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はじめに

建設業界においてi-Constructionの推進が叫ばれて久しいが、推進工法におけるICT化は、他工種に比べて独自の技術的課題を抱えている。
ICT推進工法研究会は2022年4月に発足し、2025年9月現在で100現場の実績を得るに至った。
本稿では、同研究会が普及を目指す、株式会社アクティオ製の自動測量システム「PipeShot」の概要とその役割、そして将来的な自動推進管理システムの確立に向けた展望について解説する。
 
 

1. 推進工法における測量の特殊性と課題

推進工法は、立坑に設置した元押ジャッキを用いて管列全体を地中へ押し進める工法である。
シールド工法や山岳トンネル工法とは異なり、掘進に伴って管列全体が移動するため、管内に恒久的な測量の基準点を設けることができないという決定的な特性がある。
 
したがって、推進工事の測量は、常に立坑内の基準点から管内に設置した中間点を経由し、マシン位置までをその都度測量する「開放トラバース測量」によらざるを得ない。
 
昨今の推進工事においては、1スパンが1,000mを超える長距離施工や、急曲線、あるいは複数の曲線を含む複雑な線形の施工が増加している。
このような環境下において、狭小な管内での人力による測量は、多大な作業時間を要するだけでなく、作業員にとって肉体的な苦渋作業となる。
加えて、盛替え回数の増加に伴う人的過誤(ヒューマンエラー)のリスクも無視できない。
このように推進工事測量には様々な問題が山積しているのが現状である。
 
 

2. 従来の自動測量とICT化への障壁

これらの課題を解決するため、過去にも自動追尾式トータルステーションを用いた自動測量システムは開発されてきた。
管内に測量技術者が立ち入ることなく測量が可能となる点は大きな進歩であった。
 
しかしながら、従来のシステムは通信方式にシリアル通信を採用していたため、ネットワークへの拡張性が低く、測量機能に特化した閉じたシステムに留まっていた。
これでは、現代の建設現場に求められる「外部との連携」や「リアルタイムなデータ共有」といったICT化の要請に十分に応えることが困難であった。
そこで、通信方式にLANを採用し、汎用性と拡張性を高めることで真のICT化を実現したのが、次項で詳述する「PipeShot」である。
 
 

3. ICT自動測量システム「PipeShot」の概要

「PipeShot」は、コンピューター制御が可能な測量機を見通し可能な位置に順次配置し、専用の制御ボックス(IoT-BOX)を介して、PC内のプログラムにより立坑基準点から開放トラバース測量を自動で行うシステムである。
 
本システムの最大の特徴は、システム全体の通信がLANで構築されている点にある。
これにより、カメラ、スマートフォン、温湿度計など、様々なインターフェイスとの接続が可能となった。
さらに、インターネットを通じてクラウドサーバーと連携することで、遠隔地からの施工支援や監視も容易に行える環境を実現している。
 
 

4. 機器構成と通信フロー

システムは主に以下の機器で構成される(図- 1および表- 1参照)。

図-1 ICT自動測量システム概要
図-1 ICT自動測量システム概要
表-1 ICT自動測量システムの機器構成
表-1 ICT自動測量システムの機器構成
表-2 測量機の仕様
表-2 測量機の仕様
表-3 制御ボックスの仕様
表-3 制御ボックスの仕様

 

  • 立坑機(1台):測量の起点となる重要機材。
  • 管内機(複数台):掘進距離に応じて順次追加される中継機。
  • 制御ボックス(IoT-BOX):各測量機の制御とデータ通信を担う。
  • ターゲット類:バック点、マシンターゲット、出来形用ターゲット等。
  • PC(制御ソフト):全体の統括制御を行う。

これらの機器はLANケーブルによってネットワーク化されており、立坑内のPCから、あるいはWi-Fi経由で管内のスマートフォンからも制御・通話が可能である。

立坑機(NET1AP)
立坑機(NET1AP)
管内機(LN-150AP)
管内機(LN-150AP)

 
 

5. 測量精度の確保と機器仕様

推進工法における自動測量では、立坑機とバック点との間の「基線」の精度が極めて重要となる。
掘進延長に比べてこの基線長は非常に短いため、ここでの測量誤差は到達点において大きな誤差へと拡大する危険性があるからである。
 
そのため、本システムでは適材適所の機器選定を行っている。
 

  • 立坑機(NET1AP):測量精度への影響が最も大きい立坑機には、角度精度1秒、距離精度1mmという極めて高精度な仕様を持つ機種を採用した。
  • 管内機(LN-150AP): 管内に設置される中継機には、小型で取り回しの良い機種(角度精度5秒、距離精度3mm)を採用している。

 
なお、本システムは呼び径800以上の「大中口径管推進工法」での使用を想定している。
これは、管内で作業員が通行・作業可能なスペースが確保できる口径を対象としているためである。
 
 

6. データの「見える化」から自動制御へ

ICT推進工法研究会が目指すのは、単なる測量の自動化に留まらない。
将来的には、推力、トルク、泥水圧といった他の推進データ情報も合わせ、総合的な「自動推進管理システム」を確立することを目的としている。
 
LAN通信によって収集・蓄積された膨大な推進データを解析することは、施工状況の「見える化」を実現する第一歩である。
さらに、直近の施工データや地質データをリアルタイムに考慮した方向制御手法の確立、施工の最適値の決定など、より高度な判断をシステムが支援する未来を描いている。
 
これらが実現すれば、遠隔監視や遠隔操作といった、完全なICT推進工法の確立へとつながっていくであろう。
 
 

7. 健全な施工方法の普及に向けて

本研究会は、正会員16社、賛助会員1社で発足し、技術の研鑽と普及に努めている。
自動測量技術を正しく普及させることは、業界全体の施工品質の向上、ひいては健全な施工方法の確立に寄与するものである。
 
人手不足が深刻化する建設業界において、苦渋作業からの解放と省人化、そして高精度な施工管理を両立する「PipeShot」およびICT推進工法の役割は、今後ますます重要性を増していくに違いない。
当研究会としても、現場データの蓄積と技術解析を進め、次世代のトンネル工事技術の基礎を築くべく、活動を継続していく所存である。
 
 

おわりに

本稿では、ICT自動測量システム「PipeShot」の技術的特長とその導入意義について解説した。
 
LAN技術をベースとした拡張性の高い本システムは、推進工法のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるキーテクノロジーである。
関係各位におかれては、本技術への理解を深めていただくとともに、積極的な活用を期待したい。
 
 
 

ICT推進工法研究会 技術積算部会長
稲葉 富男

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年1月号


積算資料公表価格版2026年1月号

最終更新日:2025-12-19

 

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