建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 改正災害対策基本法に基づく、豪雪時の車両の移動について

 

1.はじめに

平成23年3月11日に発生した東日本大震災においては、救命救急の輸送路確保のため道路啓開の重要性が再認識され、
また平成26年2月の関東甲信地方の大雪では、立ち往生車両の処理が除雪作業の大きな弊害となった。
さらに、今後想定される首都直下地震等大規模災害時には、
道路の被災等により深刻な交通渋滞や大量の放置車両の発生が懸念されている。
 
これらの課題に対応するため、
大規模な災害発生時に道路管理者による放置車両・立ち往生車両の移動を可能とする規定を盛り込んだ
災害対策基本法の一部を改正する法律(以下、「改正災対法」という)が、平成26年11月14日に成立し、21日に施行された。
 
本稿では、改正災対法に盛り込まれた措置の概要について紹介するとともに、
平成26年度の降雪において、改正災対法を適用して、立ち往生車両等の移動を行ったので、その概要を報告する。
 
 

2.災対法改正に至った災害等

平成23年3月11日に発生した、東日本大震災では、道路をはじめとして甚大な被害が生じ、
被災地へのアクセスルートを確保するため、「くしの歯作戦」により道路啓開を実施し、
被災地における救急救命および復旧支援活動に大きく貢献した。
一方、首都圏においては、
地震発生と同時に公共交通機関が運転を取りやめたことや首都高速道路が全面通行止めになったことなどから、
道路に自動車が集中し、緊急車両の移動も困難になるほどの深刻な渋滞が発生した(写真-1)。
 

写真-1 東日本大震災時の東京の渋滞状況

写真-1 東日本大震災時の東京の渋滞状況


 
今後想定されている首都直下地震が発生した場合、道路上に溢れる車両をどのように処理するかが課題として認識された。
 
また、平成26年2月14日に関東甲信地方を襲った豪雪は、各地で記録的大雪となり、
道路・鉄道をはじめとした交通機関が麻痺状態となり、数日間に及んだ通行止めは社会経済に大きな影響を与えた。
道路においては、各地で立ち往生が発生し、これらの立ち往生車両が除雪作業の障害となり、
道路の除雪が滞るうちに、さらに別の場所で立ち往生が発生するといった悪循環が起き、
結果的に大規模な立ち往生が発生した(写真-2)。
 
写真-2 平成26年2月豪雪時の国道18号

写真-2 平成26年2月豪雪時の国道18号


 
こうした立ち往生車両をいかに迅速に移動させるかが、大雪時における除雪対応の大きな鍵であることが再認識された。
 
道路法においては、
災害現場での破損を含む物件の処分(道路法第68条)、長時間放置された車両の移動(道路法第67条2)は可能であるが、
適用可能な場面が限られることや、車両が対象となっていることが明確でないこと、
緊急を要する場合に車両の破損を含む迅速な対応が図れないなどの課題があった。
 
 

3.改正災対法の主なポイント

3-1 災害時における車両の移動(災対法第76条の6関係)

道路管理者は、災害が発生した場合において、車両等の物件が緊急通行車両の通行の妨害となることにより、
災害応急対策の実施に著しい支障が生じる恐れがあり、かつ、緊急の必要があると認めるとき、
その管理する道路についてその区間を指定して、車両等の運転者等に対し、
車両等を道路外へ移動することその他必要な措置を命じることができることとした。
また、運転者が移動の命令に応じない場合や不在の場合などには、道路管理者自ら、車両等を移動できることとした。
その際、やむを得ない限度での車両の破損や他人の土地を一時使用できることとし、損失補償規定も設けている。
 

3-2 都道府県公安委員会からの要請(災対法第76条の4関係)

現在の災対法において、都道府県公安委員会は、災害が発生し、まさに発生しようとしている場合において、
道路の区間を指定して、緊急通行車両の通行を確保するための交通規制を行うことができる。
したがって、当該規制と道路管理者による道路啓開との連携を確保するため、
都道府県公安委員会から道路管理者に対して、3-1で述べた区間の指定や車両等の移動を要請することができる規定が設けられた。
 

3-3 国土交通大臣または都道府県知事からの指示(災対法第76条の7関係)

緊急通行車両の通行を確保するためには、
高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道のネットワークで被災現場までのルートを確保する必要がある。
このため、道路管理者か前述の道路指定等を行うに当たって、
被災現場までのルート全体を広域的に俯瞰して必要な道路啓開が行われるよう、
国土交通大臣は都道府県知事または市町村長に対して、都道府県知事は指定都市以外の市町村長に対し、
必要な指示を行うことができることとする規定が設けられた。
 
なお、市町村から国や都道府県に対し道路啓開を要請する場合については、今回の改正災対法による車両の移動等に限らず、
災害対策応急対策全般について、被災市町村から都道府県に対し、また、被災都道府県から国に対して、
災害対策応急対策の実施を要請することができる規定がある。(災対法第68条、第74条の3)
 

3-4 損失補償(災対法第82条関係)

3-1で述べた措置により、特定の私人が経済上の損失を被ることが想定されるため、
災対法の損失補償に関する規定に、車両等の移動や土地の一時使用などによる損失補償の規定が設けられた。
 
 

4.今冬の降雪における改正災対法の適用状況

4-1 国道192号で初適用

平成26年12月5日から6日にかけて、北日本から西日本にかけて広範囲で雪が降り、日本海側や山沿いを中心に大雪となった。
特に、普段雪の少ない四国の愛媛県と徳島県を結ぶ国道192号の県境付近において、
大雪に伴う立ち往生車両が約130台発生し(写真-3)、
改正災対法を初めて適用し、立ち往生車両の移動措置を行った(写真-4)。
 

写真-3 国道192号の立ち往生車両の状況

写真-3 国道192号の立ち往生車両の状況


 
写真-4 国道192号の立ち往生車両の移動状況

写真-4 国道192号の立ち往生車両の移動状況


 
また、広島県と島根県を結ぶ国道54号の県境付近でも、約60台の立ち往生車両が発生し、改正災対法に基づき車両の移動措置を行った。
 

4-2 高速道路関係では東海北陸道で初適用

 

表-1 改正災対法区間指定実績(H26.12/5〜H27.3/11)

表-1 改正災対法区間指定実績(H26.12/5〜H27.3/11)


 
平成26年度の災対法の適用状況については、
北海道から九州に至る全国で、48区間(平成26年12月5日〜平成27年3月11日)で指定を行っている(表-1)。
 

4-3 改正災対法適用による効果

改正災対法では、「運転者への移動命令」「道路管理者自らによる移動」が可能となったことから、
車両移動の時間短縮が図られ、除雪を効率的に実施することが可能となり、早期の通行止め解除につながった。
 
従来は、運転者の同意を得て、車両の損傷に配慮しながら移動せざるを得ず、
また、運転者が不在の放置車両は、運転者を捜し出し移動要請を行っていた。
これらの課題を、改正災対法に基づき強制移動することにより、迅速な対応が可能となった(写真-5、6)。
 

写真-5 放置車両の強制移動状況

写真-5 放置車両の強制移動状況


 
写真-6 放置車両の強制移動後の掲示

写真-6 放置車両の強制移動後の掲示


 
 

5.今後の課題

5-1 事前の備え

 

写真-7 災害対策基本法に基づく車両移動訓練

写真-7 災害対策基本法に基づく車両移動訓練


 
改正災対法に伴い、車両移動の実働訓練(写真-7)や運用の手引きの作成、説明会等を実施し、事前に備えていたこともあり、
今冬の降雪対応では、比較的、円滑に災対法が適用され効果も上がっているが、いくつかの課題も浮き彫りになっている。
 
まずは、立ち往生車両を発生させない取り組みとして、降雪や路面状況、車両の走行状況に応じて、早めの通行止めを実施し、
効率的な除雪を行う体制や立ち往生車両が発生しやすい峠などの区間には、必要な除雪機械等を事前に配備することが必要である。
また、立ち往生車両が発生した場合の措置として、速やかに立ち往生車両の排除ができるよう、発生規模等を勘案し、
災対法の適用について速やかに判断・指定するとともに、道路管理者間の情報共有や連携の強化も重要である。
 

5-2 地震に対する放置車両対策

首都直下地震では、大量の放置車両が発生し、道路啓開作業に支障が生じると予想されている。
そのため、放置された車両を効率よく安全に移動させる必要があり、
関東地方整備局では、平成26年6月に「道路啓開時における路上車両移動技術研究会」を設置し、
被災を想定し既存の車両移動機材・技術の被災状況に応じた適応性を検討するとともに、
必要に応じた新たな車両移動機材・技術の検討を行っている(中間とりまとめ:平成27年2月20日公表)。
 

図-1 道路啓開実働部隊のイメージ

図-1 道路啓開実働部隊のイメージ


 
現在想定している道路啓開実働部隊は、
道路点検パトロールカー、応急復旧用重機、資材運搬車、レッカー等で構成されており(図-1)、
さらに、車両を迅速に、かつ大量に、そしてできるだけ車体を傷つけないよう新たな資機材が必要と考えられており、
研究開発そして実際の配備を進めていくこととしている。
 
 

6.おわりに

平成26年度の降雪対応では、改正災対法を適用させることにより、除雪の効率化や通行止めの時間短縮等の効果が見られた。
しかしながら、災対法の指定を行ったそれぞれの箇所においては、改善すべき点も見受けられる。
これらの実例等を検証し、今後の大雪等の災害時に適切に活かされるよう、周知に努めているところである。
 
また、今後想定されている首都直下地震や南海トラフ地震等においても、道路啓開が円滑に進むよう、
啓開計画の策定とともに改正災対法の適用や車両移動などの災害を想定した実働訓練を、引き続き充実させることとしている。
 
 
 

筆者

前 国土交通省 道路局国道・防災課 道路対策室 課長補佐(現 国土交通省九州地方整備局 佐賀国道事務所 所長)柳田 誠二
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年7月号
特集 雪寒対策資機材
月刊 積算資料公表価格版2015年7月号
 
 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品