- 2021-11-08
- 積算資料公表価格版 | 特集 雪寒対策資機材
はじめに
東日本高速道路株式会社新潟支社湯沢管理事務所(以下,湯沢管理事務所とする)が管轄する関越自動車道の水上ICから小千谷IC間(管理延長約88km)は,日本有数の降雪量と積雪深となる豪雪地帯である。
そのため,雪崩や落雪による災害を未然に防止するための予防施設が点在している。
災害発生の防止には災害となる事象の早期発見および事象の予知,予防施設を正常に機能させるための処理対策が求められている。
しかしながら現時点では,定量化しにくい雪崩災害へのマニュアル整備は遅れており,点検を行うための手法の整備がされていない。
また,雪崩・落雪の危険判断は長年に亘り巡回を行ってきた巡回実施者の経験則に頼っている状態であり点検手法の確立は困難となっている。
本稿では,今まで培われてきた雪崩・落雪の巡回点検手法と,新たにICT技術を活用したドローン点検手法を取りまとめ,次世代への技術伝承を目的に作成した「雪崩・落雪点検マニュアル」(以下,マニュアル)について述べる。
1. これまでの雪害における事象
1-1 平成18年豪雪について
平成17年12月から降り始めた雪は,例年に無く寒い環境下で降雪が続き,12月としては記録的な豪雪となった。
平成17年12月は各地で観測記録を塗り替えるほどの豪雪であり,図-1に示すように翌1月になっても豪雪の勢いが衰えることは無かった。
特に新潟県中越地方では中越地震からの復興途上の地域に大きな被害をもたらし,その被害の大きさから「平成18年豪雪」と名付けられた。
それ以降,局所的な大雪には見舞われるものの,「平成18年豪雪」を超える降雪は無く今日に至っている。
図-1 平成17年から平成18年の降雪量(湯沢)
1-2 雪害発生履歴
湯沢管理事務所管内でこれまでに発生した事象について以下に示す。
関越自動車道下り線の土樽2号,3号スノーシェッド(158.2kp~158.5kp)付近にて平成18
年1月8日の午前中に落雪および雪壁崩れが発生した。
発生状況を写真-1,写真-2に示す。
切土のり面には雪崩予防柵,防雪柵が設置されているが,柵高を上回る積雪となった。
日中でもマイナス4℃以下という低温の中,急速に降り積もり,その雪密度は0.1t/m3を下回る極めて軽いものであったことから,樹木の冠雪崩落が引き金となり,積雪が崩れたものである。
車道へ崩落した雪の高さは20cm~40cmと小規模であったため,通行車両への直接的被害は無かった。
同箇所においては,平成26年2月15日にも同様な法面や雪壁の崩落が発生している。
写真-1 道路流出状況
写真-2 斜面状況
関越自動車道下り線の161.2kpから161.5kpの本線上山側には,ミナミ沢,ナカノ沢が隣接しており,雪崩が発生している。
ミナミ沢では,平成17年1月27日に面発生湿雪全層雪崩の発生が確認された。雪崩の状況を写真-3に示す。
ミナミ沢に設置してある上流部の擁壁(L=85m,H=8.5m)にて雪崩を阻止されている状況が確認された。
雪崩の一部は擁壁新潟側の杉林へと走路を変え流入している状況が確認されているが,高速道路上に被害はなかった。
ナカノ沢では,平成27年2月16日に面発生乾雪表層雪崩の発生が確認された。
雪崩の状況を写真-4に示す。
この箇所については,関越自動車道開通後初めて発生しており,減勢工および擁壁への雪崩が流入したが,高速道路本線への雪崩を阻止した状況が確認された。
雪崩は写真-4の赤丸の位置が発生区となり山頂部より流下していた。
走路中間では10mを超える高さまで樹木の枝折れ被害が確認されるなど,運動形態としては,煙型雪崩であったと考えられる。
写真-3 ミナミ沢での発生状況
写真-4 ナカノ沢での発生状況
2. 雪害危険箇所の特定
2-1 雪崩危険箇所の判定方法
一般に自然雪崩を確認することおよび雪崩・雪庇の発生を予知することは非常に難しい。
しかしながら,発生に関しては発生をもたらす条件が満たされなければ崩落を防げる。
そのため,その要因となる条件を早く確実に把握することにより,被害を未然に防止することが必要である。
雪崩・雪庇の判定条件として下記の3条件(※1)とした。
①地形条件
斜面の傾斜角度,地表の植生状況,斜面方位,斜面の広さおよび長さ,地形の凹凸の状況,等
②気象状況
積雪深,降雪強度,気温の変化,風雨,沈降力,日照,等
③振動・衝動条件
雪庇の崩落,樹木の着冠雪の崩落,地震による振動,重機の振動,登山者等の斜面走行
2-2 雪害危険箇所の抽出
過去の発生履歴や雪氷巡回および雪庇・雪崩の判定条件を踏まえ,雪害危険箇所を抽出した。
また,雪崩と雪庇に大別し危険箇所も抽出した。
雪崩の危険箇所については,本線上に隣接し,大規模雪崩の危険性がある5箇所(ゲツキ沢,オオナデ沢,ミナミ沢,ナカノ沢,石打トンネル東京側坑口)を大規模雪崩危険箇所として抽出した。
高速道路の本線と雪崩の危険箇所の位置関係および雪崩発生区を図-2~図-4に示す。
図下方にある道路が高速道路本線である。
本線上に隣接する切土のり面でも高速道路本線へ落雪が想定されるため,危険箇所として28箇所抽出し,大規模雪崩危険箇所と合わせて33箇所を抽出した。
雪庇の危険箇所については,本線上に交差する構造物や施設設備があり,本線上に影響を及ぼす箇所として97箇所を抽出した。
雪庇の発生状況を写真-5~写真-7に示す。
また,一般道横断ボックスについては,一般道の雪氷巡回により雪庇処理実績がある68箇所を抽出し,雪庇の危険箇所は,合計で165箇所抽出した。
図-2 雪崩の危険箇所(ゲツキ沢,オオナデ沢)
図-3 雪崩の危険箇所(ミナミ沢,ナカノ沢)
図-4 雪崩の危険箇所(石打トンネル東京側坑口)
写真-5 トンネル坑口の雪庇発生状況
写真-6 門型情報板の雪庇発生状況
写真-7 一般道横断ボックスの雪庇発生状況
2-3 雪害の兆候
雪崩は,急激な寒気によって気温が低くなり,急激に降雪が増加すると発生しやすくなる表層雪崩や暖気により気温が上昇し,積雪深が急に減少すると発生する全層雪崩がある。
その兆候を捉えるために,降雪後の斜面に起きる発生要因について着目した。
発生要因として,雪庇,クラック,雪塊,樹木の着冠雪について解説する。
風により山の稜線付近に運ばれた雪が風下側に張り出したものやブロック積等の人工構造物の天端に堆積した雪が発達し張り出したものを『雪庇』と言う。
張り出しが大きく,斜面と繋がっていない場合は,崩落した時に雪崩を誘発する危険性が高い。
写真-8のように雪庇にクラックが確認された場合は崩落直前の状況であり,写真-9の崩落時の状況では残った雪庇の断面から,雪庇の張り出しが小さく安定している状態といえる。
また,せり出し防止柵など鋼製施設周辺は,融雪が早く崩落しやすいため注意が必要である。
写真-8 雪庇の発達状況
写真-9 雪庇の崩落状況
のり枠等の平滑でないのり面の中腹部の積雪が発達し塊状になったものを『雪塊』といい,落雪の要因となる。雪塊の発達状況を写真-10に示す。
大量の降雪が予想される場合は,雪塊に発達する前に積雪を除去するか,崩落に備え,のり尻の堆雪を平坦に(ややのり面側が低くなるよう傾斜を付けて)形成し,崩落雪が本線まで到達しないように措置する必要がある。
写真-10 雪塊の発達状況(※2)
水分を多く含んだ降雪があると樹木の着冠雪が発達し,落雪や倒木の要因や表層雪崩を誘発する要因となる。
着冠雪の発達状況を写真-11に示す。
着冠雪は常緑樹だけでなく,落葉樹でもツルが絡まり棚を掛けたような状態になると着冠雪が生じやすいため,積雪期前にツルを除去する必要がある。
写真-11 樹木の着冠雪(※2)
3. マニュアルの策定
これまで湯沢管理事務所管内で発生した雪害には,自然斜面を発生区として沢や谷を走路として本線に到達した大規模なものから,切土のり面からの崩落による小規模なものまで多種多様である。
これらは突発的に発生するものではなく,発生要因や前兆現象が事前に確認できる場合が多い。
よって,発生要因の速やかな排除・改善や前兆現象の早期把握により,安全・安心な高速道路の空間を確保することを目的とし,雪害の巡回点検を行うために点検手法の整備を行った。
雪害危険箇所に該当する地点においては,対象箇所の着眼点(図-5)や対象箇所と点検箇所の位置関係(図-6),雪害の危険度評価方法,雪害危険度の高い前兆現象の解説,巡回時の対処方法(表-1)を取りまとめた。
図-5 対象箇所の着眼点
図-6 対象箇所と点検箇所の位置関係
表-1 巡回時の対処方法
4. ドローンを活用した点検手法
4-1 雪崩発生区の確認
数多くの調査例から,雪崩の大部分は斜面の中腹以上で発生することが判明している。
特に図-7に示すような,稜線より少し下の勾配が緩やかから急へ編曲する地点に多いとされている。
ドローンを活用することで写真-12に示すように,道路上から見通しのきかない雪崩発生区の積雪状況が容易に確認できる。
2.にて雪害の兆候について述べたが,表層雪崩は斜面の平滑化・雪庇の発達を確認することで雪崩危険度を判断し,全層雪崩はクラックや雪しわの積雪グライド状況を確認することで雪崩危険度を判断する。
ドローンの自動飛行点検では,空中で同じ位置から空撮することで同じ画角の写真を撮影できるため,積雪状況に応じた比較や雪崩危険度の判断が容易となった。
図-7 雪崩発生位置の着眼点
写真-12 ナカノ沢雪崩発生区
4-2 自動飛行点検
2.にて大規模雪崩危険箇所として抽出された石打トンネル東京側坑口には,雪崩防護擁壁が設置されている。
これは上り線側斜面からの雪崩が本線に到達するのを防ぐための擁壁である。
擁壁と斜面間のスペースは,斜面より発生した雪崩を溜める堆雪エリアの機能を有している。
また,該当箇所は雪崩対策の見直しにより,擁壁高さが嵩上げされており,これに伴い擁壁下部が肥大化し堆雪エリアが減少されてしまった。
過去には堆雪ポケットが雪崩発生により著しく減少したために機械除雪した実績もあり,堆雪状況の把握が必要な箇所とされている。
写真-13および写真-14に示すように,ドローンによる雪崩危険箇所の自動飛行ミッション(図-8)の確立により,同じ画角の写真で斜面の状況を比較することができる。
また,高速道路上の飛行や接近を回避したルート設定が可能となった。
雪崩が流下してくるような立ち入りに危険を伴う堆雪ポケットの状況確認においては,写真-15に示すようにドローンを活用することにより,容易に確認可能となった。
写真-13 石打トンネル東京側坑口雪崩発生区(降雪前)
写真-14 石打トンネル東京側坑口雪崩発生区(降雪後)
図-8 自動飛行ミッションのルート図
写真-15 堆雪ポケットの積雪状況
4-3 ドローン点検のメリット
従来の巡回点検は雪崩発生危険箇所に点検員が徒歩で行く必要がある。
また,積雪に埋もれた水路や障害物を回避した徒歩ルートの確立や,巡回中に想定外の雪崩が発生した場合に備えて,監視員の配置,避難ルートの選定が必要である。
そのため二次災害のリスクを伴う作業であったが,ドローンを活用することで,雪崩発生危険箇所近傍や斜面への立ち入りの必要が無くなり,安全な場所からの点検が可能となった。
従来の巡回点検では雪上を徒歩で移動し雪崩危険箇所へ赴いているため,点検に時間と労力を要していたが,ドローンを活用することにより,雪崩危険箇所を短時間にあらゆる視点から撮影し点検可能となった。
また,自動飛行ミッションが整備されたことにより,離陸から着陸まで自動で飛行可能となり,また同じ地点からの写真撮影を行うようにプログラムできるため,操縦者は機体や
周辺状況を注視でき,操縦時の負担軽減が図られた。
5. まとめ
現状の点検手法の整備および技術伝承を目的に「雪崩・落雪点検マニュアル」を作成した。
将来的には位置情報を活用した音声案内やタブレット端末と融合させ,ドローン活用による自動飛行プログラムの全面展開を行うことによって,点検のさらなる効率化や災害の危険性の早期発見が期待できると考えられる。
参考文献
(※1) 公益社団法人日本雪氷学会:雪崩対策の基礎技術,2015
(※2) 全国地すべりがけ崩れ対策協議会:雪崩対応安全ガイドブック平成22年3月発行
【出典】
積算資料公表価格版2021年7月号
最終更新日:2023-07-07
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