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1.はじめに

東北地方の太平洋岸を中心として,大きな被害をもたらした東日本大震災から10年になります。
東日本大震災では,多くの方々が亡くなられました。
犠牲となられた方々とご遺族の皆さまにあらためてお悔やみを申し上げます。
そして,被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。
 
この地震・津波により多くの港湾施設,海岸保全施設に甚大な被害が発生しましたが,この10年で,復旧・復興に向けた取り組みが着実に進められてきました。
関係行政機関,建設業者,調査・設計コンサルタント会社等のご協力の下,利用者をはじめとする地元の皆さまのご理解あっての復旧・復興であり,関係された皆さまにあらためて厚く御礼申し上げます。
 
さて,東日本大震災を振り返ってみます。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は,最大震度7の揺れと大津波により,東日本地域の沿岸部を中心に大きな人的・物的被害をもたらしました。
東北地方の港湾では,北は青森県の八戸港から南は福島県の小名浜港まで,国際拠点港湾1港,重要港湾7港および地方港湾の13港の計21港に被害が発生しました。
 
被害については,防波堤の倒壊,岸壁や護岸のはらみ出し,荷さばき地の陥没,荷役機械や保管施設の損壊などの施設被害に加え,コンテナや自動車の散乱および航路・泊地への流出・沈没,臨港道路へのがれきの散乱などの支障物による機能障害が発生するなど,多くの港湾で多重的かつ多様なものでした(写真−1)。
 
このように,広域的に甚大な被害を受けたものの,被災者の支援,生活再建とこれらを支える社会基盤の復旧を進めるため,港湾関係者が一丸となって,緊急物資を輸送する支援船舶の入港を可能とするための航路啓開・応急復旧,そして被災施設の本格復旧と,港湾機能の早期回復に努めてきました。
 
この間,臨海部に立地する企業から「港湾施設の復旧のめどが立たなければ同じ場所で操業再開するめどが立たない」「復旧時期が示されない中では頑張りきれない」といった切実な声が上がりました。
これを受け,各港で管理者,利用者,立地企業等からなる復興会議を設置し,地域産業を支える物流機能の早期回復を目指した「産業・物流復興プラン」を策定し,船舶が航行する航路の啓開と貨物を荷役する岸壁の復旧を最優先に復旧する方針としました。
 
これらの取り組みの結果,各港に立地するエネルギー・鉄鋼・セメント・製紙・飼料等の企業が操業を再開し,それは,地域の雇用を支え,地域経済の基礎となり,そして被災した市民の気持ちを元気づけるものとなりました。
 

  • 被害状況:防波堤(釜石港)
    写真−1 被害状況
     左:防波堤(釜石港),右:岸壁(相馬港)】
  • 被害状況:岸壁(相馬港)

  • 2.応急復旧

    震災当日は,各港の被害状況を把握できない状況でありましたが,航路啓開が最優先との判断で,災害協定に基づき社団法人日本埋立浚渫協会(2013年4月より一般社団法人へ移行)に出動要請を行い,航路啓開作業を開始しました。
    この際には,まずは喫水の浅い支援船舶の入港を目的としたため,震災前の本来の水深よりも浅い暫定水深での運用を目指し航路啓開を行いました(写真−2)。
     
    これら航路啓開によって,宮古港では「白山」(北陸地方整備局所属),釜石港では「清龍丸」(中部地方整備局所属)そして仙台塩釜港(仙台港区)においては「海翔丸」(九州地方整備局所属)の入港を皮切りに,各行政機関の官公庁船等が緊急物資を被災地に届けました(写真−3)。
     
    また,港湾区域外の一般海域で漂流する浮遊物への対策も必要となりましたが,「べいくりん」(関東地方整備局所属),「白龍」(中部地方整備局所属),「海和歌丸」(近畿地方整備局所属),「みずき」(四国地方整備局所属)の4隻の海洋環境整備船が東北地方に派遣され,慣れない太平洋の厳しい波浪の中での活動や潮流の影響で予定していた海域から浮遊物が移動しているなどの苦労がありながらも,回収作業を行いました。
     

  • 航路啓開(仙台塩釜港)
    写真−2 航路啓開(仙台塩釜港)】
  • 清龍丸からの緊急物資陸揚げ(釜石港)
    写真−3 清龍丸からの緊急物資陸揚げ(釜石港)】

  • 3.災害復旧

    【東北地方全体の復旧状況】

    東日本大震災では,東北地方整備局管内では,北は八戸港から南は小名浜港まで,国際拠点港湾1港,重要港湾7港および地方港湾の13港の計21港が被害を受け,港湾施設1,170施設,海岸保全施設53施設が災害復旧事業の対象となりました。
     
    直轄関係では,2013年度末までにおおむねの施設の復旧を終え,残りの施設については,2016年度末に大船渡港の湾口防波堤を,2017年度末に相馬港の沖防波堤および釜石港の湾口防波堤を復旧し,災害復旧事業を完了しました。
     
     

    【岸壁の復旧】

    仙台塩釜港の大型コンテナバースでは,鋼管矢板式岸壁が海側に最大68cmはらみ出したほか,クレーン基礎杭の損傷,エプロン・ヤードの液状化や沈下陥没等が発生し,大型船舶の接岸・荷揚げが不可能な状況でした。
    このため,岸壁のはらみ出しに対しては,鋼管矢板の健全性を評価した上で,矢板の根入部と控杭を補強し,防舷材の高さを調整することで,コンテナ船が接岸できるように復旧しました。
     
    また,小名浜港のケーソン式岸壁においては,ケーソンが前方に傾斜し,背後のエプロンで広域に陥没が発生しました。
    復旧工事では,岸壁背後の土圧軽減のために軽量混合処理土によって埋め戻す工法や,堤体背後にカウンターウェイトとなるコンクリートを打設する工法等を採用しました。
     
    さらに,東北管内被災各港では,広域にわたる地殻変動によって岸壁が最大1.2m程度沈下し,防舷材が水没する状況となったため,背後の土地利用者等の関係者と調整し,岸壁高を決定して復旧工事を進めました(写真−4)。
     

  • 岸壁の復旧工事(仙台塩釜港)
    写真−4 岸壁の復旧工事(仙台塩釜港)】

  • 【防波堤の復旧】

    各港の防波堤の復旧に当たっては,繰り返し襲来する津波に対して粘り強い構造となるよう,越流によるマウンドの洗掘を軽減する上部構造や,港内側にコンクリート殻や人工石材等を活用した腹付工を採用しました。
     
    防波堤の復旧工事の代表例は釜石港です。
    釜石港湾口防波堤は,来襲津波に対して港内水位を防潮堤よりも低い水位に減衰させることで,津波による浸水から釜石市の中心市街地を防護するとともに,港内静穏度を確保し,岸壁等の荷役稼働率を向上させるもので,1978年から建設が始まり,2009年3月に完成しました。
    中央の開口部300mを大型船の航路として確保し,その両面に北堤990mと南堤670mをハの字型に配置した,大型ケーソンに消波機能を備えた構造(スリットケーソン式混成堤)でした。
     
    さらに開口部300mの航路下には,湾の遮蔽率を上げ,津波の遡上を抑えるため,海底から水深19mまで潜堤を設けていました。
     
    東日本大震災においては,津波により南堤670mのうち,370m(ケーソン12函)が滑動・転倒し,北堤990mのうち,870m(ケーソン37函)が滑動・転倒,さらには開口部300mも全て崩壊し,潜堤ケーソン11函が基礎マウンドから滑落するという被害を受けました。
    しかし被災後の検証によると,津波高を4割,津波の遡上高を5割,津波の流速を5割低減させるとともに,津波の到達時間を6分遅らせるという減災効果があったことが確認されています(図−1)。
     
    復旧工事は,2011年度に工事が始まり,2017年度に完成しました。
    まずは,津波により被災したケーソンを大型グラブ浚渫船により撤去しました。
    施工方法は,上部・蓋コンを砕岩棒(43〜55t)で破砕し,その後,ケーソンの側壁・隔壁・中詰材と一緒に,硬土盤グラブ(6.3〜17.5m3)にて撤去しましたが,施工場所は第一線防波堤で,厳しい海象条件下であること,大型のケーソンの撤去は過去に類がないこと,ケーソンの各部材も厚く,強固であることなどにより,作業効率が上がらず大変厳しい作業となりました。
     
    また,作業ヤードとして,過去に使用していた泉作業基地の活用を図ることとし,沈下した岸壁・護岸などの施設を含む作業基地全体のかさ上げ(70cm)およびケーソン製作用の打継桟橋・打継場・仮置場など新たな施設整備を行い,復旧工事の拠点としました。
     
    また,泉作業基地内で復旧期間内に製作可能なケーソンは,北堤ケーソン(37函)が限界であったことから南堤ケーソンの製作は釜石港以外で製作することとし,それに合わせて長大ケーソンとすることが可能なハイブリッドケーソンを採用しました。
    このハイブリッドケーソン8函(延長390m)は,千葉港,名古屋港,津松坂港の造船ドックを使用して製作されました(写真−5)。
     

  • 東日本大震災での湾口防波堤による減災効果(釜石港)
    図−1 東日本大震災での湾口防波堤による減災効果(釜石港)】

  • ハイブリットケーソンの製作(千葉港)
    写真−5 ハイブリットケーソンの製作(千葉港)】

  • 【資材不足への対応】

    各港の復旧工事ではコンクリート殻を利用するなどの工夫を施したものの,各地で一斉に災害復旧工事が行われたことで,石材の需要増大に対して生産能力が追いつかず,地元産の石材供給が困難となりました。
    そこで人工石材の適性を確認し,八戸港・釜石港・仙台塩釜港・小名浜港等において,2015年度までに約5万m3使用して対応するなど,資材の確保にも苦慮しながら復旧工事を遂行しました。
     
     

    4.復興

    小名浜港は2011年5月に,資源・エネルギー等の拠点となる国際バルク戦略港湾として選定され,2013年度より国際物流ターミナルを整備してきました。
    「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針(2016年3月11日閣議決定)では,大型船舶による石炭の大量一括輸送を可能とする国際物流ターミナルの整備を行うこととされ,国の復興事業として整備を推進し,その結果,2019年度末に一部供用を開始しました。
     
    これにより,12万トン積みの大型石炭運搬船が満載で入港可能になり,石炭の海上輸送コストが約4割削減されるほか,最新鋭の石炭火力発電所(総事業費約3,000億円)の設備投資などの企業立地や民間投資が誘発され,被災地の復興に寄与するものと考えています(写真−6)。
     

  • 国際物流ターミナル(小名浜港)
    写真−6 国際物流ターミナル(小名浜港)】

  • 5.災害対応力の強化

    東日本大震災においては,ハード面の整備だけでなく,平素からのソフト面での災害対応力の強化が重要であることも分かりました。
    そのため,重要港湾以上の港湾において,港湾関係者による協議会を立ち上げ,大規模災害後に確保すべき輸送能力の目標,港湾の復旧や緊急輸送等の発災後の行動と役割分担,減災や早期復旧のための事前行動を定めた行動計画である「港湾BCP」を策定するとともに,広域災害の場合は,単独の港湾関係者,港湾BCPでは対応できないことから,他港からの支援についての調整手順を定めた広域港湾BCPを策定し,毎年,机上および実働の訓練を実施しながら改善を図っています。
    また,建設会社が災害対応を行うためには,会社そのものが災害に強く,災害時に事業継続できる体制を整備する必要があるために,東北地方整備局港湾空港部では,「災害時建設業事業継続力認定制度」を創設し,2013年4月から認定を開始し,現在では76社を認定しています(2020年9月30日現在)(写真−7)。
     

  • 津波防災訓練(釜石港)
    写真−7 津波防災訓練(釜石港)】

  • 6.これから

    今年の3月で,東日本大震災から10年となりますが,これまで述べてきたとおり,港湾施設の復旧については,直轄の復旧事業は完了し,港湾管理者の復旧事業も進んでいます。
    この間,東北地方における港湾取扱貨物は2013年に過去最高を記録して以降,高水準が続くとともに,コンテナ取扱貨物量も震災以降増加し,2019年には過去最高を記録しています(図−2)。
     
    また,この10年で東北地方の港湾を取り巻く環境は大きく変化しています。
     
    まずは,復興道路,復興支援道路の整備が進み,工場や観光地から港湾までの移動時間が大幅に短縮されています。
    次に,現在はコロナ禍で逆境にありますが,外国船社の運航する大型クルーズ船へ対応するための港湾施設の改良が進み,政府全体で進めている訪日外国人旅行者の誘客に伴い,クルーズ船の寄港が増加しています。
    そして,再生可能エネルギーである洋上風力発電の計画が,東北地方の,特に日本海側で進められている中,基地港湾の指定,整備が進められています(写真−8)。
     
    また,近年,台風被害が頻発化・激甚化するとともに,気候変動に起因する将来の災害リスクの増大が懸念されており,令和元年東日本台風(台風19号)においては,防波堤のケーソンが設計波を超える高波によって滑動するなどの被害が発生しています。
    現在,全国的に港湾施設の設計に用いられる沖波の見直しが進められており,東北地方整備局においても進めているところです。
     
    このような状況を踏まえて,2020年6月に整備局と港湾管理者(東北6県),有識者および港湾関係者からなる新東北港湾ビジョン検討委員会を設置し,新たな港湾ビジョンを策定中です。
    現在の東北港湾の状況および新たなビジョンを踏まえて,今後の港湾整備を進めてまいります。
     

  • 東北管内の港湾取扱貨物量
    図−2 東北管内の港湾取扱貨物量】
  • 基地港整備(秋田港)
    写真−8 基地港整備(秋田港)】


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    国土交通省 東北地方整備局 港湾空港部

     
     
     
    【出典】


    土木施工単価2021春号



     

     

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