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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > buildingSMARTシンガポールサミットにおけるBIM海外動向

 

一般社団法人 IAI日本 IFC検定委員会委員長
足達 嘉信

 

はじめに

2015年10月中旬、シンガポールにおいてbuildingSMARTサミットが開催された。
本稿では、国際的なBIMの普及展開に関するさまざまなテーマについて話し合われたそのサミットの内容について紹介する。
 

図-1 buildingSMARTシンガポールサミットの全体会議の様子(2015年10月15日)

図-1 buildingSMARTシンガポールサミットの全体会議の様子(2015年10月15日)


 
buildingSMART International(旧表記はIAI, International Alliance for Interoperability)は、
建設業界におけるデータの共有化および相互運用(Interoperability)を目的として、
BIMの要となる3次元建物情報モデルIFC(Industry FoundationClasses)、
BIMデータ連携仕様を記述するためのIDM(Information Delivery Manual)、
MVD(Model View Definition)、分類コード体系を情報化するためのIFD(International Framework for Dictionaries)を標準化し、
その普及を目指している国際的な団体である。
buildingSMARTでは毎年春と秋の2回、BIMの国際的な普及展開に関わる技術的、実務的な課題の解決を進めるため、
サミットと呼ばれる国際会議を開催している。
今回のシンガポールサミットは、同じ会場で開催されたISO TC59会議、
およびシンガポールExpo会議場で開催されたGovernment BIM Symposiumとの合同開催となっていた。
 
2013年にBIMの3次元建物情報モデルIFCの国際標準化(ISO 16739:2013)が完了してから、
buildingSMARTの活動は、BIMデータ連携シナリオや、IFCに基づいたBIMデータ連携仕様、エンドユーザー向けBIMガイドラインなど、
BIMが活用されるために必要な国際的な仕組みの標準を策定する作業へ移行してきている。
また、道路、橋梁、トンネル、鉄道などのインフラストラクチャー分野へのIFC拡張も活発な作業となってきている。
これらの標準化作業は、下記の5つのRoomと呼ばれる委員会で行われている。
 
●Building Room:BIMガイドライン、BIM教育、IDM、MVDなど建築分野のBIM活用に必要な標準、ドキュメント、
 技術仕様などの作成を行う
●Infrastructure Room:道路、橋梁、トンネル、鉄道分野へのIFC拡張を行う
●Product Room:IFD、分類体系コードなどの標準をBIMライブラリへ活用する手法の開発
●Regulatory Room:建築申請分野へのBIM活用ガイドライン策定や、自動チェックシステムの研究など
●Technical Room:IFC拡張、メンテナンスおよびセマンティックWebへのIFC活用手法の研究など
 
本稿では、buildingSMARTシンガポールサミットの各委員会(Room)において共有されたBIMガイドライン、BIM教育プログラム、
BIMライブラリ、インフラ分野へのBIM活用などの各国のBIM関連の動向について以下に紹介する。
 
 

BIMガイドライン

BIMガイドラインデータベース

 

図-2 buildingSMART BIMガイドラインプロジェクトがまとめたBIMガイドラインマップ

図-2 buildingSMART BIMガイドラインプロジェクトがまとめたBIMガイドラインマップ


 
Building Roomに設置されたBIMガイドラインプロジェクトは、
世界各国で発行されたさまざまなBIMガイドラインを収集し、データベースとして整理をした。
現在、BIMガイドラインデータベースには、77のBIMガイドラインについて、
名称、作成者、ガイドラインの種別、概要、目次などの情報がデータ化されている。
図-2に示しているのは、BIMガイドラインデータベースから、作成場所が世界地図として表示している様子である。
 

シンガポールのBIMガイドライン

アジア地域でもBIMの普及が急速に進展しているが、
中でも今回のサミット開催国のシンガポールはBIM活用に関しては先進的な取り組みを行っている。
シンガポール政府の建築建設局(BCA, Building and Construction Authority)は、2012年から2015年にかけて順次、
以下のように建築確認申請時のBIMモデル提出(BIM e-Submission)の義務化を進めてきている。
 
●2013年は2万㎡超の建築物における意匠モデル
●2014年は2万㎡超の建物における意匠・構造・設備モデル
●2015年からは5,000㎡超の建物における意匠、構造、設備モデル
 

図-3 シンガポールBIM基本ガイドラインのイメージ

図-3 シンガポールBIM基本ガイドラインのイメージ


 
シンガポールではこのBIM e-SubmissionによりBIM活用度を高めることを目指しており、
必要なBIMガイドラインの策定、教育プログラムやBIMを採用したプロジェクトへの助成金など、
BIMを根付かせるためのさまざまな仕組み作りに取り組んできている。
 
シンガポールでは、BIM e-Submission向けのBIMガイドラインの他に、BIM基本ガイドライン(BIM Essential Guide)と呼ばれる、
下記のような各職能向けのドキュメントが公開されている。
 
●BIM Essential Guide For Architectural Consultants:意匠設計編
●BIM Essential Guide For BIM Adoption in an Organization:BIM採用組織編
●BIM Essential Guide For BIM Execution Plan:BIM実行計画編
●BIM Essential Guide For Civil&Structure Consultants:土木・構造編
●BIM Essential Guide For Contractors:施工者編
●BIM Essential Guide For MEP Consultants:設備設計編
 

フィンランドのBIMガイドライン

2007年、フィンランドにおいて公共建築の発注・維持管理を行っているSenate Properties社が
BIMガイドライン(BIM Requirements)を公開した。
その後、2012年にCommon BIM Requirements(COBIM)として、
国レベルの共通BIMガイドラインとして13編のドキュメントが公開されている(図-4参照)。
 

図-4 フィンランドの共通BIMガイドライン(COBIM)英語版の表紙イメージ

図-4 フィンランドの共通BIMガイドライン(COBIM)英語版の表紙イメージ


 
原文はフィンランド語であるが、英文のドキュメントも公開されている。
2014 年には建築確認分野の14編目のフィンランド語のドキュメントが公開された。
 
●Series 1:General part:概要編
●Series 2:Modeling of the starting situation:モデル初期設定編
●Series 3:Architectural design:意匠設計編
●Series 4:MEP design:設備設計編
●Series 5:Structural design:構造設計性
●Series 6:Quality assurance:品質保証(モデルチェック)編
●Series 7:Quantity take-off:数量積算編
●Series 8:Use of models for visualization:ビジュアライゼーション編
●Series 9:Use of models in MEP analyses:設備分析編
●Series 10:Energy analysis:エネルギー分析編
●Series 11:Management of a BIM project:BIMプロジェクトマネージメント編
●Series 12:Use of models in facility management:FM編
●Series 13:Use of models in construction:施工編
 
今回のサミットでは、building-SMARTスペイン支部から、
このフィンランドCOBIMガイドラインのスペイン語版の翻訳が完成したとの報告があった(図-5参照)。
 
図-5 COBIMを基に作成されたスペインのBIMガイドライン

図-5 COBIMを基に作成されたスペインのBIMガイドライン


 
フィンランドのCOBIMは、エストニア、ポーランドにおいても翻訳がされているとのことである。
また、IAI日本支部BIMガイドライン分科会においても、2012年から2013年にかけてCOBIMの内容に関する分析を行っているが、
COBIMは各国のBIMガイドライン策定にさまざまな形で貢献し、影響を与えているといえる。
 

フィンランドのインフラ分野のBIMガイドライン

フィンランドではインフラ分野へのBIM活用を進めるためInfraBIMプロジェクトを推進している。
これは日本におけるCIM(Construction Information Modeling)に相当するものである。
InfraBIMプロジェクトは、2015年にインフラ分野のBIMに関するガイドラインを
Common Infrastructure modeling requirementsとして公開した(図-6参照)。
 

図-6 フィンランドのインフラ分野BIMガイドラインのイメージ

図-6 フィンランドのインフラ分野BIMガイドラインのイメージ


 
ガイドラインは12章から構成されており、原文はフィンランド語である。
現時点で12章の内4章が英文に翻訳されている。
 
 

BIM教育プログラム

BIMが要求されるプロジェクトが増加するにつれ、
発注側、受注側の人材にBIMについての知識、運用、管理能力などが求められるようなってきている。
組織的にBIMを推進する場合、BIMソフトウェアの操作のみならず、BIMの実行計画を策定したり、
BIMプロセスをマネジメントしたりする多様なBIM能力が必要となる。
そのようなBIM人材を募集する際にも、どのようなBIM能力が求められているかを明確にするため、
BIMに関するスキルセットの定義が求められるようになってきている。
今回のサミットでも、特に国境をまたいだBIM人材を募集する際には、
国際的に共通なBIM能力、職能、認定制度などが必要になるとの認識が高まってきていると感じた。
 
英国では、公共建築プロジェクトへのBIM導入を2016年までに達成させるため、BIM人材の育成に関しても力を入れている。
BIMマネジメントに関するスキルセットを定義し、それらをBIM教育プログラムとして構築して、
一定レベルのBIM運用力を持った人材の育成を体系的に行う資格認定の仕組みを構築する計画を進めている。
同様な、BIM人材の認証に関しては、ノルウェー、フィンランド、シンガポールなども積極的に進める動きを見せている。
 

ノルウェーのBIM教育

ノルウェーでは、BIM人材の教育カリキュラムを、
基本編、マネジャー編、発注者編、コンサルタント編、施工者編、行政機関編などから構成し、
2日間で履修できるBIM教育コースの提供を開始している。
基本編では45、設計者・施工者編では89の教示ポイントを設定し、eラーニングサービスも提供している。
BIMソフトウェアに関するトレーニングは、このカリキュラムには含まれていない。
ソフトウェアのトレーニングは、ソフトウェアベンダーのトレーニングプログラムと組み合わせるとのことである。
 

シンガポールのBIM教育

シンガポールにおけるBIM教育は、建築建設局BCAの教育機関であるBCA Academyが中心なって進められている。
BCA Academyは、建築・建設関連のさまざまな技能研修が受けられるように、教室や技能研修施設を備えている。
BIM関連では、BIMソフトウェアトレーニングや、
3次元計測、VR装置などの研修が可能な教室やワークショップを持つBIM Studioと呼ばれる施設を備えている。
 
シンガポールのBIM教育カリキュラムは、以下のような数種類のコースが用意されている。
5カ月間のパートタイムで履修するコース、4日間(32時間)で履修するBIMモデリング認証コースなどがある(図-7参照)。
 

図-7 シンガポールBCA AcademyのBIM教育コース案内

図-7 シンガポールBCA AcademyのBIM教育コース案内


 
●BIMモデリング認証コース(意匠)
●BIMモデリング認証コース(設備)
●BIMモデリング認証コース(意匠)
●BIMマネジメント認証コース
 
例えば、BIMモデリング認証コースでは、
BIMの基本、BIMツールユーザインターフェース、モデリング演習(マスモデル、敷地モデル、ビジュアライゼーションなど)、
電子申請(e-Submission)演習、BIMライブラリ作成などがコースの概要である。
受講料は1600シンガポールドル(約15万円弱)であるが、助成金を適用すると553ドル(約5万円)となる。
 

BIM職能について

今回のサミットでは、BIMに関わる職能、職務(Role)に関して用語を整理する検討会が立ち上がった。
今回の会議では、下記のような職能が例として上がられた。
 
●BIM Modeler:BIMモデルを作成
●BIM Coordinator:BIMプロセスのコラボレーション管理
●BIM Manager:BIM環境の構築・管理
 

図-8 BIM職能の構成イメージ

図-8 BIM職能の構成イメージ


 
図-8に示すのは、buildingSMARTスペイン支部が作成したBIM職能の検討資料で、
BIM Coordinator,BIM Specialist,BIM Expert Master,BIM Managerなど4つ職能に分かれており、
それぞれ複数のBIM能力単位から構成されている。
今後、国際的に共通なBIM職能定義を検討することになる。
 
 

BIMライブラリ

buildingSMARTのサミットでは、ここ数年BIMライブラリに関する報告や検討テーマが増加してきている。
一つは各国のBIMライブラリ整備に関する報告で、
英国NBSのNational BIM Library、ドイツ技術者協会が中心となってISO化を進めている設備系のBIMライブラリ、
ノルウェーのbuildingSMART Data Dictionaryを活用したBIMライブラリ、今回フランスから報告があったPPBIMプロジェクトなど、
さまざまな活動が進められている。
2015年10月、日本においてもBIMライブラリコンソーシアムが発足し、
本格的なBIMライブラリの共通プラットフォームの検討が開始されたところである。
 
本稿では、ドイツ、英国のBIMライブラリの動向と、
BIMライブラリの整備には必須である分類コード体系の標準に関する最新情報を以下に紹介する。
 

図-9 BIMライブラリの事例(左:ISO 16757、右:英国NBS National BIM Library)

図-9 BIMライブラリの事例(左:ISO 16757、右:英国NBS National BIM Library)


 

ISO 16757:設備機器BIMライブラリ

ISO 16757(Datastructures for electronic product catalogues for building services)として
設備機器のBIMライブラリに関連する標準が策定されている。
この仕様の基になっているのは、
ドイツ技術者協会が開発してきたVDI3805と呼ばれる設備機器の3次元オブジェクトライブラリである。
設備分野の電気、空調機器などにおいて、
技術計算可能な属性データやパラメトリックな幾何形状表現を持つ3次元機器ライブラリをIFCで表現することを目的として、
ISO TC59 SC 13/WG11において標準化が行われている。
 

NBS National BIM Library

王立英国建築家協会RIBAの下部組織であるNBS(National Building Specification)が進めている
National BIM Library(図-9の右参照)は、BIMライブラリの一つのプロトタイプとして注目されている。
NBS BIM Object Standard v1.2としてBIMライブラリの技術的仕様が公開されている。
今後、buildingSMARTにおけるBIMライブラリに関するデータ連携の標準化において、
NBSのNational BIM Libraryのフレームワークは参考になるものと考えられる。
 

分類コード体系標準

BIMライブラリを整備する際、建設ライフサイクル全体を対象とした分類コード体系の活用が重要な要素となる。
BIMライブラリが含むBIMオブジェクトの種別や属性情報を産業横断的に情報を流通させるためには、
部材、空間などの機能、プロセス(フェーズ)、製品、材質、性能、関係者の役割などがコード体系としてまとめられている必要がある。
米国のOmniClass、英国のUniclassなど、各国にBIMで参照される分類コード体系が存在しており、
これらがBIMライブラリの定義においても活用されている。
 

図-10 BIMライブラリに関連する分類コード体系関連の標準とIFCの関係

図-10 BIMライブラリに関連する分類コード体系関連の標準とIFCの関係


 
図-10は、IFC,IFD(building-SMART Data Dictionary)と分類コード体系に関連する標準の関係を示している。
 
●ISO/IEC/EN 81346-1:2009:Industrial systems,installations and equipment and industrial products — Structuring principles and reference designations — Part1:Basic rules
●ISO/IEC/EN 81346-2:2016:Industrial systems,installations and equipment
and industrial products — Structuring principles and reference designations — Part2:Classification of objects and codes for classes
●ISO 81346-12:2016:Industrial systems,installations and equipment and industrial products — Structuring principles and reference designations — Part12:Construction works and building services
●ISO 12006-2:2015:Building construction — Organization of information about construction works — Part 2:Framework for classification
●ISO 704:2009:Terminology work — Principles and methods
●ISO 22274:2013:Systems to manage terminology,knowledge and content — Concept – related aspects for developing and internationalizing classification systems
 
 

シンガポールサミットからみるBIMの展望

BIM関連の認証

今回のbuildingSMARTシンガポールサミットでは、BIMの展開に必要な仕組みとして、
BIMの職能・職務、それと連動したガイドラインや教育プログラムなどに焦点が当てられた。
また、これらの仕組みを持続的に運用するために、さまざまな認証の仕組みも検討され始めている。
すでに行われているBIMソフトウェアのIFC認証を含めて、以下のような認証プログラムの可能性を検討した。
 
●BIMソフトウェアのIFC認証
●BIM個人能力認証
●BIM組織認証
●BIMプロセス認証
●BIMライブラリ認証
 
特に、BIM個人能力認証については、英国、北欧、シンガポールなどで既にBIM教育プログラムとともに開始されている。
buildingSMARTではBIM職能、スキルセットなどに関する国際的な共通フレームワークを今後定義し、
上記のような認証プログラムを提供していく予定である。
 

インフラ分野のBIM

これまで道路中心線形を中心にインフラ分野のBIMを議論してきていたが、
今回のサミットでは、中国鉄道による高速鉄道プロジェクトにおけるBIM活用に関する発表により、
鉄道分野のBIMに関して今後強力な推進力が中国から出てくるという印象が強まった(図-11参照)。
 

図-11 中国鉄道による鉄道BIM(buildingSMARTシンガポールサミット2015会議資料から)

図-11 中国鉄道による鉄道BIM(buildingSMARTシンガポールサミット2015会議資料から)


 
また、会議全体の議論の内容を見ると、単体の建物モデルだけではなく、
街区レベル、都市レベルのBIMモデルが集積された場合のアプリケーション、サービスの内容へも広がってきている。
新しい都市建設におけるSmart City化、既存の都市インフラ機能の向上や効率の良い維持管理などへ、
BIM、GISやインフラ関係のモデルも連携して活用していくという流れが生まれてきているといえる。
 
 
 

参考文献

●buildingSMART BIMガイドラインプロジェクト, BIMガイドラインデータベース:http://bimguides.vtreem.com/bin/view/BIMGuides/Guidelinesk
●Common BIM Requirements 2012, buildingSMART Finland:http://www.en.buildingsmart.kotisivukone.com/3
●Common InfraBIM Requirements YIV 2015, buildingSMART Finland:http://www.infrabim.fi/en/requirements-and-guidelines/common-infrabim-requirements/
●National BIM Library, NBS:http://www.nationalbimlibrary.com/
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集2「海外のBIM動向&BIM実践」
建設ITガイド 2016
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

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