はじめに
2020年建築BIM推進会議モデル事業で採択された企業は、日本版BIM運用標準の策定に向けた評価を行っている。当社はこのモデル事業に採択していただいた。
本稿は、中間報告があったタイミングで書き留めている。BIMの環境は、各団体の活動報告から認知を超えて実装の時代に移っていることが感じられる。
当社はガイドラインの試行により、BIMの価値を示すことに注力している。モデル事業目標の一つに、BIM環境での積算情報を構築することを挙げている。「BIM」という言葉から感じる有効性から、価値の高まりを期待する。これまでのBIMを道具として、操作性の効率化を評価してきたが、成果はどのように作られるか、プロセスの評価に注力する活動が本質的なBIM活動だと思えるようになっている。そこで、積算業務への活用にフォーカスを当てた。
建築設備工事の“こと”と“もの”
“こと”と“もの”について記述する。“こと”は、仕事や方法、システムのような手法を指し示す。“もの”は、“こと”を構成するオブジェクトとして以下の記載をしていく。
設備施工会社の視点からBIMの成果を生み出す“こと”を次のように考えている。
① 建物に機能をもたらす要件を策定する「Estimate」、企画計画のフェーズ
② 関係する要素との調整や空間品質の獲得のために統合の環境で“もの”を決定する「Coordination」、実施設計のフェーズ
③ 施工現場の実現のために、工事手順、設置方法を確定する「Fabrication」のフェーズ
デザイン担当者は、空間創造におけるBIMの価値を獲得している。建物の維持管理に携わる方は、保全計画・予知・営繕におけるBIMの価値を獲得するために運用の準をしている段階であり、BIMから保守作業にかかる数字を算出している。俯瞰して見ると、建築を構成するBIMオブジェクトの分類を目的に応じて仕分けして、数量を積算して、労務工数を算出することは全てのプロセスで行われている。建設プロセスの多くの場面で「Estimate」が必要であり、人は判断する根拠として数字を見て決断する。すなわちBIMによる価値創造には「Estimate」が必須であり、BIM時代ならではの効果を獲得することができる。
基本設計・実施設計・施工3つのプロセスにおける「Estimate」作業が行われている場面は、“もの”の特定である。名前を付ける規則、分類がどのようなグループに属しているかと、表記の方法を約束として設定し連携させる。業務で扱うコストの構成は、電気設備工事、空気調和設備工事、給排水衛生工事、昇降機設備工事の4つに大別されて、空気調和設備工事は工事科目として、熱源機器設備・空気調和機器設備・空調ダクト設備・配管設備・換気設備・排煙設備・自動制御設備に分類される、さらに配管設備は冷却水配管設備、冷温水配管設備(蒸気・冷媒・給水・排水)に区分され、構成要素として配管材料、弁類、配管工事、保温工事、塗装工事が工事詳細として扱われている。設備工事という“こと”を特定し、構成する“もの”をデータ活用する。プロジェクト関係者で“もの”を共有するためには、共通の分類を確実なzものにすることが求められている(図-1~3)。
分類での“もの”
英国建築家協会RIBAのPlanof-Worksを参考に、分類体系として“もの”に分類コードをあてがうことで、積算業務の分類仕分けをすることができる(図-4)。
設備基本設計は、Excel等に要件を入力していく作業を伴うシステム構築の場面である。必要要件を設定していく、“もの”を配置することで作図に加え、スペース、部屋、ゾーン空間に必要な機能を持たせるためのパラメータを付与する準備を行う。
空調の計画では、負荷の発する熱・水蒸気・排気を処理させるためにどのような条件があるか、空間の条件がどのような“もの”か、部屋・スペース・ゾーンに対する事項を定義する。
定義した部屋要件を満たす“もの”を選ぶまでを実行する。
空間情報が“こと”から“もの”を特定
空間は“こと”でBIMオブジェクト=“もの”につながる仕組みがある。空間情報をBIMデータベースの世界で実現することに多くの期待が集まっており、空間情報を用いる受け皿として、buildingSMARTではSpatial Zoneを定義している。
コストの概算で、面積当たりの工事費単価を用いて算出する場合がある。実績値による概算となるが、SpatialZoneによる手法では設備システムの選択やグレード設定が行われて設備要件が提示される。精度には限界があるものの、要件からBIMの形状と情報が発生する場面から数量が算出され、根拠となる3次元形状が積算業務にもたらされる。仮設計図(ラフスケッチ)による設備容量・数量などを設定して行う手法は、仮の図から数字を拾い出す。
従来手法ではデジタルデータは存在しないので、修正や手拾いの手間が大きかった。Spatial Zoneを定義してシステム要件から拾い出す手法は有効だ。設備は建築情報の決定がないと数字が出せなかった。BIMを使った設備数量拾いの概算算出では、根拠が空間情報要件というデータベースであり、フェーズの移行によりデータ精度・粒度が高まる。LOI、LODが高まることにより、概算数値の精度が上がる(図-5~7)。
フェーズの移行により得られる確からしさ
実施設計は「Coordination」である。選ばれた機器を空間に配置することで、整合性を確保して設計情報を固めていく。P&IDが設備的には大変重要な情報だ。機器と器具、配管においてはラインを形成する制御弁やろ過、熱交換の装置要件を満たす仕様をラインで結んでいくことで、配管・ダクト・配線といった搬送に必要な管路が形成される。管路情報をライン情報として定義するのである。ファミリをプロジェクトに配置することで、視覚的な空間に配置する作業が、BIMでは数量算出に直結する(図-8)。
“もの”をいかに集めて仕分けるか
集計表に代表されるテーブルに“もの”が配置される。配管は流体種別の用途、管材、口径、数量であるところの長さ、個数、ダクトは形状構成する数字から、面積が情報としてもたらされる。
数量算定を行う場合、BIMからパラメータとして正確な数値・単位が出されるかが課題である。ファミリと呼ばれる関連付けされた情報の集合体は、BIMに配置されることで人の手を介さずに結果をもたらす。オブジェクト形状にこだわる視覚化評価のBIMが先行したことが要因なのか、肝心の情報の標準化がなされていないことがある。
例えばエルボの個数を算出する場合、エルボは曲がった管路のためパラメータに角度が仕込まれてあり、90と45が入るものをエルボとして選び出す方法を組んだ集計表からは、結果が得られなかった。角度に89.75度や44.87度が仕込まれたエルボが多く混在し、結果が得られなかったのである。
世界各国で多くの仕様の配管材料が存在し、命名規則、形を作り上げる過程で形状重視のファミリ共存があることに、注意するとともに、集計目標の運用では精査が急がれる(図-9)。
クラウドで数量を出す環境
施工は実現の場面であり、形とした“もの”の設置が検収評価対象であることを考えると、手直しや後戻りがあった場合に即大きな損失が発生する。クラウドのCDE環境を用いた多拠点同時作業が現実の“もの”となっている。BIMデータを構築して施工実現が可能な精度までに作り上げるには、多くの調整が必要である。天井内部で管路決定に行われる空間調整、総合図調整、取り合いと呼ばれる他業種の工事内容をお互いに調整し合う。例えば廊下天井内で電気ラックと設備の調整、無駄の少ない施工情報として曲がりの数がある。
まっすぐ通せば角度調整部材も少ない。なんといっても施工に要する手間が圧倒的に違ってくる。BIMによる工事費の算定では、オブジェクトが配置され、その後何かの要因で配置が変わった時の数量算出が容易にできる。
これは判断する材料として、大きな効果が得られることを示している。
工事というやり方を評価として扱うばかりではなく、ダクトが曲がって局部抵抗が増えて、20年間のランニングコストが2,000万で済むはずが3,500万になるかもしれないという比較判断が、空間構成を決定する際にBIMから手間なく提示される。
クラウドでBIMが同時編集できる環境が実装レベルになって比較できる“こと”が干渉回避作業手順ばかりではなく、建物運営維持管理の段階も踏まえた数字が出る。現時点の運用では空間整合確保が中心であるが、BIM360上で他業者との意見集約、その結果得られた要件による計画管路の差分が数字として示される(図-10~12)。
コスト構成要因は仮設工事が大きい
予備コストの顕在化、施工の場面では十分に計画された手順にも関わらず、現場でしか見いだせないこともある。工事において、ある一定比率で算出されている仮設費を効率よく積算できればと考えている。
仮設足場、養生、溶接のヒュームガス換気計画など、BIMでは設備工事として引き渡しができる“もの”ばかりではなく途中の“こと”を算出する(図-13~16)。
損失を見込んだコスト評価が現在の日本で行われているため、建設コストの30%に相当する時間と価値損失が発注者の負担となっている。加えてSDGsに提唱される循環型持続的社会の実現には、材料の無駄をなくす計画が求められている。
評価する数量を出せないが故に、無駄なコストの発生を黙認している。
ダクト数量を最適化する
Fabricationという環境でダクトの計画をした場合、材料であるロール鉄板から、何枚のダクト部材を取ることができるか、ネスティングという技術が備わっていることで、ダクトのサイズを変えた場合、曲がりの度合いを変えた場合、何枚の板取ができるかを計画段階で簡易に比較できる。ダクト材料ロールの効率的な板割付がなされることで、目に見えなかった製作過程の破材(廃材)の最適化が図られており、工事費算出にもインパクトが出ている(図-17、18)。
BIM時代、数量算出への期待
BIM時代では、要件と施主・設計思想で設定された仕様が確定されることで、情報が判断の余地なく(悩むことなく)付与されていく。BIMから獲得する成果を、人間が拾い・分類し・再調整する大きな負担が、BIM積算で省力化されることが実現できている。仕分け作業が“もの”に的確に付与されることで実現できる。
BIM時代にそぐう分類体系は、まだ確立の途上にある。建築BIM推進会議部会4ではUniclass2015の適合が議論されている。Uniclass2015のような建設要素の分類体系を網羅したソフトウエアが普及することや、仕様書や詳細図に示された各資機材に対する具体な製品情報の分類標準化は、資機材の調達、製造、施工管理、維持保全・管理の基盤データとなる。
分類体系と属性項目の標準化に当たっては、ソフトウエア相互で情報をやり取りする共通言語が必要である。
オープンな環境で使われるからこそイノベーティブなソリューションが生まれてくる。それを促すためには、グローバルに共通な標準化が必要である。私たちのモデル事業では、建設情報の中核をなす分類体系と属性項目の標準化を実装試行することを私たちのモデル事業で検討し、報告する準備をしている。
【謝辞】
今回、BIMの展開の次のフェーズに入ろうとする特別な時期に、このような報告の機会を頂きましてありがとうございます。
報告に際し、私が参加しているBIM関連の活動団体の皆さまから、多くのアドバイスを頂きました。小さな取り組みの一端ではありますが、これが少しでも参考になる“こと”になれば幸いです。
【出典】
建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
最終更新日:2021-10-04