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建設現場における熱中症対策

はじめに

厚生労働省によると2025年の熱中症による職場における死傷者(死亡および休業4日以上の業務上疾病者)数は1,803名、死亡者数は19名であった。
 
厚生労働省2025年5月27日公表の確定値で、2025年の死亡者数は減少したものの、死傷者数は前年比約43%の大幅な増加となっており、統計を取り始めた2005年以降、最多となった。
業種別にみると、死傷者数については、製造業が最も多く、建設業、商業、運送業、警備業が続いている。
また、死亡者数は、建設業が最も多く、警備業が続いている(図-1、図-2、図-3)。※1
厚生労働省では例年5~9月までの期間「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」として、労働災害防止団体や関係省庁とも連携し、職場における熱中症の予防に取り組んでいる。

図-1  2025 年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)
図-1  2025 年(令和7年)職場における熱中症による
死傷災害の発生状況(確定値)
図-2  熱中症による死傷者数の業種別の状況(2021~2025年)
図-2  熱中症による死傷者数の業種別の状況
(2021~2025年)
図-3  熱中症による業種別死亡者数の割合(2021~2025年計)
図-3  熱中症による業種別死亡者数の割合
(2021~2025年計)

 
建設現場での多くの作業は日中に屋外で行われるため、夏場は気温が高く湿度も高い環境となる。
 
また着用する作業服は、安全面などから厚く丈夫な生地を使用していることも多く、汗の蒸散が妨げられ体温が上昇しやすい。
さらに肉体労働により体力の消耗が激しくなると熱中症発症のリスクがさらに高まる傾向がある。
 
これらの要因が重なり、建設業は全職種の中で最も熱中症発生のリスクの高い職場環境となっている。
 
このような状況の中、公共工事においては土木工事標準積算基準書を実態に合わせて改定しながら発注機関側・受注者側双方でさまざまな熱中症対策の取組みが行われている。
 
 

1.公共工事における熱中症対策費の計上

公共工事の積算における熱中症対策費については2016年度までは共通仮設費の“イメージアップ経費”「周辺住民の生活環境への配慮及び一般住民への建設事業の広報活動、現場労働者の作業環境の改善を行うために実施する費用」として計上されていた。
 
イメージアップ経費については、経費の名称とその内容がすぐに結びつきづらいことから、2017年度土木工事標準積算基準書改定により名称を“現場環境改善費”に改め、実績データに基づき経費率の見直しが行われた。
 
熱中症対策という文言が初めて積算基準書に登場したのはこの時であり、現場環境改善費の「安全関係」項目に「避暑(熱中症予防)」が追加された。
 
2019年度の積算基準書改定では、工事現場の熱中症対策にかかる費用として、気候および施工期間を考慮した現場管理費の補正が導入された。
 
具体的には準備や後片付けの期間も含めた工期のうち、最高気温が30℃以上を記録した真夏日の割合を使って算出。
国土交通省が定めた補正係数1.2に真夏日の割合を掛けた数値を補正値(%)として設定。
工事費に補正値を掛けた金額を現場管理費に加える。※2
これまでは積雪寒冷地域で施工時期が冬季期間となる場合に、現場管理費の補正の取組みは行われていたが、猛暑で熱中症になる作業員が多かったことも踏まえ、熱中症対策費用の拡充が図られた。
現在では国土交通省の直轄工事だけでなく、地方自治体の発注工事でも熱中症対策に資する現場管理費補正の取組みは広がっている。
 
【補正例】
・条件
①対象額:対象工事純工事2億円
②工期300日のうち真夏日50日の場合
補正値=50日÷300日×1.2=0.2
現場管理費(熱中症対策)補正額=2億円×0.2=40万円となる。
 
補正額は純工事費に比例し、規模の大きい工事では熱中症対策に資する現場管理費補正額が大きくなる。
例えば、同一条件で純工事費20億円規模の工事では現場管理費補正額は単純計算で400万円と試算される。
また、従来の現場環境改善費による熱中症対策費は、これまで通り計上される。
 
現場管理費補正については、工事期間内の真夏日の実績に基づいて行われるため、補正費用は工事完了前の設計変更時に発注側から受注者である元請け企業へ後払いで支払われる。
しかし、その場合熱中症対策にかかる費用を一部受注者が立て替えるかたちとなるため、受注工事の採算悪化を嫌い、適切な熱中症対策が行われない懸念が生じる。
そこで、熱中症対策に資する現場管理費補正を事前計上する方式が試行的に行われている。
具体的には、最寄りの気象庁の観測地点における直近過去3カ年の日最高気温が30度以上の、5月から10月までの各月毎の平均値を工期期間内の真夏日の算出に用いることで工事発注時に熱中症対策に資する現場管理費補正額を事前計上する。※3
事前計上を実施した場合は、真夏日の実績に基づく精算変更は行わないため、直近過去3カ年より実際の工事期間内の真夏日が多かった場合は、事前計上の補正額は通常の現場管理費補正額よりも少なくなる場合もあるが、建設現場における熱中症対策費用を工事着手時点で受け取ることにより、受注者側が熱中症対策を行いやすいメリットがある。
 
 

2.適切な熱中症対策費用の活用

国土交通省関東地方整備局は「熱中症対策に資する現場管理費の補正(試行)Q&A」を2020年8月24日付けで更新。※4
「現場環境改善費(避暑(熱中症防止)・防寒対策)」と「熱中症対策に資する現場管理費補正」の違いを明示した。
具体的には従来の現場環境改善費(避暑(熱中症防止)・防寒対策)は現場の施設や設備に対する熱中症対策費用(日よけテント、遮光ネット等)とし、熱中症対策に資する現場管理費補正は作業員個人に対する熱中症対策費用(塩飴、経口保水液等効果的な飲料水等)と明示。
それぞれの積算費用が適切な熱中症対策費用として建設現場で活用されることを促している。
 
 

3.猛暑日に休工とできるような工期設定

国土交通省は、2023年3月に直轄土木工事の工期設定指針を改定し、その中で「猛暑日」を天候不良による作業不能日に新たに追加した。
具体的には8時から17時までの暑さ指数(WBGT値)が31以上の時間を足し合わせた日数(1日8時間の日数換算した日数)とし、猛暑日数は過去5カ年の気象庁および環境省のデータより地域ごとの年間の平均発生日数を算出することが基本となっている。※5
国土交通省が先導し、猛暑日を考慮した工期設定を推奨することで、建設現場における熱中症発生リスクを軽減するとともに、建設業の働き方改革を推進する目的もある。
 
 

おわりに

建設業において快適な職場環境の実現および作業員の安全対策として熱中症対策は欠かせない。
熱中症対策に資する現場管理費補正の取組みや猛暑日を考慮した工期設定の推奨などにより、公共工事の建設現場では費用面や工程面でさまざまな熱中症対策に取組みやすくなっている。
一方で、熱中症対策だけでなく、暑さによる施工能力の低下をどのように積算に反映するのかという新たな問題も生じている。
 
公共工事の建設現場においては特に受注者である元請け企業が主体となって熱中症対策が行われるのが理想である。
しかし、建設現場においては受注者である元請け企業の下に、さまざまな専門工事業者から日替わり・週替わりで作業員が出入りし、作業をしていく関係で、熱中症対策についてはどうしても各作業員任せとなってしまう傾向にある。
屋外作業に慣れている作業員が多い建設現場においても、年間の真夏日・猛暑日日数が毎年更新されるようなこれまでに誰も経験のしたことのない状況の中では、元請け企業が主体となって各作業員に行き渡るような熱中症対策をいかに実施できるかが受発注者双方の課題である。
 
 


※1出典:厚生労働省「令和7年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)」
※2出典:国土交通省関東地方整備局「熱中症対策に資する現場管理費補正の試行概要」
※3出典:国土交通省港湾局「熱中症対策に資する現場管理費の補正の施行(事前計上)」
※4出典:国土交通省関東地方整備局「熱中症対策に資する現場管理費の補正(試行)Q&A」
※5出典:国土交通省「直轄土木工事における適正な工期設定指針」

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年7月号


積算資料公表価格版2026年7月号

最終更新日:2026-06-19

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