建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 総力戦で挑む防災・減災プロジェクト 〜いのちとくらしをまもる防災減災〜

 

1.はじめに

我が国では近年,平成28年熊本地震,平成29年7月九州北部豪雨,平成30年の霧島山噴火,7月豪雨,台風第21号,北海道胆振東部地震,大阪府北部の地震,令和元年の房総半島台風,東日本台風など,毎年のように自然災害が発生しています。
 
令和2年においても,7月に九州地方を中心に日本各地で発生した集中豪雨により,河川氾濫等による浸水被害,土砂災害,多数の道路や鉄道が被災するなど,甚大な被害が発生しました(図−1)。
 
今後も切迫する南海トラフ巨大地震や首都直下地震,気候変動の影響による水災害のさらなる頻発化・激甚化等が懸念される中,国民の安全・安心を守り,我が国の経済成長を確保するためには,防災・減災,国土強靱化等の取組をさらに強化する必要があります。
 
本稿では,令和2年7月に国土交通省においてとりまとめた「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」の取組について紹介します。
 

  • 近年の自然災害の発生状況
    図−1 近年の自然災害の発生状況

  • 2.自然災害に対する我が国の脆弱性

    災害大国日本。四季があり,世界が羨む美しい自然を持つ日本の国土は,一方で地形・地質・気象等の特性により災害に対し脆弱で,極めて厳しい自然条件下にあります。
     
    また,四方を海で囲まれ,国土の中央を脊梁山脈が縦貫しており,河川が急勾配であるとともに,都市部においてはゼロメートル地帯が広域にわたり存在しています(図−2)。
    近年では,氾濫危険水位を超過した河川数が増加傾向にあり,短時間強雨の発生頻度が直近30〜40年間で約1.4倍に拡大しており,令和元年東日本台風では103もの地点で24時間降水量が観測史上1位の値を更新しています。
    さらに今世紀末には,洪水発生頻度が約2倍に増加する見込みです。
     
    また,日本列島には未確認のものも含め多くの活断層やプレート境界が分布しているため,全国どこでも地震が発生する可能性があります。今後30年以内の発生確率は,南海トラフ地震で70〜80%,首都直下地震で約70%と,甚大な被害が想定されています(図−3)。
     
    さらに,新型コロナウイルス感染症により,世界経済は100年に一度の危機に直面しています。感染症克服と経済活性化を両立させることが急務となっており,「新たな日常」における質の高い経済社会を見据え,感染症への対応にとどまらず,活力ある日本経済の実現のための幅広い分野における取組や投資の強化が必要です。
     
    災害リスク,そして新型コロナウイルス感染症に対する脆弱性を克服し,日本経済を再活性化させていくためには,抜本的かつ総合的な防災・減災対策を早急に講じ,『防災・減災が主流となる社会』を構築することが必要不可欠です。
     

  • 隅田川・荒川・江戸川と市街地の標高の関係
    図−2 隅田川・荒川・江戸川と市街地の標高の関係
  • 南海トラフ地震・首都直下地震(被害想定)
    図−3 南海トラフ地震・首都直下地震(被害想定)

  • 3.防災・減災が主流となる社会

    当プロジェクトでは,国連防災機関(UNDRR)が2005年に策定したガイドラインで用いている「防災の主流化」という言葉を元に,『防災・減災が主流となる社会』を「災害から国民の命と暮らしを守るため,行政機関,民間企業,国民一人ひとりが,意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前となる社会」と定義しています(図−4)。
     
    今般とりまとめた当プロジェクトの施策が,防災・減災の観点から国民目線で分野横断的に実施されているか,定期的にフォローアップを実施したり,連携や工夫により防災・減災機能が強化された事例を共有し,良い取組を地域・住民個々の活動まで幅広に展開・拡大していきます。
    さらに,行政プロセスや経済活動,事業にさまざまな主体を巻き込み,防災・減災の観点を取り入れた「防災・減災×〇〇」の取組を進めていくことにより,防災・減災に関する国民意識を普段から高め,事前に社会全体が災害に備える力を向上させることを目指します。
     
    対策の基本的な考え方としては,
     ●国民の視点に立った,わかりやすい,抜本的かつ総合的な防災・減災対策の推進
     ●河川,道路,港湾,鉄道等の分野別の取組に横串を刺し,平時から非常時,復旧・復興時に至るすべての時間軸で,国土交通省の強みである現場力を活かしながら,国・都道府県・市町村,企業・住民などのあらゆる主体の連携を強化

    の2点を軸に,検討を進めてきました。
     

  • 防災・減災が主流となる社会のイメージ
    図−4 防災・減災が主流となる社会のイメージ

  • 4.総力戦で挑む防災・減災プロジェクトの主要施策

    これらを踏まえ,令和2年7月に10の主要施策をとりまとめたところです。
    本稿ではそのうち,7つの施策について紹介します。

    (1)あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」の推進

    気候変動による水災害リスクの増大に備えるためには,これまでの河川管理者等の取組だけでなく,流域に関わる関係者が,主体的に水災害対策に取り組む社会を構築する必要があります。
     
    河川・下水道管理者等による堤防整備やダム建設等の治水事業に加え,あらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)が協働し,流域全体で水災害対策を行う「流域治水」を推進します。
     
    また,令和元年東日本台風で甚大な被害を受けた7水系の「緊急治水対策プロジェクト」と同様に,全国の一級水系でも,令和2年度中に「流域治水プロジェクト」を策定し,ハード・ソフト一体の事前防災対策を加速させます(図−5)。
     

  • 流域全体で取り組む(イメージ)
    図−5 流域全体で取り組む(イメージ)

  • (2)防災・減災のためのすまい方や土地利用の推進

    人々のすまい方や土地利用についても,自然災害リスクの抑制の観点から,そのあり方の見直しが必要です。
     
    都市計画法等改正による災害ハザードエリアにおける開発抑制,同エリアからの移転促進,立地適正化計画の強化を図ります(図−6)。
     
    災害リスク情報をまちづくりに活用するためのガイドラインや,建築物の電気設備の浸水対策を推進するためのガイドラインの作成により,居住誘導区域の設定や建築物の浸水対策を促進します。
     

  • 災害ハザードエリアを避けるためのすまい方
    図−6 災害ハザードエリアを避けるためのすまい方

  • (3)安全・安心な避難のための事前の備え

    住民一人ひとりが避難行動を地域とともに自ら考えることにより,自助・共助の醸成を促し,地域の防災力向上を図るとともに,災害発生時において誰もが迅速かつ円滑に避難ができる環境整備が必要です。
     
    マイ・タイムライン等の取組が住民一人ひとりの避難行動につながるよう,その普及拡大のための手引き等の作成や地域と連携した人材育成を推進します(図−7)。
     
    また,避難場所となる高台や建物から浸水区域外に移動できる避難路の整備により,線的・面的につながった「高台まちづくり」に関する具体的な取組方策をとりまとめました。
     
    さらに,津波等からの避難に活用可能な全国の道路高架区間を一時避難場所として令和3年度以降順次提供を行います(図−8)。
     

  • マイ・タイムラインの作成
    図−7 マイ・タイムラインの作成
  • 高台まちづくりのイメージ
    図−8 高台まちづくりのイメージ

  • (4)インフラ老朽化対策や地域防災力の強化

    社会資本の老朽化が加速度的に進行し,緊急的に対応が必要なインフラが多数存在しています。
    そのため,インフラの機能に支障が生じる前に対策を行う「予防保全」へ本格転換するとともに,新技術の活用等により点検の高度化・効率化,集約・再編等によるインフラストックの適正化を推進します(図−9)。
     
    また,災害対応に従事する自治体の体制確保,建設業の担い手の確保・育成の取組など,地域防災力の強化を図るため,民間と連携したTEC−FORCEの強化,権限代行の拡充等による自治体支援,建設キャリアアップシステムのあらゆる工事での完全実施(令和5年度から)を図ります(図−10)。
     

  • 内部の鉄筋が露出した橋梁
    内部の鉄筋が露出した橋梁
    図−9 インフラ老朽化と対策例
  • 陥没した港湾施設のエプロン部分
    陥没した港湾施設のエプロン部分
  • カメラを搭載したドローンによる点検
    カメラを搭載したドローンによる点検
  • 建設キャリアアップシステム
    図−10 建設キャリアアップシステム

  • (5)新技術の活用による防災・減災の高度化・迅速化

    災害予測・災害状況把握・災害復旧・被災者支援の一連の流れを高度化・迅速化するためには,新技術を活用することが不可欠です。
     
    そのため,高度な予報や災害予測,避難,災害状況の把握,災害復旧,被災者に対する支援といった災害に関するあらゆるプロセスに,AI,ドローン,5G,衛星システム等の新技術を導入することにより,防災・減災の取組を高度化・迅速化していきます(図−11)。
     
    また,インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を強力に推進し,非接触・リモート型の工事施工やBIM/CIMを活用した新たな働き方への転換と抜本的な生産性向上を実現することで,感染症リスクにも対応しつつ防災・減災対策を展開していきます(図−12)。
     

  • 建設キャリアアップシステム
    図−11 AI等を活用した被災・変状の把握
  • インフラ分野のDXの推進(ICT等を活用した非接触・リモート型の働き方への転換)
    図−12 インフラ分野のDXの推進(ICT等を活用した非接触・リモート型の働き方への転換)

  • (6)わかりやすい情報発信の推進

    大雨特別警報やハザードマップなど,災害に関する情報を行政側から発信・提供していますが,住民や事業者の具体的な行動(避難や企業活動)につながっていない事例も発生しています。
     
    そこで,大雨特別警報の切替後の氾濫に対する注意喚起を行うため,令和2年の出水期より,今後の水位上昇の見込みなど河川氾濫に関する情報を発表し,メディア等とも連携してわかりやすく情報発信します(図−13)。
     
    また,ハザードマップなどの災害リスク情報と建物の高さなど土地利用に関する情報について,地図上で3D表示する取組を,令和2年度に30〜40都市で先行実施します(図−14)。
     
    防災・減災対策を進めるに当たっては,防災意識の向上など,国民の理解や共感を得ていくことが不可欠です。
     

  • メディアやSNS等を通じた注意喚起
    図−13 メディアやSNS等を通じた注意喚起
  • メディアやSNS等を通じた注意喚起

  • 災害ハザード情報の3D表示イメージ
    図−14 災害ハザード情報の3D表示イメージ

  • (7)行政・事業者・国民の活動や取組への防災・減災視点の定着

    最後に,行政機関,民間企業,国民一人ひとりが,意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前となる社会を構築する必要があります。
     
    行政による計画策定や地域における拠点形成において,防災・減災の観点を強化するとともに,令和2年度に「防災道の駅」の認定を開始します。
     
    不動産取引においては,令和2年8月より水害リスクの説明を義務化するなど,民間の経済活動において防災・減災を考慮する仕組みを導入します。
     
    さらに,防災教育の推進による国民の意識向上など,防災・減災視点を根付かせる取組等を推進していきます。
     
     

    5.おわりに

    当プロジェクトをとりまとめてから半年が経ち,その間,令和2年7月豪雨や台風10号など全国各地でさまざまな災害が発生しましたが,これらの災害への対応において,当プロジェクトに基づく施策が早速効果を発揮しているところです。
     
    引き続き,激甚化・頻発化する災害への対応力を一層高めることも必要であることから,当プロジェクトに基づく施策の着実な実施とさらなる充実を図るなど,防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に向けて,しっかりと取り組んでまいります。
     
     
     

    国土交通省 水管理・国土保全局 防災課 課長補佐
    野村 文彦(のむら ふみひこ)

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年3月号


     
     

     

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