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株式会社 大林組 土木本部本部長室情報企画課
課長 杉浦 伸哉

 

はじめに

 
株式会社 大林組 土木本部本部長室情報企画課 課長 杉浦 伸哉氏
 
生産性向上を目的としたCIM導入は、国土交通省が2012年7月から本格的な取り組みとして進み始め、本年ですでに3年が経過した。
 
その間、多くの試行業務、試行工事が実施され、
また、同時に進められてきた建設機械と3Dモデルデータの連携による施工の効率化を高めるために、
2015年11月18日にはi-Construction構想が国土交通省からしめされ、その動きはさらに加速してきている。
 
これら新しい流れを起こさせざるを得ない状況となったのは、人材不足が大きく関与している。
 
建設就業者数が1997年のピーク時である685万人から2014年では505万人となり、
約120万人の減少(73.7%まで減少)となっており、今後、日本の人口構成や生産人口の減少の流れが変わらない限り、
品質を維持して施工を進めていくためには、一人当たりの生産性を向上させ、少数精鋭で臨まなければならない。
少ない人数で手戻りをなくし、多くの効率的な検討を行うには従来と同じ方法では実現できない。
規格化された製品を大量に作り上げる製造業と違い、
われわれ建設業が扱うものは、同じ条件がないものを一定の期限と品質を確保して取り組まなければならない。
そのためのツールとして、昨今CIMというマネジメント手法に注目が集まっている。
 
CIMは一般的に設計段階における不具合をなくし、計画段階から手戻りなく、効率的な設計を行うツールとしての位置付けである。
 
しかしながら、設計段階からの3Dモデルが流れてこない現状では、
施工段階での取り組みとして、何をしたいかを明確にすることでモデルの構築方法・活用方法が異なることになる。
 
本報告は、CIMというツールを「賢く」使うためのコツを、さまざまな事例をもとに現場で活用した内容を報告するとともに、
当社の事例ではあるが、施工CIMのROI(費用対効果)として定量的な観点からもその効果を説明したい。
 
 

施工CIM取り組みの効果は初期段階にあり

本来設計段階で、多くの検討がなされた3次元モデルが施工で利用することができるようになれば、
設計照査などの時間が短縮され、施工方法への検討が集中的に行える。
しかし、現段階では設計図をもとに施工方法を検討することで見えてくる不具合など、多くの問題を抱えているのもまた事実である。
 
そこで、施工段階でのモデル活用が効果的になるが、施工検討段階から設計図をもとにした3次元モデルがあれば、
当初の段階で多くの関係者が同じモデルを見ながら検討に参加することができるようになる。
実はわれわれ施工者も、必ず全員が同じ施工イメージを2次元図面から持ちあわせているかといえば、
然に非ず、同じイメージを持つためにスケッチを描いたり、長時間の話し合いを行って意識統一を図るといったことで、
多くの時間を割いてきた。
 
特に下水道施設などの地下躯体構造系の図面は枚数が多く、
また、建物のようにフロアごとの高さが同じレベルで統一されていないような場合が多くあり、
そのような図面を全員が同じレベルで理解するためには、相当な時間を要する。
 

図-1 複雑な躯体レベルの3次元モデル

図-1 複雑な躯体レベルの3次元モデル


 
図-1のように複雑な躯体レベルであっても、
3次元モデルが初期の段階からあれば、図面との不整合や施工検討の深度をさらに深めることが可能である。
 
その意味で当社では、できるだけ初期の段階で3次元モデルを構築し、それを活用することで、関係者全員の意識統一を図ったり、
施工検討時間を短縮し、協力会社との間で徹底的に利用することで、手戻りなどの時間を削減している。
 
結局、施工段階で便利なものは設計段階でも便利であり、
3次元モデルをまず、設計から受け取ることが施工を効率的、効果的に進めるためには非常に重要であることが分かっている。
 
 

土工事への見える化

土という不定形な形状の表現の難しさなどから、構造物の3次元対応とは違い、土工の出来形管理への取り組みには高いハードルがある。
 
3Dレーザースキャナによる点群を利用した形状計測管理は当社でも実施しているが、
3Dレーザースキャナにおける計測は、広範囲な計測には不向きで、
大規模土工では出来形数量や形状管理に必要な時間的制約や、データ処理の制約から実利用まで至らないことが多々あった。
 
そこで、大規模なエリアを短時間でいち早く形状を表現し、
出来形として、月ごとの土工形状を比較することで、土量を算出する取り組みを進めることにした。
 
土工現場全体の写真を大量に撮影し、その画像データを解析することで土工の出来形管理を実施することで、
短時間でいち早く現場の形状と、その形状差から土量を把握することで施工管理に役立てようとするものである。
 
当社では、現在、回転翼と呼ばれるUAVを6機保有し、固定翼と呼ばれるUAVを1機保有している(図-2)。
 

図-2 鉄道交差部の図面作成例

図-2 鉄道交差部の図面作成例


 
さて、この固定翼と回転翼では、その特性から、撮影できるエリアの大きさが違ってくる(図-3)。
 
図-3 点群取得手段の比較表

図-3 点群取得手段の比較表


※上記の精度は土工を扱う場合を想定したものであり、写真計測で取得される精度は「UAVの高度ターゲットの設置方法、写真の解像度」によりmmまで高めることは可能である。
 
これらの特性を生かし、あるいはこれらの特性を混ぜ合わせながら土工計測を実施し、全体を写真撮影し、
その画像から3次元点群を構築している。
 
UAVで撮影した情報が点群として画像解析され、その後点群としてモデルが生成される。
点群として生成されたあとは、時間軸でその点群データを比較することにより、土量変化を確認することが可能である。
 
3次元CADにさえなってしまえば、土量差分を出すことも容易にできそうに思われるが、
実はかなり高度な3次元CADを使った操作を行わなければならない。
そのために3次元CAD利用に精通しなければならないが、施工会社の職員が全員、3次元CADの利用に精通しているわけではない。
 
そこで「誰でも」「迅速に」「簡単に」実施することができるか否かという点で、
市販されているソフトウェアを組み合わせて利用する方法で、着実に差分を出す方法を実施している(図-4)。
 
図-4 点群を使った土量差分取得の流れ

図-4 点群を使った土量差分取得の流れ


 
非常に効果のある方法で、3次元CADの利用に長けた一部の職員だけが利用するのではなく、
全ての職員が対応できる仕組みを構築することこそ、施工での利用が進むポイントである。
 

1.計測管理データの見える化

ここでは、施工管理として重要な計測管理データの見える化事例を紹介する。
 
従来は計測機器から出力されるデータをExcelなどでグラフ化し、
閾値を超えるか否かという管理をするのが一般的な計測管理の見える化であった。
しかし、昨今の3次元データを表現する多くのツールを組み合わせることで、
偏位や応力の変化が線形上で時系列に見えることにより、変化の傾向が理解しやすくなった。
 
例えばトンネルの天端や側壁の変位といった地山の挙動を見える化することで、施工管理として全体像が把握でき、
安全管理のみならず品質管理への利用が可能である(図-5)。
 

図-5 トンネル内偏位計測の状況

図-5 トンネル内偏位計測の状況


 
●調査解析ツールの見える化を活用
トンネルで当社が開発したトンネルナビというツールと当初設計で作成したトンネルモデルの支保パターンを重ねることで、
このような分析も可能である(図-6)。
 
図-6 トンネルナビと支保パターンを重ねたモデル

図-6 トンネルナビと支保パターンを重ねたモデル


 
切羽写真などの情報と合わせて、切羽判定会議の資料として利用することで、
会議実施時間が3分の2まで短縮できたことは非常に効果のある内容であった。
 

2.施工管理ツールとしての活用

PC上部工工事への適用で、仮設足場計画検討、過密配筋の施工順序検討、品質続映の設定、たわみなど
計測データをモデルに取り込んで危険予知・回避といった施工管理での活用などで効果を発揮した(図-7)。
 

図-7 各種検討活用

図-7 各種検討活用


 
デジタルモックアップとしての活用では、
発注者〜技術者〜技能者間の良好なコミュニケーションで問題点・注意箇所の早期認識・特定や
計測結果のモデル取り込みで品質確保・工程厳守が達成された。
竣工後の不具合の原因特定手段としても利用される予定である。
 

3.合意形成ツールとしての利用

着工前の現地空間データに設計モデルを組み入れることで将来計画全体像を技術者・技能者だけでなく、
地元住民や納税者に対して現況〜施工各段階〜全体完成〜供用までを立体可視化して提供・共有化することで理解が深まり、
ステークホルダー全員の事業に対するベクトルが揃い迅速な事業推進が可能となる。
 

図-8 街づくりへの適用事例

図-8 街づくりへの適用事例


 
図-8は街づくりへの適用例で、
6Dモデルで街造り計画・ステークホルダー間の合意形成・土工計画・維持管理計画などの取り組みを実施している。
街全体のイメージ共有化は、図-8に示す地元説明会では質問に対して3Dモデルでは説明しにくい経時的な質問に迅速に対応でき、
また、関係機関との協議でも合意形成を早めるという効果があった。
 

4.最新テクノロジーを活用したイメージの共有ツール

当社では、これら3次元データを活用した見える化ツールや施工管理ツールとしての取り組みを当社職員だけではなく、
建設事業に携わる全ての関係者が共有することで、CIMの持つポテンシャルがいかんなく発揮できるものと思っている。
 
そのために、最新テクノロジーを建設産業にも適用することを積極的に進めている。
 
3Dモデルがあれば、仮想空間の中で自由に移動できるといったAR技術を通して、
多くの関係者が仮想空間のデータをもとに建設事業を進めていけるようなことが進むのではないかと、
これら新しいデバイスを使った建設事業への展開をさまざまな現場で取り組み始めている(図-9)。
 

図-9 最新デバイスを活用した仮想空間

図-9 最新デバイスを活用した仮想空間


 
 

3Dプリンターの進化も見逃せない

建築ではとかく華やかな3Dプリンターであるが、土木分野での進化はどうか。
 
ここに、2年前からの3Dプリンターの進化を並べてみた。
 
2年前に最初に作成したトンネル坑口部の3Dプリンターは石膏しか対応できなかったため、
3Dプリンターを利用することの意味をあまり感じられなかった(図-10)。
 

図-10 2年前のトンネル坑口部3Dモデル事例(石膏利用)

図-10 2年前のトンネル坑口部3Dモデル事例(石膏利用)


 
とりあえずトンネルではこんな感じというものしかできずに、感想としては、「まぁ」この程度かという感想が多かった。
 
図-11 デフォルメされたロックボルトモデル事例(石膏利用)

図-11 デフォルメされたロックボルトモデル事例(石膏利用)


 
図-11も石膏モデルのため、ロックボルトは忠実に再現できず、デフォルメされた形状しか表現できなかった。
土木では3Dプリンターの利用は躯体構造物といった建築的要素が多いものしか効果がないのではないかとも思われていたが、
図-12のように最新3Dプリンターを使うと、透明樹脂の材料が利用できるようになり、ロックボルトは忠実に再現され、
構造物系でなくても、地盤が透明にできるというアイデアを利用することで、さまざまな利用範囲が広がってきた。
 
図-12 透明樹脂を材料に使った3Dプリンター事例(透明樹脂利用)

図-12 透明樹脂を材料に使った3Dプリンター事例(透明樹脂利用)


 
図-13のように地山に透明樹脂を利用することにより、
トンネルの様子が透けて見えるモデルも作成することができるようになったことから、土木分野でも多くの活用が見込まれる。
 
図-13 地山を透明樹脂で作った3Dプリンター事例(透明樹脂利用)

図-13 地山を透明樹脂で作った3Dプリンター事例(透明樹脂利用)


 
●MMSの活用事例
点群を効率的に活用した事例を紹介したい。
 
現状構造物の図面がない場合の手段として、点群を取得することの意義は大きい。
点群が今の状況を忠実に表現し、スケールも合わせて3次元上で仮想的な空間を構築することが、
まさに施工検討を行う場合に非常に有益な手段となっている。
 
図-14 点群を利用した現状モデル

図-14 点群を利用した現状モデル


 
図-14を見ていただきたい。
2kmにわたり現状を取得した点群である。
 
点群を取得する際には、点群を利用する目的を明確にし、どこの範囲をどこまで取得し、
何を入れて何を入れなくてもよいかという事前の確認が重要である。
 
今回の例では、現状構造物の図面がなく、図面を再構築するために測量を実施しているところであるが、
それと合わせて短時間で取得することができる点群を活用することで、施工検討を平行して進めることが可能となった。
 
従来であれば、各自のイメージと平面を駆使した打合せを行っているところであるが、この点群を利用することにより、
形状確認や離隔の確認、最終構造物を重ねることで、施工手順を忠実に検討することが可能となっている。
 
このような使い方は施工ならではの使い方といえるのではないだろうか。
 
●ROIによる評価
当社では3年にわたり、3次元モデルの活用を施工で利用してきたが、同時に費用対効果もずっと継続して検討してきた。
 
図-15 UAVを使用した費用対効果

図-15 UAVを使用した費用対効果


 
例えば、UAVを使った場合の費用対効果を図-15にまとめてみた。
実際の測量を行った場合の出来形確認にかかる労務人工とUAV等のツールを使った場合の労務人工を比べた例である。
 
UAV等のツールを使った方が労務人工は必ず少なくなることは分かっているが、
定量的な数値として検討したところ、約74%も省力化されていることが分かる。
 
もちろん前提条件などの諸条件があるため、この74%という数値が全ての案件で適用できるということはあり得ないが、
他案件の状況を見ても、効果があることは明らかである。
 
このような数値をバックデータとして確認しながら、施工CIMを進めていくことは、
全員がその効果を感じながら進められるために重要である。
 
 

おわりに

2014年に土木学会の米国CIM視察調査団として参加した際、イリノイ大学のNora博士が
「20世紀のものしか使っていなければ、20世紀の方法で得た利益しか得られない。
 21世紀の新しいものを使って、プロセスやルールなどの仕組みを変えるパラダイムシフトができれば、
 20世紀の技術で得られる利益を大きく超えることができる」
と言われていた。
 
今まさに、建設産業は新しいマネジメント手法を得て、それをどのように活用するか、産学官全体で挑戦しているところである。
従来の手法でも十分対応できるマネジメントを21世紀型にチェンジすることは、従来の思考回路を大きく変える必要がある。
そのためには大局的な視野でマネジメント手法や全体プロセスを見直す必要がある。
 
施工フェースにとどまらず、本来の建設産業全体のイノベーションとしてCIMの持つ意味を理解し、
現状に満足せずさらなる活用の場を広げていきたい。
 
そのためには、個別最適化にとどまらず、施工全体の利用を流れとしてつなげていくことが重要だと思い、
将来の建設現場がICTやCIMといった生産性向上ツールを活用し、魅力ある建設業となることを期待してやまない。
 
少なくとも当社の現場では、これらの展開を積極的に進めることで、さらなる施工で効率化を図っていく予定である(図-16)。
 

図-16 ICTを活用した将来の施工現場

図-16 ICTを活用した将来の施工現場


 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集1「本格化するCIM」
建設ITガイド 2016
 
 

 

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