- 2023-05-08
- 土木施工単価
1.はじめに
広島市一帯およびその周辺地域は、雨で崩れやすい「真砂土」と呼ばれる風化花崗岩の地質的条件に加え、平地が少ないため山裾まで住宅地の開発が進行しているという社会的背景も相まって、以前から土砂災害が繰り返し発生しています(写真-1)。
近年では、気候変動による降雨の激甚化等の影響もあり、平成26年8月、平成30年7月および令和3年8月など、相次いで甚大な被害が発生しており、土砂災害に対する備えが重要な地域となっています(写真-2)。
広島西部山系直轄砂防事業は、平成11年6月豪雨災害を契機に、広島市・廿日市市・大竹市の一部地域を広島西部山系として平成13年度より事業を開始し、山系内の危険な渓流の中から、道路や鉄道等の重要な交通網や人口が特に集中する住宅地、小学校など公的な避難場所等がある箇所を対象とし、土石流災害を未然に防ぐ予防保全対策として砂防堰堤等の施設整備を集中的に進めています(図-1)。
2.広島西部山系直轄砂防事業の特徴
広島県は土砂災害警戒区域の指定箇所が全国で最も多く、広島西部山系内には県内の約14%にあたる2,382カ所(令和4年4月時点)の土砂災害警戒区域(土石流)が存在します(図-2,3)。
広島西部山系内には、土石流による土砂災害警戒区域が重複する地区が多くあり、整備効果を高めるためにも、一連区間で隣接する渓流を集中的に整備しています(写真-3)。
また、JR山陽新幹線や山陽本線、高速道路や国道等重要な交通網が横断しており、土砂災害により被災すれば直接的な被害だけでなく災害復旧の遅れや社会経済的な影響が広域的におよぶため、重要な交通網を保全するための整備を行って
います(写真-4)。
これまでに16地区で施設整備が完了し、現在17地区で事業を実施しています。
また、平成30年7月豪雨や令和3年8月の大雨で土石流により甚大な被害が発生した地域においては、再度災害防止のための緊急的な砂防事業を行っており、当事業と合わせて地域の安全確保に努めているところです(図-4、写真-5,6)。
平成26年8月豪雨により甚大な被害が発生した広島市安佐南区では、被災地の復興に向け緊急的な砂防事業(令和2年度完成)に合わせ、近接する土石流の発生していない渓流においても砂防堰堤の整備を行っています(写真-7)。
当事業により、107基(令和4年3月時点)の砂防堰堤が完成し、緊急的な事業で整備した砂防堰堤も含めると広島西部山系内には150基の砂防堰堤が整備されています。
令和3年8月の大雨においては、整備した4基の砂防堰堤が土石流を捕捉し下流地域の被害を防いでいます(写真-8,9)。
ハード対策以外にも相次ぐ土砂災害を受け、災害の記憶を受け継ぐため、自治体や住民と一体となって防災教育などのソフト対策にも取り組んでいます。
地域イベントでは、近年発生した土砂災害の被害状況や砂防堰堤の効果について、写真や模型を利用し、事業の必要性の説明を行っています(写真-10)。
3.生産性向上・DX推進の取り組み
広島西部山系の砂防工事現場は、狭隘・急峻な地形条件により施工ヤードの確保が難しく、片押し施工や段取り替えを行いながら施工することが必要となります。
また、住宅地奥の狭い道路を通行する場合は、施工時間の制約や騒音・振動への配慮が必要となります。
(写真-11,12)。
さらに、流路工や階段工など比較的小規模な構造物も多く、同じ工事規模の河川工事や道路工事に比べ工事期間が長く、危険性も高い工事となっています。
そこで、当事務所では砂防工事の生産性を高めるため、工事の現状分析や施工業者へのアンケートにより施工上の課題を抽出し、改善策の現場試行に取り組んでいます。
現在、流路工のユニット化や階段工のプレキャスト製品活用などの試行に取り組み、工期短縮状況の確認を行っています(写真-13,14)。
危険な場所での施工も多くあることから、今後無人化施工の試行にも取り組んでいくことを予定しています。
また、本格的なBIM/CIMの導入に向けて、仮設計画の検討における受発注者間のイメージ共有の実施や、設計段階で作成された土工形状モデルをICT施工に円滑に活用できるよう設計コンサルタントと施工業者からの意見をもとに現場での試行に取り組んでいます(写真-15、図-5)。
土石流発生後の渓流点検や施設点検においても、UAVを活用した施設点検の高度化検討や、スマートフォンなどを使用し、現地状況の情報を共有できるSMARTSABO(砂防調査・管理効率化ツール)の活用など、安全かつ迅速な調査の技術開発に取り組んでいます(図-6,写真-16)。
4.積極的な情報発信の取り組み
広島西部山系砂防事務所の事業や砂防工事現場の状況を広く伝えるために、事務所のホームページやTwitterによる情報発信を行っています。
特に、UAVにより撮影した砂防堰堤の動画や事業に携わる技術者、砂防の仕事を紹介することに力を入れ、現在365日ツイートにチャレンジしています(写真-17)。
令和3年8月に砂防堰堤が土石流を捕捉した際には、砂防堰堤の効果および捕捉直後の現地調査結果や除石工事の状況について積極的に情報発信を行いました(写真-18)。
また、現場見学会や工事現場を見せる工夫などにも積極的に取り組み、地域の方々に事業への理解を深めていただいています(写真-19)。
5.おわりに
広島西部山系砂防事業は、砂防堰堤が土石流を捕捉した効果もあり、近年頻発する土石流災害を未然に防ぐ予防保全対策として地域からの期待が高まっています。
一日でも早く砂防関係施設が完成するよう、新しい技術の導入にチャレンジするとともに、引き続き、地域の方々や関係者の方々の協力を得ながら事業の推進に努めてまいります。
国土交通省中国地方整備局広島西部山系砂防事務所
土木施工単価2023年冬号

最終更新日:2023-05-08
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