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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 国際的BIM調査「BIM SURVEY2015」に見る国際的なBIMの潮流

 

一般社団法人 建築・住宅国際機構
加藤 秀弥

 

はじめに

日本国内の建設業界でも「BIM」を耳にする機会が増えてきました。
本稿では海外におけるBIMに関連する話題の中でもイギリスRIBA Enterprise社が主催する
NBS International BIM Survey(BIM国際調査)の概要をご紹介します。
 
 

NBS International BIM Survey国際調査のこれまで

まずイギリスNBSについて紹介いたします。
NBSとは、National Building Specifi cation(国家建設仕様 http://www.thenbs.com)という仕様書の略称です。
その運営管理はイギリスRIBA(Royal Institute of British Architect:英国王立建築家協会 http://www.architecture.com)の子会社、
RIBA Enterprise社(http://www.ribaenterprises.com)が担当しています。
 
欧米における仕様書は、日本と異なり、契約文書の一部を構成する文書として位置付けられ、
プロジェクトごとに発注者・設計者が施工者に提示する重要な書類になっています。
その内容は、使用材料および施工方法(工法)の記述ですが、
コード体系化された工種分類や他の規格との連携が可能なシステムになっています。
設計内容に応じて、設計者が適切に書き換えが可能で、統一された書式、工種や工法のコード番号を用いることにより、
積算、施工計画、発注、施工管理など、建設業界全体で効率化が図られています。
 
こうした欧米各国における仕様書のシステムは古くから体系化され、運用されており、これらの国際標準化を目的として、
ICIS(International Construction Information Society:国際建設情報協会, http://www.icis.org)が
1990年代前半に設立されました。
日本からはIIBH
(Institute of International harmonization for Building and Housing:一般社団法人建築・住宅国際機構  http://www.iibh.org
にICIS対応国内委員会を設置し、会員として活動に参加しております。
BIMでモデルを作成する上で、工事仕様書は各要素の属性と密接な関係があるため、
BIMの動向はICISの重大な関心事になっております。
 

ICIS ロゴ

ICIS ロゴ


 
RIBA Enterprise社は“NBS”を登録商標とし、”NBS”をいわばブランド名として、
工事仕様書の整備に留まらず、BIMライブラリの提供や建設一般に関するセミナーの開催、出版、
テレビ局運営による建築関連教育の実施や行政情報の提供を行っています。
 
イギリス政府は2011年5月に「2016年から政府発注の工事にBIMの利用を要求」する計画を発表しました。
その発表に先駆けて、同年初めに第1回のNBS National BIM Surveyと称するアンケート形式の国内調査を実施しました。
その後、国内調査は毎年実施されております。
 
NBS International BIM Surveyと呼ばれるNBS BIM国際調査は、
国内調査と同様にアンケート形式で、2013年に初めて実施されました。
この調査は、NBSからICISに参加している国へ呼びかけられ、
イギリス、カナダ、フィンランド、ニュージーランドの4カ国が参加しました。
 
第2回目となる今回は、2015年にNBSから再びICISの参加国へ国際調査の呼びかけがあり、
今回は日本もIIBHを通じて参加しました。
日本ではICIS国内対応委員会を通じて回答者を募り、244名からの回答が得られました。
 
2011年のイギリス国内調査では、建設産業に従事する回答者のうち40%は「BIM」という言葉すら、認知されていませんでした。
その後、状況は年々改善され、2015年の国内調査時にはBIMを知らない人はわずか6%、
またBIMを経験したことがある人は39%に達しました。
ほとんどの人が今後5年以内に業務においてBIMに関与することになると予想しています。
イギリスでは2016年の政府調達案件での実用化に向けて、急速にBIMが普及してきたことが分かります。
 
 

2015年NBS BIM国際調査の参加国の概要

2015年のNBS BIM国際調査には、イギリス、カナダ、デンマーク、チェコ、日本の5カ国が参加しました。
前回参加したニュージーランドとフィンランドは、参加していません。
 
参加した5カ国のうち、政府調達案件に対しBIMを必須とする制度があるのはデンマークおよびイギリスで、
日本、カナダ、チェコではBIMの導入を促す制度は施行されていません。
 
以下に、参加5カ国のうち、日本と前述のイギリスを除いた3カ国について、
BIMに関連する概要を、調査報告書の記述を基に紹介します。
 

(1)カナダ

カナダでは、IBC(The Institute for BIM in Canada:カナダBIM協会, https://www.ibc-bim.ca) と
Digicon Information社(http://www.digicon.ab.ca)の協働で今回のNBS BIM国際調査に参加しました。
参加5カ国の中で、カナダだけが、前回からの継続参加になりましたが、
前回と比較すると、BIMの普及が緩やかであることが判明しています。
前述のように、政府の積極的な誘導でBIMに取り組むイギリスが急速に普及が進んだことと対照的といえます。
 
ヨーロッパで一般的に利用されているBIMソフトで数量調書を生成する機能は、カナダでは利用されていないとのことです。
 
IFCの利用率が低いのも、カナダの特徴で、これはAutodesk社のシステムの利用者が多く、
IFCを介したデータ交換の必要性が低いことが理由として挙げられると報告されています。
 
BIM普及の阻害要因として、設計事務所におけるインハウスのBIMソフトオペレーターの不足、
顧客からのBIM利用への強い要望の欠如が挙げられています。
 
カナダでのBIMの普及に対し、政府の明確な導入戦略や環境整備への関与が望まれることが報告されています。
 

(2)デンマーク

デンマークでは、bipsが調査を実施しました。
bipsは建設関連の非営利の業界団体で、建設業界の発展を目的として、各種標準類やツールを開発しています。
5年ごとに行動指針を策定しており、2011年から2015年の行動指針では建設の電子化の促進を掲げています。
 
デンマークでは2007年から公共プロジェクトに対して、建設のデジタル化の要求が法制化され、
これまで着実に電子化が進んできました。
2008年に独自に行なった国内調査の結果と今回の調査を比較しても、BIMは確実に普及が進んでいるとのことです。
 
普及が進むにつれ、経験や実務からのフィードバックを反映して、法令等の環境の整備も促進されています。
単純な建物で試行する段階から大型案件で実施する事例が増えており、
新しい手法やプロジェクトチームの標準的な編成の改善も進んでいます。
 
4つの国際標準からなるBIM用CCS分類システムもクネコ(Cuneco,)プロジェクトで開発されました。
4つの国際標準とは、不動産情報の取扱い規則、BIMオブジェクトライブラリ開発の標準、
BIM情報レベルの定義や計測標準、そして、電子入札の標準です。
 

(3)チェコ

チェコは、BIMの認知は増えつつあるとはいえ、まだBIMが浸透していない国といえます。
BIMソフトが高価なために中小企業からは敬遠されていることも多く、大企業での利用が増えているとのことです。
そういう意味からも、BIMの普及のためには法令等による誘導が必要としています。
 
BIM利用経験者の多数で、利用後の感想が良好であり、
また、顧客や施工者からのBIM利用の要望が増えるものと予想している回答者が多いようです。
 
 

2015年NBS BIM国際調査の概要

ここでは、NBS BIM国際調査の内容をデータとともに紹介していきます。
 

(1)BIMの認知度

 

図-1 ”BIM”を知っている

図-1 ”BIM”を知っている


 
図-1に示されているように、BIMを知っていると回答した人の割合を見ると、チェコでは回答者の半数程度にとどまっているのに対し、
他の参加国では90%以上で、BIMが広く認知されていることが分かります。
 
なお、各国とも主催者に近い団体から回答者を募っているという点では日本と共通しており、
他の設問を含む本調査全般において、調査結果が社会一般や建設業界全体を反映していると考えることはできませんが、
日本でも一定の認知度の広がりがあることが確認できます。
 
次にBIMを知っていると答えた人のうちで、現在BIMを使用していると回答した人の割合が図-2になります。
 
図-2 ”BIM”を現在利用している

図-2 ”BIM”を現在利用している


 
この図を見ると、調査時点で既にBIM利用が制度として求められ、
また建設の電子化に積極的なデンマークの利用者が高いのが数字に表れています。
一方、BIM必須が目前のイギリスが制度的な制約のないカナダより低いことや日本と同等であるのは目を引きます。
BIMを利用する制度環境と機運、社会的な経済力の3点が揃っているのがデンマーク、機運に欠けるのがイギリス、
制度環境が未整備なのが日本とカナダ、機運だけが備わっているのがチェコと読んでは早合点でしょうか。
 
この調査ではBIMとは何かという定義を明確に示していないため、回答者あるいは国によってBIMの意味が異なる可能性もあります。
例えばBIMは建設工事に必要な設計図や仕様書を統合したものという理解もありますが、
さらに広範に建物のさまざまな性能や履歴などを含めた情報を含む理解もあります。
 
図-3 業界として”BIM”とは何かが不明確である

図-3 業界として”BIM”とは何かが不明確である


 
回答者が感じるBIMの位置付けに対する不明確さを反映するのが、図-3の回答です。
いずれの国でも半数以上が、BIMの定義が不明確という回答を寄せていることが分かります。
もっとも、制度等の環境が整備されているデンマークで不明確と感じている回答も多く、
むしろ国民気質の生真面目さを表す結果とも読めそうです。
 

(2)BIMの理解

 

図-4 BIMの用途

図-4 BIMの用途


 
図-4の回答からBIM利用者がBIMで活用している機能は何かが分かります。
いずれの国でも立体的な可視化映像の利用がほぼ90%を超えています。
続いて、干渉チェック、技術的解析としての利用が多いことが分かります。
イギリスだけ技術的解析の利用率が50%を割っており、他国と差があるのが特徴的です。
 
図-5 ”BIM”とは

図-5 ”BIM”とは


 
図-5はBIMとは何かをどう捉えているかを示す回答です。
「BIMとはコンピューターソフトの一つである」という回答も、「BIMとは3次元CADである」という回答も、
約25%以下の少ない回答になっています。
BIMの活用によって、さまざまな立場から建物に関係する人々の相互の情報共有や協力関係の構築が容易になることや、
竣工後の建物管理での活用が可能となるなど、建設に留まらない技術であるため、
これらの回答が少数にとどまっているのは、BIMの特長が理解されていないと捉えることができます。
 

(3)IFCおよびCOBie

NBSの報告書では、BIM利用のメリットを最大限に活用するためには、IFCの利用が不可欠としています。
IFCの活用により、異なるソフト、
すなわち建設時の多様な業者のみならず関連行政庁や建物管理者に至るさまざまな業種や国をまたいで、
建物の情報を管理することが可能になるからです。
 

図-6 IFCを利用していますか

図-6 IFCを利用していますか


 
BIM利用経験者に対し、IFCの利用状況を問うた回答が図-6です。
デンマークではIFCが活用されていることが分かります。
デンマーク以外の国では、日本でIFCを利用している回答者が多いのが目を引きます。
 
一方、特にイギリス、カナダ、日本では利用しているファイル形式がIFCかどうかを認識していない回答が20%程度と少なからずあり、
IFCの重要性が十分に認識されていないことを示していると思われます。
 
COBieとは、建物竣工時に建物管理者に渡されるものを意図して開発されたBIMの出力形式です。
回答者のうちBIM利用経験者に対しCOBie出力を利用したことがあるかの質問に対する回答が図-7です。
 
図-7 COBie出力を利用していますか

図-7 COBie出力を利用していますか


 
この結果からCOBie出力がほとんど活用されていないことが分かり、今後の展開が課題と考えられます。
 

(4)BIM利用による環境の変化

BIMを利用することによって、従来の業務方法がどのように変化していくかを知る手がかりとなるのが以下の設問になると思われます。
 

図-8 BIMを利用すると仕事のやり方が変わる

図-8 BIMを利用すると仕事のやり方が変わる


 
BIMを採用した場合、業務フローの修正が必要と考えるかどうかというのが図-8の設問です。
上段にBIM未経験者、下段にBIM経験者を示しています。
BIMを採用することによって、業務フローの修正が必要と考えている人が多いことが分かります。
デンマーク以外の国では、BIM未経験者の方が業務フローの修正が必要であるという予想が多くなっています。
 
図-9 BIMの利用を求めてくる

図-9 BIMの利用を求めてくる


 
次に、顧客および施工者のそれぞれからのBIM採用の要望が増加するかどうか、BIM未経験者と経験者別の回答が図-9です。
BIM未経験者と経験者の回答を比較すると、
いずれの国および設問に対しても、経験者の方が顧客や施工者からの要望が増えると予想していることが分かります。
BIM経験者の回答を見ると、日本、イギリス、カナダでは顧客からの要望と施工者からの要望の増加の予想はほぼ同程度ですが、
チェコとデンマークでは施工者からよりも顧客からのBIM採用の要望が増えることを予想する回答の方が圧倒的に多くなっています。
チェコとデンマークでは、BIM未経験者でも同様の傾向が見られ、
BIMの採用は顧客に対するメリットに資する部分が大きいと考えられているように見受けられます。
 
一方、日本では、BIM経験者ではほぼ同程度ですが、
BIM未経験者では施工者からの要望の増加を予想する回答が多いことが分かります。
この傾向は日本では施工者のBIM活用が先行していることが一因にあると思われます。
 
図-10 BIMを使わなければ良かった/使いたくない

図-10 BIMを使わなければ良かった/使いたくない


 
BIM未経験者にBIMを利用したくないかとBIM経験者にBIMを利用して後悔したかを問うた回答が図-10です。
各国ともBIMを利用したことによって後悔した回答者は少なく、
BIMの利用を経験することによって、BIMに対して前向きな感想を持っていることが分かります。
 

(5)BIM行政に対する姿勢

 

図-11 BIMの施策について

図-11 BIMの施策について


 
図-11は、上段にBIMに対する政策を支持するという回答者と
下段に今後公共工事においてBIMの利用を促すと予想する回答者の割合を示しています。
イギリスでは、政策への支持率が高いことが分かります。
イギリスで公共工事へのBIMの導入の予想が高いのは、2016年の施策導入以降も対象工事の拡大を予想しているものと推測されます。
日本では政策に対する支持は低いにもかかわらず、将来のBIM導入の予想は高くなっています。
 

(6)BIM利用の予想

 

図-12 BIMの利用計画

図-12 BIMの利用計画


 
図-12は、現在BIMを利用している人、1年以内、3年以内、5年以内に使い始めると予想する回答者をそれぞれ表しています。
カナダとデンマークでは、1年以内に80%以上の回答者が使い始めると予想しています。
日本とイギリスでは3年以内に、チェコでは5年以内に80%以上の回答者が使い始めると予想しています。
 
参加国全般で見ると、5年以内には80%以上の回答者がBIMを利用し始めると考えていることが分かり、
今後5年間の間に急速にBIM利用が拡大することを予想する回答者が多いことが分かります。
 

(7)全般的に

これまで見てきたように、BIM導入に対する行政の姿勢やBIM経験者の割合は国によって異なることが分かりました。
図-13はBIMが建設プロジェクトにおける将来像であるかと考える回答者の割合を示しています。
 

図-13 BIMは建設プロジェクトの将来像だ

図-13 BIMは建設プロジェクトの将来像だ


 
この結果を見ると、総じて多くの回答者がBIMが建設プロジェクトの将来像を表しているという期待を抱いていることが分かります。
 
 

まとめ

BIM国際調査をを通して、調査参加国ではBIMは設計の将来像と捉えられており、
またこの変革は急速に起こると考えられていることが分かりました。
また、BIM経験者ほど、BIMの採用に対して前向きであることも分かりました。
 
例えば、設計フェーズにおける設計者同士のコミュニケーション、あるいは施工フェーズにおける建設業界内のコミュニケーションは、
従来から仕様書や図面のシステムを構築して不自由なく行われてきました。
紙の図面やCADによって建物情報を授受したり、建設プロジェクトの各フェーズ、
末端に至るまでの各分野の当事者のコミュニケーションによって成立していた従来のシステムを
BIMによる電子化したシステムに移行させるための動機付けには、各当事者間以外の外部的な要因が必要と思われます。
 
イギリスやデンマークでは、行政の誘導により導入が促進されていますが、
日本やカナダのように、強い施策のない国においても、導入が進んでいることを示す結果も確認できました。
 
また、日本では施工者においてBIMの積極的利用の研究が先行していますが、このBIM国際調査の結果を通じて、
BIMが建設業界を超えた社会全体に与える可能性という視点も、今後の議論が期待されるところです。
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集2「海外のBIM動向&BIM実践」
建設ITガイド 2016
 
 

最終更新日:2023-08-02

 

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