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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 海外CIM調査レポート-米国におけるCIM人材育成-

 

宮城大学 事業構想学部 デザイン情報学科
教授 蒔苗 耕司
一般財団法人 日本建設情報総合センター 研究開発部
影山 輝彰

 

はじめに

CIM(Construction Information Modeling/Management)とは、
公共事業の計画から調査・設計、施工、維持管理そして更新に至る一連の過程において、
ICTを駆使して、設計・施工・協議・維持管理等に関わる各情報の一元化および業務改善による一層の効果・効率向上を図り、
公共事業の品質確保や環境性能の向上、トータルコストの縮減を目指すものである。
 
平成24年度に提唱されたこの理念を推進するため、
JACIC研究開発部では、研究開発事業の一環として継続的に海外調査を実施している。
海外調査の主たる目的は、
CIMやBIM(Building Information Modeling)の国際標準化、基準・ガイドライン類や人材教育に関する動向を把握し、
わが国の建設生産システムでのCIMのあるべき姿や具体的な適用方法を検討するための参考または、基礎資料を得るためである。
 
平成27年11月、JACICでは、これらに関わる研究成果の一部を踏まえ、
国内の3次元CADソフトを実務として活用できる技術者を育成し、
CIMの普及に向けた環境を整備する「CIMチャレンジ研修」の開設を発表したところでもある。
 
 

CIMに関わる国際調査

平成27年度に実施したCIMに関わる国際動向調査は、
欧州での要領・基準・ガイドラインを主体とした調査と米国での教育・訓練を主体とした調査の2つである(表-1)。
 

表-1 平成27年度 CIMに関連する海外調査

表-1 平成27年度 CIMに関連する海外調査


 
今回は、教育・訓練調査を主体とした米国方面の調査概要を紹介したい。
 
 

BIMを核とした生産管理システムの構築 ニューヨーク市デザイン・建設部

ニューヨーク市の建設事業を担うデザイン・建設部(NYCDDC; New York City Department of Design and Construction)では、
平成26年より建設IT研究者であるF.Penamora博士(前・コロンビア大学工学・応用科学部長)をコミッショナーとして迎え、
BIMの導入を精力的に進めている。
今回の訪問では、Penamoraコミッショナーの他、K.F.Donnelly副コミッショナー、各担当者らから
BIMの導入状況等について説明を受けるとともに、意見交換を行った。
 
NYCDDCでは、数年前より大規模プロジェクトを対象にBIMの導入を開始し、平成24年にはBIMガイドラインを作成し(図-1)、
モデリングの対象物とその詳細度LOD(Level of Development)を定め、
受注者にはガイドラインに基づいたBIM実行プランを30日以内に提出することを求めている。
 

図-1 BIM Guidelines (NYCDDC)

図-1 BIM Guidelines (NYCDDC)


 
現在のガイドラインは主に建築物を対象としたものであるが、
平成28年春に発行予定の「BIM Guidelines 2.0※1」ではインフラ構造物や施設管理への拡張を予定している(図-1)。
またレーザー測量の有用性についても理解がなされ、BIMとの融合についても取り組んでいる。
教育訓練については、市独自に教育訓練プログラムは有しておらず、受注各社が独自で行っている状況である。
ただし最近の米国の大学教育では建設マネジメントに人気があり、
BIMに関する教育も盛んに行われており、基礎知識を持った技術者が輩出されるようになってきているとのことであった。
 
 

維持管理・サービスの一体化 マサチューセッツ州港湾局

マサチューセッツ州港湾局 (Massport)は、ボストン地域の3空港と港湾の建設・管理を担っている。
今回の訪問では、BIMを所管部局長のS. Sleiman氏からMassportの概要説明の後、
L. Burdi副局長、D.ArcieroマネージャーからBIMのガイドラインの整備状況等について説明を受けるとともに、
BIMに関する意見交換を行った。
Massportでは3年前から、設計の正しい理解、設計変更・干渉等によるRFI(Request for Information)の減少、
アセットマネジメントを目的にBIMの導入を進めている。
平成27年には「BIM Guidelines for Vertidcal and Horizontal Construction※2」を定め、
Vertial(建築物)、Horizontal(インフラ構造物)の別、概算費用に応じたBIMの利用指針を定めるとともに、
BIM実行計画(BIMxP)の作成方法、建築物に関するLOD(level of development)を定めている。
 

図-2 BIM Guidelines for V&H

図-2 BIM Guidelines for V&H


 
また、平成32年までのBIMのロードマップを作成し、
今後、プロジェクトマネジメント、教育訓練、そして施設管理、統合的なアセットマネジメントに至るまでの目標を段階的に示している。
また人とプロセス、技術のバランスを保つことが必要であると考え、
トヨタ生産方式に基づくプロセスマネジメント手法LeanをBIMと合わせて導入している点が大きな特徴となっている(図-3)。
 
図-3 BIMの流れと求められる3次元モデルの詳細度(LOD)Model Submissions

図-3 BIMの流れと求められる3次元モデルの詳細度(LOD)Model Submissions


 
 

明確な実施目標と着実な積み重ね ウィスコンシン交通局南東地域(WisDOT SE)

WisDOT SEはウィスコンシン州南東地域を管轄しており、
Zooインターチェンジ(IC)をはじめとした複数の大規模プロジェクトが集中している。
第1日はWisDOTウォーケシャオフィスを訪問し、 B. Wallace局長、S.Schmit副局長からの組織概要の説明後、
各担当者からMDU (Method Development Unit)におけるCIMへの取り組み、 Zoo IC改築プロジェクトの概要説明、
そしてZoo ICを中心とした南東地域の道路事業におけるCIMへの取り組みについての情報提供を受けるとともに、意見交換を行った。
第2日にはZoo IC現場事務所を訪問し、 R. Luck建設長からの概要説明の後、
3次元設計や文書情報の管理についての技術的情報に関する説明を受けるとともに、意見交換を行った。
また同日午後には、工事現場および交通管制センターの視察を行った。
 
WisDOT MDUは、州全体でのCIM(Civil Integrated Management)の導入のためのマニュアル等の整備を担当する部局である。
MDUでは3次元設計の有効性を高く評価し、
平成20年にAutodesk社のCivil3Dの導入、平成25年には”WisDOT Design Model”を定め、平成26年からその運用を開始している。
また教育訓練については、通常の講義形式では個人の習熟度の違い等により教育が難しいことから、
ビデオ教材を用いたオンライン教育を導入し、作業分野ごとにカリキュラムを設定している。
今後は、“Design Model”のさらなる整備を進めるとともに、その導入効果の検討、トレーニングコンテンツの改良、
そして建設契約管理システムとの統合、ライフサイクルを考慮した情報モデルの開発(図-4)を進めていく予定である。
 

図-4 CIMモデルの納品仕様

図-4 CIMモデルの納品仕様


 
WisDOT SEでは、平成25年にウィスコンシン大学と共同で3次元技術実装プランを作成し、
3次元モデリング、干渉評価、可視化、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)の導入までを対象とした平成27年までのロードマップを作成し、
CIM導入を進めている。
 
WisDOT SEの管内に存するZoo ICは、
2本のインターステートハイウェイと1本のUSハイウェイが交差する平均日交通量35万台の大規模インターチェンジであり、
道路構造改良のために大規模な改築工事を進めている。
平成24年に改築工事に着手し、平成32年度に竣工を予定している。
工事の実施においては、15分の通行遅延を最大限度としたガイドラインを設け、日中の交通制限を極力避けるよう実施している。
また工事による規制情報は、SNS等を含めたさまざまな媒体を通じて住民への周知を図っている。
工事の遂行ではCIMを積極的に導入しており、工事契約時に必要とされる大量の設計図書が不要となること、
3次元設計の導入により異なる工種間での干渉検出が極めて有効であることが示されている。
またプロジェクト管理においては、さまざまな文書管理のシステム化を進めていることと、
事業遂行において予算、スケジュール、変更管理、リスクマネジメント、ドキュメント管理等を含めた
工程管理が重要であることが説明された。
またCIM全体の調整役として“CIMコーディネーター”が重要な役割を担っている。
 
 

米国の流れ

今回の調査を通じて、米国の公共事業発注機関でのBIM/CIMの先進的な取り組みの状況を把握することともに、
それを進めるに当たってのさまざまな工夫や課題を把握することができた。
Horizontalとも呼ばれる土木インフラに関する取り組みは、米国においてもまだ試行段階にあるが、
Vertical(建築)でのBIMの急速な進展の影響を受けて、その整備は急速に進みつつあること、
またBIM/CIMの導入のための技術者への教育訓練も一体としてロードマップに取り入れられていることが明らかとなった。
 

新たな生産管理システムへの移行

米国では、5億ドル以上(または交通省の長官指定の)プロジェクトにはIPD (Integrated Project Delivery)※3を義務付けている。
 

表-2 ウィスコンシン交通局南東地域のIPD指定事業

表-2 ウィスコンシン交通局南東地域のIPD指定事業


 
今回現地訪問した、「Zoo Interchange」は、IPDの指定事業であるが、いくつかの理由により実施していないとのことであった。
なお、今回調査した組織おける調達方法は、主に設計施工分離発注方式であった。
これらの背景として、BIM、CIMの運用を始めたばかりであり、
従来の生産管理システムとの融合または置き換えを進めている途中段階であることが挙げられる。
 
しかしながら、BIM、CIMの利点を踏まえ、その効果を生かすための調達方法を取り入れるのは自然な流れと考えられる。
なお、今回調査した組織の全てにおいて、BIM、CIMを取り入れた新たな生産管理システムを運用するにあたり、
必須となる役割や部署が設置されているのが理由の一つでもある。
 

技術の進歩により求められる新たな役割と立場

現在、われわれの日常業務において電子メールやインターネットの利用が一般的になっているが、
これらの利用に当たり、企業内の情報システムの整備や管理を担う部局が組織されていることが多い。
自らの企業活動の中で新たな技術や手法を組織的に導入する場合には、
それらに対応した役割と立場が必要になるのは当然の流れである。
BIMによる生産システムでも同様であり、今回、調査した組織でも、CIMに専門特化した新たな役割・立場として、
BIMによる生産システムを管理する「BIM Manager」、
既存システムとの親和性の確認やデータ交換を専門とする「BIM Coordinator」が配置されている(図-5)。
 

図-5 新たな役割と立場 BIM Manager 等

図-5 新たな役割と立場 BIM Manager 等


 
このようなBIMの専門職員の配置は、CIMを円滑に利用していく上で重要な役割を果たしており、
今後、同様の試みは増加していくものと考えられる。
 
 

おわりに

平成24年度より、わが国においては、CIMの取り組みを始めたところである。
現在、国土交通省におけるCIM試行事業における取り組みは、
まずは試行を受注した業者が取り組めるところからCIMの適用を始めていた。
これを調査、設計、施工、維持管理に跨る段階へ広げるため、
河川・ダム、道路、橋梁の4分野において産学官CIMの取り組みが行われている。
 
平成28年度には「CIM導入ガイドライン(案)」を作成することが発表されている。
わが国においてCIMを核とした新たな生産管理システムの導入を進めるに当たっては、
今回調査した内容が大いに参考になると考えられる。
 
 
 
※1http://www.regional-alliance.org/news/nyc-department-design-and-construction-nyc-ddcseeking-smwbes-rfqs
※2https://www.massport.com/media/325526/MPAFinalDraftBIMGuide_021115_2133.pdf
※3http://www.fhwa.dot.gov/ipd/project_delivery/
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集1「本格化するCIM」
建設ITガイド 2016
 
 

最終更新日:2016-07-04

 

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