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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 政府情報システム標準ガイドラインの詳説 第2回 政府情報システム導入プロジェクトにおける施工管理の考え方

はじめに

施工管理について、読者の方々には専門の方も多いと思います。
本稿では、「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」(以下、「標準ガイドライン」という。)
で想定している政策目標実現までの各種作業管理を「施工管理」として、
政府における情報システムの整備及び管理の際の施工管理についてお話をさせていただきます。
 
ITの話となると情報システムの開発に伴う発注者としての監督職員や検査職員の業務について思い浮かぶのではないでしょうか。
もちろん、監督業務、検査業務は大切ではありますが、
標準ガイドラインにおいては、単なる情報システム開発における発注管理だけでなく、
政策目標の実現までをプロジェクトとして捉えていますので、施工管理の範囲も自ずと異なるものになります。
 
なお、標準ガイドラインは、「世界最先端IT国家創造宣言」(平成25年6月14日閣議決定。平成26年6月24日変更)に基づき、
「政府におけるITガバナンス強化」のため、情報システム調達やプロジェクト管理に関する共通ルールとして策定され、
平成27年4月1日から施行されているところです。
 
 

標準ガイドラインの想定している施工管理

政府における情報システム導入の流れは、どのような業務がしたいかを見直しする「業務の見直し」、
それを実現するためにどのように情報システムを使うかを定義する「要件定義」、実際に情報システムを開発する「設計・開発」、
できあがった情報システムを用いて業務を行う「業務の運営と改善」、
利用している情報システムの運転管理や故障修理をする「運営と保守」、
そして適宜に情報システムの効果を把握したり、機能の見直しなどを行う「情報システムの見直し又は廃止」があります。
それぞれで調達が発生することから、「予算要求」、「調達」があり、
全体を管理する「プロジェクト管理」や「システム監査」などがあります。
 
このうち、目に見えてモノづくりを行うのがソフトウェアの開発であることから、
「設計・開発」がプロジェクトとして定義されることや発注者としての管理が必要なものとして、
従来から注目を集めてきたところです。
 
また、政府においては利用が進まない情報システムができるたびに、
要件定義や発注仕様書の不備や不適切な投資であることなどが指摘され、
その改善のために、より詳細な要件定義や仕様書の作成が求められてきました。
 
しかしながら、政府の職員が行う業務について着目してみると、
新しい業務をスタートさせることや、業務に用いるための情報システムを開発することが政府の職員の主なミッションとは思えません。
国民として期待しているのは、ソフトウェアづくりの詳細についてコントロールすることではないと思います。
業務の手順やそれに用いる情報システムがどのようなものであっても、
自分たちの生活の安心や、政府の行うサービスの品質向上、便利さやサービスの良さを実感できることだと思います。
 
そのように考えると、どれほどシステム開発の現場が粛々と行われていようが、修羅場だろうが、あまり関係なく、
質の高い新しい業務を開始して、国民の満足が得られるよう努力することが必要になるわけです。
 
そこで、本標準ガイドラインにおいては、
従来では設計・開発に注目されていたところですが、政策目標を実現できた時点をゴールとして設定し、
新たな業務を行う上で必要な、広報や普及・啓蒙などの活動、新業務のための規則整備、
業務のリハーサルなどの新業務開始までの様々な措置事項だけでなく、新業務開始以降も行われる様々な状況把握や業務の改善、
情報システムの見直しも管理の対象となっています。
 
このようにして多くの措置事項を積み上げることで、政策目標の実現というゴールを作り上げることが可能になります(図-1)。
 

図-1 標準ガイドラインの想定するプロジェクト管理

図-1 標準ガイドラインの想定するプロジェクト管理


 
職員が行う施工管理は、そのように各種活動をどのように行うかを段取りし、
「自らが行う」、「他の部局等に仕事を依頼する」、「調達した事業者が請負う」、などを適切にリソースとして配分し、
その実施状況について把握した上で、コントロールすることが必要となります。
 
ただし、リソースの的確な配分、適切な外注管理、と言うだけではイメージが湧きません。
あれこれと必要なものを並べたとしても、実際の業務や対象としている人たち、現在の業務が置かれている状況などにより、
やるべきことが異なってきます。
具体的には広く国民を相手にした新しい制度の適用と、特定の業界団体を対象とした制度変更とでは、
広報や啓蒙などの仕方も大きく異なることは容易に想像がつくかと思います。
 
そこで、作業を詳細化する前に自分たちのビジョンやサービスの対象者について明確にするよう勧めています。
その際に、マンションの広告を例示することがよくあります。
マンションの広告は、マンションのスペックなどよりも、
ライフスタイルやその地域の一員になることで自分がどのような快適さを得られるかについて訴求しています。
そこに住むのはファミリー層なのか独身者なのかが明確になっています。
 
これと同じように、自分たちの政策がどのような人たちを対象としているか、
国民や職員が新たな施策やサービスの提供を受けることで、どのような幸せを享受できるかを考えることにより、
その人たちのために必要な措置事項や必要な知見、必要な技術などを明らかにするようにできるのです。
これに伴い、どのようなリソースがいつ必要となるか、
予算の確保や調達はいつ、どのように行うかなどが見えるようになってくるのです。
 
 

政府におけるITプロジェクトの実際

では、実際はどのような管理を行うのでしょうか。
 
多くの場合、政府におけるITプロジェクトは、更地からの政策立案や情報システム導入というわけにはいきません。
なぜなら、何らかの既存業務や情報システムが存在するからです。
そのため、過去の業務や経緯に配慮しつつ、新しい業務や情報システムに徐々に移行していくことになります。
 
さらに、新旧の入り混じった業務や情報システムの混在する期間が長期に渡り存在し、
その中で齟齬がないように、新旧の情報システムで連携を行うことも必要ですし、
そこに格納されるデータについても、遺漏がないように移行することも必要となります。
当然、新旧の移行期間においては業務の変化に対応できるように、
各担当者に対して内部で教育もしなければいけませんし、人事異動に伴う継続的な教育も必要となってきます。
 
また、そうこうしているうちに、各種制度の改正や、サービスの充実に向けた改善への対応も必要になってくることで、
既存業務や新規業務の変更、情報システムの変更などが必要になってきます。
 
仮に、過去のしがらみを一気に断つことができたとしても、国民や職員に対していきなりサービスを切替えることもできません。
そこで周知期間や経過措置なども必要になってきます。
 
いずれにしても、今ある業務を切り分け、新業務へ徐々に切替えていきますし、
そのための情報システムについても同様に移行することになります。
 
情報システムの担当としては、
業務の切替え状況や利用者への浸透状況などを見極めつつ、情報システムを移行する必要があるのです(図-2)。
 

図-2 プロジェクトの実相

図-2 プロジェクトの実相


 
これだけのことを、数人の職員で、綱渡りどころか八艘(はっそう)飛びのようにこなしているのが現状です。
そのため、すべての作業を事細かに把握し、指導・監督することは、時間的にも体制上も困難になってしまいます。
そこで、管理の仕方について工夫するしかありません。
 
具体的には、事前に各種の管理要領を作成し、ゴールの明確化や責任分界の定義、進捗などの状況把握、
課題やリスクの共有方法、会議の開催要領など定めることで、プロジェクト内の管理を円滑に行えるようにしています。
標準ガイドラインにおいては、これらの要領についてひな形を用意するなどして担当の管理の一助としているところです。
 
事前に要領などを作成せずに、走りながら必要の都度考えればよいと思う方もいるかもしれません。
ある程度の能力と場数を踏んでいれば、それも可能ですが、
実際にプロジェクトを担当する職員はそのようなプロフェッショナルではありません。
走り出す前の余裕があるうちに、しっかりとルールを考えておくことが必要になってくるのです(図-3)。
 
図-3 標準ガイドラインにおけるドキュメントの関係

図-3 標準ガイドラインにおけるドキュメントの関係


 
このため、職員が自ら活用できるレビュー用のチェックシートの作成や、データベースを構築するなどして、
情報の蓄積や共有の基盤も作っています。
今後、これらの活用により、政府全体での管理スキルの向上を目指しているところです。
 
 

情報システム担当が担う「将来への責任」

以上のような管理ツール等を用いて、政府においては国民や職員のサービス向上のための施工管理を行おうとしているところです。
 
ところで、先にプロジェクトのゴールを政策目標の実現と説明したところですが、
政策目標を実現した時点で、その施策は終わりにしてもよいのでしょうか。
その施策を引き続き実施することにより、さらに効果を発揮できるのであればそのまま継続することも考えられます。
その判断は、プロジェクトを進めていく中で、目標の達成状況をモニタリングして判断することになります。
 
ここで課題となるのは、情報システムは永続的に使えるものではないということです。
 
サーバや端末などの機器をリースしているのであればリース期間が切れることもありますし、
ソフトウェアのサポートが切れてしまうことや、バージョンアップが必要になることもあります。
そのため、情報システムを新しいものに移行する必要などが生じてきてしまいます。
 
さらに問題なのは、実際に業務をしている中で、急な業務内容の変更、誤操作、業務の中断など、
様々な業務処理の過程における不測事態により、不適切なデータが生成され、ゴミデータがデータベースに蓄積されていくことです。
このような「ゴミ」を新しい情報システムに移行するわけにもいきませんので、クレンジングなどの作業が必要になります。
膨大なデータについて適切に処理が行われたか精査を行うわけですから、地道かつ根気のいる作業になります。
 
このような作業が発生しないように、適宜のデータのチェックやデータのクレンジング、業務処理の見直しなど、
業務実施期間中にデータが壊れないような仕組みを提供する必要があります。
 
また、制度改正などによる改修だけでなく、業務担当の職員の業務レベルの向上により、
情報システムの機能改善や機能追加が求められることがあります。
このようなニーズは業務品質を向上させることにつながるので、できるだけ実現したいところです。
情報システムが業務改善の足を引っ張っているというのは本末顚倒以外の何物でもありません。
 
このように新業務開始以降にも、業務が育ち、情報システムも育つ仕組みを確保するとともに、
次々期システムに適切なデータを受け渡すことができるようにすることも、情報システムを導入する上で必要な事項です。
これは業務を行えば行うほど、業務ノウハウやデータも蓄積され、組織全体の能力が向上することで、
提供するサービスの品質向上にもつながります(図-4)。
 

図-4 担当者が見る時間軸

図-4 担当者が見る時間軸


 
この業務やシステムを育て、データの完全性を確保することは、
情報システムを導入するだけでなく、運用開始以降や次世代に対する配慮が必要です。
そのため、現時点での業務や利用者の状況を意識するだけでなく、4年後、5年後さらには8年後などを見据えた視点が必要になります。
 
これを怠ると、職員が育たない、情報システムが旧来のまま変わらないなど、
いつまでも行政サービスが向上しない元凶を作ってしまうことになります。
 
これらは担当が意識しなければいけない「将来への責任」と言えると思います。
 
 

今後の課題

今まで記載しましたように、政府における情報システムの導入は様々な要素や時間軸を考慮する必要があります。
一方で担当する体制はそれほど充実したものでもありません。
 
情報システムは規模が大きくなればなるほど複雑性も増しますし、技術的な要素も高度になってきます。
ちょうど一軒家と高層マンションのような違いだと思います。
(実際に情報システムの開発は高層マンション1棟を建てるくらいの費用を投じることがしばしば見受けられます。)
 
さらにはIT分野の技術進歩は日進月歩です。
 
また、国民などの利用者のニーズも多様化が進むとともに、迅速なサービス提供が求められてきています。
 
重厚長大な情報システムではこれらの変化やニーズに、迅速に応えられませんので、
更なる効率化や柔軟性の向上が求められるところです。
 
これらを主導できる職員の育成とともに、手助けとなるツールや仕組みづくりについて、今後も更なる努力が必要と考えています。
 
このような標準ガイドラインに基づいた施工管理が適切に行われることで、情報システムの改善活動を通じ、
少しでも行政サービスが向上し、職員も含めた国民の暮らしがよくなることに貢献できればと思っています。
 
 
 

筆者

総務省行政管理局技術顧問 高橋 邦明
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2015年8月号
月刊積算資料2015年8月号
 
 

最終更新日:2015-08-24

 

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