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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > 建設コンサルタントにおけるBIM/CIM人材育成- 現状のモデラー育成、人材育成の課題、上級育成に関する所感-

弊社の人材育成

メインは新入社員集中研修

弊社におけるBIM/CIM教育のメインは、2014年度以降毎年5月の一カ月で実施している新入社員集中研修です。
一週間ほど、座学・ハンズオン研修を行った後、先輩社員などの指導の下、実業務を題材とした課題を熟すという内容です。
最終日の発表会では、社長賞をはじめとする各賞が用意されていることもあり、指導者も含めて真剣に取り組んでいただいています。
 
私の考える効果は以下の通りです。
 
①やはり若い人の方が向いている。
②同期の間で(仲良くなるので)情報網が形成される。
③(副次的に)土木や2D図面への入り口となる。
 
課題としては、折角学んだノウハウを計画系、環境系では生かす場面が少ないということでした。
これに対して、ICT 技術を含むDX全般に対応する組織「DX推進センター」の2021年度設立を機に、GIS、AI、RPA、XRなども選択可能とすることで、より一層研修への意欲向上が図れています。
 
開始当時は、2D図面の3D化がメインでしたが、その後、4D施工シミュレーション、比較検討、属性付与とステップアップしています。
2022年度のモデリング以外の課題としては「配管byプログラミングツール」「入札図書収集by RPA」「渋滞分析by Vissimn」「AR by VPS技術」などがありました。
 
ただ、私的には毎年5月は何やかんや非常に大変です。
でも、若い人を見て力をもらえているとも感じます。
 

ニーズ対応研修

弊社におけるその他のBIM/CIM教育は、ニーズに応じた1~3日間のハンズオン研修です。
 
対象者は、グループ会社、協力会社などを含む中堅社員、CADオペレーター、(海外からの)出向社員などです。
これらの対象者を区別せずに一緒に研修することはやっていません。
対象者が使用したいソフト、内容をヒアリングした上で適した内容の研修を行っています。
ニーズの例としては「今度入って来るCADオペさんに造成設計検討をフォローしてほしいので、線形の作成や法面の自動生成の方法を教えてあげてほしい」といったもので、「では研修を実施しますので、その前にこの基本操作編を自己学習させておいてください」といった感じです。
ただ、この研修を終えても、バリバリにソフトを使いこなせる方はいませんので「何かあったらいつでも相談してください」といった対応をとっています。
できないところをやってあげるのではなく、できるように教えてあげるといったスタンスです。
 
確かに「定期的に同じ内容の基礎的なハンズオン研修を行って欲しい」というニーズもあります。
「その方が効率的かもしれない」とも思う一方、「その後何割の方が継続してノウハウを生かしてくれるのか」という疑問もあります。
第一、変化のスピードも速いし、何より同じことを繰り返すのは私が面白くないのです。
 

社内BIM/CIM資格

弊社では「モデラー」「インストラクター」「マネージャー」という社内資格を付与しています。
一番最初だけ自ら作成した「モデル」「マニュアル」「BIM/CIM実施計画書・報告書」を審査して資格を付与しました。
その後は、年2回試験を実施しています。
試験は朝9時にメールで問題を配布し「何を見てもよいので回答を12時までに返信して!」というものです。
 
「モデラー」には得意なソフトを申告してもらい、例えば「添付する完成イメージ図を参考とし、添付するCADファイルを基に指示するモデルを作成せよ!」といった感じです。
合格者にはソフトを優先的に使用する権利を与えています。
 
「インストラクター」には、モデラー問題の「回答過程をマニュアルにせよ!」という出題をしますが、合格したとしても名誉以外のインセンティブがないため、受験者はごく少数です。
会社には例えば資格給といったインセンティブ付与をお願いしているのですが実現していません。
 
「マネージャー」にはBIM/CIMに関する広範な知識を求めたいのですが、その知識を把握する出題は難しく、現在はトピックな問題(できないこと)に対して課題(しなければならないこと)と具体的な方策を記述していただく問題としています。
採点がなるべく客観的になるような工夫が肝要です。
モデラー資格を持たないマネージャーもいます。
モデリングできなくても、「どんなことができるか」と「BIM/CIMの本質」を理解していれば、指示ができるはずだと考えています。
 
ただ、変化が激しいので、スキルを保つための方策は模索中です。
 
 

人材育成の課題

上記のような人材育成を現在行っていますが、社内外の人材育成に関する課題について考えてみました。

 

資質はモチベーションの維持で

必要な資質は以下の4つと考えます。

  • パソコンが嫌いじゃないこと
  • 新しもの好きなこと
  • 凝り性なこと
  • できればプログラミングできること

これまで1人だけ新入社員研修中にリタイアした人がいます。
同期を見回して自ら向いていないと烙印を押しちゃったみたいです。
過呼吸という症状も出てしまいました。
厳しい言い方かもしれませんが、スマホは片時も手放さないのに、仕事でパソコンに向かうと頭が痛くなるって、心の問題ですよね。
 
よく言われますが「BIM/CIMはイノベーション」です。
新しいことに興味を持って、既得権益がそれを阻害しているのであれば、それを乗り越えていく意思も欠かせない資質と考えます。
多くのアンチがいる状況では挑む価値も大きいです。
 
「凝り性」であることも重要です。
限られた時間内によりよい結果を出そうという意思は「集中力」とも言えます。

最後に「プログラミング力」。
私にとっても課題です。
しかし、与えられたアプリを使いこなすだけではなく、どうすればもっと良くなるかと考えること、さらに自らそれを実装する力は、これからどんどん求められてくると考えます。
 
これらの資質は結局モチベーションを持てれば醸成されると考えます。
動機は何でもよいです。
不純かもしれないですが「気になるあの人と一緒に仕事がしたい」でも立派な動機となりますし、より高くモチベーションが保てるはずですよね。
逆にどうしてもモチベーションが持てないようなら、BIM/CIMだけが建設コンサルタンツの仕事ではないので、モチベーションを持てる仕事を探した方がよいです。
ただ、これからはBIM/CIMぐらい熟さなくてはという時代になると思いますが…。
 

中級・上級の学習目標達成が課題

国土交通省BIM/CIMポータルサイトの研修コンテンツ内の「教育要領(案)」では、

  • 3次元CADの基本的な操作方法(従来:図面の閲覧 等)を習得する。
  • 『活用ガイドライン』を理解し、自身が担当する実務において活用項目を設定(活用業務・工事単位)することができる。
    また、授受する資料などを確認することができる。

ことを初級(当面の普及目標)としています。
 
これらは、まずビューアで3次元モデル を見てみること、用意されている研修コンテンツを利用することで概ねクリアできると考えます。
ただ漠然と見るだけではなく、さらっとでよいので何回も触れることにより学習効果が上がると考えます。
なお、研修コンテンツについては、随時、追加・改良することも重要と考えます。
 
問題は、

  • 3次元 CAD を利用した操作方法(従来:図面の修正 等)を習得する。
  • 『活用ガイドライン』に従い、自身が担当する実務を効率化することができる。

という中級と

  • 関連する複数の実務を含めて効率化することができる。
  • 適切な指揮、指導を行うことができる。

という上級の学習目標を達成するのは難しいということです。
特に上級の学習目標を達成することが建設コンサルタントにおける人材育成の課題です。

 

共通データ環境(CDE)を意識して

ISO19650とかCDEという言葉をよく耳にします。
CDEの要件を要約すると

  • 図面、モデル、ファイルなどデータが一意に識別できるようにしなさい
  • 国で定義した命名規則を使いなさい
  • 信頼性、正確性、用途が確信できるようにデータを分類しなさい
  • データの版管理をしなさい
  • 承認プロセスを管理しなさい

だと思います。
BIM/CIMの本質は「後工程に必要な情報伝達」だと言われています。
前述の中級・上級ではこれらを意識できる人材でなければなりません。
 
「目的のデータを探し出せない」「いろんなファイル名の付け方があるな~」「このデータは設計協議途中のもの?施工中のもの?」「え~と、最終1つ前のデータはどれ?」「もう発注担当者は承認していたよな~」といったことがないようにしなければなりません。

 

ワークショップの教育環境

教育(学習)方法には次の4つがあると言われます。

  • 自学自習
  • 講義
  • ワークショップ
  • On Job Time (OJT)

社内で初めてBIM/CIMを担うこととなったAさんで想像してみます。
 
まず「何から手を付ければよいのだろう」ということで、ネット検索します。
国土交通省BIM/CIMポータルサイトの研修コンテンツに行き当たり、自学自習します。
 
これだけでは「間違って認識していないかな」という不安があるので、BIM/CIMセミナーなどの講義を聴きます。
 
「そういうことか」と納得すれば、次は「とりあえず、あのソフトを使って3Dモデルを作ってみよう」となり、操作説明を受講し、トレーニング教材で自学自習します。
ここで実務を身近で教えてくれる人がいない、BIM/CIM関連業務がないといった状況なので、他社の集中研修に特別参加することにしました。
ワークショップであり、他者からの刺激を受け、BIM/CIMにより一層取り組む強い動機付けになりました。
 
その後AさんはBIM/CIMを社内拡大するため、自分の経験を基に、OJTだけではなく、なるべくワークショップを絡めた教育環境を就業時間内に確保できるよう経営陣を説得して、今では仲間とともに BIM/CIMに取り組んでいます。
しかし、上級の人材育成については「どうすべきなのか」悩んでいるこの頃です。
 
といった感じになるのかなと思います。
 
 

上級育成についての所感

  • 資質・モチベーションはある
  • 経営層の教育への理解がある

という状況で「CDEで複数の実務を効率化するための適切な指揮、指導を行うことができる」上級人材を育成することについて考えてみました。

 

オーナーをフォローするコンサル

目標は、Society5.0 社会を実現すること、フロントローディングなどでプロジェクトのトータルコストを削減することです。
それをプロジェクトごとにマネジメントするのが上級人材の役割であるとすると、活躍する立場はオーナー側(発注者あるいはPPP/PFI事業の場合には、委託された民間事業者・管理者など)であるべきです。
もしオーナー側に適任者がいなければ、それをフォローするのは発注者と契約を結んだ建設コンサルタントの技術者だと考えます。
ある大学の先生が「それをできるのは調整能力に優れているコンサルの人間」という言葉に触発もされました。

 

経営感覚も必要

建設コンサルタントは「土木建築工事の設計、監理、土木建築に関する調査、企画、立案、助言」を行うサービス業ですので、
専門的知識、調整能力を持った人材がよい技術者と言えますが、プロジェクトをマネジメントするためにはそれに加えて、可視化されたデータから状況を判断し、効率化するための適切な指揮、指導を行うための解析能力、さらには経営感覚といったスキルも必須と言えます。
 
ちょっと変な例かもしれませんが、ソフト間でIFCの相互流通が不完全な今現在
「設計者から施工者にデータが渡らない」問題は、単に両者の使用するソフトウェアが違うから起こっています。
仮に以下の2つの選択肢がある場合、現時点、プロジェクトマネージャーは効果を出すためにはAを選ぶのは当たり前で、IFCが整ったとしても、マネージャーはトータルで効果のあるソフトを選定するだけといった経営を重視したドライな感覚も必要と考えます。
 A:施工者は設計者が使っていたソフト、あるいは相性の良いソフトを使用する
 B:費用をかけて施工者が使っているソフト用のデータを作る

 

育つ環境がないのが問題

このスキルを持った人材はそんなに大量には必要ないとも思いますが、現時点ではオーナー側のプロジェクトマネージャーという立場を経験する環境(機会)が少ないのが、建設コンサルタントが上級人材を育成する上での問題であると考えます。
 

当面どのように育てるか?

将来的にはDXのためデータの整理方法をルール化することは重要です。
また、データの格納場所を確保することも必要ですが、それだけでは先の目標を達成する条件にはなり得ないと考えます。
 
一度に全てが理想的な姿でスタートできない以上、当面、選ばれたプロジェクトで BIM/CIMマネージャーを任命してOJTで経験を積み、成功例の蓄積で理想のマネジメントに近付けていくしかなく、マネージャーを補佐するものがマネージャーに育つといった方法が適していると考えます。
その過程では、各プロジェクトのマネー ジャーが集まってワークショップをし、自主学習、講義につなげるといった機会もあった方がよいです。
 
これをやろうとしているのが、DXデータセンターでの実証実験なのかもしれません。

 

例としての四面会議

マネージャーは、プロジェクトの当初からプロジェクトを計画し、随時更新していく必要があります。
成功例が蓄積していけば将来的にはAIが自動で判断してくれるという夢の世界が来るかもしれませんが、当面はやはり多くを人が担わなければなりませんし、技術の進歩が速すぎても、人が介在しなければならない場面は多く発現すると考えます。
 
そのような合意形成を必要とするプロジェクトの計画立案に有効な合意形成手法の一例として「四面会議」を紹介します。
四面会議という場は、結果として、参加者間の役割分担と包括的で相互連携的な計画案づくりを可能にします。
 
SWOT分析やブレーンストーミング+ KJ法により、役割毎に四面会議図を作成し、ディベートを行うのですが、面白いのは途中でプレーヤーの役割を交換したディベートを行うことです。
これにより当事者以外や外部者の視点からの各分担案の補強(当事者・内部者だけでは見落としがちの論理的・思考的回路の詰め)が可能になり、その分だけ総合的な実行可能性を高めることが期待できます。
 
実は私もまだ経験したことはないのですが、ぜひやってみたい合意形成手法です。
その際、4人の役割を想定すると以下のようになろうかと思います。

  • 役割 プレーヤーA:BIM/CIMマネージャー
  • 役割 プレーヤー B:設計担当
  • 役割 プレーヤー C:施工担当
  • 役割 プレーヤー D:市民

これは先の「各プロジェクトのマネージャーが集まってワークショップ」でも疑似体験として活用できると思います。

 
 

さいごに

今回、これまで携わってきた社内外での人材育成について振り返る機会をいただき感謝しています。
まだまだBIM/CIMに関するベクトルは人によりまちまちで、 BIM/CIMの本質『後工程に必要な情報伝達』実現にはなかなかの難しさを感じていますが、そのベクトルを収束させていくためにも上級人材育成は非常に大事だと改めて感じました。
 
先般、ある大学の大学院生を対象に
「BIM/CIMについて知ろう」というテーマでお話しさせていただきました。
コンサル志望も多く、「今できることは何ですか?」といった質問もいただき、彼ら彼女らが、将来、BIM/CIMをけん引してくれる姿を想像し、楽しみになりました。
 
 
参考資料
国土交通省BIM/CIMポータルサイト
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/spec_cons_new.html
四面会議システム解説
https://www.jcca.or.jp/files/achievement/riim_report/vol_06/002report6.pdf

 
 
 

復建調査設計株式会社 DX推進センター BIM/CIM推進室 室長
亀田 雄二

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-08-28

 

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