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大学教育と一級建築士の認定におけるカリキュラム上の制約

わが国の大学教育では、1年時に教養科目を設置し、学年が上がるごとに専門教育に切り替えていく方式が主流である。
例えば、早稲田大学建築学科の場合、語学や教養、自然科学などの理工系学部の学生が共通して取得すべき科目として、48単位が設置されている。
これは、一般教育科目と専門教育科目などの分類に分けて設置することを求めた旧大学設置基準の名残である。
旧大学設置基準では一般教育科目36単位、外国語科目8単位、保健体育科目4単位を設置することとなっていた。
なお、1991年の大学設置基準の大綱化と呼ばれる規制改革により、現在ではこのような規制は存在しないが、多くの大学で類似の制度を踏襲している。
 
これに加えて、一級建築士の受験時に求められる単位数が明確に定められているため、建築学科においては、こちらの基準も満たす必要がある。
ここでは、建築設計製図、建築計画、建築環境工学、建築設備、構造力学、建築一般構造、建築材料、建築生産、建築法規の9分類に関して、最低限取得すべき単位数が定められている。
この9つの科目分類の下限の単位の合計が30単位となっている。
なお、一級建築士の受験資格に関連する科目に関しては、シラバスの提出が定期的に求められ、審査を受ける必要がある。
筆者は10年ほど前、構法系の科目でパラメトリックモデリングに関する演習を行うためにプログラミングの基礎を含む演習を取り入れたシラバスにした際に、「建築一般構造の科目としてふさわしくない」という指摘を受け、科目分類を変更したことがある。
このように厳格な審査が存在することもあり、この9つの科目分類の下限の単位の合計が30単位部分に関しては、多くの建築学科で共通のカリキュラムとなる。
なおこれら科目の認定においては、手書き製図である必要はないため、CADやBIMソフトウエアを用いての製図教育に関しては規制されていない。
また、実務経験2年で一級建築士の免許登録を行うためには建築系の専門科目の単位取得数が60単位を超える必要がある。
 
大学の建築学科においては、大学教育に求められる教養を涵養するための共通科目と一級建築士の受験資格を取得するための専門教育という2つの条件を満たす必要がある。
そのため、多くの大学において卒業単位に含められる科目の過半は類似したカリキュラムとなることとなる。
 
このような条件下で情報技術の取得を目指す新たな科目を設置することはかなり難しいと筆者は感じている。
そのため、製図科目を始めとした既存の科目に情報技術の演習を組み込むことが必要になる。
 

早稲田大学建築学科における情報技術教育の状況

本学の建築学科においては、図-1に示すように1年生から4年生まで一貫した製図教育を行っており、全学年で必修の設計系科目が存在する。
このうち、1年時の製図系科目を中心に、授業の一部を3次元CADを用いた演習としている。
表-1に3次元CADやBIMソフトウエアを授業で用いる科目を示す。

図-1 製図教育の構成と3次元データの作成
図-1 製図教育の構成と3次元データの作成
表-1 3次元データの作成に関連するソフトウエアの利用状況
表-1 3次元データの作成に関連するソフトウエアの利用状況

 
通常の製図教育や建築学の専門教育がある中で、多くの回数を3次元CAD教育には避けないことから、自主的に勉強できる環境を構築することを重視している。
そこで、筆者は以下の方針で3次元CADなどの情報教育を実施している。
 
(1)できるだけ入学直後に3次元CADなどに触れさせる
(2)学生所有のPCにソフトウエアをインストールさせ、自宅でも自習できるようにする
(3)操作例などのオンデマンド動画を用意し、それぞれのペースで学べるようにする
(4)友人とソフトウエア操作を教え合える環境を用意する
 
この4つの方針を満たすために、1年生が全員受講する製図科目である建築表現Ⅰの2回目の講義において、Rhino7を用いた演習科目を実施している(図-2)。
ここでは、建築学科で購入したRhino7アカデミックライセンスを学生に付与した上で、自分のノートPCへのインストール、Rhino7を使った3次元モデルの演習を行っている。
ここでは、MacやWindowsなどOSが不統一のノートPCとなり、PCスペックも異なるため、インストールにかかる時間に大きく差が出ることとなる。

図-2 学生の自主学習ページの例
図-2 学生の自主学習ページの例

そこで、全ての学生にノートPCを持参させ、MacユーザーとWindowsユーザーで座席を分けた上で、学生に座席を詰めて座らせることで、隣り合う学生同士、話がしやすい状況を作り出している。
また、インストールが早めに終わった学生には、先に演習に進めるようにオンデマンド動画を用意し、Rhino7を使った3次元モデルの作成方法を教室内で自習できるようにした。
 
これにより、入学後、早期に最低限の3次元CAD操作を行えるようにしている。
次頁の図-3は入学後、3週目の授業において提出を求める3次元モデルである。

図-3 1年生の初めの演習で作成する3次元モデル
図-3 1年生の初めの演習で作成する3次元モデル

 
このほか、いくつかの授業で数回、3次元CADを用いる科目を設置している。
また、全学生が3次元CADを用いる課題は、以下の課題も含め、前期1課題、後期1課題の全2課題となっている。
 
 

継続的な利用状況

前述のように1年生の初めにRhino7を中心とした演習を経験した上で、その後の利用は学生の自主性に任せている。
ただ、入学直後に3次元CADに触れさせ、学生のノートPCにソフトウエアをインストールさせることは、情報リテラシーの涵養において良い効果があると感じている。
 
図-4は、ある年度の3年生のRhino7の利用状況である。
フローティングライセンスの契約としたため、建築学科で保有するライセンスの範囲内であれば授業外でも全学生が利用を行える。
また、契約ライセンス数の利用となるため、アクティブ化されたRhino7の数が確認できるようになっている。
2年生以降の科目ではCADソフトウエアを指定して用いる科目は存在しないため、コンピューターを用いた表現も手書きや模型による表現も学生の判断で変更できるようになっている。
そのため、Rhino7を用いた演習科目は特に設定されていないが、自主的に利用している学生が一定数、存在することが確認できる。

図-4 ある年度の3年生のRhino7の利用状況
図-4 ある年度の3年生のRhino7の利用状況

 
学生の進路や関心の範囲によりBIMソフトウエアや3次元CADの重要度が変わるため、建築学科の学生全員がこれらスキルを収める必要は必ずしもない。
一方で、このような情報技術群を習得して社会で活躍することを目指す学生も数多く存在する。
そのため、それぞれの学生が自分のPCでこれらソフトウエアを利用できるような環境を構築するとともに、背中を一押しすることが重要だと感じている。
 
 
 

早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 建築学科 准教授
石田 航星

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集2 建築BIM
建設ITガイド2024


 

最終更新日:2024-09-19

 

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