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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 高さ140mの超高層ホテルへの適用事例~超高層建物の環境配慮型閉鎖型解体工法「テコレップシステム」~

 

大成建設株式会社 本社 技術センター 建築技術開発部
次長 市原 英樹

 


 
超高層建物を、省エネルギー化を図りながら、周辺環境に配慮し、安心・安全に解体することを念頭に
「テコレップシステム」を開発した。
閉鎖空間内で行われるテコレップシステムによる解体工事について、システム概要および性能、
また、実績を踏まえた工事内容を紹介する。
 
 

1 技術開発の背景

 

写真-1  第2号適用物件(グランドプリンスホテル赤坂)の外観(2012年11月上旬)

写真-1  第2号適用物件(グランドプリンスホテル赤坂)の外観(2012年11月上旬)


 
近年、耐震改修技術や省エネ改修技術の発達により、建物の長寿命化が進んでいる。
しかし、その一方でインフラの老朽化や収益性の低下などを理由に、やむを得ず取り壊される建物も存在し、
高さ100mを超える超高層建物も例外ではない。
諸外国では築30年から40年の間に取り壊し、または、建て替えが行われるケースが最も多く(図-1参照)、
1980年代に超高層建物の建設が本格化したわが国でも、
今後5年ないし10年の間に100mを超える建物の大型解体案件が増加する可能性が高い。
 
図-1 世界の100m以上の超高層建物の築年数と解体件数

図-1 世界の100m以上の超高層建物の築年数と解体件数


 
このことは昨今、都心部で進んでいる大規模な再開発が影響しているものと考えられる。
在来の解体工法は、建物外周部に養生用の足場および防音パネルを側面に配置し、荷下ろし用にローラークレーンなどを据え置き、
あらかじめ最上階に大型重機を載せ、最上階よりブレーカーまたは圧砕により解体する方法が一般的である(図-2参照)。
 
図-2 在来の解体方法の概要

図-2 在来の解体方法の概要


 
100m以上の超高層建物を解体する場合は、建物高さが高いことによる強風の影響などから、
工事騒音の拡散・工事粉塵の飛散拡大が考えられる。
また、建物が密集しているような立地条件では、解体部材の飛来落下の危険性も想定され、
近隣住民への不安を与えてしまう可能性もある。
そして、超高層建物の解体中に地震や台風などの天災に遭遇する可能性もあり、
建物の構造的安全性を確保しながら解体工事を行うことが必要不可欠となる。
これらのことから、中高層建物の解体工法と同等に行うことは、困難であることが想定され、
超高層建物の解体に適した工法が求められると判断した(図-3参照)。
 
図-3  超高層建物解体における課題

図-3  超高層建物解体における課題


 
こうした超高層建物解体に特有の問題を解決し、工事のリスクや環境負荷を最小限に抑えることで、
安全・安心かつ地球環境に配慮しながら解体工事を行うことが必要であると考えた。
そこで、100m以上の超高層建物を環境に配慮しながら解体する新工法
「テコレップシステム(TECOREP System:Taisei Ecological Reproduction Systemの略)」を開発した(図-4参照)。
 
図-4 テコレップシステムの概念図

図-4 テコレップシステムの概念図


 
 

2 テコレップシステムの概要

 

写真-2  第2号適用物件での本システム

写真-2  第2号適用物件での本システム


 
「テコレップシステム」(図-4、写真-2参照)は、建物最上部近傍の側面と上面を、仮設のキャップをかぶせるようにして覆い、
閉鎖された空間を構築し、全ての解体工事をこの内部で行うことを最大の特徴としている。
テコレップシステムでは、
1フロアないし2フロアの内部を解体する毎にキャップ構造全体を一体的に自動降下(ジャッキダウン)する機能を有している。
在来工法の外部養生足場の盛り替え作業のような高所危険作業が不要となり、解体工事中の安全性を飛躍的に向上させた。
自動降下(ジャッキダウン)機構は、キャップ構造を支える鉄骨の仮設柱と油圧ジャッキを合体させることで、
キャップ構造全体の重量を支えながら自動降下(ジャッキダウン)することを実現した。
この機構を開発したことで、建物高さに対する制約を受けずに、解体工事を閉鎖の中で安全に行うことを可能とした。
 
テコレップシステムは、解体部材の荷下ろしを内部で行うことで、周辺に対して工事の安全性を確保している。
内部天井面に設置した、水平搬送用天井走行クレーンと荷下ろし作業を行う垂直搬送機械(テルハクレーン)を設け、
全ての解体部材の移動・搬出を行う。
 
内部での解体作業は、重機による圧砕工法、切断機を用いたカッター工法などによるブロック解体も想定し、
天井走行クレーンとの併用を可能としている。
対象建物の規模、構造や施工条件に応じて様々な解体方法の選択を可能としている。
 
このようにテコレップシステムは、将来のニーズを想定して、
あらゆる建物高さ、複雑な建物形状、鉄骨造のみならずRC造も想定し開発が行われている。
 
 

3 テコレップシステムの性能

テコレップシステムは、キャップ構造の閉鎖された空間内で解体工事を行うことから、
在来的な解体工法では達成できない遮音性能を実現できる。
一般的な解体工法は、側面は覆うものの上面を覆うことをしないことから、解体作業中の工事騒音が外部に漏れてしまう。
 

図-5 在来的工法とテコレップシステムとの騒音予測

図-5 在来的工法とテコレップシステムとの騒音予測


 
図-5には在来的な解体工法とテコレップシステムによる工事騒音の外部への影響を示した解析結果である。
在来工法の場合は、隣接する建物に対して70dB以上の工事騒音が低層部から高層部まで影響していることがわかる。
一方、テコレップシステムの場合は、隣の建物への影響を65dB未満にすることを可能とし、
工事騒音を交通騒音程度以下にすることが可能となっている。
このことで、周辺の雑音により工事騒音を意識させないことを実現している。
 
図-6 在来的工法とテコレップシステムとの粉塵飛散予測

図-6 在来的工法とテコレップシステムとの粉塵飛散予測


 
図-6は在来的工法とテコレップシステムとの粉塵飛散の予測を示したものである。
在来的な工法の場合は、上層の強風により粉塵の飛散範囲が数百メートルに及ぶことが予想される。
しかし、テコレップシステムの場合は、粉塵の飛散を最小限に抑制することを可能としており、重量比で90%以上の抑制効果を発揮する。
 
図-7 テコレップシステムの構造的安全性

図-7 テコレップシステムの構造的安全性


 
図-7はテコレップシステムの構造(耐震・耐風)的安全性を示したものである。
テコレップシステムのキャップ構造は、既存建物の最上階部分の鉄骨などの構造材を有効利用しており、
新規部材の使用を軽減することでコストの抑制を図っている。
キャップ構造の安全については、
解体作業中の場合および自動降下(ジャッキダウン)を行っている最中の場合など工事期間中全ての状況を想定して、
地震時および台風時に対する安全性を計画段階にて解析を行い検証している。
地震時においては、中規模な地震の場合は弾性範囲内、大規模な地震の場合でも倒壊しないように設計している。
台風時においては、中規模の台風(風速18m)までを標準設計としている。
このようにテコレップシステムで使用する安全基準は、新築の建物を施工する場合と同等な安全性を用いている。
 
テコレップシステムは、上層階から解体部材を下ろす際、発電を行う「荷下ろし発電」機能を有している。
これは、高いところから重いものを下ろす際に位置エネルギーを利用して、回生電力を生むものである。
この技術は今まで建設工事における解体工事に定常的に適用したケースは無く、今後注目できる新しい省エネルギー技術である。
 
図-8 荷下ろし発電システムの模式図

図-8 荷下ろし発電システムの模式図


 
図-8にテコレップシステムの荷下ろし発電のシステムの模式図を示し、
105mの建物における荷下ろし発電量のシミュレーション結果を図-9に示す。
 
図-9  建物階高(揚程)別発電量シミュレーション

図-9  建物階高(揚程)別発電量シミュレーション


 
荷下ろし発電は、専用の回路を組むことで解体材を荷下ろしする際に位置エネルギーを電力に変換することができる。
 
モータによって生まれた電気は、クレーン制御盤から充放電制御装置を経由し、蓄電装置(キャパシタ)に貯められる。
発電可能な電力量は、図-9に示すように23~10階程度までは、垂直搬送機に使用する電力量を100%以上賄うことを可能とし、
余剰電力を生むことができる。
また、得られた電力は、垂直搬送機本体の動力だけでなく、仮設設備の補助電源としても利用可能であり、
施工時の消費電力削減に寄与している画期的な機能である。
荷下ろし発電は、建物高さが高いほど発電量が多くなることから、今後解体工事に使用する電力量の削減が期待できる。
 
 

4 まとめ

テコレップシステムの開発は、100m以上の超高層ビルの建て替え需要に備えて開発したものである。
日本のように密集した条件で建てられている建物は、海外でも例は多い。
このような技術を必要としている都市は、海外でも多く存在すると考えられる。
 
今回、2011年に実施した東京駅近郊オフィスビル(建物高さ105m)である第1号適用物件に続き、
約140mのホテル高層棟を第2号適用物件として実施した(写真-3、4参照)。
 

写真-3 テコレップシステムでの解体工事進捗状況(外観)

写真-3 テコレップシステムでの解体工事進捗状況(外観)


 
写真-4 ジャッキダウン前後の内観状況

写真-4 ジャッキダウン前後の内観状況


 
改めて超高層ビルを解体する場合は、
テコレップシステムのように騒音・粉塵の抑制といった近隣環境への影響を最小限にすることや安全対策を万全にするなど、
専用の工法が必要であることを改めて確信した。
 
 

5 今後の展開

テコレップシステムは、約140mの超高層ビルに実施したことで、その有効性を改めて確認することができた。
しかし、今後海外の建物を視野に入れた場合、現状のテコレップシステムだけでは、全ての超高層ビルに適用できるわけではない。
今後、解体需要が更に増えたことを想定した場合、工事の効率化を図り工事期間を短縮することなど課題は挙げられる。
また、環境技術の付加も解体工事にますます求められると予想される。
これらの課題を解決するためにも、要素技術の開発を続けていきたいと考えている。
 
 
 
【出典】


季刊建築施工単価2014年春号
季刊建築施工単価2014年春号
 
 

最終更新日:2015-07-03

 

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