ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 建築BIM > 大学のBIMセンターと産官学連携からみた台湾のBIM技術者育成

はじめに

建設産業全体としてBIMの普及・活用を進めるためには、BIM技術者育成に要する費用だけでなく、教える側の体制や教えるべき知識・技術体系の整備が必要である。
個々の企業や大学が提供し得る教育内容にはばらつきがあり、BIMのような広範に導入が急がれる技術については、本来は産官学が連携し、学生と実務者の双方が教育訓練の機会を得られることが望ましい。
 
そこで本稿では、台湾における産官学連携によるBIM技術者育成について紹介する。
とりわけその中核的な役割を担う、大学に設置されたBIMセンターに着目したい。
台湾では、2009年に国立台湾大学(台北市)の土木工学科(土木工程學系)にBIM研究センター(工程資訊模擬與管理研究中心)が開設され、BIMの導入や開発、教育訓練、実務への応用に関わるサービスを提供してきた。
同時にこのBIMセンターは、産官学の連携を推進し、継続的な連携の場を提供している。
 
 

産官学の連携方法

BIM技術者育成における産官学連携には、大別すると、学校の教育に対する企業の協力、大学によるBIM導入支援・業務提供、定期的な情報共有と課題への取り組み、BIM活用の環境づくりの4つがある。
それぞれの方法を具体的に見ていきたい。
 

学校の教育に対する企業の協力

産学の連携として、まず、学校の教育に対する企業の協力が挙げられる。
具体的には、企業で実際にBIMを活用している技術者が外部講師として授業に参加したり、企業が学生のインターンシップを受け入れたり、企業が学生の見学を受け入れて最新のBIM活用の状況を伝えたりしている。
これらの主な対象は大学生であるが、学生の企業見学は大学生だけでなく高校生向けサマープログラムの一環としても実施されている(図-1)。
また、企業の技術者が大学のBIMセンターに出向して学生に知識を共有するという方法もある。

図-1 高校生向け企業見学会におけるVR体験
図-1 高校生向け企業見学会におけるVR体験

 

大学によるBIM導入支援・業務提供

次に、大学が実務におけるBIM導入を支援し、業務を提供するという方法がある。
事例として、大学のBIMセンターによるBIM導入の支援、大学と実務者団体による実務者教育、BIMセンターによるコンサルティング業務の提供が挙げられる。
 
国立台湾大学のBIMセンターが初めてBIM導入の支援を行ったのは2011年頃で、支援先は国内の建設業者である。
この企業が高雄市に新築される3次元曲面の大屋根を持つ国立芸術センター(図-2)を受注することになったため、意匠・構造・設備の技術者がRevitを活用できるように、4カ月間にわたり毎週3日間のトレーニングを実施した。
さらに、BIM実行のための新しいプロセスを作成するべく、週2回の半日のコンサルティングも行われた。
同BIMセンターでは、企業だけでなく地方自治体に対しても同様のトレーニングを提供している。
 
台中市を中心とする台湾中部エリアでは、建築師法に基づく設計・監理などの国家資格である建築師の実務者団体が、近隣の複数の大学の協力を得て、実務者向けにBIMのトレーニングプログラムを提供している。
2023年は1日8時間のトレーニングを週1回、8週間にわたり実施した。
Revitの基本的な操作に始まり、建築プロジェクトの設計および施工段階におけるプロジェクトマネジメントとBIM活用や環境評価のためのシミュレーション、点群データの利用など幅広い内容を学ぶ。
講師は主に主催団体のメンバーが務めるが、大学の教員や、建築設計事務所・建設会社を経営しながら大学で教鞭を執る実務家教員が登壇することもある。
 
各大学のBIMセンターは企業の依頼を受けてプロジェクトに参加し、BIM業務を実施している。
高雄市にある大学のBIMセンターでは、パートナー企業に対し、BIMモデリングやIoTを用いた運営段階における空調などの自動化、VRを用いた危機対応の訓練など、BIMとその他のICT技術を統合したサービスを提供している。
またBIM活用プラットフォームを開発しており、複数の大手民間企業に導入されている。
このプラットフォームの使用方法に関する研修も提供しているという。

図-2 大学のBIM導入支援を受けて建設された芸術センターの大屋根
図-2 大学のBIM導入支援を受けて建設された芸術センターの大屋根

 

定期的な情報共有と課題への取り組み

これらの産官学連携を継続的に推進するためには、個々の企業・自治体と大学・ BIMセンターの連携だけでなく、産官学連携に関わる組織の横のつながりが必要である。
 
台湾BIM連盟(Taiwan BIM Alliance)は、国立台湾大学のBIMセンターが設立・運営するBIM推進のための産官学の協同体である。
この協同体にはメンバーシップフィーを支払う54の企業(建設業者、建設コンサルティング会社、BIM・情報サービス会社、不動産開発会社、建築設計事務所など)とフィーを支払わない27のパートナー組織(大学や行政組織、公的団体)が参加している。
 
メンバー間のネットワーク構築や産官の議論・課題抽出の場として、コロナ禍までは年1回、コロナ禍以降は四半期ごとの成果報告会を開催しているほか、BIMセンターでトピックを設定し、月に1回の朝食会を実施している。
パンデミックの期間中に対面での活動をオンラインに切り替えるために、メンバーの年間成果に関する番組を制作してYouTubeチャンネルで配信し、メンバーの最新の研究開発成果を一般に共有し始めた。
また不定期でセミナー・シンポジウムの開催やメンバーによる報告会、オンラインでの情報発信などを行っている(図-3)。
BIMセンターの取り組みに対しても、多くの協同体メンバーが協力している。

図-3 筆者が参加した台湾BIM連盟のメンバー向けフォーラム
図-3 筆者が参加した台湾BIM連盟のメンバー向けフォーラム

 

BIM活用の環境づくり

最後に、建設産業全体としてのBIM活用の環境づくりである。
技術者がBIMを習得し企業がBIMを導入しようとする動機付けや、産学連携の後押しの役割は官(公共発注者や公的な制度)が担う。
 
台湾では2017年に行政院公共工程委員會(PCC:Public Construction Commission)が発注する一定規模以上のプロジェクトにおいてBIMの導入が必須とされた経緯があり、公共工事を多く受注する企業は早い段階からBIM活用に取り組んできた。
そのプロジェクトに配属された社員も必要性を感じて積極的にBIMを習得しようとする。
また、プロジェクトにおけるBIMの活用を推進し、そこで得られた成果について積極的に公開している地方自治体もある。
 
 

中間的組織としてのBIMセンター

本稿で紹介している産官学連携の方法はいずれも特異なものではなく、日本ですでに実践されているものも多い。
しかし、全体として見たときに、台湾では継続的な産官学連携により、ボトムアップでBIM技術者の育成・BIM推進が行われている。
その鍵を握るのが、人・組織・情報(技術・知識)のプラットフォームたるBIMセンターの存在である。
 

大学のBIMセンターの役割

3大学のBIMセンターの事例をもとに整理すると、BIMセンターが担う役割は6つある。
すなわち、①学内の教育、②学外の教育、③BIMコンサルティング・サービス業務、④研究開発、⑤情報発信・情報共有、⑥連携の場づくりである。
もちろん、大学により、どの役割に力点を置くか、またその実践方法は少しずつ異なっている(表-1、図- 4、5)。

表-1 大学のBIMセンターの役割
表-1 大学のBIMセンターの役割
図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例

図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例2

図-4、5 国立台湾大学BIM研究センターが発刊しているテキストの例
 

中間的な組織としてのBIMセンター

国立台湾大学のBIMセンターは、設立以来、主として産学連携プロジェクトの資金により運営されてきた。
同センターが運営する台湾BIM連盟は、2015年の設立以来、産業界の支援を行っている。
2022年以降は企業メンバーのフィーのみで運営されているが、設立から6年ほどは企業メンバーのフィーと合わせて政府の助成を得ていた。
すなわち、大学を台湾の産業を支援するためのサービスプラットフォームとして機能させる構想のもと、国家科学及技術委員会(当時の科学技術省)が資金を提供していた。
現在は3名の常勤スタッフを擁し、独立採算となっている。
 
大学のBIMセンターは学内の組織でありながら、既存の部署に対して比較的自由な位置付けにある。
大学という基盤を持ちながら、学内外から最適なメンバーを集めることができ、自分たちの取り組みに関する決定権限が大きく、柔軟な試行と中長期的な取り組みの双方が可能である。
 

中間的組織の役割

このような中間的な組織はBIMに限らず台湾の大学に多く設置されている。
また、公的な団体がBIMデータプラットフォームを提供したり、BIM活用に関わる産官学の検討会を設置したりしている事例もある。
これらの団体は完全な行政機関ではなく、大学のBIMセンター同様に中間的な位置付けにある。
 
中間的な組織がそれぞれメンバーや関係者間の連携の場をつくって情報共有・情報提供を行いつつ、それらの中間的組織同士がさらに連携・協力できる基盤があることが、継続的・効果的な産官学連携の推進に大きく寄与しているのだろう。
 

産官学連携の全体像

台湾のBIM技術者育成においては、主に官は公共発注や中間的組織への助成などでBIM活用を奨励し、産は技術者を育成してプロジェクトを実施し、学は直接的・
間接的な教育と技術支援、連携の基盤づくりを担っている。
とはいえ、産官学が固定的な役割を担うのではなく、それぞれの地域や組織の特性に応じた役割や方法を採って連携している。
 
そして多様な機能を有する中間的組織が連携の場を提供して継続的な情報共有や関係性の維持を可能にし、その中間的組織がさらに中間的組織同士の連携・協力の基盤となっている。
台湾の産官学連携によるBIM技術者の育成を日本で参照する場合、台湾の中間的組織と同じ役割をどの組織が担うか、担いうるかが課題となるだろう(図-6)。

図-6 産官学連携における中間的組織
図-6 産官学連携における中間的組織

 
 

BIM推進の先へ

カーボンニュートラルとBIM

BIM推進を積極的に進めている自治体の担当者にお話をお聞きしたところ、今後の課題は、長期的な運営管理に関する情報伝達とシステム開発において、世界的なカーボンニュートラルの流れに対応するためにICT技術活用の取り組みを続けることだという。
 
台湾ではBIMがGreen DXの推進役として期待されている。
政府が2022年3月に発表した「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」がGreen DXを牽引し、BIMがGreen DXを推進するという構図である。
目標地点が明快であるため、公共発注者がGreen DXを推奨するだけでなく、民間発注者に対してもGreen DXやBIMのメリットに関する普及・啓発が進む。
それとともに、BIMに関する業務を外注していた
小規模な建設業者でも、BIM業務の内製化に踏み切っているという。
 

大学のBIM教育とESG

実務分野だけでなく、大学の教育でも同様の問題意識が見られる。
例えば学部 1年生向けの授業では、Revitを用いた実際の校舎1棟の改修・増築設計の前に、SketchUp( Trimbleのモデリングソフト)を用いて持続可能性のためのインフラ設計を行う。
また、修士課程の学生向けの授業では、Rhino、Grasshopper、Ladybug・Honeybee( Grasshopperの環境解析ツール)を使用し、サステナブルなコーヒーショップを設計するという課題に取り組む。
課題では低炭素フットプリントを実現するために環境に配慮した建材を用いたり、エネルギー使用量の削減と業務・体験の質の向上を両立させたりすることが求められる。
 
台湾におけるBIM活用は、導入の次の段階へと歩みを進めている。
 
最後に、本稿の作成および本稿に関する調査について多大なご協力をいただいた、国立台湾大学BIM研究センターの謝尚賢所長(同大学土木工程学系教授)およびスタッフの皆さまに御礼申し上げます。
 

〈参考文献〉
  • 西野佐弥香:台湾における産官学連携によるBIM技術者の育成、日本建築学会第39回建築生産シンポジウム論文集、pp.61- 66、2024.7
  • 家入龍太:BIMでの確認申請の義務化も!アジアで進む活用、イエイリ建設IT戦略、日経XTECH、2012.8.22
    https://xtech.nikkei.com/kn/article/it/column/20120817/579790/
  • 家入龍太:産官学を牽引!台湾大学BIM研究センターの行動力、イエイリ建設IT戦略、日経XTECH、2015.6.24 https://xtech.nikkei.com/kn/article/it/column/20150618/703673/
  • Jyh-Bin Yang,Hung-Yu Chou: Mixed approach to government BIM implementation policy: An empirical study of Taiwan, Journal of Building Engineering,vol.20,pp.337-343,2018.11

 

〈写真提供〉

図-1・図-3:国立台湾大学BIM研究センター
 
 
 

京都大学大学院工学研究科 准教授
西野 佐弥香

 
 
【出典】


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最終更新日:2025-07-23

 

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