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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 建設業におけるドローン活用の現状-工事写真の撮影から土量計算、CIMモデルの作成まで-

建設業の現場では最近、ドローン(無人飛行体、UAV)の活用が急激に進んできた。従来のラジコンヘリコプターに比べて安定性が格段に優れ、操縦も簡単なためだ。その用途は工事の進ちょく管理や既存構造物の点検をはじめ、空撮写真を利用した現場の3Dモデル作成、さらには道路工事や造成工事などの切り土、盛り土の度量計算などさまざまな場面で施工管理や維持管理の業務を効率化している。ドローンの飛行に当たっては、墜落事故などを防ぐために細心の注意を払うことも重要だ。
 
 

高所からの工事写真撮影にドローンを活用

最近、工事現場で複数の回転翼を持ったドローンの活用が急速に普及してきた。
 
工事現場では、工事の進ちょく記録を定点観測するために、高い視点から全景を撮りたいことが多い。現場内に高い場所がなく、近くのマンションやビルなどに頼んで撮らせてもらうことも多いが、あまり良い角度から撮影できないこともある。
 
高所作業車や空中写真撮影会社に頼むと、費用がかかるし、最適なタイミングで撮れないこともある。そんなとき、ドローンは強力な武器となる。
 
新潟県胎内市の地方ゼネコン、小野組では「PHANTOM」というドローンを2014年10月に購入し、その機動力を生かして現場の空撮に使っている。機体と送受信機、カメラなど一式を含めて20 万円程度と、価格もかなり下がっていた。
 

ドローンを操縦する小野組の小野貴司氏(左)と現場上空を飛行するドローン(右)(写真:小野組)




 
例えば、胎内市桃崎浜の荒川河口付近における川底の砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)工事の依頼を受けた小野組では、砂を取る前と後の状況をドローンに取り付けたデジタルカメラで空撮。その結果、打ち合わせや検証をスムーズに行うことができた。
 

台風などの影響で川底に砂がたまり、船が通 れなくなって地元の人が困っていた荒川河 口の様子(写真:小野組)




 

浚渫後の荒川河口。水深もよく分かる(写真: 小野組)




 
 
胎内市で建設中の体育館建設工事でも、進ちょく状況を記録してほしいと発注者からの依頼があった。そこで小野組は現場の真上や東西南北の上空から空撮を行った。
 

体育館の工事進ちょく状況。完成までを空中 からの定点観測記録として残せそうだ(写真: 小野組)




 
 
この他、農業用の排水路を見渡した写真撮影などでもドローンを活用している。
 

堀川排水路を上空から見渡した写真(写真: 小野組)




 
 

ドローンによるパトロールで安全管理を徹底

大手ゼネコンの竹中工務店は、大阪府吹田市の千里万博公園内に建設した市立吹田サッカースタジアムの施工時にドローンを導入し、品質管理や安全管理 に活用した。
 
このスタジアムは縦160m× 横210m×高さ40mと巨大で、基礎やスタジアムの柱や梁の部材をプレキャストコンクリート(PC)化した。躯体工事や大屋根設置工事では足場や作業床を必要最低限しか使わない工法を採用している。また、広い現場で同じ並行的に作業が行われているため、施工管理者は多くの作業場所を満遍なく管理する必要がある。
 
そこで現場内をスピーディーに移動できるドローンからの映像で品質管理や安全管理の状況を確認した。また、大屋根の設置工事では、ハトなどの鳥対策や枯れ葉による雨どいの状況確認が必要となったが、こうした安全管理や効率化にもドローンは活用できる。
 

ドローンから撮影した市立吹田サッカースタ ジアムの現場全景写真(この項の写真:竹中 工務店)




 

現場を飛行するドローンと操縦者(手前)




 
ドローンにはGPS(全地球測位システム)が搭載されており、飛行経路の位置データを入力すると所定のルートを自動的に飛行して戻ることができる。この機能を使って、 現場の夜間巡回警備を行ったり、スタジアム内で異常が発生したときに急行し、早期の状況確認を行ったりというパトロール業務にも活用が可能だ。
 

市立吹田サッカースタジアムの完成予想図




 
 

足場が不要な構造物の維持管理を可能に

橋梁などのインフラ点検手段としても、ドローンが注目されている。工事現場と違って供用中の道路やダムなどの近くでドローンを飛行させる必要があるため、心配なのは部材とプロペラが接触することによる墜落事故だ。
 
そのため、プロペラの周囲にカバーを付けたドローンも増えている。それでも、機体の上下から橋の部材などがプロペラに接触するリスクは残る。そこでドローンによる空撮の総合コンサルティング会社、PAUI(パウイ、福岡市中央区)は、点検用飛行ロボット「PAUI Oasis」を2015 年3月に発売した。
 

点検用飛行ロボット「PAUI Oasis」(この項 の写真:PAUI)




 
特徴的なのは、機体の周りを回転球体フレーム ですっぽり覆ったことだ。そのため、ドローンのプロペラと障害物の接触を上下左右とも360 度防げるのだ。
 
フレームの直径は約75cm。空中で障害物に当たっても、ボールのようにコロコロ転がってクリアできるので、トラス橋などでも部材の間をくぐり抜けながら点検できそうだ。
 

部材が交錯する橋梁の裏側なども、部材の 間を通り抜けてしっかり点検できそうだ




 
機体には、4K画質で毎秒30フレーム、フルHD画質で毎秒120フレーム、1200 万画質の静止画を毎秒30 枚撮影できる小型デジタルカメラ「GoProHERO4 BLACK」を搭載している。そのため、橋梁点検の近接目視で求められる幅0.2mmのクラックなども発見できる。
 

機体から見た映像。フレームが写り込んでい るが幅0.2mmのクラックも見つけられる




 
 

大規模な造成現場を短時間で高精度に航空測量

大成建設は高知県安芸郡で施工中の和食(わじき)ダムの現場をドローンで空撮し、その写真データから盛り土の3Dモデルを自動作成し、土量計算を行った。
 

ドローンで撮影した和食ダムの写真(この項 の写真、画像:大成建設)




 
 
この手法はオートデスクと米イリノイ大学が共同開発したものだ。まず、ドローンで空撮した現場の連続写真をイリノイ大が開発したソフトに取り込み、3Dの点群データを作成する。その点群データをオートデスクの点群処理クラウドシステム「ReCap 360」や「AutoCAD Civil 3D」に取り込んで、約200m四方のCIMモデルを作成する。
 
前日に作成したCIMモデルと、今日作成したCIMモデルとの差を取ることで、盛り土や切り土などの体積を自動的に計算できる。
 

前日の3Dモデルと比較して当日の盛り土量 を算出




 
土量の管理には3Dレーザースキャナーがよく使われているが、この規模の計測を行って土量を計算するのは約1週間かかる。一方、ドローンを使った計測だと、約半日という短時間でできるのが特徴だ。
 
使用したドローンはDJI社のF550という機種で、GPSやカメラの向きを一定に保つジンバルなどを入れても総額約30万円。数百万~数千万円する3Dレーザースキャナーに比べて大幅に安い。
 
計測精度は、最大誤差でも±10cmだ。従来の土量計算は地表面を10 ~25m間隔で断面を計測し、その間を直線的に補間する「平均断面法」が使われているが、これだと測線の間を正確に把握できない。
 
これに対してドローンを使った方法は地表面を数センチメートル間隔で管理できるため、高精度な土量計算が可能だ。施工管理を3D化することにより、土捨て場や重機の移動、車両用道路の変更などの検討をビジュアルに行えるようになり、協力会社とのコミュニケーションの質も改善されたという。
 
現場の空撮はお昼休みなどに行っているので、万一、墜落しても事故の可能性はほとんどない。
 
また、鹿島も現場の昼休みを利用してドローンを飛ばし、空撮写真を基に作成した3Dモデルで、造成現場などの施工管理を行っている。使用しているシステムは、鹿島とリカノス(本社:山形市)が共同開発したものだ。
 
ドローンで空撮した写真をパソコンソフトで合成し、造成現場などの高精度な3D図面を作成。そのデータを3次元CADソフトなどに読み込んで土量計算や進ちょく管理を行うものだ。2ha程度の現場なら空撮は約10 分で完了する。
 
計測精度は、簡単に使えるドローンだと±10cmとやや大きい。そこで両社は、搭載するカメラなどの機器選定、使用ソフトの組み合わせ、補正プログラムの高度化、作業方法の最適化といった改良を積み重ねることで、 誤差を±6cmまで向上させることに成功した。
 
 

3次元CADを使わずに土量計算

大林組の造成現場では、ドローンによる現場の空撮から3D点群データ作成、そして土量計算までを、3次元CADなしで行えるシステムを導入した。3次元CADの代わりに使ったのが、福井コンピュータの3D点群処理システム「TREND-POINT」だ。
 
ドローンによる空撮写真をコンピューターで処理して3D点群データを作るまでは同じだが、そのデータを3 次元CADの代わりに「TRENDPOINT」に読み込むところが違う。TREND-POINTには点群データの“ノイズ”とよばれる不要データを取り除き、点群データに三角形の面を張った「TI N」というデータを作って土量計算までを行う機能が付いている。
 

「TREND-POINT」に2つの点群データを読み込み、切り土量と盛り土量を 計算したところ(この項の写真・資料:大林組)




 
これまでの土量計算は、地上を移動して測量する作業が必要だったため4人で7日間かかっていたが、ドローンとTREND POINTを使う方法に変えたところ、2人で1日に効率化できたという。
 
土量計算に使う点群データを作成する過程では、点群の“副産物”として「オルソ画像」という地表面を垂直に見下ろした地図のような画像データも得られる。この画像データは精度が数センチ~ 20センチ前後と高いので、施工管理にも活用している。このオルソ画像をCAD図面と重ね合わせることにより、現場の進ちょく状況が一目瞭然に分かるからだ。
 

点群データの副産物として得られた高精度のオルソ画像。CAD 図面に重ねると現場の進ちょく状況がよく分かる




 
 

墜落事故防止のための安全対策も本格化

このように工事現場での写真撮影などに手軽に使えるようになったドローンだが、墜落事故も時々発生しているようだ。
 
前出の小野組ではドローンの運用ルールを決めて絶対に事故を起こさないように注意している。坂詰組も風の日は飛行を控え、市街地での使用には注意を払うなど、安全に配慮しながら使っている。
 
ある専門家は「趣味用に販売されているドローンは、ローターを駆動するモーターに電力を供給する部品の寿命が30~50時間と短いものもある。メーカーも”おもちゃ”と割り切って製造している」と語る。つまり使える時間は30時間程度で、それを超えた機体は安全性が求められる場所では使用しない方が安心ということだ。
 
この専門家によると、プロ用の機種は、この部品の使用時間が定めてあり、一定時間飛行した後は内蔵するソフトウエアによってモーターが起動しなくなる仕組みが搭載されたものもあるという。
 
ドローンによる空撮を事業として行っている岩崎(札幌市中央区)は、実物の軽飛行機と同様に、離陸前はチェックリストに従って機体各部の状態やバッテリーの充電量を確認し、風速や風向も定量的に計測している。そしてGPSと連動したパソコンソフトに飛行ルートを入力し、飛行中はドローンから送られてくる位置情報をパソコンのモニターで確認しながら、予定していた飛行区域から逸脱しないように入念なチェックを行っている。
 

離陸前にはチェックリストによる確認を入念に行う(以下の写真:家入 龍太)




 
ドローンの飛行自体にかる時間は数分程度と短くても、飛行前の準備には約1時間をかけることも珍しくない。こうした徹底した安全対策があってこそ、ドローンによる墜落事故の危険を最小限に抑えることができる。
 
2015 年12月10日に改正航空法が施行された。家屋が密集する町中などで、ドローンを飛ばすためには国土交通省に事前に申請を行い、許可が必要となった。許可の条件には、機体の安全性やパイロットの技量、安全確保の体制などが求められる。
 
一見、大変になったようだが逆にこれだけの対策をきちんととり、飛行申請して許可が下りれば、町中でも堂々とドローンを飛ばして、空撮や測量などに使えるのだ。
 
工事写真の撮影や、施工中の現場の3Dモデリングなど、業務でドローンを使う機械が多い建設業こそ、他の業界に先駆けてドローンの安全飛行をリードしていくべきではないだろうか。こうした取り組みは、建設業界に対する評価を高めるものになるに違いない。
 

戻ってきたドローン。ここからは手動モードで着陸させる




 

著者プロフィール

家入 龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。
家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/。ツイッターやfacebookでも発言している。


 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集3「建設ITの最新動向」
建設ITガイド 2016
 
 

最終更新日:2016-11-02

 

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