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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIMデータの利活用に向けた積算連携アプローチ《後編》

 

戸田建設株式会社 本社建築本部
BIM推進室 主任 松下 幸生

《前編》を読む
 

積算連携に向けたアプローチ

CMソフトによる5Dへの展開

4つ目のアプローチとして、施工管理を主目的とし、数量拾い、工区別積算、工程表作成、工程シミュレーション、解析レポート発行等の機能を有する「VICO Office」(VICOSOFTWARE社)というソフトの導入に向けた検証とともに、日本市場向けアドバイスも行っている。
 
このソフトはBIMデータからオブジェクト形状を読み込み、米国で普及するUniforma(t 部位別分類基準書式)・CSI(工種別内訳書)をフォーマットとするマスターデータと結びつけることで数量・金額・工数を自動計算、シミュレートするもので、3次元モデルと、工程管理などの時間軸(4D)、コスト情報(5D)の連動を実現する米国発CMソフトである(図-4)。
 

図-4 VICO Office メインモジュール

図-4 VICO Office メインモジュール


 
紙面の都合上、詳述は避けるが、米国ではUniformat、CSIといった建築積算に絡むコード体系が民間ベースで構築され、極めて多様化かつ効率的な方法で情報提供が行われている。結果、プロジェクト全般にわたり「コスト管理」手法の活用が進んでいる。一方 日本ではコスト管理の概念、手法については統一されておらず、コスト情報といった情報チャンネルも少ないといった側面を持ちながらも、その情報内容は米国と比べてもはるかにきめ細かく、手がかかっている内容となっている。 
 
上記の違いは予定価格に対する商習慣や、社会的・文化的背景等によるものとも考えられるが、この「VICO Office」の機能を日本の建設市場で展開させるには海外のフォーマットベースではなく、オリジナルフォーマットベースによるマスターデータ構築が必要不可欠と弊社は判断した。
 
弊社オリジナルの内訳工事細目、科目コード、数量抽出パラメータ、工事歩掛、単価を含んだデータベースを昨年構築し、「VICO Office」に通すことに成功。パイロットプロジェクトでの仮運用を既に開始している。
 
今後このアプローチは『ツール』の開発局面から制度・運用といった『システム』の開発局面に入る。当然施工部門へのBIMリテラシー向上を促す方策も重要となるが、それ以上にモデルを何に使うのか、使用目的を明確にした上で、必要なデータを抽出するための必要十分なモデリングルール決めが必要となる。
 
施工であるから当然、コスト・工程管理が主目的となるのであるが、それらに絡む細かなオブジェクトまでモデルとして表現するのは、モデリング作業に過分な負荷を与えるだけで、ナンセンスとBIM推進室は捉えている。
 
モデル精度・コスト・工程管理を満たすベストバランスのモデルLODガイドラインが必要となる(図-5)。
 
こういった『システム』上の地盤固めの上、今後この「VICO Office」を、細分化された各種専門工事を手戻りなく円滑に進めるといった事前の労務・工程管理、パターンごとの作業手順検討によるロスコストの軽減、再調・変更対応等、適切な判断・決断を促す『ツール』として現場に訴求を図っていくが、施工段階においてこれまで補助的利用展開にとどまっていたBIMデータの利活用が、いずれこの『ツール』によりメインストリームとなっていく起点として、ワークフローへの定着といった大局的見地からもBIM推進室は期待を寄せている。
 
図-5 モデルLODとコスト管理・工程管理の相関概要

図-5 モデルLODとコスト管理・工程管理の相関概要


 

FMへの展開

5つ目は、FMでの積算連携アプローチである。
 
形状情報と属性情報が統合されたBIMは、FMにおける情報活用のニーズを満たすものであるが、業種業態により維持管理、施設運営、環境性能評価、不動産運営等、FMにおけるニーズは大きく異なり、しかも施設のLCC低減や施設活用における事業収益拡大といった顧客資本の最大化を狙う必要から、FMでの積算連携は、扱うコスト領域の拡大・高度化が伴う。
 
既に本誌前号でも報告させていただいている「CO2 MPAS-BIM Energy System」と合わせ、現在、弊社のBIMモデルのメインプラットフォームとして考えている「ArchiCAD」(グラフィソフト社)と相互連携が可能であり、かつFMパラメータを自由に追加できる機能を有するArchiFM(VINTOCON社)をコアとし(図-6)、さらに前節で触れた「ヘリオス」や「VICOOffice」といった積算連携機能を有する他ソフトとの連携、「ArchiFM+α」で『ツール』選定も進めている。
 
また建築生産局面とFMでは施設の捉え方が異なってくるため、モデルLODの課題も含めて制度・運用といった『システム』上の取り決めを、パイロットプロジェクトを通し来期以降加速させていく。
 

図-6 ArchiFM

図-6 ArchiFM


 

モデルのLOD

BIMデータ利活用における積算連携について弊社の取り組みを紹介したが、BIMをワークフロー全体に適用・定着させていくには、これまで述べたアプローチでも触れたように、情報を抽出する対象であるBIMモデルとの関連、干渉も重要な要素となってくる。
 
BIMでは企画から設計、施工、FMまで一貫して統合されたデータを活用していく大前提があり、業務全体でどのようなデータを、どのように流していくかといった青図が必要になってくるのだが、そういった情報の血流は、『ツール』、『システム』とともにモデルLODに支配されるからである(図-7)。
 

図-7 モデルLODと積算連携アプローチ

図-7 モデルLODと積算連携アプローチ


 
先述した通りBIM推進室では弊社独自のテンプレート、モデリングルールの構築も進めているが、その中では川上部分で構築した3次元統合モデルに対し、工程ごとに必要なモデルを編集し直し、作り直していくといった重ね書きや追記という手順の標準化も行っている。
 
今後BIM推進室はワークフローの中でLODごとにおけるBIMモデル構築の負担と責任、インセンティブといった新たな建築業務の責任と役割分担に関するガイドラインを具体化させ、ワークフローへの適用と定着を狙う。
 
 

最後に

BIMをワークフロー全体に適用してく過程で、どのようなデータをどのように流していくかといったデータ利活用の検討を通し、改めて『全体最適志向』への転換の必要性を痛感している。
 
従来の建設業のワークフローは、生産プロセスが多岐に渡り、工程毎に分断化、それぞれが高度に専門化させていく中で、そのシステムは画一化され、専門領域に閉じ込められた個別的な性格、部内・社内事情優先の閉鎖的システムへと向いていた。結果、部門外・社外との情報連携を指向するシステム利用からは遅れていく。こういった「部門」を通しプロジェクトを遂行していくといった『部門最適』な志向から、プロジェクトの「プロセスステップ」において最適解を求めようとするプロジェクト最適=全体最適志向への転換。
 
BIM導入におけるハイライトともいえる改編作業といえるだろうが、BIMそのものにはプロジェクトを推進していく実体は存在しないことからも、その理想と現実のギャップは、やはりBIMを推進する活動を通して関わる人々の徹底的な『内省』・『対話』・『実践』の繰り返しの中で埋めていくしかない。
 
われわれBIM推進室の活動目標はもちろん、BIMを弊社のワークフロー全体に適用していくことにあるのだが、その本質的活動意義とは、このクリエイティブ・ルーティンとも呼べる『内省』・『対話』・『実践』の内、先述したような部門最適を志向する構造的問題により失ってしまっている『対話』=コミュニケーションの「場」と「手法」を、BIMを通し再生することにあるといえるのだろう。
 
 
 
BIMデータの利活用に向けた積算連携アプローチ《前編》
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 

最終更新日:2014-01-21

 

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