- 2026-01-21
- 特集 コンクリートの維持管理 | 積算資料公表価格版
はじめに
わが国の下水道は、現在までに約2,200箇所の処理場(令和4年末)と約50万kmの管路(令和5年末)が構築されるに至っている1)。
先行して整備が進んだ大都市では、すでに一部の施設が標準耐用年数である50年を超え、さらに中小都市の施設が続くことから、今後、改築・更新の需要は増加していくと予測されている。
下水道の維持管理においては、補修工事などの直接的な工事にとどまらず、事前の調査や補修期間中の水処理の代替設備の準備なども含まれるため、多くの労力と費用を要する。
これを担う職員の減少や人口減による使用料収入の減少など、人員や財源の制約がある中での運営が求められている。
一方で、下水道施設のコンクリートは微生物が生成する硫酸により早期に劣化する場合がある。
図-1に示すように、水中で発生した硫化水素が気中部の結露や水滴に溶解して、硫黄酸化細菌によって硫酸に変えられるため、下水処理場や管路のコンクリートは特に気中部が激しく劣化する。
2025年1月の埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故においても、硫化水素に起因する化学的浸食(硫酸劣化)により下水道管が崩壊したのを発端として、周囲の土砂が下水道管に流出して道路の陥没に至った可能性が指摘されている2)。
ここで、コンクリートに高い耐硫酸性を付与できれば、防食被覆を必要とせずに、下水道施設を長期に亘る“メンテナンスフリー”を実現でき、大幅な維持管理の省力化とライフサイクルコストの低減に貢献できる。
我々はUBE三菱セメント株式会社と共同で、硫酸に対して高い耐久性をもつコンクリート「T-Sulfatec®コンクリート」(以降、耐硫酸コンクリートとする)を開発した。
高い耐硫酸性をもつ材料の開発に加えて、想定する劣化環境と耐用年数から必要な厚みを設定する既存の設計手法の妥当性を検証するとともに、コンクリートの性能を確実に発揮させるための施工法を確立したことで、材料・設計・施工に係る一連の技術の整備を完了した。
現在は補修を中心に実装を進めており、延べ約3,600m²の補修工事に適用を完了した。
本稿では耐硫酸コンクリートの技術概要を紹介する。
1. 下水道施設のコンクリートの硫酸劣化と耐硫酸コンクリート活用の利点
通常、硫酸によるコンクリートの劣化速度は非常に早く、日本下水道事業団の防食技術マニュアル3)(以降、JSマニュアル)によると、施設の年平均硫化水素濃度の対数に比例し、式(1)で近似されることが示されている。
劣化速度(mm/年)=1.42Ln(x)+1.05(1)
x:施設の年平均硫化水素濃度(ppm)
これを用いて計算すると、年平均硫化水素濃度が10ppmで年4.3mm/年、50ppmで年6.6mm/年、100ppmで7.6mm/年であり、コンクリートの他の劣化要因と比較しても、著しく早い劣化速度となることがわかる。
下水処理場での硫酸への対策として、耐硫酸性を持つ樹脂等を用いてコンクリート表面を数mmの厚さで被覆する防食被覆工法が広く普及している。
ただし、これらの耐用年数は10年が標準であるため、50年を超える供用期間中に数回の塗り替えが必要となる。
また、躯体のひび割れを通した漏水などにより、被覆とコンクリートの間に水が浸透して膨れや剥がれを生じ、早期に再補修が必要となる場合があることも課題となっている。
一方で、コンクリートは施工に概ね5cm程度以上の厚さが必要なため、その分の内空容積の減少を許容できることが適用の条件となるが、高い強度をもつため経年による膨れや剥がれの懸念はない。
また、施工厚さを任意に調整できることは利点となり、劣化環境(硫化水素濃度)と期待する耐用年数に応じて必要な厚さを設計することにより、期待通りに性能を発揮する確実性の高い防食が可能となる。
2. 耐硫酸コンクリートの特徴
開発した耐硫酸コンクリートは、耐硫酸性付与材と呼ぶ特殊な混和材料により耐硫酸性を高め、かつ、確実な施工を行うために高い流動性を付与したコンクリートである。
型枠内に流し込むとバイブレータによる締固めを行わなくても隅々まで充填される。
強度は土木用コンクリートとして一般的な範囲の呼び強度20~36で適用できる。
2-1 硫酸および下水環境における耐硫酸性
耐硫酸コンクリートは使用する骨材の種類により2種類に区分している。
一つは骨材に石灰石を使用したもので、耐硫酸性が高く、硫酸による劣化速度は通常のコンクリートの1/10以下となる。
もう一つは骨材を石灰石に限定しないもので、耐硫酸性は通常のコンクリートの1/5~1/8であるが、生コンプラントで常用されている骨材をそのまま使用できるため、製造コストが低減できる。
耐硫酸性への要求性能や製造・施工における制約条件に応じて選定することでコストを抑えた効果的な防食が可能となる。
コンクリートの耐硫酸性をJIS-A-7502-2に準じて評価した結果を図-2に示す。
コンクリートの試験体を5%の硫酸へ所定期間浸漬したのち、切断してアルカリで発色する指示薬を噴霧すると、硫酸劣化が生じていない健全部は赤く発色する。
健全部の長さを浸せき前の寸法から差し引くことで硫酸による腐食深さを求める。
コンクリートの腐食深さは浸せき期間に比例して増加し、近似線の傾きが腐食速度となる。
今回の試験では通常のコンクリート(以降、普通コンクリート)と比較すると、石灰石を使用した耐硫酸コンクリートは1/27、非石灰石のものは1/5となった。
腐食速度の比は比較用の普通コンクリートによりばらつきが生じるが、これまでに実施した複数の浸せき試験では例外なく、石灰石骨材を使用すると1/10以下、非石灰石骨材では1/5以下の腐食速度が得られている。
下水環境における耐硫酸性を調査するため、5ヶ所の下水処理場に2年~4.4年間曝露した4)ときの劣化速度を図-3に示す。
あわせて、腐食速度が大きかった施設Aで曝露したコンクリートの状況を写真-1に示す。
普通コンクリートは7cm角の試験体が曝露4.4年間でほぼ溶解したのに対し、耐硫酸コンクリートは表面付近が若干欠損した程度であり、硫酸はもとより、下水環境においても高い耐硫酸性を示すことを確認した。
また、比較用の普通コンクリートは施設の腐食環境の厳しさに応じて劣化速度が0.5~8.0mm/年と大きく変化したが、耐硫酸コンクリートはいずれの環境でも0.5mm/年以下と小さくなる。
腐食速度が小さく抑えられたため、環境の厳しさの影響を受けにくくなる点も利点である。
2-2 耐硫酸性のメカニズム
通常のコンクリートは、硫酸との接触によりペースト部分が溶解し、腐食生成物として表面に“パテ状”の脆弱なせっこうが生成する。
ペーストの溶解と脆弱化により骨材が脱落し、表面が後退していく。
耐硫酸コンクリートにおいても同じく、硫酸との接触によりせっこうを生成するが、耐硫酸性付与材の効果により、せっこうが緻密に生成して表面を隙間なく覆い、バリア層として機能するために劣化速度が大幅に低減する5)(図-4)。
一度形成されたせっこう層が何らかの理由により剥離しても、新たなコンクリート面に硫酸が接触すると再びせっこうのバリア層が形成され保護層として機能する。
この繰り返しにより、腐食速度が小さく抑えられながら耐硫酸性を発揮し続ける。
上述の通り、石灰石骨材を使用するとより高い耐硫酸性が得られる。
これは、酸に不溶の非石灰石骨材を使用した場合、骨材周囲のペーストが劣化すると骨材が脱落し、骨材の粒径分だけ急激に劣化深さが大きくなるのに対して、石灰石骨材は、周囲のペーストと同じ速度で緩やかに溶解し、脱落しないためである(図-5)。
また、石灰石(CaCO3:溶解すると弱アルカリ性)と硫酸(H2SO4:強酸)との反応による局所的な酸の“中和”効果も寄与していると考えている。
3. 防食設計法について
耐硫酸コンクリートの耐久設計はJSマニュアルのモルタルライニング工法の方法3)に準じて行うことができることを検証した。
ここでは、モルタルの劣化を許容し、材料の耐硫酸性から劣化深さを予測する“劣化しろ”の考え方が採用されている。
式(2)に示すように、年平均硫化水素濃度から求められる施設の対象構造物(通常のコンクリート)の劣化速度(αsd)と、耐硫酸モルタルの硫酸浸せき試験による腐食速度(αmd)、予定する供用年数(t)を乗じて防食被覆層の厚さを計算する。
ここで、αsdは上述の式(1)であり、硫酸浸せきによる腐食速度(αmd)に耐硫酸コンクリートの値を用いて計算する。
式(2)からわかるように、設計厚さは材料の耐硫酸性が優れるほど小さくすることができる。
yd=0.0145×γcd×αsd×αmd×t(2)
yd:防食被覆層の設計厚さ(mm)
γcd:安全係数(1.265)
αsd:設計対象物の劣化速度(mm/年)
1.42Ln(x)+1.05
x:施設の年平均硫化水素濃度(ppm)
αmd:耐硫酸コンクリートを5%硫酸水溶液に112日浸せきした場合の硫酸浸透深さを112日で除した腐食速度(mm/日)
0.0145:普通モルタルを5%硫酸水溶液に浸せきした場合の劣化速度(0.19mm/日)によって決まる係数(1/0.19(mm/日)/365(日/年)=0.01442)
t:予定供用日数(日)
本設計法の適用性を長期間の観察を通して検証した。
耐硫酸コンクリートにより補修した処理場の腐食の進行を7年間モニタリングし、式(2)の設計値と比較した6),7),8)。
施設の年平均硫化水素濃度の実測値は40ppmであり、設計対象物の劣化速度(αsd)は7mm/年となる厳しい環境であった。
補修に用いた耐硫酸コンクリートの硫酸浸漬による腐食速度(αmd)は0.01mm/日であった。
これらから計算した設計厚さと、現地の7年までの腐食深さの実測値を図-6に示す。
実測の腐食深さは設計で求められる防食厚さよりも小さくなり、耐硫酸コンクリートの設計厚さは、JSマニュアルの方法を準用して安全側に設計できることを確認できた。
コンクリートはこのように腐食が想定した速度で進むため、腐食環境が将来も大きく変化しないことが前提となるが、劣化予測に基づいた防食設計が可能である利点がある。
長期の適合性は今後検証していく必要があるが、設計において50年程度の施設のメンテナンスフリーを計画することも可能と考えている。
4. 適用事例
耐硫酸コンクリートは施工においては、締固めを行わずに型枠内の隅々まで充塡される、スランプフロー60~70cmの高流動コンクリートとして使用する。
施工厚さは型枠で任意に調整でき、数10cmの厚みをもつ構造物の新設はもとより、コンクリートの粗骨材の寸法を小さくすれば、5cm程度以上の厚さで断面修復することも可能である(図-7)。
前章で紹介した設計法を用いて厚みを施工することで、追加の被覆を必要とせずに長期の供用が可能となる。
耐硫酸コンクリートを民間の排水処理槽の壁面および天井面(スラブ下面)の補修に適用した事例9)を紹介する。
本施設は、変動する汚水の水質、水量を安定させるために、一時的に汚水を貯留する水槽である。
供用開始から40年以上が経過しており、気相部のスラブ下面や壁面に広範囲に鉄筋の露出が確認されたことから(写真-2a))、補修することとなった。
内空容積の減少は許容できたことから、今後50年以上のメンテナンスフリーと構造的な増し厚補強を兼ねて、施工厚さは10cmとした。
工法の選定にあたっては、通常のモルタルで補修して表面を樹脂被覆する従来工法と比較し、将来のメンテナンス費用を含むライフサイクルコストに大きな優位性があったため採用された。
補修面積は合計で2,700m²であった。
補修は、以下の手順で実施した。
・ウォータージェットにより壁とスラブの劣化コンクリートを20mm~30mm除去
・新旧コンクリートの付着を確保するためにポリマーセメント系のプライマーを吹付け
・補修コンクリートの剥落防止のために溶接金網を設置して型枠を組立
・耐硫酸コンクリートを10cm増し打ち
施工後の状況を写真-3に示す。
特に天井面はスラブの下面に耐硫酸コンクリートを充填して既存の天井面と一体化させる「逆打ち」であり、難易度の高い施工となったが、流動性を適切に調整したことで型枠内の隅々まで確実に充填され、欠陥のない美しい仕上がりであった。
本施設は供用を再開し、施工後1年において内部を観察する機会を得たが、ひび割れや硫酸による腐食は生じていなかった。
適切な施工が行われたと判断している。
耐硫酸コンクリートの材料および設計、施工技術を活用し、施設の維持管理の労力および費用を削減した事例となった。
おわりに
本稿では耐硫酸コンクリートに係る材料・設計・施工の技術概要を紹介した。
優れた耐硫酸性を持つコンクリートを活用するために、JSマニュアルに準じた設計法の妥当性を確認し、欠陥を生じない施工技術を確立したことで一連の技術の整備を完了した。
現在は補修工事を中心に実績を積み重ねている。
埼玉県八潮市の陥没事故を受け、下水管路においても硫酸劣化が生じる場合があることが広く知られることとなった。
今後、耐硫酸コンクリートは処理場の補修や更新にとどまらず、管路をはじめとする下水道製品の開発も進め、下水道の安全確保とライフサイクルコストの低減に貢献していきたいと考えている。
参考文献
1) 国土交通省:下水道の維持管理、https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html
(2025.12.10確認)
2) 埼玉県下水道局:八潮市で発生した道路陥没事故に関する原因究明委員会中間とりまとめ、https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/265988/chuukanntorimatome2.pdf
(2025.12.10確認)
3) 日本下水道事業団、下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル、2017.
4) 佐々木彰、高橋俊之、新藤竹文、遠山晃二:耐硫酸性を有するコンクリートの下水環境における耐久性、コンクリート工学年次論文集、Vol.30、No.1、pp.633-638、2008
5) 小西和夫、黒澤功、五十嵐秀明、須賀雄一:下水道施設用コンクリートの耐硫酸性に関する研究、セメントコンクリート論文集、No.57、pp.315-320、2003.
6) 大脇英司、藤野由隆、武元貴裕、林悦朗:耐硫酸性に優れるコンクリートの供用施設における施工性と耐久性の実証、コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集、第17巻、pp.463-468、2017.
7) 林悦朗、武元貴裕、大脇英司、藤野由隆:耐硫酸性を有したコンクリートへの下水汚泥焼却灰の添加利用に関する報告、第54回下水道研究発表会講演集、pp.771-773、2017.
8) 宮原茂禎、大脇英司ほか:下水道施設において7年間供用した耐硫酸コンクリートの健全性評価、第58回下水道発表会講演概要集、N-8-4、2021.
9) 寺谷充憲、木村竜太ほか:耐硫酸コンクリートを使用した流量調整槽補修工事の現場施工について、土木建設技術発表会、2021
コンクリートGX研究室主席研究員
【出典】
積算資料公表価格版2026年2月号

最終更新日:2026-01-21
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