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はじめに

水道・下水道事業においては、老朽化施設の増加、人口減少に伴う使用料への影響や執行体制の脆弱化など、事業の持続性確保の課題がより一層深刻になっており、これらに対応するためのさらなる施策展開を推進するとともに、災害リスクの増大に対応した国土強靭化対策、カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素化、施設のメンテナンスの高度化・効率化に資する上下水道DX(デジタルトランスフォーメーション)など新たな社会的要請に対応した取組みの推進も必要となっています。
こうした取組みの推進には、上下水道分野における技術開発は必要不可欠であり、国土交通省では、技術開発の取組みを積極的に支援しています。
 
 

1. 技術開発事業について

【革新的技術実証事業】

国土交通省では、社会情勢の変化に対応して、水道・下水道事業における多様な課題を解決するためには、既往の技術より高効率、かつ低コストなどの革新的技術の導入が必要であると考えています。
しかし、水道事業者・下水道管理者である地方公共団体では、実績の少ない新技術の導入に慎重な傾向があるため、国が主体となって、新技術である施設・設備等を設置して技術的な検証を行い、ガイドラインを作成して、全国への普及展開を図っています。
 
そこで、下水道事業に関しては、平成23年度から下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト※1)(以下、「B-DASH」という。)を実施しており、令和6年度末時点で61 技術を採択し、42のガイドラインを国土技術政策総合研究所のホームページにて公表※2しています。
また、令和6年度には水道整備・管理行政が厚生労働省から国土交通省へ移管されたことを受け、水道事業に関して、水道革新的技術実証事業(A-JUMPプロジェクト※3)(以下、「A-JUMP」という。)を創設し、実証事業を行いました。
さらに、上下水道一体の技術開発を促進するため、令和6年度補正予算より、A-JUMPおよびB-DASHを上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Crossプロジェクト※4)(以下、「AB-Cross」という。)として発展させ、実証事業を実施しています(図-1:AB-Crossの概要)。

図-1 AB-Crossの概要
図-1 AB-Crossの概要

 

【その他技術開発事業等】

その他、国土交通省では、大学などの研究機関によるラボレベルの研究を終え、企業等による応用化に向けた開発段階にある研究や、異業種分野で確立された技術を下水道分野へ適用するための研究に対する技術発展の支援を目的とした「応用研究(下水道)」を実施しています。
また、令和6年度には、水道行政の移管に併せ、厚生労働省で実施していた競争的研究費制度を引き継いだ上で対象に下水道を加え、優れた科学研究を採択・助成する「上下水道科学研究費補助金」を創設し、研究段階から実用化段階に至るまでの幅広いステージの技術に対して、開発段階に応じた技術開発事業等を推進しています。
 
 

2. AB-Crossの概要

AB-Crossでは、地方公共団体や民間企業によって実用開発された技術・システムについて、実規模レベルの施設等を供用中である自治体の現場フィールド(処理場や処理区域内等)に設置して、技術的な検証(性能確認、適用範囲の画定または導入リスクの事前把握および回避方策の検討等)を行っています。
 
実証テーマについては、その時々の政策課題を踏まえつつ、自治体側のニーズと開発を担う民間企業側のシーズを調査して選定しています。
例年5月頃に技術の成熟度に応じて、次のとおり民間企業等からテーマを募集し、学識経験者等から成る委員会の審議等を踏まえ、次年度の実証テーマを決定しています。
 

「AB-Cross実規模実証テーマ(革新的技術)」

直ちに実規模で実証できる段階にあり、水道・ 下水道事業に新たな付加価値を創造するなどの革新性の高い技術。
 

「AB-Cross 実規模実証テーマ(普及推進技術)」

有効技術であるものの、現状ではその普及展開が十分でないが、適用性の拡大、性能向上等の改善または普及展開上の技術課題解決によって、さらなる普及展開が期待され、水道・下水道事業の効率化などに資する技術。
 

「AB-Cross FS調査テーマ」

1~2年のFS調査(導入可能性調査)実施後に、実規模実証等へ移行可能な技術の成熟度で、導入効果などを含めた普及可能性の検討や技術性能の確認を行う段階にある技術。
 
実証事業は、国の予算が閣議決定した後の年明け1月頃から予算の成立を前提にして次年度の公募を行います。
事業実施者の選定は、応募された技術について、審査等の透明性・公平性を確保するため、有識者委員会において審査を行い採択します。
採択された事業実施者は、AB-Crossの実施機関である国土技術政策総合研究所との間で委託契約を締結した後、実証施設の建設から技術実証を進める流れとなっています(図-2)。
実証期間は2年間を基本としており、1年目に実証施設の建設を行い、2年目から本格的な技術実証に着手し、その結果を取りまとめ、ガイドライン化を図るというのが一般的な流れとなっています。
各年度の実証の状況やガイドライン化については、都度、評価委員会で審議されることとなります。

図-2 委託研究契約までの流れ
図-2 委託研究契約までの流れ

 
 

3. 普及展開について

新技術の現場への導入が進まない理由として、優れた技術であっても「実績が少ない」「技術資料・積算資料が不足」などがあります。
そこで、革新的技術実証事業では、実証された技術について、地方公共団体が技術導入の参考とするためのガイドラインを策定・公表しています。
これまで、10年以上にわたり多くの実用技術のガイドライン化を行い、令和6年度末時点で、23技術252件の新技術の導入実績があります。
 
ガイドラインの構成は、第1章(総則)、第2章(技術の概要と評価)、第3章(導入検討)、第4章(計画・設計)、第5章(維持管理)、その他資料編となります。
使用方法は、まず第1章から第3章まで読み、技術の基礎的情報、適用条件・性能および導入した場合の効果等を把握します。
そして、導入に向けて、第4章および第5章と進み、導入の可能性を判断します。
 
国土交通省では、策定されたガイドラインについて、策定趣旨や概要について広く知っていただき、技術の普及促進を図るため、毎年開催される「下水道展」の場でガイドラインについての説明会の開催や、技術紹介のパネルを設置して地方公共団体へのPRを行っています。
また、新技術の導入検討を考えている方を対象として、これまでに発刊した技術導入ガイドラインのポイントをまとめた技術情報資料を公表※2しています。
技術テーマごとに、適用施設規模、技術分野、適用範囲、導入効果および導入時の留意点を掲載し、導入可能性の判断に役立つものとなっていますので、是非、ご活用ください。
 
 

4. 直近の採択案件

AB-Crossでは、分散型システムをテーマに3件、ダウンサイジング可能な技術をテーマに1件、効率的な耐震化技術をテーマに1件の実規模実証を採択し、技術実証を行っています。
 
分散型システムの実施主体と事業名は、WOTA株式会社・珠洲市共同研究体が担う「住宅向け小規模分散型水循環システムの地域展開実証事業」、ゼオライト株式会社・一般財団法人造水促進センター・国立大学法人信州大学・日本水工設計株式会社、長野県喬木村共同研究体が担う「中山間部における分散型水循環システムの実証研究」、株式会社NJS・天草市・中川村共同研究体が担う「小規模水道におけるハイブリッド小型緩速ろ過システムの実証事業」になります。
分散型システムとは、中山間地域等において用いられる小規模な水供給システムの総称であり、いずれの採択案件においても、人口動態など、地域の状況に応じた最適なシステムの検証を実施します。
ダウンサイジング可能な技術の実施主体と事業名は、メタウォーター株式会社・日本下水道事業団・宮城県共同研究体が担う「好気性グラニュールによるダウンサイジング可能な下水処理技術」になります。
ダウンサイジング可能な技術とは、人口減少に伴う供給水量や流入下水量の減少に対応した施設規模へ、段階的なダウンサイジングが可能な技術を指します。
本案件では、新たな水処理技術の処理水質・処理能力、消費電力量の低減効果等の検証を実施します(図-3)。
 
効率的な耐震化技術の実施主体と事業名は、大成機工株式会社・株式会社NJS・穴水町共同研究体が担う「補強金具による非耐震ダクタイル鋳鉄管路の耐震補強の実証事業」になります。
本案件では、急所となる水道管の早期耐震化などの促進に向けて、断水することなく供用中の管の継手に補強金具を取り付けて耐震補強を行う技術について実証します(図-4)。
 
その他にも、業務の効率化・省人化に資する技術をテーマとして、「中大口径管内表面状態評価技術」、「浄水場ビッグデータを活用したかび臭濃度予測ソフトの開発に関する調査事業」、「加速度計による衝撃応答計測・微動計測技術を用いた水管橋の点検効率化および高度化実証事業」の3件のFS調査を採択し、技術実証を行っています※5

図-3 ダウンサイジング可能な技術 実証技術の概要
図-3 ダウンサイジング可能な技術 実証技術の概要
図-4 効率的な耐震化技術 実証技術の概要
図-4 効率的な耐震化技術 実証技術の概要

 
 

おわりに

近年の上下水道を取り巻く環境は、人口減少や施設の老朽化、自然災害の激甚化など厳しさを増すとともに、脱炭素、経済・食料安全保障への対応等、新たな課題への対応も求められています。
特に、令和7年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管路の破損に起因すると考えられる道路陥没事故も踏まえ、下水道などのインフラマネジメントを強力に推進するためには、更なる技術開発と実装を進めることが重要です。
そこで、令和8年度予算概算要求では、AB-Cross新規実証事業テーマとして、「メンテナンスの高度化・メンテナビリティの向上・リダンダンシーの確保につながる技術」、「2050年カーボンニュートラルの実現に資する省エネや創エネなどの技術」を盛り込みました。
 
上下水道の課題を解決し、かつ上下水道が持つポテンシャルを最大限に発揮していくためにも、新技術の開発や導入を継続して取り組んでまいりますので、今後とも、技術開発の取組みにご理解とご協力をお願いいたします。
 
 


※1:Breakthrough by Dynamic Approach in Sewage High Technology Project
※2:(国土技術政策総合研究所 上下水道研究所 下水処理研究室 B-DASHプロジェクト 採択技術・技術導入ガイドライン(案)一覧など URL) https://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/bdash.htm#bdash_tech
※3:Aquatic Judicious & Ultimate Model Projects
※4:A-JUMP技術とB-DASH技術を横断(Cross)する実証事業であり、水道に関する革新的技術や下水道に関する革新的技術に加えて、両者を横断する上下水道一体の革新的技術を対象とした実証事業
※5: 令和6年度 AB-Crossプロジェクト実証技術の概要等について https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000989.html
令和7年度 AB-Crossプロジェクト実証技術の概要等について https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000996.html
 
 
 

国土交通省 大臣官房参事官(上下水道技術)付(上下水道審議官グループ)課長補佐
長谷川 広樹

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年1月号


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最終更新日:2025-12-19

 

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