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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《前編》

 

日刊建設工業新聞社 片山 洋志

 


 
日本経済は今年、安倍政権が進める「アベノミクス」が奏功し、長年の懸案であったデフレ経済からの脱却の兆しが見えてきた。
安倍政権が打ち出した3本の矢と言われる経済対策「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」は、
すべて順調に成果が表れているとは言い難いが、少なくとも機動的な財政出動が建設業界に好環境をもたらしていることは間違いない。
先の通常国会で成立した改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)など「担い手3法」も、
建設業界が将来に向けて再生するための大きな布石となった。
若年労働者を確保するために企業が適正な利益を確保できるようにすることが公共発注者の責務と明記した同法は、
ダンピング受注に陥りやすい業界体質の改善を促し、適正な競争環境を構築する上で大きな意義を持つだろう。
 
写真-1 現場で働く女性

写真-1 現場で働く女性


 
15年度予算の編成時期に入り、人手不足や資材の高騰などが指摘され、
公共事業削減の議論が浮上しているが、こうした議論を封じ込めるためにも、
地方創生や産業の国際競争力強化に貢献するインフラ整備、東日本大震災からの復興の加速、
頻発・激甚化する災害に備える国土強靱(きょうじん)化、インフラの老朽化対策などを
建設業界が一丸となってやり遂げなければならない。
建設業の再生はここ数年の業界の動きが鍵になることは間違いない。
 
写真-2 安倍首相を表敬訪問したドボジョ

写真-2 安倍首相を表敬訪問したドボジョ


 
 

改正品確法で発注者責務を明示

 

図-1 改正公共工事品確法など「担い手3法」

図-1 改正公共工事品確法など「担い手3法」


 
今年、建設業界にとって最も注目すべきことは、先の通常国会で成立した改正公共工事品質確保促進法(議員立法)、
改正建設業法(閣法)、改正公共工事入札契約適正化法(閣法)だろう。
この3法は、今後の運用次第ではこれからの建設業界を大きく変える可能性を秘めているからだ。
 
特に6月に施行された公共工事品確法は、
基本理念に「将来にわたる公共工事の品質確保とその中長期的な担い手の確保が重要」であることを追記し、
これを実現させるため、企業に「適正な利潤を確保できるようにする」ことを発注者の責務として明確に位置付けた。
 
予定価格を根拠なく引き下げる「歩切り」を根絶するため、
発注者に対し最新の労務・資材費など施工の実態を的確に反映した適正な予定価格を設定することを規定。
ダンピング受注を防ぐ適正な低入札価格調査基準額と最低制限価格を設定することも盛り込んだ。
建設業界から要望が多い計画的(平準的)な発注や適切な工期の設定にも努め、
当初予想できなかった施工上の実態にも速やかに対応できる円滑な設計変更を行うことを発注者の責務とした。
一般競争入札などの画一的で硬直的と指摘されてきた入札契約方式も見直し、
工事の性格や地域の実情に応じて選択できる「多様な入札契約方式」を導入・活用することなども求めている。
 
多様な入札契約方式では
 
▽技術提案交渉方式
▽段階的選抜方式
▽地域社会資本の維持管理に資する方式(複数年契約、一括発注、共同受注)
 
などの新たな方式が明記された。
例えば、規模が小さく採算が取りにくいとして敬遠されがちな維持管理工事には、複数の工事をまとめてロットを大きくしたり、
複数年契約を取り入れたり、企業の採算性に考慮した入札・契約方式の導入を促している。
地域の安全・安心を守る地場の中小建設業者がインフラの「町医者」として活躍できるようにするためにも、
事業量と適正な利潤の確保は欠かせないはずだ。
 
公共工事品確法の基本方針が9月30日に閣議決定された。
あらためて発注者に対し、受注者が適正な利潤を確保できるような予定価格を設定することを規定。
その具体策として歩切りの禁止徹底などを盛り込んだ。
 
今年12月には同法に基づく発注者の共通ルールとなる「運用指針」が作成される。
この中には多様な入札契約方式の選択の仕方や、その際の留意点などが列挙される見通し。
国土交通省の吉田光市建設流通政策審議官はある会合で
「運用指針ができた後にはダンピング受注や歩切りが少なくなったと実感してもらえるようにしていきたい」
と述べている。
 
 

改正品確法で発注者責務を明示

改正建設業法と改正入契法には公共工事品確法の基本理念を実現するための具体的措置が盛り込まれた。
改正建設業法では、建設業者や建設業団体らによる自主的な担い手の確保・育成が責務として規定されるとともに、
それを国交相が支援するとしている。
これらの規定項目は公共工事品確法と同じ6月に施行された。
同時に建設業許可の業種区分も約40年ぶりに改正。
従来の28業種に「解体工事業」を追加し、29業種とした。
今後増大する解体工事に対応する措置で、解体工事を行う場合、
相応の実務経験や資格を持つ技術者の配置を求め、事故の防止と品質の確保に努める方針だ。
16年6月ころまでに施行される見通し。
 
改正入契法では、公共工事の入札契約を適正化するために受・発注者双方が講じるべき措置が定められた。
ダンピング受注の防止を入札契約の適正化の柱として位置付け、
その具体策として、入札参加者に応札金額の内訳書の提出を求めた。
見積もり能力のない業者が最低制限価格や低入札調査基準価格で入札するような事態を排除し、
手抜き工事や下請へのしわ寄せを防ぐ狙いだ。
 
契約の適正な履行を確保するため、
大規模な公共工事の受注者に義務付けられている施工体制台帳の作成と発注者への提出をすべての工事に適用を広げる。
これまで公共工事では下請代金の総額3,000万円(建築一式は4,500万円)を上回る場合に
台帳の作成と提出が義務付けられてきたが、この下限を撤廃。
施工体制の把握をより徹底させ、手抜き工事や不当な中間搾取を防ぐ考えだ。
改正入契法で規定した公共工事の入札契約の適正化と台帳の作成・提出義務の拡大に関する項目は来年6月ころまでに施行される。
入契法の適正化指針も改正公共工事品確法の基本方針と同日に閣議決定された。
歩切りの根絶やダンピング受注対策、談合防止策の強化、社会保険等未加入業者の排除などが盛り込まれた。
 
 

担い手確保へ「女性」「外国人」に照準

 

写真-3 けんせつ小町が太田国交相を表敬訪問

写真-3 けんせつ小町が太田国交相を表敬訪問


 
建設産業の担い手確保に向けて、政府が一丸となって取り組んでいるのが女性の活用だ。
国交省は、8月に日本建設業連合会(日建連)など建設業5団体と共同で「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定した。
現場で活躍する女性技術者・技能者数を現在の10万人から5年後の19年時点で20万人に倍増させる目標を設定。
就労を継続できる職場環境を整備するため、女性用のトイレや更衣室などの設置を工事発注時の仕様や積算で配慮することにした。
長時間労働の縮減や計画的に休暇を取得できる環境の整備、育児期の現場朝礼への参加免除、
作業準備や後片付けの分担・工夫などに取り組み、時間面での環境整備も進める。
 
建設現場の技術者に女性の登用を促進しようと、国交省は「女性技術者の登用を促すモデル工事」を14年度の直轄工事十数件で試行。
同モデル工事では女性を工事現場の主任・監理技術者や担当技術者として配置を求めた。
10月中旬までに8件の工事で落札者が決定し、すでに請負契約を交わしている。
 
建設現場で活躍する女性の技術者・技能者にもっと親近感や憧れを持ってもらう取り組みも進む。
これまで現場で働く女性の愛称は「建設なでしこ」や「ドボジョ(土木現場で働く女性)」などと言われていたが、
日建連が一般の人たちに愛称を公募。
厳正な審査の結果、「けんせつ小町」という愛称を選定し、今後、日建連の公式用語として活用していく方針だ。
 
図-2 外国人労働者の活用

図-2 外国人労働者の活用


 
一方、建設業界では外国人の労働者の活用も議論された。
国交省らは2020年東京オリンピック・パラリンピックまでに延べ15万人不足するとされる建設技能労働者を確保するため、
15年4月に外国人労働者の受け入れを時限的に拡大する緊急対策を始めることを決めた。
外国人技能実習制度の修了生が実習対象期間後も日本に残って働くことや、
一度実習を行って帰国した修了生が再入国して働くことを2~3年間の期間限定で認めることにした。
鉄筋など躯体職種では人手不足が深刻化しており、
緊急対策が開始される来年4月まで外国人技能実習生制度に関する動きが活発化することは間違いなさそうだ。
 
 

インフラ老朽化対策を加速・厳格化

 

写真-4 道路の老朽化対策の本格実施に関する提言

写真-4 道路の老朽化対策の本格実施に関する提言


 
公共事業量が今後増加する分野として期待されているのが、
長寿命化を含めたインフラの老朽化対策と、国土強靱化に向けた防災・減災対策だ。
このうち、インフラの老朽化対策は、今年大きな動きがあった。
12年12月に山梨県の中央自動車道笹子トンネルで発生し多数の死者が出た天井板崩落事故を教訓に、
昨年、道路法等の一部改正法が成立した。
この法律に基づき、国交省は7月、道路管理者に対し全国にある橋梁(約70万本)とトンネル(約1万本)を
5年ごとに近接目視点検することを義務付ける省令・告示を施行した。
 
この省令・告示前の4月には、社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会が「最後の警告」と題する提言を出している。
この提言では道路管理者のメンテナンスサイクルの方法やそのサイクルを回す仕組みが提示されている。
これを受け国交省は道路の点検・診断・措置・記録を確実に循環させていく「メンテナンスサイクル」の定着・推進を
15年度の最大の目標に掲げ、点検義務対象の大半を占める市町村道の修繕・更新費に特化した補助制度を創設する考えだ。
同時に自治体職員向けの研修や点検・補修技術の開発などにも取り組む。
点検業務の発注ロットの拡大や、特に高度な技術が必要になる緊急的な修繕を国が代行する取り組みも本格的に始める計画だ。
 
写真-5 政府が実用化を支援する建設ロボット

写真-5 政府が実用化を支援する建設ロボット


 
国交省は各種インフラの点検業務などで有人作業を省力化する新技術として、次世代技術が結集された建設ロボットに着目。
ゼネコンや建設コンサルタントなどの民間企業が開発したロボットの実用化・普及を支援するため、
10月から直轄の建設現場を提供して技術の検証と評価に乗りだした。
その成果を踏まえ各社のロボットの導入や改善を行い、16年度から直轄現場での試行を目指している。
 
ロボットはインフラの維持管理の省力化に加え、
頻発・激甚化する災害への対応でも危険労働を解消する新技術として重要度が高まっている。
8月に発生した広島市北部の大規模土砂災害の被災地でも人が立ち入れない場所の被害状況の把握に無人ヘリが活躍した。
 
国交省は橋梁やトンネルを含むインフラ全般の点検や診断などの維持管理に関する現行の民間技術者資格を大臣認定し、
その有資格者の配置を条件とする業務発注を15年度以降に行う予定だ。
 
 
 
2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《前編》
2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《後編》
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2014年12月号
月刊積算資料2014年12月号
 
 

最終更新日:2015-03-19

 

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