既存鋼板屋根に対するシート防水による断熱改修工法の標準化
1. はじめに
日本国内では1970年前後から大規模な社会基盤施設の整備、および大型建築物の建設が進められて来たが、近年ではこれらの構造物や建築物における経年劣化が顕著になり、時代や社会の変遷とともに要求性能も多様化している。
こうした中で、設計・施工技術の研究開発とともに、近年では特に適切な点検・保守、調査・診断、および補修・改修工事を含む保全の重要性が強く認識されている。
筆者が長年関わっている国土交通省大臣官房官 庁営繕部監修「公共建築改修工事標準仕様書」1)および日本建築学会編「建築保全標準・同解説−鉄筋コンクリート造建築物(以下、「JAMS-RC」)」2)では、改修工事に採用する材料工法を既存建築物と同一にすることが一般的である。
実際には既存建築物とは異なる材料工法を改修工事に適用することは可能であり、既存の材料より性能や機能が優れるものを組合わせる工法は採用されている。
しかし、そのような組合わせは膨大な内容となり、適用に対する判断基準も複雑なものとなることから、標準化の観点からは限定的になっている。
以上のような背景から、東京都防水工事業協会(以下、「都防協」。会長:クニ化学防水(株)佐々木浩代表取締役)では、2020年までの20年ほどの間に東京都の公立小・中・高等学校が保有する体育館の鋼板屋根に対する防水性と断熱性の向上を主な目的として、断熱材を付加した塩化ビニル樹脂系ルーフィングシート(以下、「塩ビシート」)を用いる断熱防水改修工事を実施して、50件を超える施工実績を積み重ねてきた。
このような施工実績を踏まえて、都防協では日本建築仕上学会に対して本工法の標準化を目的とした研究を2022年度に委託した。
その研究成果を2023年度日本建築学会大会(近畿)で報告3)するとともに、日本建築仕上学会監修の下で都防協が「既存建築物の金属屋根に対する塩化ビニル樹脂系ルーフィングシートを用いる断熱防水改修工事指針・同解説」4)を2023年に発行した。
上記のような研究成果と施工実績に鑑みて、(一社)全国防水工事業協会(以下、「全防協」。会長:有山幸治郎日本産業(株)代表取締役社長)では、日本全国における本工法の普及展開を図ることを目的として、日本建築仕上学会に対して本改修工法仕様高度化の研究を2024年度に委託した。
全国的な普及展開においては、東京都内の島しょ部を除く体育館に限定しないで、建築用途を工場や倉庫などを含む既存建築物の鋼板屋根を適用対象とすることが期待され、以下の2点が主要な検討課題とされた5),9)。
(1) 既存鋼板屋根の劣化状態が大きく異なり、改修仕様に的確な情報を提供できる調査・診断方法の確立
(2) 建築物の立地条件と高さを考慮した屋根に作用する風圧力に対する設計標準の確立
上記委託を受けた日本建築仕上学会では、学識経験者と委託者側委員で構成される表-15),9)に示す「既存鋼板屋根防水改修仕様高度化委員会」を設置して、研究を推進した。
改修仕様の高度化は上述した都防協からの委託研究と同様に、JAMS-RC2)に準拠している。
本研究成果は、2025年度日本建築学会大会(九州)において4編の梗概5),6),7),8)および日本建築仕上学会2025年大会において3編の研究発表論文9),10),11)として口頭報告しており、本稿ではそれらの内容に基づいて本技術の概要を述べる。
2. 研究の概要5),9)
本研究の主要な成果物としては、以下のような 4項目の内容を示すことである。
(1) 既存建築物の鋼板屋根に対する調査・診断標準
(2) 塩ビシートを用いる断熱防水改修設計標準
(3) 塩ビシートを用いる断熱防水改修施工標準
(4) 断熱シート防水改修工事終了後の維持管理標準
特に、鋼板屋根が適用されている既存建築物の用途と所在地域を拡大すると、適用対象である鋼板屋根の状態が大きく異なり、それらの状態を把握した上で、改修設計と改修工事に的確な情報提供をする調査・診断の方法を確立することが重要となる。
また、建築物の屋根に作用する主要な外力である風圧力は、建築物の所在地域における基準風速や表面粗度区分、および建築物の高さ等に応じて異なるため、諸条件に応じた風圧力を求めて塩ビシートを固定する耐風圧性を確保できる設計標準とすることが必要である。
さらに、本改修工法に適用する材料は設定した目標性能および材料の品質基準を満足するものに限定して、改修工事が終了した後の漏水を回避する詳細設計例が標準化には重要であり、設計仕様を満足する十分な施工および施工管理の標準も必要となる。
また、建築基準法第八条によれば、建築物の保全は所有者や管理者、占有者の責任において実施されなければならないと規定されており、本防水改修工事が終了した後における維持管理の内容を明確にして、長期間にわたる的確な保全が実施されることを意図して、維持管理標準の内容まで包含している。
3. 既存の鋼板屋根に対する塩ビシートを用いる断熱防水改修工事の流れ5),9)
既存建築物の鋼板屋根に対する本防水改修工事は、原則として図-15),9)に示す手順で進める。
特に、既存の鋼板屋根に対する事前の調査・診断の結果が本改修工事の実施可否を判断する最も重要な指標となる。
日本全国の既存鋼板屋根に対して本改修工事仕様が安直に適用できるわけではなく、対象となる鋼板屋根の状態に応じて、点検の継続や別途改修工事に至る場合も含まれることになる。

図-1 既存鋼板屋根に対するシート防水による断熱改修工事の流れ5),9)
4. 既存建築物の鋼板屋根に対する調査・診断標準6),10)
調査・診断方法は、日本建築学会編「建築保全標準・同解説JAMS 3-RC調査・診断標準仕様書-鉄筋コンクリート造建築物」12)に準拠して標準化しており、その概要は以下のとおりである。
4.1 調査・診断のフロー
既存鋼板屋根に対する調査・診断は、図-26),10)に示す手順で実施する。
最初に、既存建築物における「漏水の有無」を確認して、漏水が生じていれば「漏水箇所の調査」を実施する。
屋根からの漏水であれば「漏水補修の可否」を判断して、補修可能であれば「本改修工法の適用可能性がある」と評価する。
屋根以外の部位からの漏水であれば、本改修工法の適用対象ではなくその旨の調査・診断報告書を作成する。
一方、漏水が生じていない場合には、表面塗膜と屋根鋼板の状態を評価する。
屋根鋼板に施された塗膜の劣化は、一般に表面劣化(変退色、光沢低下、白亜化、摩耗)から、内部劣化(膨れ、割れ、はがれ)へと進行し、さらに鋼材の腐食、欠損等に進むとしている。

図-2 既存鋼板屋根に対する調査・診断の流れ6),10)
4.2 調査の方法6),10)
既存鋼板屋根に対する調査は「事前調査」と「施工前調査」に分けられ、「施工前調査」については本稿6.施工標準で後述する。
事前調査は外観目視と指触観察によるものとして、劣化現象の発生有無、程度、範囲を確認する。
表-26),10)に準じて漏水および塗膜や鋼材に対する調査項目ごとに、個別劣化度を評価する。
漏水は「認められない」を個別劣化度ⅰ、「認められる」を個別劣化度ⅲとする。
塗膜の劣化は表面劣化と内部劣化について「認められない」を個別劣化度ⅰ、「認められる」を個別劣化度ⅱ、「顕著に認められる」を個別劣化度ⅲとする。
鋼材の腐食(白さび、赤さび)は屋根面積全体に対する腐食面積の割合を判断して、さびの等級による評価基準はJIS K 5600-8-313)に準ずる。
鋼材の欠損、変形、破断は「認められない」を個別劣化度ⅰ、「欠損・破断・金属の伸縮による波うちが認められる」を個別劣化度ⅱ、「顕著に認められる」を個別劣化度ⅲと評価する。
上述した各調査項目における代表的な個別劣化度ⅱとⅲの状態を表-36),10)に示す。
4.3 劣化評価と本工法の適用可否6),10)
各項目の個別劣化度を統合して、表-46),10)に準じて総合劣化度Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを評価する。
漏水と鋼材のいずれかの項目が総合劣化度Ⅲと評価される場合には、本稿6.施工標準で述べる「施工前調査」による「ねじの引抜試験」を必ず実施しなければならない。
以上の調査結果に基づいて、本改修工法の適用可否を以下のa~eのように判断する。
a. 屋根に漏水が生じておらず表面塗膜の劣化が軽微であり、事前調査の結果が総合劣化度Ⅰの場合には本防水改修工事は実施しないで、既存鋼板屋根に対する点検を継続するか、もしくは既存鋼板屋根に対する塗装改修工事を適用する。
b. 既存鋼板屋根に漏水が生じておらず既存屋根鋼材に軽微な腐食・損傷があり、事前調査の結果が総合劣化度Ⅱの場合には、鋼材に生じている軽微な腐食・損傷に対する局部的な補修を施した後、本防水改修工事が適用可能である。
c. 既存鋼板屋根に漏水が生じておらず鋼材に腐食・損傷があり、事前調査の結果が総合劣化度Ⅲと評価され、後述の「ねじの引抜試験」が合格の場合には鋼材の腐食・損傷部分に対する補修を施した後に、本防水改修工事が適用可能である。
d. 既存鋼板屋根に漏水が生じており、事前調査の結果が総合劣化度Ⅲと評価され、漏水補修が可能であり、後述の「ねじの引抜試験」が合格の場合には漏水箇所に対する補修を施した後に、本防水改修工事が適用可能である。
e. 漏水の有無にかかわらず、鋼材に顕著な腐食・損傷があり、事前調査の結果が総合劣化度Ⅲと評価され、後述の「ねじの引抜試験」が不合格の場合には本防水改修工事を適用しないで、既存鋼板屋根のふき替改修工事等を別途検討する。
5. 塩ビシートを用いる断熱防水改修設計標準7),11)
本防水改修工事が終了した後の屋根には、防水性や耐風圧性、断熱性、耐候性等の性能が要求される。
特に屋根には耐風圧性が重要であり、本工法ではシートの保有耐力が当該屋根に作用する風圧力を上回るように設計する。
さらに、本稿4で述べた「調査・診断」の結果から把握される既存鋼板屋根の状態に加えて、改修設計の与条件を把握したうえで、屋根防水改修設計の詳細仕様を以下のように決定する。
5.1 本工法が適用可能な既存鋼板屋根の構法と採用するシート防水改修工法
本工法が適用可能な既存鋼板屋根の構法は、瓦棒屋根と折板屋根に限定する。
その他の構法については標準化が困難であり、個別に適用性を検討することになる。
また、参考文献3)では、適用対象を島しょ部を除く東京都に所在する既存体育館の鋼板屋根に限定しており、断熱シート防水改修に「金物併用接着工法」も採用している。
しかし、本塩ビシート断熱防水改修工法は、建築用途を限定しないで日本全国における既存鋼板屋根を対象としており、不確定要素が多いことを考慮して「機械固定工法」に限定している。
さらに、使用材料は、本標準で規定する品質規格を満足するものを採用することにしている。
5.2 断熱シート防水改修設計の流れ
本工法の設計は、図-37),11)に示す手順で実施する。
既存鋼板屋根に対する調査・診断の結果から、本改修工法が適用可能であると判断された場合には的確な改修設計を実施する。

図-3 断熱シート防水改修工法の設計手順7),11)
改修設計では、最初に既存鋼板屋根に作用する風圧力を求める。
風圧力は対象地域における基準風速や地表面粗度区分、および建築物の高さに応じて異なることから、建築基準法施行令第82条の4に規定される「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(告示1458号)に準拠して、以下の計算式に基づいて屋根に作用する単位面積当たりの風圧力を求める。
W=q×Cf
W:風圧力(N/m²)
q:速度圧(N/m2²)
Cf:ピーク風力係数
本改修工法の耐風圧性は、固定ディスク1箇所当たりの固定強度と固定ディスクの留付け間隔から求められる。
本仕様の保有耐力が上記の式で与えられる単位面積当たりの風圧力に対して、十分に上回るような耐風圧性を確保した設計とする。
従って、既存建築物の立地条件や高さを限定することなく、耐風圧性を確保すれば本工法を適用可能としている。
本工法では、既存鋼板屋根を撤去しないで本改修工事を実施するため、既存の鋼板屋根に対する適切な処理方針や、耐風圧性を確保するための改修工事用下地材の取り付けを設計仕様に含んでいる。
また、既存鋼板屋根に漏水が確認された場合や、屋根に対する風の吹込みが懸念される場合には、軒先やケラバ、排水溝などに対する詳細設計が不可欠である。
参考文献7),11)では具体的な設計例を示しており、詳細内容は参考文献7),11)を参照されたい。
6. 塩ビシートを用いる断熱防水改修施工標準8),11)
本稿2で述べた既存鋼板屋根に対する外観目視と指触観察による調査・診断は、対象建築物の供用による制約から限定的な結果となる場合が多く、また調査時点から施工着手までの経年変化も考えられる。
従って、実施工に対する設計仕様の適用可否を確認するには、防水改修工事に先立ち「施工前調査」を実施することが不可欠である。
6.1 施工前調査
施工者は施工前に既存鋼板屋根に対して、設計仕様の実施工可否を確認しなければならない。
特に事前調査で総合劣化度Ⅲと評価された場合には、「施工前調査」で「ねじの引抜試験」を必ず実施して、改修設計仕様で指定される本工法の保有耐力を確認して所要の耐風圧性を確保する。
試験要領の詳細は、参考文献8),11)を参照されたい。
ねじの引抜試験結果は表-58),11)に示す全項目において、判定基準を満足しなければならない。
6.2 改修施工
設計図書に基づいた施工計画書および施工要領書を作成して、設計仕様を満足する施工および施工管理を着実に実施して、施工品質と耐久性を確保することが重要であり、改修施工の工程は表-68),11)に示すとおりである。
また、改修工事が終了した後は自主検査を実施して、改修工事を完了した状態が改修設計図書の内容を満足していることを確認する。
7. 断熱シート防水改修工事終了後の維持管理標準8),11)
施工後の防水層は他の建築用外装材料と同様に経年とともに劣化を生ずること、および本工法が適用される屋根という部位は日射や降雨雪を受ける過酷な使用条件となるため、経年劣化は不可避である。
したがって、適切な保全が実施されないで放置されると、防水層としての機能や性能が低下することになる。
建築基準法第八条によれば、建築物の保全は所有者や管理者等の責任において実施されなければならないと規定されており、改修工事終了後の維持管理が重要である。
本工法では、改修工事終了後の維持管理が適切に実施されるように、JAMS 2-RC 点検標準仕様書14)に基づいて、所有者や管理者に実施していただく「維持管理標準」を提案しており、「日常点検」、「定期点検」および「臨時点検」から構成している。
詳細は、参考文献8),11)を参照されたい。
8. まとめ
本稿は、全防協から日本建築仕上学会に対して委託された「既存鋼板屋根に対するシート防水による断熱改修工法の高度化」に関する研究成果を2025年度日本建築学会大会(九州)および日本建築仕上学会2025年大会で報告された内容に基づいて紹介している。
研究成果の詳細については、参考文献5)~11)を参照されたい。
さらに、具体的な改修工事の内容については、日本建築仕上学会監修による全防協編の「既存鋼板屋根の断熱シート防水改修工事指針・同解説」15)が2026年5月に発行されている。
筆者としては、本改修工法が適切に普及展開されることを期待したい。
【参考文献】
1) 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修:公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版、(一財)建築保全センター(2025)
2) 日本建築学会編:建築保全標準・同解説−鉄筋コンクリート造建築物 JAMS-RC 1~5(2021)
3) 神木、近藤、佐々木:既存建築物の鋼板屋根における断熱シート防水による改修工法の標準化、2023年度日本建築学会大会(近畿)梗概集 材料施工、pp.455
4) 日本建築仕上学会監修 東京都防水工事業協会編:既存建築物の金属屋根に対する塩化ビニル樹脂系ルーフィングシートを用いる断熱防水改修工事指針・同解説(2023)
5) 近藤、今本ほか:既存鋼板屋根に対する断熱シート防水改修仕様標準の高度化 その1 研究の背景と概要、2025年度日本建築学会大会(九州)梗概集 材料施工、pp.124
6) 望月、近藤ほか:同上 その2 既存鋼板屋根に対する調査・診断標準、2025年度日本建築学会大会(九州)梗概集 材料施工、 pp.1245
7) 神木、近藤ほか:同上 その3 断熱シート防水改修設計標準、2025年度日本建築学会大会(九州)梗概集 材料施工、pp.1247
8) 岸田、近藤ほか:同上 その4 改修施工標準と維持管理標準、2025年度日本建築学会大会(九州)梗概集 材料施工、pp.1249
9) 近藤、今本ほか:既存鋼板屋根に対する断熱シート防水による改修工法の標準化 その1 研究の経緯と概要、日本建築仕上学会 2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.173
10) 望月、近藤ほか:同上 その2 既存鋼板屋根の調査・診断方法に関する標準化、日本建築仕上学会2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.177
11) 神木、近藤ほか:同上 その3 改修設計と改修工事および工事終了後の維持管理に関する標準化、日本建築仕上学会2025年大会学術講演会研究発表論文集、pp.181
12) 日本建築学会編:建築保全標準・同解説JAMS 3-RC 調査・診断標準仕様書- 鉄筋コンクリート造建築物(2021)
13) 日本規格協会編:日本産業規格JIS K 5600-8-3:2008 塗料一般試験方法− 第8部:塗膜劣化の評価−第3節:さびの等級
14) 日本建築学会編:建築保全標準・同解説JAMS 2-RC 点検標準仕様書- 鉄筋コンクリート造建築物(2021)
15) 日本建築仕上学会監修(一社)全国防水工事業協会編:既存鋼板屋根の断熱シート防水改修工事指針・同解説(2026)
【出典】
最終更新日:2026-10-22

