモンタージュによる室内実験で,道路附属物の設置数を減らすほど景観性が向上する傾向や,過剰に道路附属物を設置せずとも区画線により一定の安全性及び快適性が確保されることを確認している。また,佐々木・内山11)は,「『よい眺め』のうち『よい』という意味は,人がものを見るという生理的・認知的行為の観点からいって,無理が無く自然で合理的という意味をいう」としており,道路附属物に頼らず道路構造自体で交通機能を充足させることは『自然で合理的』であり『よい眺め』の一例になると考えられる。
 
これまで一部の道路技術者には,道路景観の向上とは付加的なもので,景観向上策を実施することはコスト増につながるといったトレードオフの関係にあるともイメージされてきた。しかしながら,これまで述べてきたように,附属物を集約や撤去することで道路景観や走行の安全性を向上させ,さらにはコストも節減できる手法も少なくない。これらは,デザインブックなどを活用して釧路シーニックバイウェイなどで先進的に実践されてきている。今後,道路事業費の増加が望めない中,道路景観向上と維持管理・更新コストの節減を両立させることが持続可能な道路管理につながると考える。
 
 
 

4. おわりに

本稿では,北海道における道路景観向上に向けた活動の技術的支援となるデザインブックおよびチェックリストの改訂概要を解説し,また,改訂作業からの知見や既往研究などから,道路景観の向上は,維持管理・更新コストの縮減にもつながることを示した。さらに,道路景観の向上と維持管理・更新コストの節減の両立が,今後の持続可能な道路管理につながることも示した。
 
今回述べた,デザインブックおよびチェックリストのほか各種道路景観の向上に資する資料を当チームのホームページ上12)で公開している。今後も,道路景観に関する調査研究を進め,他分野の有益な知見を多く取り込むことで資料の充実を図り,官民問わず道路技術者以外も含め道路景観の向上に取り組む方々にとって,より有益な資料提供に取り組んでいきたい。
 
参考文献
1) シーニックバイウェイ支援センターホームページ:http://www.scenicbyway.jp/(2020.1.10確認)
 
2) 道路のデザインに関する検討委員会:補訂版 道路のデザイン-道路デザイン指針(案)とその解説-,株式会社大成出版社,2017.11
 
3) 地域景観チーム:北海道の道路デザインブック(案)四訂版,2019.3
http://scenic.ceri.go.jp/pdf_manual/designbook/designbook201903.pdf (2020.1.10確認)
 
4) 地域景観チーム:北海道における道路景観チェックリスト(案)
改訂版,2019.3
http://scenic.ceri.go.jp/pdf_manual/checklist/checklist201903.pdf (2020.1.10確認)
 
5) 国土交通省北海道開発局:ビューポイントパーキングとは?https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/dou_kei/ud49g7000000qy4x.html (2020.1.10確認)
 
6) 国土交通省道路局:小規模附属物点検要領,2017.3
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/tenken/yobo29_3.pdf (2020.1.10確認)
 
7) 国土交通省道路局:道路メンテナンス年報,2019.8
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen_maint_h30.html (2020.1.10確認)
 
8) 国土交通省道路局ホームページ:道路統計年報2018,
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/tokei-nen/2018/nenpo06.html (2020.1.10確認)
 
9) 道路のデザインに関する検討委員会:景観に配慮した道路附属物等ガイドライン,大成出版社,pp.5-13,2017.
 
10) 宗広一徳,高田哲哉,二ノ宮清志:北海道における道路附属物の最適配置に関する実道実験,交通工学,2015.10
 
11) 佐々木葉,内山久雄:ゼロから学ぶ土木の基本 景観とデザイン,オーム社,p.40,2015.
 
12) 地域景観チームホームページ: http://scenic.ceri.go.jp/(2020.1.10確認)
 
 
 

国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観チーム  大部 裕次 松田 泰明

 
 
 
【出典】


土木施工単価2021冬号



 

 

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