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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 高速道路 > NEXCO東日本におけるメンテナンス時代への対応 ~総合技術センターのオープンから1年~

1. 設立の経緯

NEXCO東日本(以下,当社)管内の高速道路供用延長は約4,000kmまでに達している一方,高速道路の建設延長は減少しており,当社の業務も,建設主体から維持管理主体にシフトしつつあります。
この本格的なメンテナンス時代を迎えるに当たり,これに対応した技術者の育成,技術力の向上,ならびに研究・技術開発の推進が必要となっています。
 
一方で,建設延長の減少により,若手技術者の育成に必要な建設現場での知識・経験を習得する機会が減少しています。
また,高速道路の老朽化や生産性向上といった課題への対応も必要となっています。
 
当社ではこうした状況を踏まえ,現場経験を補い,構造物の劣化メカニズムや技術の変遷などの理解を深めるための体験・体感型の研修施設として,また,AIやICTなどの先端技術を活用した研究・技術開発に取り組むための施設として,東北自動車道岩槻IC内に「NEXCO東日本 総合技術センター」(以下,技術センター)を整備し,令和2年3月にオープンしました。
 
開設から1年が経過し,現在まで取り組んできたこと,また,今後の取り組みを紹介いたします。

 
 

2. 施設概要

技術センターは,社屋棟と開発・実習棟の2つの建物から構成されます(写真-1)。
4階建ての社屋棟のうち,1階および2階が技術センターになります。
 
1階は,高速道路技術の情報発信や安全啓発を行う展示室,研究・技術開発のための実験室や実習室があり,2階は,講義室,VR室,OA室などの各種研修室を配置しています。
運営のための執務室も2階にあります。
 
展示室では,高速道路事業の変遷や技術に関する情報発信を行うことを目的として,当社の前身である日本道路公団の設立当時からの事業年表,建設および保全技術の概要,災害への対応経験,事故事例に基づく安全啓発など,ゾーンごとにデジタルサイネージや映像を用いて解説しています(写真-2)。
ここは,社員やグループ会社からの来訪者だけでなく,一般のお客さまや地域とつながるコミュニケーションスペースの役割も備えています。
 
もう1つの建物,開発・実習棟には,コンクリートや舗装など道路構造物の供試体,現場から撤去した橋梁床版などの実物,非破壊検査機器の性能検証用供試体,料金収受施設の実機などを配置しています。

技術センターの社屋棟(左)と開発・実習棟(右)

写真-1 技術センターの社屋棟(左)と開発・実習棟(右)


展示室

写真-2 展示室



 

3. 4つの取り組み

3-1 さまざまな技術課題に対応できる「技術者の育成」

当社の技術者は,技術力だけでなくマネジメント力を身に付けることが必要ですが,この前提として基礎技術力の理解・習得が重要です。
技術センターでは技術力向上のために,実務年数に応じたカリキュラムによる各種研修を実施しています。
開発・実習棟には「2.施設概要」で述べた多数の実物供試体を設置しており,それらを活用した体験・体感型研修を導入して,技術者育成を行っています(写真-3)。

開発・実習棟

写真-3 展示室



 

◆体験・体感型研修の導入

座学(講義)による工学的基礎知識の習得に加え,現場から撤去した橋梁床版,舗装構造,土構造などの実物供試体や3D,VRなどの画像映像技術による体験・体感型研修により,体系的な技術者の育成を行っています。
技術は進化していますが,現場には30年以上前に造られたものも存在しているため,若い技術者に古い構造物を体感してもらうことが重要と考えています。
 
開発・実習棟に設置している実物供試体の一部を紹介します。
研修生にはこれらの実物供試体を,目で見て,触って,感じて,理解を深めてもらっています。

 

 ●各種舗装の断面構成(写真-4
 ●補強土壁の内側(補強材)が見える供試体(写真-5
 ●東日本大震災により破断したゴム支承(写真-6
 ●コールドジョイント等の施工不良を再現したコンクリート(写真-7
 ●塩害による損傷のため撤去した床版(写真-8

 

技術センターでは実物を再現できないものについては,3DやVRといった映像技術で対応しています(写真-9)。
例えば,3D映像では,「橋,高架の道路等の技術基準」(道路橋示方書)の改正に伴い変遷した橋脚の鉄筋量について,どこにどれだけの鉄筋が増えたのかを立体的に示すことで理解を深めます。
また,VR映像では,鋼橋を自由に動きながら,各部材がどのような役割を果たすのかを学ぶことができます。

舗装の断面構成

写真-4 舗装の断面構成

補強土壁の供試体

写真-5 補強土壁の供試体


破断したゴム支承

写真-6 破断したゴム支承

施工不良を再現したコンクリート

写真-7 施工不良を再現したコンクリート


撤去した床版

写真-8 撤去した床版


3DおよびVR

写真-9 3DおよびVR

3DおよびVR



 

◆Webを活用した研修

体験・体感型研修の時間や,討議の時間をより多く割り当てるためには,通常の座学の時間を短縮する必要があります。
このためeラーニングを導入し,ある程度の座学は事前に各自で学習できるように,プログラムの見直しを実施中です。
事前学習の動画は,マイクロラーニングを採用しました。
これは,5分程度の短い動画を使って学習する方法で,通常業務の合間に学習することが可能です。
現在はこのコンテンツの作成に取り組んでいます。
 
また,研修で体験・体感したことを忘れずに思い出せるよう,開発・実習棟のVRサイトも構築しました(写真-10)。
 
折しも新型コロナの流行により,残念ながら令和2年度は予定していた研修の半数程度しか実施できず,実施した研修も多くはWeb研修に変更せざるを得ませんでした。
 
今後,類似のパンデミックが発生した場合,再び集合研修ができなくなる可能性があります。
研修の中止・延期は,技術者育成の停滞にもつながるため,このような見直しは,Webで研修を継続するためにも有効であると考えており,集合研修とうまく組み合わせた,より効率的な研修ができるよう,取り組んでいます。

開発・実習棟のVRサイト

写真-10 開発・実習棟のVRサイト



 

3-2 災害時や緊急事象発生時の「エキスパート支援」

技術センターには,地盤,構造物および雪氷に関する専門技術者が常駐しており,現場での技術的課題の発生時や災害・緊急事象発生時に迅速かつ積極的にアドバイス,サポートを行っています。
インフラである高速道路の補修や復旧を速やかに行うための技術支援の拠点として技術センターは位置付けられています。
技術センター開設以前の2019年秋の台風や,2021年の福島沖地震による土砂災害発生時においても,被災現場に地盤の専門技術者を派遣し,早期復旧のための技術的助言やサポートを行っています(写真-11)。
 
これらの専門技術者の知識移転,後継者育成も重要な事項です。
専門技術者は,関係要領等に明文化されている事項を理解した上で,数々の現場経験から得た,明文化されていない知見を組み合わせて状況判断しており,これをいかにして若い世代に伝え,育成していくかが非常に重要です。
 
これに関する取り組みとして,専門技術者の暗黙知を形式知化して残すとともに,これにAI技術を組み合わせて,状況判断の支援を行うシステムの開発を目標として動き出したところです。
 
ただし,この取り組みはまだ研究段階であり,実用化には時間がかかる見込みであることから,まずは災害対策事例を収集,蓄積したデータベースを作成し,これらの知見を誰でも簡単に閲覧できるようにすることから開始しています。

エキスパート支援

写真-11 エキスパート支援



 

3-3 AIやICTなどの先端技術を活用した「研究・技術開発」

先端技術を活用した点検技術の高度化や安全性・生産性向上に資する研究・技術開発を推進しています。
当社が管理する高速道路のうち約7割で冬季に雪が降ることから,優先課題として雪氷対策の高度化に取り組んでおり,冬季の低温状態や腐食環境を再現する低温恒湿試験機や腐食促進試験機を導入し,凍結防止剤や凍害・雪害に関する試験や研究を行っています(写真-12,13)。
 
低温恒湿試験機は,温度・湿度をコントロールすることにより,冬季の道路と同じ状況を再現する装置で,凍結防止剤のさらなる合理化と効率化,凍害や雪害に関する試験・研究を行っています。
腐食促進試験機は,「塩水散霧→乾燥→湿潤」を繰り返すことにより腐食速度を加速させる装置で,凍結防止剤の散布による腐食に強い材料などの試験・研究を行っています。
 
雪氷関係以外も,例えば前項のAI技術の研究や,コネクテッドカーの情報の高度利用といった,さまざまな分野の研究・技術開発に取り組んでいます。
 
また,最新技術の情報収集も重要です。
国内の情報はもとより,海外の技術情報も適宜収集し,技術開発に役立つよう知見を広めています。
 
令和3年度からは,研究・技術開発だけでなく,開発技術商品の広報展開の企画・実施,活用推進も技術センターの業務として所掌変更されており,当社の技術開発全般の拠点としての役割が強化されています。

低温恒湿試験機

写真-12 低温恒湿試験機

腐食促進試験機

写真-13 腐食促進試験機



 

3-4 安全を最優先とした高速道路事業の推進のための「安全教育・啓発」

「安全教育・啓発」は,工事中の事故の防止だけでなく,現場で立ち会う社員を危険から守るためにも必要なことです。
 
当社内で発生した工事中の事故に関しては,負傷者がいない小さな事故や,他責事故(いわゆるもらい事故)を含め,その事故の規模にかかわらず情報を収集し,体系的に情報をまとめ,事故の都度,社内で情報共有しています。
 
この情報は,単に事実を提供するだけでなく,その原因や対策もまとめて提供しており,再発防止についてより深く理解できるようにしています。
 
技術センターで実施している研修においては,各カリキュラムに安全教育を組み入れ,安全意識の醸成と安全管理技術の向上を図っています。
座学に加え記録映像などを用いて,安全確保の重要性を教育するとともに,開発・実習棟には実物の足場や墜落防止用器具を展示し,研修生がより理解を深められるようにしています(写真-14)。

安全研修

写真-14 安全研修



 

4. 技術センターのこれから

技術センターは,NEXCO東日本の技術拠点として,本社技術本部の直轄組織に位置付けられています。
ここで集まった情報が技術者によって有機的につながり,そして新たに発信されていく,そのような組織づくりを目指していきます。

 
 
 

東日本高速道路株式会社 技術本部 総合技術センター 技術企画課 課長代理
寺沢 直樹(てらさわ なおき)

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年4月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-26

 

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