- 2014-03-26
- 建設ITガイド
岩手県大槌町 いわてデジタルエンジニア育成センター(いわてDEセンター)
所在地:岩手県上閉伊郡大槌町
事業主体:岩手県、北上市、北上職業訓練協会
所在地:岩手県北上市
http://www.iwate-de.jp/
東日本大震災で被災した岩手県大槌町では、2011年末に東日本大震災津波復興計画基本計画(以下、復興計画)を策定。
これを受け、いわてデジタルエンジニア育成センター(以下、いわてDEセンター)では大槌町を支援するため、復興計画をオートデスクの土木インフラ設計ソフト「AutodeskInfraWorks」で3Dモデル化した。
この3Dモデルは復興計画の内容が分かりやすいため、住民説明会の他、動画化して町役場のモニターでの上映や、
拡張現実感(AR)を使って災害復興公営住宅の建設予定地で完成イメージの確認など、幅広く活用されている。
Autodesk InfraWorksで復興計画を3D化
東日本大震災で、町の中心部が壊滅的な被害を受けた大槌町では、2012年12月に「大槌町東日本大震災津波復興計画」を策定した。
これを受けて、いわてDEセンターの黒瀬左千夫センター長と主任講師の榊原健二氏は、
この復興計画をオートデスクの土木インフラ設計ソフト「AutodeskInfraWorks」(以下、InfraWorks)を使って
3Dモデル化する支援を行ってきた。
InfraWorksは、さまざまな形式のデータを読み込んで1つの3Dモデルに統合する土木インフラ用の3次元設計ソフトだ。
陸地や海、河川などの3 次元地形をGoogleEarthやGIS(地理情報システム)、衛星写真などのデータで読み込み、
その上に防潮堤や造成地、道路、鉄道、そして上下水道やガス管などの土木インフラや建物の3DモデルやBIMモデルをインポートし、
復興計画案を1つの3Dモデルにまとめることができるのだ。
InfraWorksは複数の計画案を切り替えて表示できる他、さまざまな視点や角度からの計画案の検証、
3D空間の中を動き回って見るウォークスルーも行える。
平面図や断面図などの平面的な情報では、土木・建築の専門家以外の人は実物をイメージしにくいが、
こうした3Dモデルだと、誰もが理解しやすい。
3Dモデルにお年寄りが身を乗り出した住民説明会
大槌町では、AutodeskInfraWorksで作成した復興計画の3Dモデルを、幅広く活用している。
まずは、震災から1年も経たない2012年1月16日に、大槌町の碇川豊町長や職員の前で行われたプレゼンテーションだ。
いわてDEセンターの黒瀬センター長と榊原氏は、スクリーンに防潮堤や新市街地などのリアルな3Dモデルを映し出し、
復興計画を地上や上空などさまざまな角度から見られることを説明した。
3Dモデルを復興計画コンセプトの確認や、複数のプロジェクト案の検討、合意形成などに使えることを大槌町に提案するためだった。
このプレゼンを見た碇川町長は「復興計画の内容がとても分かりやすかった」と語り、
復興計画で3Dモデルを活用していく方針を明らかにした。
そして同年3月に開催された復興計画の住民説明会では、初めて地域住民に、3Dモデルを基に作られたムービーが公開された。
「大槌町では全家屋の約6割が被災した。その復興計画を3Dで見せると、住民はスクリーンにくぎ付けになった。
『うちの家はどこだ』と身を乗り出して探すお年寄りの姿も見られた」
と、大槌町復興局復興推進室主事の松橋史人氏は振り返る。
翌4月には、大槌町はホームページにこれらのムービーを掲載・公開した。
また、大槌町には岩手県他、さまざまな自治体から1カ月~1年程度の期間、派遣職員が応援に来る。
その研修会で行われる復興計画の説明にも、これらのムービーを活用している。
最新情報を反映し、すぐに情報共有できる
復興が徐々に進み始めると公営住宅や道路の建設計画なども具体化してくる。
大槌町では3カ月に1回のペースで復興計画の図面を更新している。
いわてDEセンターもそのたびに3Dモデルを更新している。
そのため、約1年後の3Dモデルは、当初のものよりも街並みがよりリアルになった。
岩手県沿岸広域振興局経営企画部復興推進課課長の菊池学氏は
「模型だと作ったり、修正したりするのに時間がかかる。その点、3Dモデルはすぐに更新し、まちづくりのイメージを共有できる」
と当時を振り返る。
「高さ14.6メートルという高い防潮堤の整備計画もある。
岩手県内でもこんなに高い防潮堤はほとんどないので、実感が湧かない。
その点、3Dモデルは市街地から海や防潮堤がどのように見えるかや、近くで見たときに圧迫感などがよく分かるというメリットがあった」(菊池氏)。
大槌町では復興計画の作成に当たり、地域住民とともに作るという考え方を持っている。
これまでのように図面や地図だけによって復興計画の説明を行うと、
住民には分かりにくく、ともすれば町や企業だけで復興計画づくりが進んでいると感じる人も出てきやすい。
その点、復興計画の内容を3Dモデル化し、誰もが分かりやすいようにすることで、
町と住民との間で認識を同じにし、意見のキャッチボールを行いながら計画を進められる。
住民説明会でも、3Dモデルのムービーを上映すると、それまで硬い表情を見せていた住民も、和やかな雰囲気になったという。
職員自身が使える3Dツールに
「InfraWorksから書き出した3Dモデルをパソコンに入れて、行政関係者や議員などの現地視察で使ったことがある。
使い方は5~10分程度、いわてDEセンターに教えてもらっただけで、すぐにマスターできた。それほど難しいとは感じない」
と松橋氏は言う。
InfraWorksで作成した復興計画などの3DモデルとiPad、そしてInfraWorksforMobileがあれば、
町の職員自身がiPadを現場で操作し、ARによる復興計画の説明などに活用できそうだ。
1つの3Dモデルを作ることで、必要に応じて場所や視点を変えることで、活用の場面は大きく広がることになる。
この記事に登場した製品
AutoCADⓇ Civil 3DⓇ
AutodeskⓇ InfraWorks
【この記事は…】
建設ITガイドWEB「成功事例集」(2014年2月掲載記事)より転載しています
※掲載データや人物の肩書など、いずれも掲載当時のものです
最終更新日:2014-12-26