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一般財団法人 国土技術研究センター
情報・企画部長 湧川 勝己

 

1.はじめに

近年、広島で土砂災害を発生させた
線上降雨帯のバックビルディング現象による豪雨や積乱雲によるゲリラ豪雨などの時空間スケールの小さな豪雨、
2011年に紀伊半島・熊野川流域において計画降雨量の2倍にもなる流域平均降雨量1,200mm以上の降雨をもたらした
台風12号などの時空間スケールが中規模の豪雨など、
計画や現状の整備水準を大きく超える豪雨によって多くの都市や河川で被害が発生している。
これらの豪雨による被害を防止・軽減するために、鋭意河川の改修や下水道の整備が行われているが、
多発する豪雨に治水施設の整備が間に合わない状況になっている。
 
これらの豪雨災害が多発する状況を勘案し、
国土交通省では災害が発生するステージが新たなステージに移行したとの認識の下に、
「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」1)をとりまとめ、
生命の安全を確保する、壊滅的な経済被害を回避するという二つの防災対策の柱を明記し、
住民一人一人が居住する地域の自然災害に対するリスクに関する知識を深めて自助能力を向上させること、
アメリカで防災・減災対策として展開されているタイムライン2)などの有効性を高めて
壊滅的な被害を回避することなどを推奨している。
 
また、気候変動に対する適応策についての中間とりまとめ3)を行い、
河川洪水についても津波に対して提案された施設設計に用いる外力(L1) と
被害軽減対策検討に用いる外力(L2)を考えるべきであると結論づけて、
河川や下水道において対象とするべき最大クラスの外力についての検討を行っている。
 
本報告では、豪雨に対して被害を防止・軽減するための上述のような検討が進められている現状を踏まえ、
都市部における水害軽減対策の主体は住民と都市計画担当部局、防災責任者、下水道や河川の施設管理者であると捉えて、
関係者が浸水に対するリスクを認識し、
総合的な対策を推進するために必要な基盤としてのリスク評価手法・氾濫計算手法について考察を行うこととする。
 
 

2.都市部において水害を発生させる降雨

2-1 降雨の時空間スケール

水害を発生させる降雨は、その降雨現象の時間的・空間的スケールによって図-1に示すように分類される。
下水道では、降雨継続時間が1時間程度で、空間的に2㎢度の平均降雨量が計画対象(メソγの降雨現象)となり、
直轄河川では、降雨継続時間が12時間以上、空間スケールとして2,000㎢以上の平均降雨量が計画対象(メソαの降雨現象)となる。
なお、県管理の中小河川は、その中間の時間的・空間的スケールを有する降雨(メソβの降雨現象)が計画対象となっている。
 

図-1 降雨の時間的・空間的特性

図-1 降雨の時間的・空間的特性


降雨継続時間ごとに見た雨量の世界記録値と日本記録値(二宮・秋山1978)4)に加筆
 
一般に、下水道の管渠や河川の河道、ダムといった治水施設の計画は、計画対象空間の平均降雨量によって立案される。
したがって、計画対象空間が大きな河川では、計画対象空間(流域)において一様に降っている降雨が選定されることが多い。
逆に言えば、下水道の対象降雨となるような一部空間に集中的に降っている降雨は、
河川計画の対象空間の平均降雨量として整理を行うと、非常に小さな降雨量となるため、
河川計画の対象の降雨からは除外されることが多いということになる。
下水道の計画で対象となる雷雨性降雨(メソγ)と
中小河川の計画対象となる降雨(メソβ)の時間的な集中度合い(降雨強度)を見てみると、
図-2に示すようになり、同じ降雨強度でも対象とする空間エリアの違いにより平均降雨量の評価も異なり、
確率も異なったものとなる。
 
図-2 河川と下水道の対象降雨の特性

図-2 河川と下水道の対象降雨の特性


 

2-2 都市部におけるハザードマップ

計画対象となる降雨の時空間スケールが異なることから、
総合治水対象河川を除いては下水道と河川では基本的には個別に計画が立案され、
河川への排水量等について調整が行われるだけである。
また、浸水時の避難経路や避難場所等について記載したハザードマップ作成の基となる
水防法等によって規定されている浸水想定区域図も下水道と河川で個別に作成・配布されている。
前述のように管理者ごとに浸水想定区域図が作成されていることから、場所によっては、
国管理の河川の浸水想定区域図、県管理の河川の浸水想定区域図、下水道のハザードマップと
三種類の浸水想定区域図が配布されている場合もある。
このような三種の浸水想定区域図は、住民の立場から見れば、
それぞれの対象としている降雨が違うことによる浸水区域の違いや浸水深の意味するものの違いが十分に理解できないために、
浸水に対するリスク認識が醸成できず、対処の仕方も不明なものとなっていることは否めない。
 
後述するように、都市部における浸水被害軽減対策の主体として、住民は大きな位置を占めることを勘案すると、
住民が浸水に対するリスクについての認識を深められるような、浸水リスクに関する総合的な情報の提供などを行うことが望まれる。
 
 

3.水害対策のメニュー

3-1 総合的な水害対策の推進

水害対策のメニューは、一般的に図-3に示すように分類することが可能である。
 

図-3 治水対策の総合的な体系

図-3 治水対策の総合的な体系


 
水害対策は、基本的には下水道や河川等の治水施設の整備を行い、浸水リスクを低減することにあるが、
その整備規模については経済性の検討が行われ、治水施設整備に要する費用とその効果(浸水被害の軽減額)、
いわゆる費用便益分析の結果から得られる準便益(b-c)や費用便益比(b/c)を考慮し、
整備目標を定めることが一般的である。
 
また、治水施設の整備の実施にあたっては、全国や地域内の治水安全度のバランスを勘案しながら、予算配分が行われるので、
計画規模までの治水施設整備に多大な時間を要することが多い。
すなわち、計画されている治水施設が完成するまでは、計画規模降雨以内であっても現況の施設能力を超える降雨の場合には、
浸水被害が発生する可能性が存在するということである。
また、計画している治水施設が完成しても、計画を超える降雨が発生した場合には、浸水被害が発生する。
 
治水施設整備の整備規模は、公益が最大となるように決定されるので、
必ずしも個人や例えば病院等の施設が必要とする治水安全度とは一致しない場合がある。
このように個人や施設が必要とする安全度と治水施設整備の乖離がある場合には、
その差分(残余リスク)について、防水扉を設置したり、家屋を高床化したりする等の方策について検討を行う必要がある。
また、このような浸水対策を地域で共有して実施するために、
浸水リスクを都市計画に反映するなどして、土地利用の誘導等を図る必要がある。
 

3-2 対策の実施主体

水害対策の主体は、
河川や下水道の能力を改善する施設管理者、
都市の脆弱性を反映した都市計画を行う都市計画担当部局、
災害に対する警報や避難指示等を発令する防災責任者、
浸水に対するリスクを認識して対策を行ったり、避難指示等の発令に対して行動をしたりする個人(法人を含む)が存在する。
 
それぞれの主体が実施・展開する対策は、
居住している場所の地形的な特性や河川流域等の流出特性を十分に反映して検討が行われる必要がある。
下水道や河川の管理者は下水道管渠や河川に集まった水を対象とすればよく、洪水到達時間を対象とした計画を立てればよいが、
通常は河川等に至るまでの流出過程において発生する浸水までは考慮に入れていないので、
流出過程において発生する浸水現象については、
都市計画部局や居住者がその浸水現象の特性と浸水によるリスクを十分に認識した上でリスクを低減するに足る対策を行う必要がある。
 
図-3に示したようなリスク低減対策を、流出特性を反映して、各主体が重層的・効果的に行うためには、
現在提示されているような河川等の施設管理者が提供する計画規模の降雨が発生した場合の
最大浸水深を表示した浸水想定区域図だけでは不十分であり、
対策を実施する各主体、すなわち、浸水情報利用者の立場に立って、
降雨の規模と浸水現象の変化や浸水がもたらすリスクなどが理解しやすいものへと整理しなおす必要があると考える。
 
換言すれば、確率規模別の豪雨による浸水リスクについての評価を専門家が行い、
そのリスク情報とリスク認識を共有するためにハザードマップの作成を住民等と協働して作成するなどの行動は、
総合的・重層的な浸水対策を進める上において不可欠である。
また、関係者によるこのような協同作業は、国土交通省が推進しようとしているタイムラインの検討においても重要な事項である。
 
 

4.都市の浸水リスクの表示

4-1 内水と外水を扱う氾濫計算の必要性

都市部における浸水リスクの表示については、河川と下水道で別々に検討され、
それぞれに計画規模
(直轄河川では、例えば1/100、県管理の中小河川では、例えば1/50、下水道では1/10など)
の降雨が発生した場合の河川や下水道からの氾濫だけを対象として、浸水想定区域図として最大浸水深の表示を行ってきた。
そのようなことから、浸水想定区域図を基に行われるハザードマップの検討も、それぞれ個別に行われてきた。
これは、河川と下水道が計画上は独立して計画が立案されることと、
過去においては、河川と下水道を同時に扱うような計算手法やコンピュータの容量がなかったことによるものである。
 
しかしながら、大規模な降雨が発生した場合の現実の浸水は、
計画とは異なり大河川と中小河川および下水道からの氾濫が混在した形で生じるものであり、
大河川からの氾濫だけを対象とした最大浸水深を対象に被害軽減対策について検討を行えば、
浸水深を過小評価し、浸水被害軽減対策として不十分となることも想定される。
また、浸水被害軽減対策は、実際のオペレーションも伴うので、
計画事象だけでなく、実際に生じるであろうことを想定して検討を行うことが重要である。
 
前述のようなことから、都市部の浸水被害軽減対策を適切に進めるためには、
図-4に示したように大河川からの氾濫と中小河川からの氾濫および下水道からの氾濫を同時に考慮できる氾濫計算モデルを作成し、
検討を行うことが望ましい。
なお、氾濫計算を行う場合には、河川と下水道との相互関連を考慮できるように、
下水道のポンプから河川に吐出される排水量もポンプの性能曲線を入れ込むなどの工夫が必要である。
 

図-4 氾濫計算のイメージ

図-4 氾濫計算のイメージ


 
図-5 浸水深の時系列図

図-5 浸水深の時系列図


 
図-5は、
上述した氾濫計算モデルを用いて大河川の1/100の降雨に対する氾濫原内のある地点の浸水深の時系列変化を示したものである。
なお、同図には、従来実施されている大河川の浸水想定区域図での氾濫計算結果をあわせて示している。
この図から明らかになるのは、最大浸水深とその発生時間は内水を考慮した場合と考慮しない場合で大きく変化しないものの、
浸水深の時間的な変化は大きく異なることである。
 
このように、大河川からの氾濫計算結果だけを用いて避難判断等を行うと、
結果として安全に避難するタイミングを逸し、孤立者等を生み出す可能性がある。
危機管理の検討に用いる大規模な降雨になるほど、
一般的に降雨現象の時間的・空間的スケールが大きくなるので、
内水氾濫と大河川からの氾濫を同時に扱う氾濫計算を行うことが望ましいものと考える。
 

4-2 確率別の浸水深の表示

都市部における浸水被害軽減対策を総合的・重層的なものとして推進するためには、
河川や下水道の整備だけでなく、都市計画への浸水リスクの反映や住民の住まい方などに配慮が不可欠である。
ただし、それらの対策を合理的に進めるためには、
土地利用の誘導等で考慮することが社会的に許容される浸水発生確率等(例えば、1/30程度)を勘案しなければならない。
また、住居等の対策を検討するにあたっては、経済性等も考慮されるものと考えられるので、
現在のような、下水道や河川の計画規模の降雨が発生した場合の浸水だけでなく、
図-6に示したように1/10程度から最大降雨時に至る各確率別の総合的な浸水深について、
情報提供を行っていく必要がある。
 

図-6 確率別総合浸水深図の例

図-6 確率別総合浸水深図の例


 
このような試みは、EU洪水防御指令5)において義務づけられているハザードマップにおいても実施・展開されており、
浸水被害を軽減するための貴重な情報として位置づけられている。
 

4-3 最大クラスの外力に対する浸水深等の表示

都市部における浸水被害を防止・軽減するためには、電気やガス、水道等の公益施設の被害を防止するとともに、
被害が生じても復旧を速やかに行い、影響期間を短くするなど、浸水被害が社会経済へ与える影響を最小化することも肝要である。
また、企業の事業継続を可能ならしめる事業継続計画(BCP)の検討も重要である。
 
このようなタイムラインや危機管理、災害復旧計画検討を行うためには、
津波災害を防止するために取り入れられている治水施設設計の外力(L1)と
被害軽減方策検討のための外力(L2)の考え方を取り入れた外力の設定が重要である。
 
L2外力の設定を行うには、先述したEU洪水防御指令等で用いられている1/1,000の外力を用いるという考え方もあるが、
わが国のように水文観測の期間が短い上に、
南北に国土が拡がり、中央部に脊梁山脈が存在するなどで地域ごとに台風や前線等の影響が異なる水文特性を有している国では、
同一水文区を対象にした過去の降雨のDAD解析の結果等を用いてL2外力の設定を行うことが妥当であると考えられる。
 

図-7 水文特性からみた地域区分図

図-7 水文特性からみた地域区分図


 
図-8 DAD解析を用いたL2外力48時間雨量設定例

図-8 DAD解析を用いたL2外力48時間雨量設定例


 
図-7には、アメダスデータの降雨量データを用い、
クラスター分析等を行った結果から設定した水文区分の結果を示し、
図-8にはDAD解析を用いたL2外力設定の考え方の一例を示す。
 
 

5.おわりに

ゲリラ豪雨という言葉に代表されるように、都市部では豪雨による水害が頻発している。
この一因として気候変動による豪雨の増加等が言われており、豪雨が頻発する状況は今後も続くと想定されている。
 
一方、氾濫原である都市における土地利用は高度化し、地下街等の地下空間の利用も進んでおり、
一度、浸水が発生すれば被害は大きくなり、その継続時間も長くなる傾向にある。
また、人口高齢化の進行は、災害弱者を増加させている。
 
外力が激しさを増し、都市部の浸水被害に対する脆弱性が高まっている現状を勘案すると、
今まで以上に総合的な対策を展開し、社会全体としてリスクの軽減を図れるような体質に変化させていく必要がある。
各主体が実施する対策を有機的に連携し、実効あるものとしていくためには、
浸水被害に対するリスクの評価と各主体共通のリスク認識の醸成を図ることが不可欠である。
 
そのようなリスク評価およびリスク認識のための共通基盤として、情報利用者の視点に立脚した情報の提供が必要であり、
内水と外水を同時に取り扱った総合的な氾濫解析モデルの作成が不可欠である。
 
 
 

参考文献

1)国土交通省:新たなステージに対応した防災・減災のあり方(平成27年1月)
2)国土交通省・防災研究者合同調査団:米国ハリケーン・サンディに関する現地調査第二次調査団報告書(第一版)(平成27年2月)
3)社会資本整備審議会河川分科会 気候変動に適応した治水対策検討小委員会:水災害分野における気候変動適応策のあり方について 中間とりまとめ(平成27年2月)
4)二宮洸三、秋山孝子:降雨継続時間ごとに見た雨量の世界記録値と日本記録値(1978)
5)Official Journal of the European Union:DIRECTIVES 2007/60/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT ANDOF THE COUNCIL(2007.6.11)
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年6月号
特集 豪雨・台風・高潮対策
月刊 積算資料公表価格版2015年6月号
 
 

 

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