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文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課
長寿命化対策推進係長 高草木 伸

 

1.学校施設の老朽化の現状と課題

市区町村が所有・管理している公共施設の約4割と大きな割合を占める学校施設のうち、
公立小中学校については、昭和40年代後半から50年代にかけての第2次ベビーブームへの対応のため建設されたものが多く、
建築後25年以上を経過した建物が保有面積の約7割を占めるなど、老朽化が深刻な状況である(図-1)
 

図-1 公 立小中学校の経年別保有面積(非木造校舎・体育館・寄宿舎)

図-1 公 立小中学校の経年別保有面積(非木造校舎・体育館・寄宿舎)


 
近年、学校施設の耐震化は進んできたが未だ老朽化対策は進んでおらず、
今後、改修・改築(建て替え)の需要が高まることが想定される。
従来、建築後40年程度で建て替えを行うことが多かったが、
厳しい財政状況の下、限られた予算でできる限り多くの施設の安全性を確保し、機能向上を図っていくためには、
改築より工事費が安価で、廃棄物や二酸化炭素の排出量が少ない長寿命化改修への転換を図ることが必要である。
 
 

2.長寿命化改修の基本的な考え方

長寿命化改修とは、老朽化した建物について、物理的な不具合を直して建物の耐久性を高めるとともに、
建物の機能や性能を現在の学校が求められている水準まで引き上げる改修を行うことである。
適切なタイミング(概ね築後45年程度まで)で長寿命化改修を行うことで、改修後30年以上、建物を使い続けることができる。
 
「物理的な不具合を直して建物の耐久性を高める工事」とは、
具体的には、
①コンクリートの中性化対策や鉄筋の腐食対策、
②耐久性に優れた仕上材への取替え、
③設備の更新等
が考えられる。
 
また「建物の機能や性能を向上させる工事」とは、
具体的には、
①安全・安心な施設環境の確保(耐震対策(非構造部材を含む)など)、
②教育環境の質的向上(多様な学習活動への対応、環境に配慮した施設、バリアフリー化、木材活用など)、
③地域コミュニティの拠点形成(防災機能強化など)のための改修工事
が考えられる。
 
長寿命化改修のメリットとしては、以下の3点が挙げられる。
 
①工事費用の縮減、工期の短縮が可能
構造躯体(柱、梁、壁、基礎等の構造耐力上主要な部分)を再利用する長寿命化改修では、
構造躯体に関わる費用がほとんど必要ない。
また、既存建物の解体量が少なく、それにより工期が短縮され現場経費が抑えられることから、
工事費用が建て替えと比較して4割程度縮減できる。
 
②建て替えた場合と同等の教育環境の確保が可能
建物をいったん構造体のみの状態にした上で、
耐震補強や耐久性向上のための改修、非構造部材の耐震対策を実施したり、設備や仕上げを更新したりできる。
さらに、間取りの変更も可能であり、建て替えた場合と同等の教育環境の向上が実現できる。
 
③廃棄物量が少ない
構造体を再利用するため、排出する廃棄物や環境負荷が少なくなる。
ある共同住宅の事例では、廃棄物排出量は56%減、二酸化炭素発生量は84%減となった。
また、廃棄物処理に係るコストの削減も可能である。
 
 

3.これまでの取り組み

3-1 長寿命化改修の手引の作成

文部科学省では、学校施設の「長寿命化改修」の具体的な手法について解説した初めての手引
「学校施設の長寿命化改修の手引 ~学校のリニューアルで子供と地域を元気に!~」を作成し、
平成26年1月に公表した(図-2)
 

図-2 「手引」の表紙

図-2 「手引」の表紙


 
この手引は、長寿命化改修の意義や建て替えとの工事費比較などの37の問いに対する一問一答形式の解説や、
安全で豊かな教育環境にリニューアルした先進事例を掲載しており、
老朽施設を保有する全ての地方公共団体が長寿命化改修に一歩踏み出すためのきっかけとして活用できる内容となっている(図-3)
 
図-3 「手引」の内容

図-3 「手引」の内容


 
「長寿命化改修とは何か」といった基本的なことから、躯体や設備の老朽化対策に必要となる具体的な技術、活用できる補助制度まで、
建築の専門家でなくても一から理解できるよう、写真や図版を用いた平易な表現で解説している。
 
※文部科学省のHPに全文掲載している。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/027/toushin/1343009.htm
 

3-2 長寿命化改良事業の実施

平成25年度、各地方公共団体が中長期的な計画の下で老朽化対策を適切に進めることができるよう、
国庫補助制度の新しいメニューとして「長寿命化改良事業」を創設した。
従来も、建物の大規模な改修には経費の3分の1の国庫補助を行ってきたが、
本事業では、従来の改修事業にはない地方財政措置により地方公共団体の負担を軽減した他、上限額も設けておらず、
グレードの高い改修を実施することができる。
 

3-3 学校施設老朽化対策先導事業の実施

平成25年度より、学校施設の長寿命化の先導的な取り組みを支援する「学校施設老朽化対策先導事業」を実施している。
1年目の基本計画策定から、2年目の基本設計・実施設計、3年目の長寿命化改修工事まで、3か年にわたり支援する事業である。
昨年度は、釧路市立大楽毛中学校(北海道)、世田谷区立深沢中学校(東京都)、生駒市立桜ヶ丘小学校(奈良県)、
習志野市立大久保小学校(千葉県)の4校で基本計画を策定したところであり、ホームページ等で公表している。
 
 

4.先進的な取り組み事例

4-1 福岡県 八女市立福島中学校

八女市立福島中学校の屋内運動場は、建築年が昭和36年で老朽化が著しい状況となっていた。
しかし、改築を行う十分な予算もないことから、改築ではなく耐震補強を行った上で大規模改造を実施したものである(写真-1)
 

写真-1 福岡県 八女市立福島中学校

写真-1 福岡県 八女市立福島中学校
(上:体育館外観の改修前・改修後、下:体育館内観の改修前・改修後)


 
事業を行うに当たっては、柱や梁などの構造部分を残して解体し、耐震補強を行い再利用するため、
産業廃棄物や建築コストを大幅に削減でき、環境にやさしい建築方法を採用している。
 
また、耐用年数をより向上させる目的から、アルカリ性付与材と中性化抑制材による補修に加えて、
躯体を直接風雨にさらさないようガルバリウム鋼板や木で保護することに特に留意したものとなっている。
 
危険な状態であった施設を新築同様に改修することができ、
授業や部活動の充実のみならず、地域への開放促進にもつながった事例である。
また、改修によって、新築に比べ、建築コストの縮減や産業廃棄物の抑制による環境負荷の低減がなされている。
 

4-2 愛知県 北名古屋市立西春中学校

昭和30年代に建築された北名古屋市立西春中学校は、
改修前、北と南の校舎が渡り廊下でつながる昭和期の典型的な学校であった。
生徒からは、「暗くて狭い」、「夏、暑い」、「冬、寒い」といった声があがるなど十分とは言えない環境であったため、
改修により教育環境の改善を図ったものである(写真-2)
 

写真-2 愛知県 北名古屋市立西春中学校

写真-2 愛知県 北名古屋市立西春中学校
(上:校舎外観の改修前・改修後,下:校舎内観の改修前・改修後)
※ 「学校施設の老朽化対策について~学校施設における長寿命化の推進~」
 (平成25年3月 学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議)より抜粋

 
また、地域と学校の関係づくりと改修のアイデアを建築設計業務に最大限生かすため、
創造性豊かで高い技術力を有する設計者を公募型プロポーザル方式により選定した。
 
計画に当たっては、学校の教職員や生徒、保護者などを対象とするワークショップを開催し、
当時学校が抱えていた問題点を抽出して、改修計画に反映させたものとなっている。
 
耐震補強やコンクリートの中性化対策とともに、
多目的スペースの整備や温熱環境の改善を合わせて実施することで子供たちの学習・生活環境を改善し、
既存校舎を活用しながらこの先も永く使用できる学校に生まれ変わった事例である。
 
 

5.今後の取り組み

長寿命化改修についての理解促進のため、
今年度から、各都道府県が主催する講習会に建築事務所等の専門家や先進的な取り組みを行う自治体職員を
講師として派遣する事業を実施している。
 
また、昨年度、政府において「インフラ長寿命化基本計画」が策定され、
その中で、各インフラの管理・所管する者は、インフラ長寿命化計画(行動計画)を策定することとされたことを受け、
文部科学省においては、今年度、必要な施策等を盛り込んだ行動計画を策定することとしている。
さらに、各地方公共団体においては、
今後、域内にある個別施設毎の長寿命化計画(個別施設計画)を策定することとされており、
文部科学省では、各地方公共団体による学校施設についての個別施設計画策定を支援するため、
手引書を作成する予定である。
 
来年度概算要求においては、地方公共団体がより長寿命化改良事業を採用しやすくなるよう、必要な制度改正を要求するとともに、
地方公共団体による有識者会議等での検討を踏まえた個別施設計画策定を支援する事業を盛り込んでいるところである。
 
今後も、引き続き、各地方公共団体が長寿命化改修などの老朽化対策をそれぞれの実情に応じて適切に進めることができるよう、
支援に努めていきたいと考えている。
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年12月号
特集「建築物の維持保全と長寿命化改修」
月刊 積算資料SUPPORT2014年12月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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