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独立行政法人水資源機構 武蔵水路改築事業
利根導水総合事業所武蔵水路改築建設所

 

1.首都圏の生活を支える「水」

昭和30年代,首都圏では高度経済成長に伴う人口の増加や生活の多様化により都市用水の需要増加が著しくなった。昭和30年代後半の東京は渇水が続き,東京オリンピック(昭和39年)直前には深刻な水不足となり,東京は生活用水にも事欠き,真夏の首都は「東京砂漠」と揶揄(やゆ)されるほどの厳しい状態となった。そして東京の人口増加はとどまるところを知らず,新たな水源確保に迫られた結果,利根川に水源を求め,利根川の上流ダム群で開発された水の一部を荒川に導いて首都圏の渇水を救う利根導水路事業が進められた。
 
利根導水路事業の一環として実施された武蔵水路は,利根川の水を荒川に導水する人工水路として計画され,東京オリンピックが開催された昭和39年の1月に工事着手し,昭和42年3月に完成した。以来,清澄(せいちょう)な利根川の水を首都圏へ休みなく送り続けており,現在では東京都および埼玉県南部の約1,300万人の生活用水として利用されており,首都圏の生活を支える「水」を流す重要な施設となっている。
 

2.武蔵水路改築事業

昭和42年3月に完成し,供用開始から約40年の時を経過した武蔵水路は,①広域地盤沈下や老朽化によって低下した通水機能の回復,②大規模地震を想定した耐震化,③水路周辺の都市化の進展等によって排水能力の強化が必要となってきたことから,武蔵水路の通水機能の回復と施設の耐震化を行い,新たに水路周辺の内水排除機能を確保・強化するとともに,引き続き荒川水系の水質改善を図るため,平成21年度から平成27年度までの7年間で延長約14.5kmの武蔵水路を全面改築することとなった。
 

【図-1 武蔵水路位置図】(図中の施設は,改築事業前の施設を示している。)


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
武蔵水路は首都圏の都市用水を絶えず通水しており,改築工事期間中であっても水を止めることができないことから,水を流しながら工事を行わなければならなかった。
 
このため,水路本体を施工する時期は都市用水の需要が少なくなる12月~翌年5月までの6カ月間とし,この期間の通水量は21.6m3/sに制限して工事を行うこととなった。
 
既設の開水路は厚さ15cmの無筋コンクリート台形水路であったものを,レベル2地震動に対して通水機能を損なわない構造とするとともに,水路中央に中壁を有する2連の鉄筋コンクリートフルーム水路に改築(図- 2)を行うことにより,通水を確保(片側通水)しながら水路内点検や補修が可能となり,改築後は施設の長寿命化が図られることとなる。
 

【図-2 改築前後の開水路標準断面図】


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
改築前後の武蔵水路を写真- 1,2 に示す。
 

 

【写真-2 改築後の武蔵水路】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3.開水路の改築工事

(1) 改築工事の区間割り

本事業では,延長約14.5kmの水路を始点部(約0.2km),上流部(約1.5km),中流部(約9.8km),JR委託区間(約0.1km),下流部(約2.5km)の五つのロットに分割して発注しており,この内,上流部工事は平成26年8月に完成しているが,その他の工事は平成27年度末の完成を目指し工事の進捗を図っている。
 
開水路の改築工事は,水路の中に鋼矢板を打設し,締め切る「半川締切工法」により,片側に用水を通水しながら,片側をドライエリアにして既設水路の撤去,掘削,新設水路の築造といった一連の施工を行っている。
 
工事は,通水しながら実施するため,施工箇所が近接・連続すると水路上流側の水位が上昇してしまう。延長の長い中流部および下流部では1箇所当たりの施工延長を100 ~400m程度に分割しており,中流部では延長約9.8kmの範囲を34工区に,下流部では延長約2.5kmの範囲を15工区に分割し,水路本体の施工を4年間で完成させる計画である。

(2) 改築工事(半川締切工法)の実施方法

各工区の施工は,着手から完了までおおむね1年を要しており,開水路の改築工事の一例として,下流部工事における施工ステップを図- 3に示す。
 

【図-3 半川締切り工法の施工ステップ】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
①着手時[8 月]
水路右岸側には市道が並走しているため,次ステップの市道仮廻しに備え,支障となる電柱,ガス,水道管等を移設。
 
②市道仮廻し,土留・半川締切工[9 月~11 月]
市道の仮廻しを行い,現道を作業帯として利用し,土留鋼矢板,半川締切鋼矢板などの仮設工を実施。
 
&#9314水路一次仮廻し,右岸側掘削[12 月]
12月1日から通水量が最大21.6m3/sに制限されるため,半川締切の上・下流端部を締め,左岸側の仮廻し水路に通水(一次仮廻し)し,右岸側をドライアップした後,既設水路の撤去,掘削床付,基礎コンクリートまで施工し,二次仮廻し時の通水断面を確保。
 
④水路二次仮廻し,左岸側掘削[1 月~2 月]
上下流の締切り端部を切替え,右岸側に通水(二次仮廻し)を切替え,左岸側をドライアップした後,既設水路の撤去,掘削床付を実施。
 
⑤左岸側構築[2 月~3月]
掘削完了後,水路本体の構築を開始する(写真- 3)。
 

【写真-3 二次仮廻しによる本体施工】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
水路は現場打ち鉄筋コンクリートを基本としているが,全体工程が5月末までに完成しない区間では側壁・中壁に二次製品(写真- 4)を採用し,工程の短縮を図る。
 

【写真-4 二次製品を利用した水路工事】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
⑥水路三次仮廻し,半川締切撤去,右岸側構築[4 月~5月]
完成した左岸側の水路本体に通水(三次仮廻し)を切替え,右岸側を再びドライアップした後,半川締切鋼矢板を引抜く。その後,右岸側の水路本体を構築。
 
⑦両岸通水,水路側面埋戻し,水路付属施設工[6 月~8月]
6月1日から通水量の制限が解除され増量となるため両岸通水とする。通水後は,水路側面の埋戻し,フェンス等の水路付属施設を設置。
 
⑧市道復旧[8 月末]
作業帯として使用した市道を復旧し,仮廻し道路を撤去。
 

(3) 工事期間中の通水管理と水質汚濁防止

改築工事期間中でも,都市用水を通水しながら工事を進めなければならないことから,工事期間中,特に仮廻し期間中の通水管理では,昼夜を問わず通水状況の巡視を実施した。
 
また,通水しながらの改築工事では水路上や水路脇での作業は頻繁にあり,掘削時の排水や油圧機械の漏油等,水質汚濁のリスクは高い。武蔵水路を流れる水は首都圏の約1,300万人の生活用水でもあり,いかなる時も工事の影響による水質悪化は回避しなければならない。このため,工事期間中は,さまざまな水質汚濁防止の対策を行っている。
 
①濁水処理設備
締切内の排水を水路内に排水する場合は,濁水処理設備を設置する。
 
②pH処理
施工した直後に通水するとコンクリート表面のアルカリ成分でpHが上昇するため,いったん,締切内を湛水(たんすい)させ,硫酸バンドによりアルカリ中和処理を行い,pHの確認を行った後に通水を行う。
 
③水路上作業構台の漏油養生
水路上に架設した作業構台上ではバックホウ,クレーン,ポンプ車等が稼働するため,構台上で油が漏れた場合には,水路内に流入してしまうことから,構台全面に遮水シートを張り,さらにシートが破れないように敷鉄板を敷いて漏油養生を行った。
 
④油圧機械の油圧ホース養生
半川締切鋼矢板の打ち込み作業は油圧圧入機により施工を行っている。この場合,油圧ユニットは水路脇の作業帯に設置するが,油圧圧入機本体は水路上に設置するため,油圧ユニットから本体までは,油圧ホースが水路を跨ぐ形で横断する。このため,水路上には渡し桁を設置するとともに,油圧ホースが破裂する危険性もあるため,油圧圧入機のホースは全て新品に交換した。さらに油圧ホースが破裂した場合でも,油流出が目視で確認できるように油圧ホースには半透明の特殊養生ホースを被せ,水路内への漏油を防ぐこととした(写真-5)。
 

【写真-5 油圧ホースの漏油対策(ホース養生)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
⑤万が一,水路内に油が流出した場合には,事業者と武蔵水路で工事を実施している全施工業者が一体となって流出した油の拡散の防止と,流出した油の除去を直ちに行う必要があるため,水質事故発生時の連絡体制と役割を明確にし不測の事態への対応に備えている。
 

(4) 水路内の水位上昇対策

平成23年の施工では,土壌汚染対策法の基準に適合しない鉛および砒素(いずれも自然由来)が検出されたことから,該当する工区の工事を一時中止する事態となった。
 
平成27年度末の完成に向けて,一時中止によって遅れた工事工程を取り戻すため施工計画を見直し,平成25年の施工では,当初計画の施工延長を大幅に増加して施工を実施した。この施工延長の増加に伴って,水路仮廻し箇所数の増と仮設構台の設置数の増により想定以上に水位が上昇した。
 
これは,仮廻し水路の通水断面内に作業構台等の基礎杭が突出することにより流水阻害となり損失水頭が大きくなるもので,このような箇所では上流側の水位が局所的に高くなる。
 
このため,水路内の損失を少しでも抑え,水路内の水位を低下させるため,試行錯誤しながらさまざまな対策を行っており,水位上昇対策の一例として,作業構台等の上流側の杭に鋭角な整流板(鋼板を現場溶接)を設置し,流水阻害の軽減を図った対策を写真- 6に示す。
 

【写真-6 鋼板による整流板】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なお,土壌汚染対策法の基準に適合しなかった土については,法に基づく汚染土処理業者に運搬し処分を行った。
 
 

4.サイホンの耐震補強工事

武蔵水路には河川や鉄道などを横断するサイホンが6箇所あり,それぞれ2連のボックスカルバート構造(縦3.5m×横3.5m×2連)となっているが,サイホンの耐震性能をレベル2地震動により耐震照査した結果,4箇所のサイホンにおいて,せん断耐力が不足する結果となった。このため,既設のサイホン内に3.4mの鋼管を挿入する鋼管挿入工法により耐震補強を実施した。
 
工事の一例として,中流部工事の元荒川サイホン(図- 4)で実施した耐震補強工事(図- 5)について示す。
 

【図-4 元荒川サイホン縦断図】

【図-5 元荒川サイホン耐震補強断面図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
サイホンに内挿する鋼管の口径は3.4m であり,公道における材料運搬の制約およびサイホンの上下流部には40%程度の縦断勾配の傾斜区間があり,ここを通過して水平部まで鋼管を運搬する制約から,鋼管のシーム部を溶接せず,巻込み重ね幅を約2.3m(外径2.67m)とした巻込み鋼管を採用した(図- 6)。
 

【図-6 巻込み鋼管断面図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次に,元荒川サイホンで実施した鋼管挿入工法の施工ステップを図- 7に示す。
 

【図-7 鋼管挿入工法の施工ステップ】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
①巻込み鋼管の搬入
巻込み鋼管は,クレーンで開水路内の台車上に吊り下ろし,ウィンチ(3t級)を用いてサイホン内部に鋼管を搬入する(写真- 7)。
 

【写真-7 巻込み鋼管 サイホン内運搬】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ここで鋼管搬入の際に台車が左右に振れ,鋼管が既設構造物に接触することを防止するため,線形が直線の区間では運搬台車にガイドレール(L-50×50)を設置した。曲線部では,自走機能付きリフターを台車後方に2機装備し,曲線に応じて台車の向きを変えられるよう工夫した。
 
②巻込み鋼管の拡管
所定の位置まで運搬した後,巻き込んでいた鋼管の拡管作業を一次から三次にわたって行う。
 
一次拡管(写真- 8)では,レバーブロックを緊張させ,固定治具を切断した後,レバーブロックを開放し拡管させる。二次拡管では,両端部のチェーンブロックにより所定の高さまで吊り上げることで拡管を行う。ここで管厚の比較的薄い鋼管では二次拡管までの作業で所定の断面を確保することができるが,管厚の厚い鋼管(t=26mm)では,油圧ジャッキを用いた三次拡管まで行い断面を確保した。
 

【図-8 巻込み鋼管の拡管ステップ】


 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-8 レバーブロックによる一次拡管】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
③裏込めグラウト
拡管後に,管軸方向および円周方向の溶接を行い,管を接続させる。鋼管の据付時には裏込めグラウト(エアーミルク)の充填による鋼管の浮き上がりを防止するため,L型鋼(L -75×75)を用いて浮き上がり防止対策を講じる。
 
裏込めグラウトを確実に行うため,高さ方向は6層に分割し,施工延長方向には5 ~7箇所のグラウト止めを設置した。注入孔は最大で鋼管円周方向に6箇所とし,充填センサーと天端部からのリークにより充填状況を確認する。
 
裏込めグラウトの完了後,内面塗装を施工して完成となる。
 
 

5.今後について

武蔵水路改築工事は水路本体の施工時期が12月から翌年5月までと制限されていることから,各工事が同じ時期に同じ作業を行うこととなり,資材や専門業者の調達が困難となる場面もあった。
 
また,土壌汚染対策に伴う施工計画の大幅な見直しによる水路内の水位上昇による苦難はあったものの,その都度,事業者と各施工業者が水位情報や資機材調達情報を共有し,優先順位を決めて対策を施すことなど,さまざまな取り組みを行いながら進めた結果,改築工事を着工した平成22年10月以降,大きな事故を起こすことなく平成27年5月には始点部の約0.2km を残し,2連開水路の本体工を完成することができた。これも,ひとえに武蔵水路沿線の地域住民のご理解と工事関係者の努力と協力によるものである。
 
今後は,水路周りのフェンスや道路復旧等の周辺整備工事を行い,平成27年度末には全ての工事を終え事業を完了させるため,引き続き関係者一同が一致団結して推進していく所存である。
 
改築事業完成後も水の安定供給を通じ,引き続き首都圏の生活を支えていくとともに,新たに水資源機構が一元的に管理することになる内水排除施設の操作について使命を果たしていくものである。
 
 
 
【出典】


土木施工単価2015秋号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

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