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NPO法人 建設スクエア北海道 理事 ダットジャパン株式会社
執行役員営業部長 柿崎 保生

 

はじめに

スマートデバイスの普及により、従来のメタデータだけではなく、撮影時にその他の情報を、EXIF(Exchangeable image file format エクスチェンジャブル・イメージ・ファイル・フォーマット)に自ら登録し、写真を高度利用することが可能になってきた。その恩恵を最も利用しようというのが、以前より実証実験が行われてきた工事黒板の電子化である。
 
本稿では、近年急速に進化、発展してきたデジタル工事写真のあらましについて述べていきたい。
 
 

デジタル写真黎明期のPC環境

今でこそ当たり前になっているデジタル写真の閲覧や編集操作が一般に普及し始めたのは、今から20年ほど前になる。それまでの主流だったMSDOSに代表されるCUIの味気ないOSから、MachintoshやWindows3.0、3.1等のGUIを装備したOSへと進化した1990年代から、写真をデータ化しパソコンで処理できるようになってきた。
 
この頃のWindowsOSは、MSDOS上で動作するランチャー的なイメージが強く、ロースペックのCPUに相まって、搭載メモリも少ないこともあり、今でこそ当たり前のマルチタスクも十分に機能せず、万一ソフトウェアがフリーズしてしまった際には、OSそのものをリセットしなければならないなど、不安定で信頼性も低い物であった。
 
当時主役であったNECのPC98シリーズのユーザーは、こぞってODP(オーバードライブプロセッサ=CPUアクセラレータ)に換装したり、CPUのクロックアップを行ったりと、少しでも快適にしようとしたが、実行速度はなんとなく早くなったという程度で、根本的な解決には新しいPCに買い替えるより他になかった。特に搭載可能なメモリの上限がわずかに14.6MBではOS自身を動かすのが精いっぱいで、複数のアプリケーションを動作させるには容量が不足していた。
 
ビジネスで写真データを扱うようになったのは、1995 年に登場したWindows95からといえよう。筆者もその頃からソフトウェア開発会社であるダットジャパン(株)に勤務しているため、その狂想曲は秋葉原等で目の当りにした。発売時にはまるでお祭りのような騒ぎになり、新しい時代を迎えたかのように感じたものだ。
 
PCのシェアも、それまでのNECの独壇場から、IBMによるPC/AT互換機へのシフトが急速に進んだのもこの頃からである。
 
 

写真をデジタルデータにする

デジタルカメラが普及する前は、写真をデジタル化するためには高額なイメージスキャナー(フラットベッド、フィルムスキャナー等)で読み取るより方法がなかった。それらの機材を持っていない人は、フィルムメーカー各社がサービスを開始した「フォトCD」を利用するのが唯一の手段であった。フォトCDとは、米国コダック社等が策定した写真をデジタル化するシステムで、ネガフィルムをサービス店に持ち込み、データ化したいコマを指定し、別売りのCD-RにPCDフォーマットで焼き付けてもらうというものだ。コダック以外にも富士フイルム、コニカ(現在のコニカミノルタ)などでもサービスが行われた。
 
さっそく、工事写真をこのフォトCD にし、工事アルバム作成をパソコンで行えるようにする試みを行ったが、1枚のフォトCDに100 枚の写真しか保存することができない他、設備投資にも莫大な費用がかかることから、この時点では実験の域を出ることはなかった。なぜなら写真クオリティの出せる安価なプリンターがまだ世の中に存在しなかったためだ。
 
 

写真画質のインクジェットプリンター登場

写真をデジタルデータにすることはできたが、最終的には写真(アルバム)を出力しなければならない。きれいな印刷を行うには、高額な昇華型プリンターを利用するよりなかった。価格が高いのは本体だけではなく、インクリボンも大変に高価なもので、さすがにこのランニングコストに耐えられるわけがなかった。
 
最終的な写真帳(アルバム)の印刷、作成が目的だったため、事業化を断念することも頭をよぎったが、1996 年秋になって救世主が現れることとなった。EPSONから「PM-700C」が、初めて写真品質の印刷できるプリンターとして登場したのだ。画期的であり、大変に安価だったこともあって爆発的に売れることになったが、恐らくは建設業界でも相当の台数が使われたであろう。この機種の登場により、工事写真をパソコンで編集し印刷をするという一連の流れがほぼ確立したと見て良いだろう。
 
 

進歩を遂げるデジタルスチルカメラ

この1995年から1996年かけては、とてもエポックメイキングな年になった。
 
Windows95の発売とPM-700Cの発売が重要な要素になることは先に述べたが、残るデバイスであるデジタルカメラにも大きな動きが出た年である。1995年から低画素数ながら低価格なものが登場することとなった。例えば、カシオ計算機、リコー、コダック、キヤノン、ニコン、ミノルタ等から続々と発売され、100万画素以上のデジカメも価格は高いもののハイエンド用として発売が始まっている。低画素数のデジタルカメラはサービス版程度の印刷であっても、銀塩写真よりは若干見劣りがしたものの、十分に将来の可能性を見出せるものであった。これにより、デジタルカメラで撮影した写真をパソコンに取り込み、帳票を作成し印刷をするという現在に至る業務体系の基礎ができたことになる。ただし、実運用可能かといえば実際には困難であった。例えば、写真を10 枚程撮ると電池が切れてしまい、替えの電池を常時持ち歩かなければならなかったり、フラッシュが付いていなかったり、今では当たり前の液晶画面がないもの等、本格的に使えるようになるには、もう2年待たなければならなかった。
 
なお、1996 年には、建設省(当時)のCALS/ECアクションプログラムが策定され、電子データの利活用がうたわれるようになっている。これを踏まえて、各地方建設局(当時)で、デジタル写真の利活用も含めての実証実験等が行われるようになった。ちなみに、最初のデジタル写真管理情報基準(案)が策定されたのは、今から16年前の1999年(平成11年)8月である。
 

建設現場向けデジタルカメラの例




 
 

保存先としての記録メディア

初期のデジタルカメラは外部メディアがなく、内臓メモリに写真データを保存するだけであったが、その後複数の媒体規格が開発され利用されるようになった。中でも、スマートメディア(SmartMedia)は、多くのカメラメーカーで採用され、デファクトになると思われたが、その後に登場したSDメモリーカード(SDMemory Card)にその地位を完全に奪われ、現在では市場に存在しない。その他、コンパクトフラッシュやメモリースティック等も発売されたが、互換性のなさが嫌われ、いずれも市場からの撤退を余儀なくされている。変わり種としては、FD(FlopyDisk)に写真を保存するデジタルカメラ(SONYマビカ)も発売されたことがあるが、ディスク1枚に対し、写真が4枚しか保存できない他、巨大な筐体が必要だったこと等により、さすがに実用的とはいえず、すぐに後継製品へバトンタッチする形で消えている。
 
デファクトスタンダードになったSDメモリーカードは、その後miniSDやmicroSDなどの小型化したものや、大容量化、WriteOnceメモリーカード(改ざん防止機能付き)等の派生型が多数登場し、デジタルカメラ以外にも携帯電話等の外部ストレージとして幅広く利用されているのは周知の通りである。
 
 

飛躍的に進歩した解像度

データの保存先として、外部メディアを必要とする理由として、デジタルカメラの有効画素数が飛躍的に大きくなったことが上げられる。1995 年当時にわずか20万画素だったものが、2015 年では最大で5000 万画素を超えているものがあり、実に250 倍にもなっている。
 
なお、デジタルカメラの解像度は近年頭打ちになりつつあり、行きつくところに行きついたと認識する人もいるようだ。
 
もっとも5000 万画素では、写真1 枚で約10MBになり、RAWでは57MBにもなるため、工事写真用としては間違いなくオーバースペックとなる。建設省(現国土交通省)では、工事写真は100 万画素以上であれば良いとしているので、いたずらに大きなサイズで撮影をしてしまうと、電子納品時等に大変困ることになる。そのため、工事専用のデジタルカメラはリコー、オリンパスともにCALSモードが備わっており、あらかじめ設定をしておくことにより扱いやすい最適な写真サイズにて保存されるので大変便利である。
 
 

動く写真

昨年発売されたiPhone6Sでは、「LivePhoto」という機能が搭載されている。これは、撮影の1.5 秒前から撮影後の1.5秒の計3秒間の動画ファイルを同時に保存することにより実現しているもので、厳密にいえば写真が動くわけのではなく、写真(Jpegファイル)と動画(MOVファイル)の切り替えがiPhone6S上でシームレスに行われるというものだ。
 
非常に面白い機能だが、当然のことながらデータの容量が極めて大きくなるため、ストレージ容量の少ない機種の場合には、まめにiCloud等へデータを退避する必要がある。また3秒の動画をWindowsPCで再生することは可能だが、動画ファイルとして扱うには短すぎである。やはりiPhone6S上での写真をより楽しく閲覧するためのものとして考えるのが妥当だろう。また、解像度が高すぎるため、1枚当たりの写真の容量は約2.5MBにもなり、電子納品データとして利用するにはいささか大きすぎる。提出用メディアへの焼き付けに苦労することになるので注意が必要だ。
 
 

自動仕分けと電子黒板

昨今、写真管理業務の効率化を目的として、撮影時にExifファイルへ工事関係の情報を埋め込むことにより、仕分け整理の自動化を図る試みが進んでいる。リコーの業務用デジタルカメラが一早く実装していたもので、筆者の所属するダットジャパン(株)でも、その対応を行ってきた。デジタルカメラに直接情報を入力するのは非常に困難であることと、撮影メモ情報を事前に用意する手間がかかることから、その普及が限定的になっていたことは否めないが、あらかじめ撮影する部位や項目が明確な業務においては大変に喜ばれている。
 
また、スマートフォンアプリでも同等かそれ以上のことが可能となってきている。
 

スマートフォンによる状況写真撮影シーン


 
 

スマートフォンで撮影したトンネル内の写真




 
特に、電子小黒板機能付きの撮影アプリの場合には、黒板の記述そのものが仕分け情報になるため、事後の仕分け整理だけではなく、撮影そのものも楽になる等のメリットがある。連動する写真管理ソフトが別途必要とはなるが、スマートデバイス用のアプリには無料のものもあり、テスト利用ができるのであれば一度は試してみる価値はあるだろう。
 
なお、自動仕分け整理については、近い将来には電子納品を目的とした写真整理そのものが不要となる可能性がわずかながらある。撮影後に写真を直接サーバ(情報共有サーバ等)へアップロードすれば、それ自体が納品するのと同義になるためだ。業務効率からみる限りは良い方法と思えるが、一方で撮影した写真は一度大きな画面で確認し、最も良い写真を選別し納品したいという声もあるため、一足飛びにそこまで行くかどうかは今後の業界内アンケート等の結果次第だろう。
 

写真管理ソフトによる自動仕分け整理の例




 
 

自動振り分け整理時の確認メッセージ例




 
 
いずれにしろ、電子黒板の利用についてはさまざまなベンダーから提案があるはずだ。その中から自社に合ったものをチョイスすることになるだろう。なお、電子黒板付アプリにも、写真のサイズをCALSモード(100 万画素相当)に設定できる機能が当然必要となるので確認が必要だ。
 

電子黒板付カメラアプリ(現場DEカメラ無償版)の撮影画面




 
 

複眼カメラ(ステレオカメラ)の活用

昨年度より、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施している「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」において、複眼カメラによるロボット橋梁点検システムが開発されている。これは、ステレオ画像から距離の計測や損傷部の抽出を行うことができるもので、実現すれば橋梁の点検業務が大幅に省力化されるメリットがある。ただ、今日現在でまだステレオカメラは発売されていないので、2台のカメラを組み合わせる等の対処が必要となっている。今後、一つの筐体に収まった複眼カメラが発売されれば、各種点検業務において有効利用ができるものと思われる。また、座標情報等を持たせることにより、3次元モデルデータへのテクスチャマッピング等も実現可能であろう。最終的にはこれらの写真はBIM/CIMと結びつき、写真に埋め込まれた属性情報の利活用ができるようになると考えられる。
 
 

おわりに

ここまで、大まかな分類ごとに工事写真関わる概略をまとめてきた。時系列にしてみると、各種のルールは技術の進歩と概ね歩調が合っていることがあらためて見えてくる。電子黒板についても同様の流れで来ているため、工事写真をスマホやタブレットPC等で撮影する時代がすぐにやってくるだろう。
 
これからもさまざまな先進的な取り組みが行われていくと思うが、最も重要なことは、手段と目的を取り違えないことではないだろうか。電子納品、情報化施工、CIM等、いずれも建設ICT(Information and CommunicationTechnology)の利用により、施工の効率化、高度化、生産性の向上に寄与する取り組みだとされているが、現実的には強者と弱者の振り分けツールであり、規模の小さな業者にとってはただの負担でしかない場合が多いようだ。一部からは、その負担の原因は次々とシステムを開発し提供しようとしているソフトウェアベンダー側の策略にあるとの恨みの声も聞こえてくる。
 
従ってこれら一連の新しい取り組みの目的が、施工業者にとっても大きなメリットがあるということをはっきりと示せるよう、施政者は施工業者側の目線に立って考えていく必要があるだろう。
 
私はソフトウェアの開発側の人間ではあるが、これからも常にユーザー目線で考え、利用者に喜んでもらえる便利なツールを提供していきたいと考えている。
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集3「建設ITの最新動向」
建設ITガイド 2016
 
 

 

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