ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 コンクリートの維持管理 > 中性化や塩害の電気化学的補修技術「リペアカーテン」~再アルカリ化、脱塩および電着工法の施工~

はじめに

高度経済成長期に集中的に整備された社会資本の老朽化が急速に進んでいる。
国土交通省の資料1)によると、約73万の橋長2m以上の道路橋梁が建設後50年を経過する割合は、2023年3月時点では約37%であるが、2030年3月には約54%へと急増すると予想されている。
インフラ長寿命化基本計画2)では、社会資本を長寿命化するためには、劣化前の予防保全や劣化後の機能回復を適切に行う必要があるとされている。
 
土木学会指針3)に示されるように、再アルカリ化工法、脱塩工法および電着工法は、鉄筋コンクリート構造物に対する予防保全あるいは機能回復する電気化学的な補修技術である。
このうち、再アルカリ化工法および脱塩工法は、補修前後で構造物の外観変化が少ないことから、一般構造物に加え歴史的構造物の補修にも適している。
一方、電着工法は、コンクリートのひび割れを電着物で閉塞させることが可能であり、かつ電着処理後にはコンクリートの物質移動抵抗性が元の性能を上回るという特長を有している。
また、これらの3種類の電気化学的補修技術は、数週間の通電を行えば、その後の継続通電は不要である。
ただし、通電期間中は、コンクリート外部に仮設した陽極と、陰極として用いる内部鉄筋に電流を流すために、コンクリート面と仮設陽極の間に電解質溶液を供給する必要があり、土木学会指針3)では、表-1に示す7種類の施工方式が示されている。
筆者ら4)が開発したリペアカーテンは、「簡易給水方式」に分類される技術であり、再アルカリ化工法、脱塩工法および電着工法の全てに適用できる。
本稿では、リペアカーテンによる再アルカリ化工法および脱塩工法の適用事例を紹介する。

表-1 施工方式の適用可否
表-1 施工方式の適用可否

 
 

1. リペアカーテンの特徴

リペアカーテンはNETISにKT-190114-A(塩害対策)ならびにKT-190115-A(中性化対策)として登録されている。
リペアカーテンの施工フローを図-1に、仕組みを図-2に、補修部の断面を図-3に示す。

図-1 施工フロー
図-1 施工フロー
図-2 リペアカーテンの仕組み
図-2 リペアカーテンの仕組み
図-3 補修部の断面([1]再アルカリ化,[2]脱塩の例)
図-3 補修部の断面
([1]再アルカリ化,[2]脱塩の例)

 
リペアカーテンの特徴は、負圧を利用して、気泡緩衝シート全面をコンクリート側に押し付け、陽極材と不織布をコンクリート面に確実に接触させること、および負圧部全体に水膜を形成することである。
これにより、電気化学的な補修効果を得るために重要となる通電を確実に行うことができる。
なお、負圧部に気泡緩衝シートを用いる理由は、凹凸形状であるため、気泡緩衝シートが負圧でコンクリート側に押し付けられた状態でも凹部に空間を確保でき、空気の流路として利用して負圧領域を広げるためであり、重要な役割を担う安価な資材である。
 
以上により、直流電源装置に接続した陽極材と内部鉄筋間に直流電流回路を形成し、再アルカリ化工法、脱塩工法および電着工法のそれぞれに適した条件(電流密度、電解質溶液、通電期間など)で通電することで、各工法の効果を得ることができる。
 
 

2. リペアカーテンの適用事例

2-1 道路橋脚の再アルカリ化事例
(1) 概要

適用構造物は、橋長73.0m、幅員6.3mの5径間鉄筋コンクリートT桁橋の壁式橋脚1基であった。
本橋脚の中性化深さは、最大28.5mm、平均17.9mmであったことから、再アルカリ化を目的として、リペアカーテンを適用した。
橋脚の幅は約1.1m、長さは約5.5m、高さは約2.5mであり、補修対象面積は約30m²であった。
鉄筋は丸鋼が用いられており、鉄筋径は縦筋Φ16、横筋Φ9であり、外側に配筋されている横筋の純かぶりは約100mmであった。
 
通電条件は、土木学会指針3)を参考に表-2のように設定した。
なお、本橋脚の外観にASR特有の変状は見られなかったものの、ASRの発生が多く報告されている地域の構造物であった。
そのため、既往の知見3)5)でASRによる膨張の抑制効果が示されている炭酸リチウム水溶液を電解質溶液として採用した。

表-2 通電条件(道路橋脚)
表-2 通電条件(道路橋脚)

 

(2) 適用結果

リペアカーテンの適用状況を写真-1に示す。
通電開始から14日間連続で通電を行った。
通電期間中には、電圧値、電流値(電流密度)、電解質溶液のpHおよび溶液量のチェックを行った。
電流密度は通電開始から20時間経過後に所定値に達し、その後は通電終了まで所定値での通電を継続できた。
1~2日に1回の頻度で溶液タンクに電解質溶液の補充作業を行っており、電解質溶液のpHは、リトマス試験紙で11~13であった。
なお、電解質溶液の消費量は、14日間の通電で1m²当り約40Lであった。

写真-1 リペアカーテン適用状況(道路橋脚)
写真-1 リペアカーテン適用状況(道路橋脚)

 
以上の結果、通電終了後の中性化深さは、写真-2の適用後に示すように、0mmまで回復しており、補修目標を達成できた。
また、写真-3に示すように、リペアカーテンの適用後においてもASR特有の変状は認められず、適用前後でコンクリートそのものの外観に変化は見られなかった。

写真-2 中性化深さの測定結果
写真-2 中性化深さの測定結果
写真-3 道路橋脚の外観(適用前後)
写真-3 道路橋脚の外観(適用前後)

 

2-2 海上桟橋の脱塩事例
(1) 概要

適用構造物は、竣工後約40年経過した海上桟橋の桁であった。
主に塩害が原因と推定されるひび割れが生じていたため、コンクリートの脱塩を目的として、リペアカーテンを適用した。
通電条件は土木学会指針3)を参考に表-3のように設定した。

表-3 通電条件(海上桟橋)
表-3 通電条件(海上桟橋)

 
なお、電解質溶液は、本構造物が海上桟橋であることから、入手が容易な海水を用いることとした。
海水を用いることは、電着工法の標準的な電解質溶液として従来から海水が使用されていることや、脱塩工法は内部鉄筋を陰極とし電気泳動によって陰イオンである塩化物イオンを陽極側に引き出す原理であることなどから、通電が可能であり脱塩効果も得ることができると判断して決定した。
 

(2) 適用結果

リペアカーテンの適用状況を写真-4に示す。
通電前後のコンクリート中の塩化物イオン濃度を図-4に示す。
この塩化物イオン濃度はJIS A 1154に従って測定した全塩化物イオン濃度である。
深さ20~40mmの位置に着目すると、脱塩前16.9kg/m³から脱塩後2.3kg/m³に低減しており、2ヶ月間の通電により14.6kg/ m³の脱塩効果が得られた。
また、鉄筋が位置する深さ100~120mmの塩化物イオン濃度は脱塩前の1.9kg/m³から脱塩後0.9kg/m³となり、鋼材腐食発生限界濃度以下まで脱塩されており、補修目標が達成できた。

写真-4 リペアカーテン適用状況(海上桟橋)
写真-4 リペアカーテン適用状況(海上桟橋)
図-4 塩化物イオン濃度の測定結果
図-4 塩化物イオン濃度の測定結果

 
 

おわりに

中性化や塩害で劣化した鉄筋コンクリート構造物の補修は、従来は事後保全型で対応されていたが、近年、構造物を長寿命化して環境負荷およびLCCを低減するために予防保全型への転換が進められている。
また、ESG投資により、環境負荷低減技術への投資が拡大してきている。
 
電気化学的補修技術「リペアカーテン」は、長寿命化効果が高く、環境負荷も小さい予防保全技術である。
さらに、施工が容易で安全性が高く、産業廃棄物も少なく、低コストである。
上記のような時代のニーズに応えるべく、リペアカーテンの適用を拡大していく所存である。
 
 


【参考文献】
1)国土交通省:建設後50年以上経過する社会資本の割合、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/50year_percentage.pdf(2024.11.13閲覧)
2)インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議:インフラ長寿命化基本計画、pp.1-5、2013.11
3)土木学会:電気化学的防食工法指針、コンクリートライブラリー157、pp.127-223、2020.9
4)齋藤淳、西田孝弘、大即信明、山本周、森一顕、林俊斉、庄野昭、庄司慎:電気化学的防食工法における電解質溶液の簡易給水方法の提案、土木学会論文集E2、Vol.76、No.3、pp.171-188、2020.7
5)馬場勇太、上田隆雄、平岡毅、七澤章:炭酸リチウム溶液の電気浸透によるASR膨張抑制に関する検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.29、No.1、pp.1239-1244、2007.6
 
 
 

株式会社安藤・間 技術研究所
齋藤 淳

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2025年2月号


積算資料公表価格版2025年02月号

最終更新日:2025-01-20

 

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