• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > 事務所ビルの長寿命化に向けたバリューアップリニューアル

 

1.はじめに

日本メックス(株)本社ビルは1970年に竣工した建物を弊社が1995年に取得した(写真-1)。
 

写真-1 日本メックス(株)本社ビル外観

写真-1 日本メックス(株)本社ビル外観


建物概要
 
その後、耐震改修促進法改正に伴い耐震診断を行った結果、耐震性能が現行基準を満たしていないことが判明し、
建替えか長寿命化改修かなどの検討を行ってきた。
最終的には「建物利用者の安全確保優先」、「総費用の最小化」および「事業経営への影響への最小限化」を目的に、
居ながらの改修工事は現地建替えによる仮移転費用や建物賃料などの総額以内に抑えられることから、
自社施工による居ながらの長寿命化改修工事に踏み切った。
 
工事実施にさきがけ、社内にプロジェクトチームを設置し、全フロアのビル内移転を含めた計画を策定した。
今回の改修にあたっては、50年以上使用することを目標として、
一般の中小オフィスビルのオーナーの課題である
「保有資産の価値向上、ビル生き残りに向けた競争力のあるビル再生」に向けた推進事例として、
自社ビルをショーケース化し、来訪者への理解を深めるための「見える化」を図ることにより
「バリューアップリニューアル」を行った(図-1)。
 
図-1  日本メックス(株)本社ビルをモデルにした「バリューアップリニューアル」

図-1  日本メックス(株)本社ビルをモデルにした「バリューアップリニューアル」


 
 

2.長寿命化への課題と取り組み

本社ビルの長寿命化に向けて、仮移転費用等の総額を限度としてプライオリティをつけ、5つの課題を設定した。
【5つの課題】
①建物の安全性の確保
②執務環境の向上
③環境負荷の低減
④BCP(災害時の対策)
⑤居ながら工事中の執務環境への影響の最小化と安全確保
 

2-1 建物の安全性の確保

現状の建物の地震に対する抵抗機構がX 方向・Y方向で大きく異なるため、
日本建築防災協会の耐震診断基準による判定に加えて新築建物と同様に保有水平耐力計算を行い、
さらに立体弾塑性モデルによる振動解析を実施することで、振動性状もあわせて建物の特徴を把握した。
その結果、X方向は剛性が低く地震時の変形が比較的大きい架構で大梁の多くがせん断破壊すること、
Y方向はコア周りに耐震壁が集中しており偏心率が大きく平面的な剛性バランスが悪い架構で
既存壁もせん断破壊することが判明した。
 
このような建物性状に対して、
X方向は執務空間の機能への影響を考慮し地震力およびコストの低減を図る「応答制御型」の制振補強(制振ダンパー)と
従来型耐震補強(大梁の炭素繊維シート巻き・構造スリット)の併用を、
Y方向は偏心率の改善を行う「強度指向型」の従来型耐震補強
(座屈拘束ブレース・鉄骨ブレース・RC耐震壁・RC 壁増厚)を適材適所に採用した(写真-2、図-2)。
 

写真-2 座屈拘束ブレース(右)、制振ブレース(左)

写真-2 座屈拘束ブレース(右)、制振ブレース(左)


 
図-2 耐震補強計画

図-2 耐震補強計画


 
また、改修工事竣工後「建物安全度判定サポートシステム」(NTTファシリティーズの「揺れモニ®」)を導入したことにより
地震発生直後の建物安全度の評価ができ、被災後の取るべき行動と事業継続の適切な判断が可能となった。
さらに、このシステムと解析モデルを利用すると効率的、効果的な補修にも結びつけられ、
弊社が建物を末永く大切に使い続けたい思いと「安全の見える化」を具現化することができた。
 

2-2 執務環境の向上

執務の効率性およびオフィス空間のスペース効率を高めるために、
ユニバーサルオフィスの導入に向けて「オフィスガイドライン」を制定し、オフィス基準を制度化した。
また、各部門のコミュニケーション密度の分析を行い、
業務の関連性および近接性を考慮したスタッキング&ブロッキングと全フロアの移転手順計画とした。
 
これに加え、本社機能の一環として社員等の訓練・育成を目的とした実践設備を配備したトレーニングルームを併設し、
維持管理技術の維持・向上に活用してきた。
現在、さらなる高度な技術の維持・向上を目指してより充実したオペレーション研修施設を本社ビル内に構築中で、
これに相応しいオフィス空間としてもブラッシュアップ中である。
 

2-3 環境負荷の低減

国土交通省が行う「建築物省エネ改修推進事業」の助成金を活用して、
高効率空調機(写真-3)・LED照明・遮熱フィルムを採用した。
 

写真-3 高効率空調機

写真-3 高効率空調機


 
また、オフィススペースの中間期の冷房負荷を低減する自然換気の採用、
Hf照明器具の再利用やピークカット機能を備えた太陽光発電システム(写真-4、図-3)の導入を行った。
 
写真-4 停電対応型太陽光発電システム

写真-4 停電対応型太陽光発電システム


 
図-3 停電対応型太陽光発電システム

図-3 停電対応型太陽光発電システム


 
これに加え、壁面緑化やオフィス照明を個人のPCで1灯ずつ点滅コントロールできる装置を設置して省エネを図った。
 
この他の取り組みとしては、ハード面だけでなくソフト面でも整備を図り、
一般の中小規模ビルでも導入のしやすい「エネルギーモニタリングシステム」を導入することで消費電力を「見える化」し、
社員等の省エネ・環境配慮への意識を高め継続的に取り組んでいる。
また、毎月各フロア・各エリアの負荷別エネルギー使用量を把握し共有化している。
 
これらの省エネを含めた環境負荷低減により平成26年度は、
年間一次エネルギー消費量22.3%の削減(改修工事前平成21年度比)を達成した。
 
また、環境負荷低減の一環として外壁の刷新は敢えて行わず、
40年以上前と同じ外壁の佇まいを持たせ街並み形成の持続に貢献することで、廃棄物化の抑制を図っている。
 

2-4 BCP(災害時の対策)

蓄電池を備えた停電対応型太陽光発電システムにより災害時停電時のインターネットの通信用電源として使用可能とするとともに、
1階・2階のトイレ設備用電源として使用することでトイレ機能を確保した。
 
また、給水方式を受水槽方式から1階・2階を水道管直結方式に変えることにより災害時停電時の給水も可能となり、
災害時には近隣へ開放できるようにした。
 

2-5 居ながら工事中の執務環境への影響の最小化と安全確保

耐震補強を伴う工事は下層階からの施工を原則としているが、各フロアへの電源・通信を常時確保しなければならないことから、
工程の当初に新たなEPSに縦の主幹ルートを確保した。
工事の進め方としては、最上階に仮移転場所としての空きスペースを確保し、
1階のフロアを最上階に仮移転させ1階工事完了後に2階のフロアを最上階へ仮移転という工程を順次繰り返して実施した(図-4)。
 

図-4 居ながら工事のフロア移転プロセス

図-4 居ながら工事のフロア移転プロセス


 
この施工中、上下階で騒音・振動作業を行ったことから中間階からの社内苦情が発生した。
苦情に対する懸念は当初から予想していたが、社員等への影響を最小限にするため乾式静音ドリルを採用することとし、
RC壁の解体には可能な限りハンドクラッシャー使用した。
また、社内の重要イベント・会議開催情報などをあらかじめ入手し、一時的に作業を中断するなどの対策も講じた。
さらにはアンカーのドリリング作業場所・10m地点・上下階で騒音測定を実施・確認するとともに粉塵対策に注力しながら施工した。
 
耐震補強では、騒音・粉塵対策と工期短縮を目的に、座屈拘束ブレースには接着工法を、
RC耐震壁には一部代替にプレキャストブロック工法を採用し、アンカー本数を当初計画数より3,000本削減した。
 
 

3.まとめ

今回の居ながらの長寿命化の工事では適材適所の耐震補強を行い、BCP化、大幅な省エネ化と執務環境の向上を実現した。
 
本社ビルで実践したトータルバリューアップをモデルケースとして
ビル経営的視点から保有資産の価値を総体的に向上させる弊社のソリューション「バリューアップリニューアル」を
一般の中小オフィスビルオーナーに提案・提供していき、良質なストック環境の構築の一役を担うことができると考えている。
 
 
 

筆者

日本メックス株式会社 ソリューション営業部
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年12月号
特集 建築物の維持保全と長寿命化改修
月刊 積算資料公表価格版2015年12月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品