加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の標準化 防水工事用アスファルト発煙量の定量的な測定と暴露濃度の測定(その1)
1. はじめに
日本国内における建築物の屋上に対する防水工法の原点であるアスファルト防水工法は、すでに100年以上の長い歴史を有しており、図-11)に示すように現在においても新築工事では一定の割合で採用されている。
しかし、アスファルト防水を現場施工するに当たっては、使用材料であるアスファルトを加熱溶融することが不可欠であり、その際に図-2に示すように発煙と悪臭の発生が顕著であることは、一般にもよく知られた事実である。
従って、地球環境の保全および人間の健康安全に対する影響が強く懸念される近年においては、別の防水工法への変更を余儀なくされることも少なくない状況である。

図- 1 防水工法種別の施工実績推移1)(一社)日本防水材料協会調べ)

図- 2 アスファルト防水工事における発煙状況
こうした背景を受けて、東京都防水工事業協会(以下、「都防協」。会長:クニ化学防水(株)佐々木浩代表取締役)では屋上防水工法の原点であるアスファルト防水工法を維持していくことを目的として、施工時における最大の課題である発煙や発臭を顕著に低減した「加熱型改質アスファルト」に着目している。
本材料は原材料であるストレートアスファルトに熱可塑性エラストマーを添加することにより、加熱溶融時における発煙と発臭を抑制しているものであり、都防協では本材料を用いる防水工法の標準化に関する研究を日本建築仕上学会へ2023年4月に委託した。
本委託を受けた日本建築仕上学会では、学識経験者を受託者側委員とする「加熱型改質アスファルト防水工法標準化委員会(委員長:近藤照夫)」を2023年4月に設置して、1年間の予定で研究活動を実施することになった。
しかし、実際に研究活動に着手すると、委託者側で事前に準備された検討資料やデータは定性的もしくは感覚的であり、施工をするための標準仕様案についても材料製造者による営業資料的な感が否めない内容であった。
従って、上記の研究委員会においては、実験によって加熱型改質アスファルトに対する定量的あるいは客観的なデータを取得してその特徴を明らかにしなければ、工法の標準化を果たしたとしても環境配慮が重視される現代では、採用側である建築分野において受け入れられないことが強く懸念された。
このような状況から、研究期間を1年間延長して2年間の予定として実験による詳細な評価を実施した上で、最終的な目的である工法の標準化を検討することとした。
前述したように、本研究を推進するために日本建築仕上学会に設置された研究委員会には、表-11)の「委員会名簿」に示されるように、受託者である学会側は学術委員会において選考された3名、委託者である都防協側は会員企業に所属する6名が委員として参画した。
限られた研究期間において、委託者側の委員が所属する材料製造企業では多数の方々が研究委員会からの要請に応じた実験に参加して貴重な実験結果を提供していただき、有意義なデータを収集することができた。
それらの成果は、2024年度と2025年度日本建築学会大会において計6件1)~6)、および日本建築仕上学会2025年大会において3件7)~9)の研究報告として公表している。
本研究の内容には「発煙量を定量的に測定する」という難しい課題が含まれていたが、上記委員会に参加した委託者側と受託者側の双方委員がベクトルを合わせることにより、限られた研究期間において学術的な意義からも研究報告に値する有意義な成果を得ることができたと筆者は評価している。
得られた研究成果の中で特筆すべきことは、次の3点である。
第一に光散乱式デジタル粉じん計による測定方法に着目して、アスファルトの加熱溶融時に発生する煙を定量的に把握する方法を標準化したことである。
本測定方法によれば、30分間の発煙における積算値が在来の防水工事用アスファルト3種に比して、研究対象である加熱型改質アスファルトでは1/6程度に抑制されていることが明らかである。
第二に本稿で紹介する加熱型改質アスファルトを用いる防水工法において、上記の方法で測定される発煙量を使用材料の品質規格として規定していることである。
さらに第三として、煙の中に含まれる化学成分を定性分析した上で、人体に有害な複数の成分に対する作業時における個人暴露濃度を測定して、これらの許容濃度についても使用材料の品質規格に加えていることである。
このような使用材料の特性を明らかにすることにより、現在および近未来の防水施工時における環境影響と健康安全に配慮していることは、特に注目に値する研究成果であると筆者は判断している。
さらに、使用材料の品質規格および標準的な施工方法を含む設計や施工の仕様を標準化することに止まることなく、本工法による施工が終了した後の建築物供用期間における防水性能を維持するために、建築物の所有者、管理者あるいは使用者が実施しなければならない維持管理の内容についても標準化が図られている。
本稿では、上述した2024年度と2025年度日本建築学会大会の報告内容1)~6)および日本建築仕上学会2025年大会の報告内容7)~9)に基づいて、加熱型改質アスファルトの特徴およびそれを主要な使用材料とした新築建築物の屋上を主対象とする防水工法の標準化に関する研究成果の概要を紹介する。
本研究では多数の成果が得られており、新たに開発された材料を使用する防水工法であるため、本稿「その1」では「防水工事用アスファルトの発煙量に対する定量的な測定方法の標準化」、および「発煙中に含まれる化学成分に対する施工時における暴露濃度の測定結果」を述べる。
本稿に続く「その2」(「月刊積算資料公表価格版」2026年12月号掲載予定)では、「加熱型改質アスファルトを用いる屋上防水工事の標準仕様」、および「類似した他の防水工法との比較」を紹介する。
また、本研究成果を活用して、図-3に示すように日本建築仕上学会監修の下に都防協編「加熱型改質アスファルト塗膜防水工事指針・同解説」10)がすでに2026年6月に発行されており、その概要についても本稿「その2」において紹介することにしたい。

図- 3 加熱型改質アスファルト塗膜防水工事指針・同解説10)
2. 加熱型改質アスファルトの特徴
本稿の冒頭に述べたように、本工法に用いる主要な材料である加熱型改質アスファルトは、JIS K2207-1996石油アスファルト11)に規定される在来の防水工事用アスファルト3種に比して、加熱溶融時における発煙量が顕著に抑制されていることを特徴とするものである。
さらに、発煙量の低減に伴い発臭も抑えられており、施工時における健康安全性の向上も期待できるものである。
これらの特徴を定量的に明らかにしなければ、環境保全や健康安全が重視される現代においては、建築物の屋上防水に対する実際の施工には採用されないため、これらの材料特性を明らかにすることが本研究における最大の課題となる。
2.1 加熱溶融時における発煙に対する定量的な測定
2.1.1 既往の研究に基づく測定方法の検討
最大の課題は、加熱溶融時における発煙を定量的に測定する方法を見出すことである。
既往の研究では、発煙状況を写真撮影した画像を白(1)と黒(0)の2階調に変換する二値化処理、その画像をさらに細かく変換する十六値化処理を適用した手法が紹介されている12)。
本手法を適用すると発煙量を測定できる可能性は示唆されているが、その後の継続的な報告も認められず、発煙量を明確に把握するには至っていないと判断される。
本研究委員会の受託者側委員として参加された添田委員が過去に「煙中における避難誘導灯の視認性に関する研究」をされており、「煙中における誘導灯及び各種照明器具の見通し距離」13),14)の報文を紹介された。
上記の研究では煙濃度計(Cs計)を用いて煙濃度を減光係数(Cs)として測定しており、アスファルトの加熱溶融時における発煙量を定量的に測定できる可能性が見出された。
さらに、測定対象の粒子径が適合すれば、光散乱方式パーティクルカウンターを適用して、発煙量を定量的に測定できる可能性が示唆された。
光散乱方式パーティクルカウンターは、周囲の空気を吸引口から取り込んでレーザー光を照射すると、空気中に含まれる粒子にレーザー光が当たり散乱することになる。
その散乱光をフォトダイオードで検知して電気信号に変換する原理であり、パーティクルカウンターでは粒子の個数(個/m³)を測定して、粉じん計では粉じんの質量濃度(mg/m³)を測定することになる。
光散乱式デジタル粉じん計の測定原理を図-415)に示す。

図- 4 光散乱式デジタル粉じん計の測定原理15)
空気中に含まれる粒子が低濃度の場合には粉じん濃度(mg/m³)の値は過小になることから、微粒子数(個/m³)を測定すれば解像度が向上することになる。
一方、高濃度の場合には粒子数(個/m³)を測定すると過大な値となって評価が難しくなることから、粉じん濃度(mg/m³)を測定する方が適切であるとされている14)。
日常のオフィス内や郊外の粉じん濃度を基準として、それよりも低濃度の場合はパーティクルカウンター、それよりも高濃度の場合は粉じん計が利用されている15)。
2.1.2 発煙量の測定に用いる粉じん計
本研究において、アスファルトの加熱溶融時における発煙量を測定するのに用いた光散乱式デジタル粉じん計は、図-515)に示す日本カノマックス(株)「Model3442」である。

図- 5 実験に用いた光散乱式デジタル粉じん計15)(日本カノマックス(株)Model 3442)
2.1.3 発煙量の定量的な測定方法に対する実験的な評価
2025年度日本建築学会大会梗概5)および日本建築仕上学会2025年大会発表論文8)で報告された発煙量測定結果の概要は以下の通りであり、詳細は参考文献を参照されたい。
(1) 測定対象の試料
発煙量の測定対象は表-25)に示すように、市販の加熱型改質アスファルト2種(A、B)および比較用として在来の防水工事用アスファルト3種とする。
(2) 測定機器と試料の加熱
測定機器の設置状況を図-65)、測定状況を図-75)、試料の加熱状況を図-85)に示す。
発煙量は空気の動きによる影響を避けるため、防風用パネルで覆われた内部で加熱溶融を実施して、2.1.2で述べた光散乱方式デジタル粉じん計を用いて、相対濃度(CPM;Count Per Minute)を測定する。
温度変化にともない発煙量が変動することを考慮して、熱電対を用いて試料温度の経時変化も同時に測定して、加熱溶融の温度を確認する。
加温装置として温度調節器付きマントルヒーター(㈱野中理化器製作所「MS-DMSDB-20」)を用いて、測定中における温度を一定に保持して、デジタル粉じん計の吸気口はビーカーの上端から400mmの位置に設置する。

図- 6 測定機器の設置状況5)

図- 7 測定の状況5)

図- 8 加熱溶融の状況5)
(3) 測定手順
①2Lステンレス鋼製ビーカーに試料600gを採取する。
②予想される軟化点+90℃以内の温度に保持した恒温槽の中で、試料の一部が溶融流動するまで予熱する。
③所定の溶融温度に設定した自動温度調節器付きのマントルヒーターに試料を入れたステンレス鋼製ビーカーを移動して、試料を撹拌しながら所定の溶融温度まで加熱する。
④マントルヒーターの自動温度調節運転をして、試料温度が所定の溶融温度に達して温度が安定した時点で撹拌を停止する。
⑤試料温度を所定の溶融温度±5℃に保持して粉じん計と熱電対を用いて、相対濃度(CPM)および試料温度を1秒ごとに30分間(1800秒)測定する。
⑥測定された相対濃度(CPM)を積算して、30分間の粒子数積算値を算定する。
測定時間を30分間とするのは、予備実験の結果から測定の開始後30分間程度を経過すると、試料によっては表面にごく薄い皮張り現象を生じて、発煙が抑制される影響を除くためである。
(4) 測定結果
a. 加熱溶融温度による発煙量の違い
試料の同一ロットにおける加熱溶融温度による発煙量の違いを確認するため、表-25)に示す試料を用いて、(3)に述べた手順に準じて30分間の粒子数積算値を測定する。
加熱溶融時における平均温度と発煙中の粒子数積算値との関係を図-95)に示す。
所定の加熱溶融温度の範囲内であっても測定値に差異を生じることが懸念されるため、測定結果には測定時における温度も記録する必要がある。
加熱型改質アスファルトと在来の3種アスファルトを比較すると、加熱型改質アスファルトは発煙量が顕著に少なく、在来の3種アスファルトの1/6程度である。

図- 9 加熱溶融時における平均温度と発煙中の粒子数積算値5)
b. 試料ロット間による発煙量の違い
試料のロットによる発煙量の違いを確認するため、各試料の5ロットに対して(3)で述べた手順に準じて、30分間の粒子数積算値を測定したロット別の粒子数積算値測定結果を図-105)に示す。

図- 10 各試料のロット別粒子数積算値5)
加熱型改質アスファルトのロット別による粒子数積算値におけるばらつきは、同一ロットにおける加熱溶融温度による違いと比較して明らかに増大しているが、在来の3種アスファルトと比較すれば顕著に小さい値であると判断できる。
予熱する手順および温度調節器付きマントルヒーターを用いて設定温度を保持することにより、安定した加熱溶融温度における測定が可能である。
加熱型改質アスファルトの発煙量は、加熱溶融時の設定温度による影響よりも試料のロット間によるばらつきは大きい結果となっている。
しかし、試料とする加熱型改質アスファルトの原材料が天然由来であることを考慮すれば、このような測定結果は不可避であると判断できる。
本測定方法を適用することにより、在来の3種アスファルトと比べて、加熱型改質アスファルトの発煙量が顕著に小さいことが確認できる。
発煙量は加熱溶融温度の変化に連動することから、測定中の温度を一定に保持するとともに、測定時の温度を記録することが重要である。
2.1.4 アスファルトの加熱溶融時における発煙量の標準的な測定方法
2.1.3に述べたアスファルトの加熱溶融時における発煙量を光散乱式デジタル粉じん計を用いて実験的に測定した結果から、発煙量に対する標準的な測定方法は、以下の通りとする。
(1) 適用範囲
アスファルトの加熱溶融時における発煙量を定量的に測定する目的に適用する。
(2) 測定方法
a. 測定機器
①発煙量の測定器:光散乱方式デジタル粉じん計
②試料の加熱装置:温度調節機能付きマントルヒーター
b. 測定機器の設置
測定機器を図-65)に示したように設置する。
測定時における試料温度を一定に保持できる温度調節機能付きマントルヒーターの中に、測定用試料を計量したステンレス鋼製ビーカーを設置して、ビーカーの上端から400mmの位置に光散乱方式デジタル粉じん計の吸気口を設置する。
この状態で試料を加熱溶融して、発煙を吸引して定量的な測定をする。
加熱溶融および発煙量の測定状況は、図-75)と図-85)に示す通りとする。
熱電対を用いて試料温度の経時変化を同時に測定する。
c. 測定手順
測定の手順は、以下の通りとする。
①2Lステンレス鋼製ビーカーに、測定用試料600gを採取する。
②予想される軟化点+90℃以内の温度に保持した恒温槽の中で、試料の一部が溶融流動するまで予熱する。
③所定の溶融温度に設定した自動温度調節器付きマントルヒーターに試料を入れたステンレス鋼製ビーカーを移動して、試料を撹拌しながら所定の溶融温度まで加熱する。
④マントルヒーターの自動温度調節運転をして、試料温度が所定の溶融温度に達して温度が安定した時点で撹拌を停止する。
⑤試料温度を所定の溶融温度±5℃に保持してデジタル粉じん計と熱電対を用いて、相対濃度(CPM)および試料温度を1秒ごとに30分間(1800秒)測定する。
⑥測定された相対濃度(CPM)の値を積算して、30分間の粒子数積算値とする。
2.2 加熱溶融時における発煙に含まれる有害成分と許容濃度
2.1に述べたように、本研究の対象である加熱型改質アスファルトは、在来の防水工事用3種アスファルトと比較して、加熱溶融時における発煙量が顕著に抑制されていることは定量的な測定結果から明らかである。
しかし、その発煙中には原材料であるアスファルトに由来する有害性が指摘される化学物質を含有していることから、本材料を使用するうえでは作業安全性を明らかにしなければ、実施工への普及展開は困難である。
したがって、発煙中に含まれる主要な成分を定性的に把握した上で、現状で有害性が指摘されて作業時における暴露許容濃度が提示されている成分に対して、それらの個人暴露濃度を測定して許容濃度を満足しているか否かを確認しなければならない。
さらに、許容濃度を超えている場合には、作業時における安全性を確保できる対策を検討することが必要であり、実験的な評価を実施した。
それらの結果は、2024年度日本建築学会大会梗概2)および日本建築仕上学会2025年大会発表論文8)で報告されており、概要は以下の通りである。
詳細は、参考文献を参照されたい。
2.2.1 発煙に含まれる化学成分の定性分析2)
(1) 分析対象の材料および発煙試料の採取
a. 分析対象の材料
本分析の対象は表-25)に示したアスファルトの中で、本工法に適用する市販の加熱型改質アスファルト2種(A、B)とする。
b. 発煙試料の採取
a.に述べた分析対象の材料をステンレス鋼製容器に採取した上で、加熱溶融して260℃に達した時点で発煙成分を三点比較式臭袋法16)の直接採取法に準拠して、ポンプを用いて試料採取用プラスチック袋に吸入する。
試料の採取時に実験室内の雰囲気空気が混入することを避けるため、加熱溶融に用いる容器を四角錘台型アルミニウム合金製カバーで被覆して、上側開口部からテフロン製チューブを5cm程度挿入する。
実験室は他の建築材料も取り扱っていることに配慮して、実験室の窓を開放して30分間換気した後に窓を閉鎖してドラフトチャンバーを15分間稼働させて、実験室内の雰囲気空気を採取する。
再び窓を開放して30分間換気した後に窓を閉鎖して、稼働させたドラフトチャンバー内で分析用試料を加熱溶融して、試料温度が260℃に到達した1分後にドラフトチャンバーを停止して発煙試料を採取する。
(2) 発煙試料の分析方法
発煙試料500mLをTENAX+Carboxen管に通気吸着させて、ガスクロマトグラフ質量分析計((株)島津製作所「GCMS-QP2010Plus」)を用いて定性分析する。
試料を採取する袋の内面付着物はメタノールを溶媒として洗浄して、濃縮した後に定性分析をする。
分析方法に関する詳細は、参考文献を参照されたい。
(3) 発煙試料の分析結果
詳細が不明な成分を除いて、A、Bからの発煙試料および採取した袋の内面洗浄液から検出された成分、および検出された成分の中で実験室の雰囲気空気からも検出された成分を表-32)に示す。
A、Bからの発煙試料および採取した袋の内面付着物からは、二酸化硫黄SO2、メチルシクロヘキサン(以下、「MCH」。)、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセタート(以下、「PMA」。)、炭素数5~15程度の脂肪族炭化水素化合物、芳香族化合物などが主要な成分として検出されている。
実験室の雰囲気空気からは、他の建築材料にも使用される有機溶剤や炭化水素化合物であるMCH、PMAなどが検出されている。
試料の採取場所は複数の化学物質を多量に含む建築材料を取り扱う材料製造者の実験室であること、および当該建築物は交通量が多い道路に面していることから、排気ガスや大気汚染物質に起因する成分が混入した可能性も考えられる。
試料A、Bから検出された成分の中でエチルベンゼンとスチレンは、特定化学物質障害予防規則(特化則)の特別有機溶剤に指定されていることから、作業安全への影響を考慮して2.2.2および2.2.3で後述する作業環境測定の対象物質とする。
2.2.2 有害成分に対する施工時における作業者の安全性
(1) 濃度測定の対象と測定方法
2.2.1で述べた発煙中に含まれる成分および本材料のSDSで許容濃度が示されている成分を考慮して、施工時の作業者に対する安全性が懸念される化学物質として、アスファルトヒューム、エチルベンゼン、スチレン、硫化水素、一酸化炭素を濃度測定の対象とする。
施工時における作業者の呼吸域における個人暴露濃度とともに、参考として施工場所の定点における作業環境測定を実施する。
濃度測定の概要を表-48)および試料採取と分析方法の概要を表-58)に示す。
濃度測定の詳細については参考文献を参照されたい。
(2) 濃度測定の結果
対象とした成分の測定結果を表-68)~108)に示す。
2.2.3暴露濃度と許容濃度との関係
濃度測定の結果に対する評価は、(公社)日本産業衛生学会(以下、「JSOH」。)が定める許容濃度(1日8時間、週40時間の作業で健康影響が生じないとされる平均暴露濃度)を基本とする。
ただし、アスファルトヒュームとスチレンは上記学会では許容濃度が規定されていないため、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists;米国産業衛生専門官会議)のTLV-TWAと比較する。
TLV(Threshold Limit Values)は職業暴露限界値であり、TWA(Time-Weighted Average)はほぼすべての作業者が毎日暴露されても健康影響が生じないとされる気中濃度である。
JSOHが許容濃度を設定しているエチルベンゼン、硫化水素、一酸化炭素の個人暴露濃度の測定結果は、いずれも規定値を下回っている。
また、アスファルトヒュームおよびスチレンについても、ACGIHによるTLV-TWAを下回る結果が得られている。
特に、アスファルトヒュームに関しては、定点測定値よりも個人暴露濃度の方が高い傾向が見られ、作業者がアスファルトヒューム発生源の近傍において、作業をしていることによる影響であると考えられる。
以上のことから、本工法に用いる加熱型改質アスファルトの加熱溶融時における発煙に含まれる濃度測定の対象とした化学成分は、現行の勧告または公表されている許容濃度を下回っている。
本工法は屋外の建築物屋上を主要な適用範囲としており、屋外施工においては一般に通風が良好であると考えられることから、呼吸用保護具の常時着用は必須ではないと判断できる。
一方、本工法の一般的な適用範囲には含まれていない屋内施工においては、換気が不十分となる場合には有害成分が滞留する可能性が考えられるため、十分な換気を実施するとともに、必要に応じてマスクの着用や休憩時間の確保などの対策を作業計画において講ずることが重要である。
3. まとめ
本稿は、新たに開発された加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の標準化に関する概要を紹介するものであり、研究成果に基づいて「その1」として防水工事用アスファルト発煙量の定量的な測定と施工時における暴露濃度の測定について述べている。
アスファルトを防水工事に適用するためには、施工時に材料を加熱溶融することが不可欠であるが、その際に発煙と発臭を生じることが環境保全や健康安全が重視される近年においては、大きな課題である。
本研究では、新たに開発された加熱型改質アスファルトが在来の防水工事用アスファルト3種と比べて発煙と発臭が抑制されていることを明らかにするため、光散乱方式デジタル粉じん計を用いて発煙量を測定する方法を標準化している。
本測定方法を用いて、本工法に使用する加熱型改質アスファルトの発煙量を測定すると、在来の防水工事用アスファルト3種の1/6程度に抑制されていることが明らかである。
さらに、発煙中に含まれている有害性が指摘される化学成分に対する施工時の暴露濃度を測定した結果では、現行の勧告または公表されている許容濃度を下回っていることが明らかである。
以上の実験結果から、加熱型改質アスファルトを用いる本工法は、環境保全や健康安全が重視される現在および近未来における建築工事において有効に活用できると考えられる。
本稿に続く「その2」では、「加熱型改質アスファルトを用いる屋上防水工事の標準仕様」、および「類似した他の防水工法との比較」を紹介する。
【参考文献】
1) 近藤、宮内、添田、加藤、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その1研究の背景と加熱型改質アスファルトの概要、2024年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.679-680(2024)
2) 加藤、近藤、宮内、添田、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その2加熱溶融時の主要な揮発成分、2024年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.681-682(2024)
3) 八木、近藤、宮内、添田、佐々木、山中、加藤:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その3施工時における化学成分のばく露濃度、2024年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.683-684(2024)
4) 添田、近藤、宮内、加藤、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その4加熱溶融時の発煙量の測定方法、2024年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.685-686(2024)
5) 添田、近藤、宮内、佐々木、山中、酒井、加藤、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その5加熱溶融時の発煙量測定方法の標準化、2025年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1281-1282(2025)
6) 加藤、近藤、宮内、添田、佐々木、山中、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる防水工法の基礎的検討その6施工工程の標準化、2025年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1283-1284(2025)
7) 近藤、宮内、添田、佐々木、山中、加藤、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる塗膜防水工法の標準化その1研究の背景と加熱型改質アスファルトの概要、日本建築仕上学会2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.189-192(2025)
8) 加藤、近藤、宮内、添田、佐々木、山中、酒井、八木、横堀:加熱型改質アスファルトを用いる塗膜防水工法の標準化その2発煙量定量の標準化と揮発成分の作業管理濃度、日本建築仕上学会2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.193-196(2025)
9) 横堀、近藤、宮内、添田、佐々木、山中、加藤、酒井、八木:加熱型改質アスファルトを用いる塗膜防水工法の標準化その3防水仕様の標準化と他の防水工法と比較した優位性、日本建築仕上学会2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.197-200(2025)
10) 日本建築仕上学会監修東京都防水工事業協会編:加熱型改質アスファルト塗膜防水工事指針・同解説(2026)
11)(一財)日本規格協会:JISK2207-1996石油アスファルト
12) 後藤、中沢、工藤、島村、八木、金泥:防水工事用改質アスファルト品質の標準化その4発煙量数値化及び推定への試み、2018年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1241-1242(2018)
13) 山田、久保田、添田:煙中における誘導灯及び各種照明器具の見通し距離(その1)新旧避難口誘導灯の比較、2002年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.139-140(2002)
14) 久保田、山田、添田:煙中における誘導灯及び各種照明器具の見通し距離(その2)各種照明器具の比較、2002年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.141-142(2002)
15) 日本カノマックス(株)HP:https://www.kanomax.co.jp
16) 環境庁HP:環境庁告示63号、臭気指数及び臭気排出強度の算定の方法(平成7年9月13日)
【出典】
最終更新日:2026-10-22

