建築材料FOCUS 避難所となる学校体育館の空調整備・断熱性等
総論
近年、記録的な猛暑や自然災害の激甚化を背景に、学校体育館に求められる役割が大きく変化している。
学校体育館は、児童生徒が授業や部活動などで日常的に利用する教育施設であると同時に、地震や豪雨などの災害発生時には、地域住民を受け入れる避難所として重要な役割を担う施設である。
特に夏季の高温化が進む中、体育館における熱中症対策は喫緊の課題となっている。
大空間である体育館は、一般の教室とは異なり、空調設備を設置するだけでは十分な効果を得にくい場合もある。
屋根や壁、床、窓などから流入する熱を抑え、室内の冷気を逃がしにくくする断熱・遮熱対策と併せて検討することが、快適性の確保と空調負荷の低減の両面から重要となる。
文部科学省では、児童生徒の熱中症対策に加え、学校が災害時に避難所として利用されることを踏まえ、体育館への空調整備を推進している。
2026年8月には、避難所となる公立小中学校体育館等の空調設置率について、従来の「2035年度中に100%」とする目標を4年前倒しし、「2031年度中に100%」とする方針が示された。
今後、未整備自治体への支援や好事例の周知などを通じ、全国的な整備の加速が見込まれる。
空調整備の現状
学校体育館への空調整備は進みつつあるものの、地域による整備状況の差は依然として大きい。
文部科学省によると、2026年5月1日時点における公立小中学校体育館等の空調(冷房)設備設置率は全国平均31.7%となっている。
一方、避難所に指定されている公立小中学校の体育館・武道場では33.1%となっており、地域によって整備状況には大きな差がみられる(図-1)。

図-1 全国の空調(冷房)設備設置状況(小中学校・体育館等)
こうした状況を踏まえ、国は「屋内運動場の空調設備整備事業」により整備を支援している。
対象となるのは、公立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校(前期課程)、特別支援学校の体育館や武道場で、算定割合は2分の1。
対象工事費は400万円以上、上限はEHP(電気式)の場合1.1億円、GHP(ガス式)の場合1.4億円とされている。
また、避難所に指定されている学校であることに加え、体育館の「断熱性が確保されること」が補助要件となっている。
さらに、地方負担額には100%地方債を充当でき、元利償還金の50%に交付税措置が講じられることで、実質的な地方負担を25%とする仕組みが設けられている。
2025年度からは体育館の空調設備に要する光熱費についても普通交付税措置が講じられており、設備導入だけでなく運用段階まで含めた支援が進められている。
断熱・遮熱性能の確保
体育館への空調導入に際して重要となるのが、建物自体の断熱・遮熱性能である。
断熱性が十分でない体育館では、屋根や外壁、窓などを通じて外部から熱が流入し、冷房効率が低下する。
その結果、必要な空調能力や消費エネルギーが増加し、設備費だけでなく運用時の光熱費にも影響を及ぼす。
文部科学省は、断熱性の確保について一律の性能値を補助要件として求めているわけではなく、建物の断熱性や遮熱性の向上に資する工事を実施することとしている。
また、必ずしも屋根、壁、床などすべての部位を改修する必要はなく、屋根への遮熱塗装や窓への遮熱フィルムなど、比較的簡易な工法も対象となり得る。
さらに、空調設備の設置と断熱性確保工事を同一年度に行う必要はなく、空調を先行して整備し、後年度に断熱・遮熱工事を実施することも可能となっている。
これは既存体育館の構造や改修計画、自治体の財政事情などに応じて段階的に整備できるようにするもので、断熱性確保の目的について文部科学省は、ランニングコストを含めたトータルコストの縮減にあるとしている。
避難所としての機能向上
学校体育館の整備では、平常時の教育環境改善だけでなく、災害時に避難所として利用されることを想定した機能確保も重要となる。
大規模災害では、多数の避難者が一定期間生活することも想定されるため、温熱環境の確保に加え、停電時の電源確保やプライバシー、生活空間への配慮など、避難所としての生活環境を総合的に向上させる視点が求められる。
特に空調設備については、災害時に電気やガスなどのライフラインが途絶する可能性も考慮する必要がある。
文部科学省が紹介する整備事例では、停電時にも運転可能な電源自立型GHPを採用するなど、非常時のエネルギー供給を考慮した設備整備も行われている。
また、2021年の制度改正により、避難所となる学校体育館に空調設備を整備し、「特例需要場所」の要件を満たす場合には、電力の複数引き込みが可能となった。
こうした制度も踏まえ、災害時の利用を想定した設備整備を検討することが重要となる。
既存体育館の改修と段階的な整備
学校体育館の空調・断熱整備では、新築だけでなく、既存施設をどのように改修していくかという視点も重要となる。
体育館は建設年代や構造、屋根・外壁・窓・床などの仕様が施設ごとに異なるため、それぞれの状況に応じた整備方法を検討する必要がある。
特に既存体育館では、空調設備の設置と同時に大規模な断熱改修を行うことが難しい場合もある。
そのため、まず空調設備を整備し、その後、屋根の遮熱、窓の遮熱・断熱、床の改修などを段階的に実施していくことも選択肢となる。
また、既存施設を活用しながら改修を進める場合には、工期や施工性への配慮も重要となる。
授業や部活動などへの影響を抑えつつ、比較的短期間で施工できる工法や、既存部分を生かした改修方法を採用することで、施設を継続的に利用しながら性能向上を図ることができる。
今後、全国で体育館の空調整備が進む中では、空調設備だけを個別に捉えるのではなく、建物の状況や改修時期、維持管理までを含め、中長期的な視点から整備を進めていくことが重要となる。
おわりに
学校体育館の空調整備は、単なる冷暖房設備の導入にとどまらない。
平常時には児童生徒が安全で快適に活動できる教育環境を確保し、災害時には地域住民の生命と生活を支える避難所として機能させるための施設整備として捉える必要がある。
今後、2031年度中の空調設置率100%という国の目標に向けて、全国の自治体で整備が本格化すると考えられる。
その際には、空調設備だけでなく、屋根・壁・床・窓などの断熱・遮熱対策、非常時の電源確保、さらには避難者の居住性やプライバシー確保などを含め、体育館全体の性能を総合的に向上させていくことが求められる。
建築FOCUS 避難所となる学校体育館の空調整備断熱性等 注目製品
文化シヤッター(株)の屋内用遮熱シート「はるクール」は、屋根の内側に設置する遮熱シートである。
太陽光で熱せられた屋根からの輻射熱(遠赤外線)を反射し、最大97%カットすることで、建物内部への熱の侵入を抑え、室内の温度上昇を抑制する。
特に屋根面積が大きく、屋根からの熱の影響を受けやすい体育館などの大空間では、室温上昇の抑制に加え、熱中症予防や空調効率の向上にも寄与する。
使用するアルミ箔シートは国土交通省の不燃材料認定を取得。
軽量で建物への負担が小さく、既存建物にも導入しやすい。
また、屋内に設置するため紫外線や風雨による劣化・破損リスクも低く、長期間にわたって遮熱性能を維持できる。
電力などのエネルギーを必要とせず、10年以上の耐久性を有するため、設備導入後の維持管理の負担が少なく、ランニングコストを抑えた遮熱対策が可能となる。
輻射熱を抑えることで冷房効果を得やすくなり、空調の運転時間短縮など省エネルギー運転にもつながる。
特に、既存体育館への空調設備の導入に合わせて屋根からの熱負荷を低減することで、より効率的な空調運転が期待できる。
学校体育館への空調整備と組み合わせることで、平常時の運動環境の改善に加え、災害時に避難所として利用する際の温熱環境改善や熱中症リスク低減にも効果が期待できる。
詳細▶特集92ページ
コトブキシーティング(株)の大型電動間仕切「SIKIRUTO(シキルト)」は、体育館やアリーナ、劇場・ホールなどの大空間を、用途や利用人数に応じて柔軟に分割できる大型電動間仕切である。
リモコン操作により短時間で展開・収納でき、不使用時には天井部へ収納されるため、床面のスペースを有効に活用できる。
大空間を必要に応じて区画できることから、施設の利用形態に合わせた柔軟な空間づくりが可能となる。
体育館を複数のスペースに分割することで、異なる競技や授業などの同時利用が可能。
限られた施設空間を有効に活用でき、体育館の利用効率向上にもつながる。
また、シートが「面」で球などの衝撃を受けるため、従来の防球ネットと比較してたわみを軽減し、隣接するスペースへのボールの侵入を防ぐとともに、利用者同士の安全確保にも寄与する。
また、災害時に体育館を避難所として使用する際には、空間を区画することで避難者のプライバシー確保に活用できる。
広い体育館内に一定の区画を設けることで、避難生活における生活空間の確保にも役立つ。
少人数で施設を利用する際には必要なスペースのみを区切ることで、空調・照明範囲の縮小にもつながり、効率的な施設運用が可能となる。
新築だけでなく既存施設への後付けにも対応しており、学校体育館の平常時と災害時双方の機能向上を図ることができる。
詳細▶特集93ページ
(株)新井組の樹脂製ハニカムフロア「テクセル床工法」は、床下地コンクリートと表層仕上げ材の間に「TECCELL(テクセル)」パネルを挟み込む直床形式の積層床工法である。
反発性能を保ちながら衝撃吸収性を持たせることができ、スポーツ競技向けには弾力層を設けることで、ジャンプ着地時の膝への負担を軽減する。
体育館に求められる運動性能を確保しながら、利用者の身体への負担軽減を図ることができる床工法となっている。
下地材の「TECCELL」は、熱可塑性樹脂素材によるハニカムコアの両面を薄膜シートで挟み込んだ中空板サンドイッチパネルで、軽量でありながら高い剛性と耐久性を有する。
また、中空ハニカム構造の「TECCELL」と熱伝導率の小さい弾力層(チップウレタン)を組み合わせることで、床表面の温度変化を抑える保温性と、室温を保つ断熱性を備える。
床面からの熱の影響を抑えることで、体育館内の温熱環境の改善にもつながる。
既存の二重床フローリングの上から施工する「増し張りフロア」にも対応。
既存床を撤去せずに施工できるため、廃材の発生を抑えながら体育館の床性能を向上できる。
既存施設を活用しながら床の改修を行えることから、体育館の改修時にも採用しやすい工法となっている。
空調設備と併せた断熱性の確保により、平常時の運動環境だけでなく、災害時に一定期間生活する避難所としての温熱環境改善にも寄与する。
詳細▶特集94ページ
【出典】
最終更新日:2026-10-27

