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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > インフラ分野のDX推進に向けた取り組み- ネクスト・ステージへの「挑戦」-

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、働き手の減少を上回る生産性の向上などが求められている。
そこで、国土交通省では、2025年度までに建設現場の生産性2割向上を目指して2016年度より「i-Construction」の取り組みを推進している。
具体的には、①建設現場における調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT(情報通信技術)を活用すること、②設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入し、サプライチェーンの効率化、生産性向上を目指すこと、③国庫債務負担行為などの活用により年度末に集中する工事量を平準化することの3つの施策をトップランナー施策として推進する他、BIM/CIMなどの3次元データの利活用促進などさまざまな取り組みを推進してきた。
 
また、政府を挙げたデジタル社会への変革が求められる中、今般の新型コロナウイルス感染症も踏まえ、国土交通省においてもこれまでのi-Constructionの取り組みを中核に、さらに発展させ、データとデジタル技術を活用し、建設現場の生産性向上のみならず職員自身の働き方改革なども含めた変革に取り組む「インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を推進しているところである(図-1)。

図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係
図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係

 
 

インフラ分野のDXの取り組み状況

インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組むべく、2020年7月に「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を設置した。
 
国土交通省では「インフラ分野のDX」を「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」するものであると位置付け、具体的な施策を「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」「コミュニケーションをよりリアルに」「現場にいなくても現場管理が可能に」の3つの観点で整理している(図-2)。

図-2 インフラ分野のDXの全体像
図-2 インフラ分野のDXの全体像

まず1点目の「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」であるが、これはインフラに関係する諸手続きやサービスについて、その利便性向上を図るもので、例えば、特殊車両通行手続きの効率化や民間事業者・港湾管理者における手続きの効率化・非接触化、キャッシュレス化・タッチレス化などが挙げられる。
 
次に2点目の「コミュニケーションをよりリアルに」については、対象者の内外を問わず、より理解しやすいコミュニケーショ図-1 i-Constructionとインフラ分野のDXの関係ンを図るもので、例えば、3次元によるリアルな水害リスク情報の提供、官庁営繕事業におけるBIM活用などが挙げられる。
 
続いて3 点目の「現場にいなくても現場管理が可能に」であるが、「i-Construction」に包含されるICT施工のさらなる拡大のイメージとなる。
受注者・発注者を問わず、建設現場の省人化や効率化のさらなる追求を図るものであり、例えば建設施工における自動化・自律化の促進やAI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化などが挙げられる。
 
また、上記3つの観点に加え、位置情報の共通ルール(国家座標)の推進やDXデータセンターの整備などといった、「インフラ分野のDXを支える仕組みや基盤の整備」も重要である。
 
2021年11月5日に開催した第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、上記の「インフラ分野のDX」の概念についての認識共有と、主な施策の進捗について紹介を行った。
 
 

インフラ分野のDX「挑戦の年」-インフラ分野のDXアクションプランの策定-

国土交通省では、インフラ分野のDXの推進に向け、2022 年をDXによる変革に果敢に取り組む「挑戦の年」と位置付け、取り組みを一層加速化させている。
 
2021年度には、インフラ分野のDX施策を具体的に進めるべく「インフラ分野のアクションプラン」の策定に着手し、第5回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議を踏まえ、国土交通省が所管する各分野における施策ごとの取り組み概要や具体的な工程表で構成される「インフラ分野のDXアクションプラン」を、2022 年3月30日に策定・公表した(図-3、4)。
アクションプランは、以下の3つの柱から構成されている。

図-3 インフラ分野のDXアクションプラン
図-3 インフラ分野のDXアクションプラン
図-4 各施策の取り組みの掲載例
図-4 各施策の取り組みの掲載例

 
1)行政手続きのデジタル化
インフラ分野に係る各種手続きのデジタル化を推進することにより、例えば、24 時間365日ウェブシステムなどにより申請・許可取得を実現、「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」できることを目指す取り組みである。
 
2)情報の高度化とその活用
3次元データ等によるコミュニケーションを促進することによる受発注者や地域住民等との理解促進・合意形成の効率化・円滑化を図ることにより「コミュニケーションをよりリアルに」するとともに、国土交通省を含めた関係機関などが有するインフラデータを公開し、利用促進を図ることによるサービスの向上や新たなサービス創出などの促進・発展を目指す取り組みである。
 
3)現場作業の遠隔化・自動化・自律化
建設現場にいなくても建設機械の遠隔操作や出来型・品質検査などを可能とすることで、省人化・効率化により「現場にいなくても現場管理が可能に」なることを目指し、生産性の向上や現場環境の改善につなげる取り組みである。
 
アクションプランでは、各施策の実現に向けた実行計画に加え、利用者目線で実現できる事項を盛り込んだ。
さらに、国土交通省におけるインフラ整備・維持管理に最前線で携わる各地方整備局等における主な取り組みについても取りまとめた(図-5、6)。

図-5 荒川3D河川管内図
図-5 荒川3D河川管内図
図-6 VR橋梁点検研修
図-6 VR橋梁点検研修

 
 

アクションプランのネクスト・ステージ

国土交通省では、2022 年4月に国土交通省第5期技術基本計画の策定を行い、新たな取り組みとして「20~30年後の将来の社会イメージ」を示した。
同計画で描く将来の社会イメージの実現を目指し、2022年8月24日に開催した第6回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、アクションプランのネクスト・ステージを公表し、取り組みの深化、分野網羅的、組織横断的な取り組みへの挑戦を開始し、国土交通省の各部局においても取り組みを推進していくことを確認した(図-7、8)。
分野網羅的な取り組みとして、インフラ 分野全般を網羅してDXを推進するため、「インフラの作り方」の変革、「インフラの使い方」の変革、「インフラまわりのデータの伝え方」の変革という3つの視点から取り組みを進めていくこととしている。

図-7 ネクスト・ステージ概要
図-7 ネクスト・ステージ概要
図-8 3つの挑戦
図-8 3つの挑戦

一方で、組織横断的な取り組みとは、業界内外、産学官連携による施策展開を図ることを示した。
アクションプランは、各施策での実行計画としているが、部局が異なっていても共通の技術を使っていれば、その技術の横展開をすることで、技術開発の労力を削減できる。
また、利用対象者が共通であれば、統合して表示することで格段に分かりやすくなるなど、シナジー効果も期待される。
 
1)「インフラの作り方」の変革
建設現場(調査・測量、設計、施工)の生産性を飛躍的に向上させるとともに、安全性の向上、手続きなどの効率化を実現するための挑戦である。
具体的に、建設機械施工の自動化・自律化、デジタル化による工事関係協議・手続きの効率化などの実現に向けた観点から取り組みを進める。
 
2)「インフラの使い方」の変革
インフラ利用申請のオンライン化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出す(Smart)とともに、安全(Safe)で、持続可能(Sustainable)なインフラ管理・運用を実現するための挑戦である。
例えば、ハイブリッドダムの取り組みによる治水機能の強化やVRを用いた検査支援・効率化、空港の地上支援業務の自動化・効率化によるサービス提供などの実現に向けた取り組みである。
 
3)「インフラまわりデータの伝え方」の変革
インフラに関連したデータ提供による新 たな民間サービスの創出、利用者に分かりやすい情報伝達や行政利用による施策判断の高度化につなげていくものである。
 
アクションプランの施策の具体化・実現化、ネクスト・ステージに向けた組織横断的・分野横断的な取り組みを推進するためには、関係者との連携、協働が必要である。
社会の変革スピードが加速化している状況下において、社会ニーズや要請に対する施策展開を、従来の「常識」にとらわれず柔軟に対応していくことが求められている。
アクションプランに基づき国土交通省が一丸となって取り組みを進めていくことが求められている。
ネクスト・ステージの推進
2022 年10 月7日にはi-Construction推進コンソーシアム第8回企画委員会(委員長:(株)三菱総合研究所 小宮山宏理事長)を開催し、i-Construction、インフラ分野のDXの推進状況を報告、アクションプランのネクスト・ステージの取り組みに向けて、各委員との意見交換を実施した。
 
各委員からは、i-Constructionからイ ンフラ分野のDXに拡げることは社会情勢を踏まえた取り組みの深化であるが、生産性向上などの目標(指標)を明確にし、計測・評価ができることが必要があるとの意見が出された。
また、普及拡大に向けてスタートアップや企業内でのi-Construction、インフラ分野のDX推進の功労者に対しての表彰やマッチングなど、継続的な広報活動による支援についても意見が寄せられた。
人材育成については、特に大学教育においてi-ConstructionやDXの最新分野について、大学間や産学での連携が必要になるとの意見も頂いた。
加えて、DX推進の取り組み全体に対しては、発注者や企業、利用者など、さまざまな目線で変革によるメリットを追求する必要性も挙げられた。
本委員会における有識者からの意見も参考に、さらなるインフラ分野のDX推進に向け、取り組みを加速化させていく所存である。
 
 

おわりに

本稿では、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXについて紹介した。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、学界や民間と連携・協調を図りつつ、インフラ分野のDXの先導役を果たしていきたい。
 
注意)本稿は執筆時点( 2022年11月初旬)での情報である。
インフラ分野のDXの最新状況については、国土交通省ホームページなども適宜、参照されたい。
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 建設情報高度化係長
小泉 陽彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-08-14

 

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