建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 雨水貯留浸透技術による都市型水害対策

1.はじめに

都市化により緑地、山林、田畑などが市街地に転換されると、ビルや住宅の屋根、舗装道路などの不浸透面積が増大する。
また、下水道の整備により、雨水がすみやかに河川に排水される。
その結果、大雨時の河川流量は、以前にも増して、ピーク発生までの時間が短く、
ピーク流量そのものも大きくなり、水害の危険度が高くなる。
加えて、近年の時間100mmを超える局所的豪雨の傾向がますます都市型水害の発生に拍車をかけている。
 
都市河川では、このような状況に対応すべく、従前の方法として、堤防の嵩上げ、河道の掘削・拡幅などが考えられるが、
すでに両岸に建物が連担している都市河川では、従前の対策だけでは限界がある。
そのため、河川に至る前に、雨が降ったその場(オンサイト)で処理する雨水貯留浸透技術の導入が不可欠となっている。
 
当初、洪水対策として出発した雨水貯留浸透技術であるが、雨水を貯めたり浸透させたりすることは、洪水対策であると同時に、
雨水利用、地下水涵養、湧水・河川の平常流量の復活、水質浄化、微気候の改善などにつながるとされている。
すなわち、いわゆる都市の健全な水循環系の構築になくてはならない技術であると言える。
 
本稿は、健全な水循環系を視野に入れながら、都市型洪水対策としての雨水貯留浸透技術に関連する施策の歩み、
効果評価の考え方、具体的な効果評価の事例などを紹介するものである。
 
 

2.雨水貯留浸透技術を取り巻く施策の歩み

表-1に雨水貯留浸透に係る国の関連施策の歩みを示す。
 

表-1 雨水貯留浸透に係わる河川および下水道関連施策の歩み

表-1 雨水貯留浸透に係わる河川および下水道関連施策の歩み


 
昭和52年、河川審議会は、旧建設省への答申の中で都市河川流域における総合的な治水対策の必要性を指摘した。
これを受けて旧建設省は、都市化の著しいあるいはこれから都市化が進むと想定される全国17河川を総合治水特定河川に指定し、
さらに昭和58年には流域貯留浸透事業を創設し、
校庭や公園などの公共公益施設用地への雨水貯留浸透施設導入を積極的に推進することとなった。
 
平成3年には、旧建設省の認可団体として(社)雨水貯留浸透技術協会が設立された(平成24年8月1日より公益社団法人へ移行)。
協会の定款には、雨水貯留浸透技術に関する調査、研究および開発を行い、その成果の普及を図ることにより、
治水、利水、環境のバランスに配慮した健全な水循環系の構築に貢献し、
もって国土の保全と国民生活の向上に寄与することを目的とすることがうたわれている。
協会の調査研究の最初の成果として「雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編」が平成7年に発刊された。
それまで浸透施設の治水効果については、
地盤の不確定要素、施設の浸透能力評価のあいまいさ、目詰まりによる機能低下などの課題があり、
貯留施設に比べて信頼性に欠ける点が指摘されていた。
この技術指針により、
地盤の浸透能力の調査方法とそれに基づく各種浸透施設の浸透能力評価式、安全率を考慮した設計方法などが明確になり、
その後浸透施設の治水効果が、貯留施設と同等に評価されるようになっている。
 
平成8年、河川審議会で健全な水循環の必要性が取り上げられた。
それを受けて平成10年には、
河川審議会水循環小委員会より「流域の健全な水循環はいかにあるべきか」と題して中間報告が提出された。
その中で、今後は流域単位で健全な水循環の構築に向けて水循環マスタープランを策定する必要があることが強調された。
 
平成9年には、昭和39年以来久方ぶりに河川法の改正が行われた。
その主要な改正点は、従来の「治水」、「利水」に加え、
「河川環境」(水質、景観、生態系等)の整備と保全が目的の1つに追記されたこと、
河川整備にあたって住民の意見を反映しなければならないことが書き込まれたことである。
 
平成14年に新世代下水道支援事業が創設された。
この事業は3つの事業から構成されており、その1つに、良好な水循環の維持・回復を目的とした水環境創造事業がある。
この事業は、さらに水循環再生型とノンポイント汚濁負荷削減型に分類され、
水循環再生型は、下水処理水の再利用、雨水の再利用や貯留浸透による流出抑制、親水性のある水辺空間の整備、
および河川事業等との連携・共同事業を行うことにより健全な水循環系の再生を図るものとしている。
 
総合的な治水対策の成果として、大きな浸水被害は影を潜めたかに見えたが、
気象変動によるものか、以前にも増して局所的な集中豪雨が頻発するようになり、
浸水被害の危険度はますます増大する傾向にあるとの認識がある。
このような状況を鑑み、総合的な治水対策をより確実に推進するためにも、
河川管理者、下水道管理者および地方公共団体が一体となって浸水対策に取り組めるような新しい法律として、
「特定都市河川浸水被害対策法」が国会において成立し、1年後の平成16年5月15日から施行に至っている。
これまでに、
鶴見川(町田市、川崎市、横浜市)、新川(名古屋市)、寝屋川(大阪市、守口市、枚方市、八尾市など12市)、巴川(静岡市)、
境川(豊田市、みよし市、刈谷市、豊明市など5市2町)、猿渡川(刈谷市、豊田市、安城市、知立市)が順次指定を受け、
昨年新たに、神奈川県の境川(町田市、相模原市、大和市、横浜市、藤沢市、鎌倉市)と
引地川(大和市、座間市、海老名市、綾瀬市、藤沢市、茅ヶ崎市)の両河川が加わり、合計8河川が指定を受けている。
この新しい法律により、
これまで法的な拘束力を持たなかった雨水貯留浸透施設の設置を、法的な根拠の下に義務づけることが可能となると同時に、
河川管理者と下水道管理者が連携して浸水被害対策に取り組める土壌ができたと評価される。
 
頻発する時間100mmを超える集中豪雨対策として、下水道総合浸水対策緊急事業が創設され、
また市町村の河川、下水道の管理者が連携して、対策プランを策定する100mm/h安心プラン登録制度が創設された。
100mm/h安心プランは、市町村対象の登録制度で、
平成25年度よりスタートして、本年2月3日現在、岡谷市塚間川流域が16件目の登録となっている。
 
最新のトピックとしては、昨年、衆参両院の議決を経て、
施行に至った「雨水の利用の推進に関する法律(雨水利用推進法)」と「水循環基本法」が挙げられる。
両法は密接な関係にあり、雨水利用は水循環施策の1つと考えられる。
雨水利用推進法については、国により推進の意義、方法、配慮事項などを定める基本方針案が提示され、
パブリックコメントを考慮した上で、最終的な基本方針が本年3月11日に提示されたところである。
今後は、国によりガイドラインの作成が行われ、各地方自治体においては、具体の方針、計画が進められることになろう。
 
一方、水循環基本法については、本年2月5日に水循環基本計画の原案(たたき台)が国より公表され、
今後は、有識者からの意見聴取とパブリックコメントを経て、夏までに閣議決定を目指している。
この計画案では、流域の総合的かつ一体的な管理の枠組みを規定しており、
表流水と地下水の一体管理の中で、雨水貯留浸透の役割は、ますます重要となろう。
 
 

3.簡便な効果評価手法

3.1 雨水貯留浸透施設の流出抑制メカニズム

図-1は、雨水浸透施設と雨水貯留施設の流出抑制効果のメカニズムの違いを説明している。
 

図-1  雨水浸透施設と雨水貯留施設の流出抑制効果のメカニズムの差異

図-1  雨水浸透施設と雨水貯留施設の流出抑制効果のメカニズムの差異


 
図左は浸透効果、図右は貯留効果のメカニズムを模式的に表している。
同図では、施設への流入量Qiは、時間とともに増大し、ピークを超えると減少する三角形で模式的に表している。
一般に、設計に用いる計画降雨波形は中央集中型で、作成方法は流域貯留施設等技術指針(案)1)に詳しい。
計画降雨に流出係数を掛けたものが施設に入力される有効降雨、流入量Qi となる。
 
図左の浸透量Iは一様な速度で地中に浸透すると仮定しているのに対し、
図右の貯留についてはオリフィスで絞ることにより、当初、流入量Qiより流出量Qoは小さいので、雨水が貯留槽に溜まっていく。
オリフィスからの流出量Qoは貯留槽の水位が上昇するに応じて増大し、
流入量Qiがピークを過ぎて減少に転じ、Qi=Qoになった時点(Qo=Qomax)で流出量Qoは減少に転じる。
実際の設計では、オリフィスの大きさを試行錯誤しながら、Qomaxが許容放流量以下になるように、オリフィスの大きさを決定する。
ここに、同図の薄く塗りつぶした部分のボリュームが貯留容量Vとなる。
一般に、ピーク低減量(Qimax―Qomax)は、貯留効果が浸透効果に比べてはるかに大きいが、
貯留施設は施設が満タンになるとそれ以上は効果が発揮されないのに対し、浸透施設は常に一様の効果が持続する利点がある。
流出抑制を効率的に行うには、貯留と浸透の両者の特徴を生かした組み合わせが望ましい。
 
図右、貯留効果について、流出量Qo(0〜Qomax)の平均値を1/2×Qomaxとすれば、
浸透効果と同様にこの平均値が一様に流出(浸透)すると考えて計算した貯留容量Vは、
オリフィスからの流出量を厳密に計算した場合と概ね一致する。
このような見方をすれば、貯留と浸透の効果を同じように考えることができる。
すなわち、許容放流量の半分を一様にカットした残りのボリュームが近似的な貯留容量Vとなる。
本節で説明した貯留浸透の効果を簡便に評価する手法は文献2)で詳しく提案されている。
 

3.2 簡便法を用いた設計事例

前節で説明した簡便な効果評価手法を用いた設計事例として、
「ロイヤルタウンみずき野」(群馬県住宅供給公社)3)を取り上げる。
当該開発地はJR両毛線・前橋駅の南東約5kmに位置する住宅地で、人と自然環境にやさしい街づくりを目標として開発されている。
開発面積は、6.85ha、戸建住宅の区画数は155である。
 
住宅地は、広瀬川と韮川に挟まれていることから流出抑制対策として、
各戸建住宅敷地内に浸透ます・浸透トレンチ、道路に浸透ます・浸透側溝・透水性舗装、公園に砕石空隙貯留をそれぞれ導入し、
流出雨水の河川への放流を許容放流量以内に抑え、地域内の大地に全て浸透させるシステムとした。
本システムの利点としては、地下水涵養による健全な水循環系への貢献と同時に、
一般的に設置されるオープン型の調整池を縮小もしくは省略することが可能であり、
縮小分を宅地に転換できる経済的メリットが大きいと考えられた。
 
各戸建住宅の浸透施設の設置パターンを図-2に示す。
 

図-2 「ロイヤルタウンみずき野」における各戸建住宅の浸透施設の設置パターン

図-2 「ロイヤルタウンみずき野」における各戸建住宅の浸透施設の設置パターン


 
各住宅敷地内には、浸透ます5基、浸透トレンチ35m、敷地に接する道路に浸透側溝20mが設置された。
その他主要な施設として、道路に透水性舗装6,490㎡、公園に空隙貯留88㎥が設置された。
当該地域は、浸透性の良い地盤で、現地実物浸透試験結果によれば、飽和透水係数として、3.24×10-3cm/sが得られている。
これらの施設の設計浸透量を集計した結果、設置施設の平均浸透強度は42.4mm/h、施設が有する空隙による貯留量は850㎥であった。
 
図-3 放流先である広瀬川の流量配分図

図-3 放流先である広瀬川の流量配分図


 
図-3は放流先である広瀬川の流量配分図である。
当該河川の流域面積は11.2㎢、広瀬川の流量配分は、支川の韮川と合わせて61.4㎥/sとなり、
許容放流比流量は、5.48㎥/s/㎢である。
この許容放流比流量から開発地の許容放流量に変換すると0.375&#13221/sとなる。
この値を開発面積6.85haで割り、単位を降雨mm/hrとなるように変換すると、許容放流強度19.7mm/hrが得られる。
ここに、許容放流量0.375&#13221/sは、オリフィスからの放流量ではないので、一様に流出するものと仮定した。
 
図-4 簡便法に基づく必要貯留量の算定

図-4 簡便法に基づく必要貯留量の算定


 
簡便法の考え方に基づいて、図-4を作成した。
中央集中型計画降雨は、前橋30年確率の降雨強度式r=7061.83/(t0.934+34.171)を用いて作成した1)
ここに、tは降雨継続時間または洪水到達時間(分)である。
当該開発地は一般的な規模の開発なので、t=10(分)とする。
降雨強度式にt=10(分)を代入して、計画降雨のピーク雨量rとして、165.1mm/hrが得られる。
得られた計画降雨のハイエトグラフに、土地利用から算定された平均流出係数0.711を掛けると、
有効降雨のハイエトグラフが得られる(図-4青色の部分)。
この有効降雨から62.1mm/hr(許容放流強度+浸透強度)をカットした残りの雨量分が必要貯留高に等しい。2)
 
必要貯留高=(117.4-62.1)/6+(81.1-62.1)/6= 12.4mm
 
ここに、各カットした残りを6で割っているのは、ハイエトグラフが10分刻みのため、時間雨量を10分雨量に換算しているからである。
 
必要貯留高から、必要貯留量を以下のように算定する。
 
必要貯留量=必要貯留高×開発面積=12.4/1,000×68,500=849.4㎥<850㎥
 
必要貯留量は、設置した貯留浸透施設の空隙貯留容量850㎥よりも小さいので、設計条件が満たされた。
この結果、別途調整池を設置する必要がなくなり、経済的なメリットも大きかった。
 
 

4.おわりに

総合治水が始められて、40年近くになる。
その間、雨水貯留浸透施設の普及が進められてきたが、河道、遊水地、放水路といった従来の河川計画のメニューに比べて、
特に浸透施設や小規模な貯留施設については、補完的な位置づけとされてきた。
しかしながら、局所的な豪雨対策、都市の健全な水循環系の構築など近年の特徴的な対策については、
分散型の雨水貯留浸透施設が見直されている。
 
本稿は、これら分散型の小規模施設の効果評価方法について、簡便な手法を示すことで今後の普及に役立つことを願うものである。
 
 
 

参考文献

1)(公社)雨水貯留浸透技術協会:増補改訂 流域貯留施設等技術指針(案)、pp40-42(2007)
2)国土交通省:雨水浸透施設の整備促進に関する手引き(案)、pp22-24(2010)
3)神田優:群馬県住宅供給公社の取り組み、水循環 貯留と浸透、Vol.80、(公社)雨水貯留浸透技術協会、pp40-44(2011)

筆者

公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 常務理事 忌部 正博
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年6月号
特集 豪雨・台風・高潮対策
月刊 積算資料公表価格版2015年6月号
 
 

 

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