ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > 東京都区部の下水道管理の最前線~東京都下水道サービス株式会社 出張所業務について~

はじめに

東京都下水道サービス株式会社(以下、TGSという)は、1984年に東京都下水道局の事業の一部を担う専門会社として設立されました。
設立当初は、施設の運転管理や受付業務が中心でしたが、年々業務範囲を拡大し、現在では東京23区(以下、区部という)の広大な下水道網の維持管理も担っています。
所管する施設は、管路総延長約16,200km、マンホール約49万個、汚水ます約198万個に上り、この膨大な量の都市インフラを日々適切に管理していくことで、都民生活の安全・安心や良好な環境を支えています。
 
TGSは東京都の政策連携団体として、下水道局との一体的な事業運営により、受託業務を確実に履行していますが、現場の課題を解決する技術開発や現場からの発想に基づいた政策提案を行うといった役割も担っています。
また、実際の施工や作業を担う下水道メンテナンス協同組合をはじめとする民間事業者とも連携し、下水道局を含めた三者で区部の下水道事業を支えています(図-1)。

図-1
図-1

 
TGSでは都内23区に1か所ずつ設置した出張所において地域密着型の対応による住民(以下、お客さまという)サービスの向上に努めるとともに、実務を通じて技術力と現場力を磨き続けています。
 
また、2021年には「経営戦略アクションプラン2021」を策定し、予防保全型維持管理の強化やデジタル技術の導入を加速することで、都市の持続可能性を支えるインフラ管理のプロフェッショナルとして進化を目指しています。
 
本稿では「経営戦略アクションプラン2021」に掲げる出張所の取り組みとともに、これからの展望について紹介します。
 
 

1. 区部の下水道を取り巻く環境

区部の下水道の特徴として「老朽化」「大深度化」「浸水対策施設の増加」が挙げられます。
 
区部の下水道は明治17年布設の「神田下水」(写真-1)から100年以上の月日を経て、平成6年度に普及率が概ね100%に達しました。
それ以降、初期に普及したエリアから再構築事業を進めていますが、既に法定耐用年数の50年を超えた下水道管の延長は全体の24%に達しており、さらに、今後20年間で68%まで急増する見込みです。
老朽化の進行により施設の破損のリスクが高まり、道路陥没や臭気の発生など、都市活動や生活環境に大きな影響を及ぼすことが危惧されています。

写真-1  明治時代に布設された神田下水の一部は今現在も現役施設として活躍しています
写真-1  明治時代に布設された神田下水の一部は今現在も現役施設として活躍しています

 
また、下水道管は自然流下での布設を基本としており、他の地下埋設物を避けることによって埋設位置が深くなっていることが多く、開削による取り替えが困難になっている状況が生じています。
 
浸水対策用の調整池や貯留管などの施設は大規模で構造も複雑化しており、故障時の対応など、維持管理上の困難性も高まっています。
 
くわえて、地域のお客さまからの要望も多様化しており、よりきめ細やかな対応が求められています。
 
このような中、出張所においてはトラブルへの迅速な対応と、お客さまの声への的確な対応を日々心がけています。
また、現場業務の中で様々な創意工夫や技術開発を通じて施設の延命化や機能向上にも努めています。
 
 

2. お客さま対応のモットー:信頼と誠実を礎に

出張所業務は、お客さまとの接点を持つ「顔の見える下水道管理拠点」としての役割を果たしています。
TGSでは、すべての社員が「誠実・迅速・丁寧」をモットーにお客さま対応に取り組んでいます。
 
【誠実】お客さまからの電話は「ワンコール」で受け、問合せや苦情に対して、真摯に耳を傾け、原因究明と改善策の提示に努めています。
 
【迅速】道路陥没や下水道管のつまりなどの緊急事態やお客さまからいただいた連絡に対しては速やかに現場へ駆けつけ、早期解決に心がけています。
 
【丁寧】お客さまに対しては直接会って問題の解決を図るとともに、下水道事業の説明を行うなど行政の視点も含めて丁寧に応対しています。
 
こうした姿勢がお客さまとの信頼関係を築き、都市インフラへの理解と協力の促進につながっています。
 
 

3. 予防保全型維持管理:未然に防ぐ力

老朽化する施設の増加に伴い、東京都下水道局が進める再構築事業と連携し、施設の延命化を図る予防保全型の維持管理を進めています。
 
管路周辺やマンホールの異常兆候を早期に発見するため、定期的な現場巡視を実施しています。
巡視時には蓋の浮きやガタつき、周辺舗装の沈下なども確認し、異常があれば即時補修を行い、通行者の安全を確保しています。
このように、異常箇所には迅速に対応し、事故やトラブルの発生を未然に防止するよう努めています。
 
また、過去に発生した道路陥没や浸水などのトラブル情報はTGS独自のナレッジマップに蓄積し、再発防止対策に活用しています。
具体的には、重要路線下や腐食のおそれの高い下水道管、法定耐用年数を超過した下水道管の多い地域、道路陥没の多い地域などを対象に重点的に調査(写真-2、3)を行い、下水道局とともに計画的な補修(写真-4、5)を行うことで予防保全の強化に取り組んでいます。
再構築事業と並行して取付管の取り替えや更生工事を計画的に実施したところ、区部における下水道管に起因する道路陥没が平成12年度には1,500件以上発生していましたが、令和6年度には約400件まで減少しています。
それでも依然として道路陥没は発生していることから、引き続き対策を進めていく必要があります。

写真-2 下水道管調査作業
写真-2 下水道管調査作業
写真-3 下水道管調査作業
写真-3 下水道管調査作業
写真-4 特殊マンホール補修前
写真-4 特殊マンホール補修前
写真-5 特殊マンホール補修後
写真-5 特殊マンホール補修後

 
 

4. 維持管理情報のフィードバック:現場発の改善へ

出張所で得られる維持管理情報は、施設の改善、現場発の新技術の開発などに活用される重要な資源となっています。
 
損傷頻度や経年劣化の傾向を分析し、優先順位をつけた補修計画を策定しています。
再構築事業を実施するエリアにおいては、管路内調査を先行実施することで事業のスピードアップを図るとともに、維持管理しやすい施設への改良を下水道局に提案しています。
 
下水道管内に堆積物や浮遊物が滞留し、臭気の発生する地域について重点的な調査と清掃を実施するとともに、臭気やつまりの原因を分析し、対応策を検討しています。
 
現場での事例を教材化し、若手職員の教育に活用しています。
さらに、陳情・苦情対応の履歴も分析し、お客さま対応の改善につなげています。
長年にわたる現場情報や対応事例、さらにはベテラン社員の知識・ノウハウは電子情報として一元化し、社内での共有を図っているところです。
このように出張所業務は単なる現場対応にとどまらず、TGS全体の知見と改善活動の源泉となっています。
 
 

5. 安全管理の推進:地域の安全を守る

出張所が直面する現場には危険要素があふれています。
地上においては交通量の多い道路上や狭隘で建物などが近接する路地、下水道施設に至っては地下深く墜落転落のおそれ、下水道管の中では常時下水が流れている状況から硫化水素等の有毒ガス対策や流速・水位などへの対応が欠かせません。
これらの危険を伴う環境下での工事や作業を安全第一に進めていかなくてはなりません。
 
TGSでは、作業中の事故トラブルを防止するため、現場点検の根拠となる法令や規程を明記した「現場安全チェックリスト」を作成し安全パトロールで活用するなど、安全管理の強化を図っています。
また、TGSには行政や民間企業、交通管理者など様々な経歴を持った社員が在籍しており、各々の視点での知見を盛り込んだ「安全管理のチェックポイント」(写真-6)を作成しました。
安全教育の実用書として、研修はもとより安全パトロールや事故防止対策協議会などでも活用されています。
 
これらの取り組みを着実に進めることにより、現場に携わる人と施設の安全を守り、地域のお客さまの安心と信頼につながるよう努めています。

写真-6
写真-6

 
 

6. 技術的取組:進化する出張所業務

TGSの出張所においてもデジタル技術の活用による業務の高度化・効率化を推進しています。
各出張所にタブレット端末を配置し、現場確認作業の効率化に取り組んでいます。
事故・トラブルが発生した際にタブレット端末から映像を送信することで、管理者である下水道局もリアルタイムに現場状況を把握することができ、下水道局からの速やかな対応指示が可能になっています。
今後は現場の情報をタブレット端末に直接入力することで、情報の迅速な共有や報告書作成等に伴う負担の軽減を図っていきます。
 
将来的には、下水道台帳との連携やAI機能の積極的活用も視野に入れ、維持管理業務のさらなる高度化・効率化に取り組んでいきます。
 
 

おわりに

東京都下水道サービス株式会社の出張所業務は、都市の「見えないインフラ」を守る最前線の仕事です。
2025年1月に八潮市で発生した道路陥没事故は、下水道管路の老朽化と維持管理の重要性を社会に再認識させる契機となりました。
TGSでは引き続き下水道局や関連事業者と連携して必要な調査や補修を着実に進め、下水道が健全に機能するよう努めていきます。
 
これからもお客さま対応の誠実さ、予防保全型の維持管理、情報のフィードバック、安全管理の推進—これらを柱として、TGSは都市の安心と未来を守り続けていきます。
地域に根ざした出張所の力が、東京という大都市の持続可能な社会を支えていることを、一人でも多くの方に知っていただければ幸いです。
 
 
 

東京都下水道サービス株式会社 管路部 管路調整課
青山 繁

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年1月号


積算資料公表価格版2026年1月号

最終更新日:2025-12-19

 

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