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工事写真から始まった写真DX

「もはやこの内容は工事写真を凌駕している」
 
これは2020年3月に改定された「デジタル写真管理情報基準」を受けて、11月13日に一般社団法人 日本建設業連合会 土木工事技術委員会 土木情報技術部会 情報共有専門部会(以下、当専門部会)が記者発表した「変わる!工事写真」施工者のための工事写真レイヤ化活用ガイドを見たある人のコメントである。
 
工事写真の改ざんが初めて問題となった2005年、デジタル写真の改ざん事例を受け、国土交通省はその後一切のデジタル写真の加工を禁止した。しかし、当専門部会では以前から工事写真そのものの利用価値にCALS/ECが始まった時から気が付いており、デジタル写真を単なる写真ではなく、そこに秘められた情報をさらに向上させる研究を行ってきた。
 
その1つが「電子小黒板」である。その小黒板を改ざんではない形で認めてもらうために、業界一丸となり、2017年2月には、電子小黒板を写真に組み込んだ状態については写真改ざんではないとの判断が国土交通省から下され、一気に電子小黒板がこの業界で開花した。黒板に入れている情報を元に、写真の振り分けなどが全自動で行えるようになるなど、写真整理時間などが画期的に短縮された。
 
あれから、3年、次に当専門部会が目指したのが今回の写真レイヤ化の取り組みである。
 
写真の深化ではなく、仕事の進め方の深化として今回の写真レイヤ化のみならず、今までとは違う施工管理プロセスを生み出せるこの改定に、冒頭のコメント「もはやこの内容は工事写真を凌駕している」が当専門部会の真の活動を表していると思い、このコメントから本投稿をスタートさせる。
 
 

工事写真のそもそもの目的は何だろうか。工事のプロセスで行われている行為を写真という映像でエビデンスとして確保するということと、見えなくなってしまう状態を見える状態の時に撮影しておくのが目的である。その後何かのタイミングで構造物であれば、修繕するためにその構造物の一部に物理的な行為を行う時、見えない部分がどうなっているのかが分かるので写真が役に立つであろう。このように工事写真はその時の施工状況を残すために重要な書類の1つである。
 
ところが、この重要な書類である「写真」を使って、その時々のコメントや何か重要な情報を後世に伝えるため、写真という書類に書き込みをすることが今までは許されていなかった。写真の改ざんに当たるからである。
 
今回の基準改定が意味するものは、単にファイル形式がJPEGから「写真ファイルの記録形式は日本産業規格(JIS)に示されるJPEGやTIFF形式等」とされ「SVGファイル形式」や全天球カメラ画像、動画ファイルの「MPEGファイル形式」など、さまざまな映像技術で工事写真の納品が可能となったという単純なものではなく、実はこのようなファイル形式を上手に利用可能にすることで、施工時の状況を的確かつ正確に伝達する「手段」が増えたということに他ならない。
 
この「手段」が増えることで、利用目的が広く、深くなり、施工者のアイデア次第で数多くの利用シーンを生み出すことができるようになったのである。
 
単にファイル形式が変わったというだけではなく、写真を使った仕事の進め方や、利用の仕方大きく変わることができるようになった、これが今回この基準の改定に示されている意味である。
 
 

レイヤ化を実現したSVG形式とその効果

建設現場ではあまり聞き慣れない「SVGファイル形式」だが、Web デザインなどに使用されることが多いベクタ形式の画像ファイルで、JIS X4197:2012「可変ベクタグラフィクスSVG Tiny1.2」として規定される汎用フォーマットである。一つのファイルで、複数の画像を重ねて配置でき、レイヤのような表現が可能となる(図-1)。
 
通常この形式はイラスト作成などの分野で使われている形式だが、今回はこのファイル形式を写真の上にトレーシングペーパーのようにかぶせて使おう、という発想である。
 
下記の「注釈レイヤ」が今回の基準改定で利用できるようになった部分である。ここでは分かりやすくするために、注釈レイヤが1枚として表現しているが、複数枚あっても問題ない。この注釈レイヤを多用することで、従来できなかった、工事の状況を伝達する手段や、コメントとして残すべき状況を写真に直接書き込むことができ、新しい表現ツールとしての利用が可能となる。
 
例えばこの例のように、写真から配筋の検査項目(ピッチや本数など)を自動で判定するシステムがあるとするならば、その情報を「注釈レイヤ」に書き出すことにより、従来のような配筋検査の資料作成などが現場で一瞬にして終わらせることも可能となる。写真だけで品質管理書類の一部とすることも可能となる。
 

写真レイヤ化の構成

図-1 写真レイヤ化の構成




 

新しい世界を築く施工管理ツールのユースケース

このレイヤ化が利用できるようになることで、施工管理としてさまざまな利用が考えられるようになった。
 
図-2のような使われ方も1つであろう。「注釈レイヤ」へのマーカーなどの追加・編集作業は撮影後にできるため、工事写真の撮影に追われるときは便利だ。
 
また、今回の改訂ではレイヤ化だけの利用ケースしかないわけではない。
 
表-1に書かれているとおり、動画ファイル形式についても利用が可能となっている。
 
例えば、今までは工事の状況を説明するために撮影する動画など従来は単なる参考情報として扱われ、特に工事の成果物として納めることはなかったが、今後は写真ではなく動画が積極的に扱われるようになるかもしれない。
 
従来は施工中の状況を説明するためにその一瞬を切り出し、写真という静止画で説明してきたが、今後はその前後のプロセスを説明するために動画を使い、動画でしか伝わらない施工中の一連の「流れ」やその場の「状況」をつぶさに説明する資料に変えることもできるであろう。
 
成果としての結果を残すものが写真だとするならば、そのプロセスをつぶさに説明するのが動画である。
 
動画という「手段」をプロセスの説明道具として使う流れが定着すれば、写真というものが最終的には必要なくなるかもしれない。動画からマーキングした、あるいは動画にコメントを残すようなツールが出来上がれば、さらに活躍の幅は広がっていくであろう。動画を活用した新しい施工管理方法が期待される。
 
なお、今回の改訂よりも以前に、(一財)国土技術研究センターでは、『建設技術・マネジメント』に関わる自主研究として工事記録映像活用試行要領・同解説(平成30 年9月)の公開が行われている(図-3)。
 
今回の改訂を受け、このような機関がすでに試行要領を出されているので、施工各社は動画を使ったユースケースを検討し、これらの試行要領を具体的な成果として利用することが可能となった。
 
ぜひ動画の活用を積極的に行っていただきたい。
 

図-2 レイヤ表示・非表示の選択例

図-2 レイヤ表示・非表示の選択例


 

表-1 デジタル写真管理情報基準(R2.3)新旧対照表抜粋

表-1 デジタル写真管理情報基準(R2.3)新旧対照表抜粋


 
図-3 (一財)国土技術研究センターのサイトより

図-3 (一財)国土技術研究センターのサイトより


http://www.jice.or.jp/reports/autonomy/tech


 

今後の展望

電子小黒板の利用から写真のレイヤ化への対応と、施工情報のデジタルデータを活用できる手法を拡充させることが可能となり、施工管理としてのツールになくてはならない物になりつつある映像情報の進化を進めていくのが重要だと考える。
 
本基準改定に向けた活動に関わったメンバーの思いとは、現場が日々困っていることや、不自由さを感じているニーズの具現化をするだけではない。
 
もちろんこれらのちょっとした現場のニーズが今回のような基準改定の流れになることは重要であるが、その背景には「もっと現場を楽にする」という精神がその根底にある。当専門部会ではこの精神を創設以来脈々と受け継いでおり、写真のみならず、電子納品そのものの本来のあり方や、情報共有ツールを施工管理として利用するための方法、さらには、それらのデータを施工後の維持管理でどのように利用すべきかなどの建設プロセスを俯瞰しながら議論している部門である。
 
今回のように写真の活用幅を広げるための基準改定に向けた活動は結果として小さな流れではあるが、今回説明したような小さな流れが、実は、電子納品の本当の意味とそのあり方を根本から考え直し、「かくあるべき」という内容を具体的に展開する源流であると確信している。
 
当専門部会の活動は、「プロセスを見直す」を合言葉に、日々の施工プロセスを見直し、なぜこのプロセスしかだめなのか、こうあるべきではないか、ということを「デジタルを使うからこそ変えられるプロセス」を常に探し求めている。
 
実はこれが本当の意味で「建設分野のDXの促進である」ということを最後に付け加えておくこととする。
 
 

今後の活動について

プロセス変革を進めていくことが重要なのは頭では理解しているものの、実践するにはかなりの苦労と時間を有する。特に既成概念が強いこの業界で、プロセス変革を真に推し進めていくのはそう簡単ではない。
 
デジタルをキーワードとし、建設分野のDXを推進するための活動を行っている当専門部会としては、同業を含む多くの方と「プロセス変革」を進めていきたい。ご意見をお持ちの方は下記担当者(木村部長)にぜひ連絡いただきたい。
 
専門部会のメンバーもさることながら、多くの方々と本来の「建設分野のDXをデジタルにて加速させる」ことを進めていくことが、建設業の本来の「価値」と「意義」を高めるために重要な活動だと認識している。
 
本投稿において紹介した「『変わる!工事写真』施工者のための工事写真レイヤ化活用ガイド」については日本建設業連合会のWebサイトでも公開されている。ご確認いただきたい。
 

[参考情報]
活動メンバーは以下の通り
土木工事技術委員会 土木情報部会
情報共有専門部会
専門部会長   杉浦 伸哉(大林組)
副専門部会長  原島 誠(飛島建設)
委員      浅賀 泰夫(大本組)
委員      後閑 淳司(鹿島建設)
委員      上村 昌弘(鉄建建設)
委員      片上 智之(東亜建設工業)
委員      笠井 英治(不動テトラ)
委員      橋本 隆紀(清水建設)
委員      笹島 真一(フジタ)
●当専門部会への連絡先
一般社団法人 日本建設業連合会
事務局次長兼安全部長 木村 健治
Mail:k.kimura@nikkenren.or.jp
TEL: 03-3551-8812(安全部直通)
 
日本建設業連合会のWebサイト
https://www.nikkenren.com/(日本建設業連合会のWebサイト)
http://www.nikkenren.com/rss/pdf/1556/ApplicationLayering.pdf(活用ガイドPDF)


工事写真レイヤ活用ガイド
 

工事写真レイヤ活用ガイド


 
 
杉浦 伸哉氏

一般社団法人 日本建設業連合会
土木工事技術委員会 土木情報技術部会
情報共有専門部会長 杉浦 伸哉

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 

 

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