i-Construction 2.0、インフラ分野のDXの経緯
国土交通省では、2016年4月にi-Construction委員会(委員長:小宮山宏 株式会社三菱総合研究所理事長)から「i-Construction ~建設現場の生産性革命~」を提言いただき、建設現場の生産性向上の取り組みとして、ICT建設機械や無人航空機(UAV)等を活用したICT施工、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用など、i-Constructionを進めてきました。
2020年からは、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」(本部長:国土交通省技監)を設置し、i-Constructionの目的である建設現場の生産性向上に加え、インフラ関連の情報提供やサービスを含めて、デジタル技術を活用し働き方を変革するインフラ分野のDXを推進、業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方の変革を目的として取り組みを進めてきました。
2022年3月には国土交通省の取り組みを「インフラ分野のDXアクションプラン」として取りまとめて公表し、2023年8月に第2版(以下、インフラDXアクションプラン2)を公表しました。
インフラDXアクションプラン2においては、目指す姿として、建設現場を含めた20~30年後の将来の社会イメージを示すとともに、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」という3つの観点で分野網羅的、組織横断的に取り組みを進めることとしています(図-1)。
「インフラの作り方の変革」ともいえるi-Constructionに着手して以降、社会資本整備を巡る状況は大きく変化してきています。
生産年齢人口の減少や高齢化により、特に地方都市において暮らしを支える各種サービス提供機能の低下・損失が懸念される中、気候変動の影響による自然災害の激甚化・頻発化、高度成長期以降に集中的に建設されたインフラの老朽化が進行しています。
一方で、AI、5G、クラウド等に至る革新的なデジタル技術の開発・社会実装も進んでおり、国土交通省においても、i-Constructionの取り組み以降、3次元データやICT建設機械などのデジタル技術の活用が一般化しつつあります。
2023年度からは、直轄土木業務・工事において、建設事業で取り扱う情報をデジタル化し、建設生産プロセス全体の効率化を図るBIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling、 Management )に取り組むことを原則化するなど、データやデジタル技術を活用し、業務のあり方を変革していく体制は整ってきています。
このため、i-Constructionの取り組みを加速し抜本的な省人化対策を進める時と捉え、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」を3本の柱とし、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現を目指し建設現場のオートメーション化に、2024年4月より、i-Construction 2.0として取り組むこととしました。
i-Construction 2.0の取り組みは、インフラDXアクションプラン2で定めた建設現場の将来の社会イメージに向けた取り組みともいえます。
本稿ではインフラ分野のDXにおける取り組みの方向性を説明した後に、「インフラの使い方の変革」として、 i-Construction 2.0の取り組みや、「データの活かし方の変革」として、国土交通データプラットフォームの取り組みについて説明します。
インフラ分野のDXの方向性
インフラ分野のDXの方向性として、インフラに関わるあらゆる分野で網羅的に変革する、「分野網羅的な取り組み」という視点を掲げています。
分野網羅的な取り組みを進めるに当たり、①インフラの作り方、②インフラの使い方、③データの活かし方という3分野に分類し、DX(変革)を進めることとしています(図-2)。
①「インフラの作り方の変革」は、インフラの建設生産プロセスを変革する取り組みが対象となります。
データとデジタル技術を活用し、建設生産、管理プロセスをより良いものにしていく取り組みです。
i-Construction 2.0の取り組みも、この中に含まれています。
②「インフラの使い方の変革」では、インフラの「運用」と「保全」の観点が対象となります。
「運用」では、インフラ利用申請のオンライン化や書類の簡素化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出すことなどが挙げられます。
「保全」では、最先端の技術等を駆使した、効率的・効果的な維持管理などが挙げられます。
これらの取り組みを通じて、賢く(Smart )かつ安全(Safe)で、持続可能(Sustainable)なインフラ管理の実現(3S)を目指します。
③「データの活かし方の変革」は、上記2つはフィジカル空間を対象としている一方で、「データの活かし方の変革」はサイバー空間を対象とした変革です。
インフラまわりのデータを活かすことにより、仕事の進め方、民間投資、技術開発が促進される社会の実現を目指します。
具体的には、 IoTデバイス等の機器の普及により、フィジカル空間で取得したデータを大量にサイバー空間に移すことが可能となりました。
これらのデータをサイバー空間において予測や検証を行い、フィジカル空間にフィードバックすることで新たな価値を創出するという考え方です。
取り組みの一つとして、国土交通省では、国土交通データプラットフォームをハブに国土に関するデータの収集・蓄積・連携を進め、そのユースケースの創出を進めています。
i -Construction 2.0が目指す目標と取り組み
Construction 2.0では、デジタル技術を最大限活用し、建設現場のあらゆる生産プロセスのオートメーション化に取り組み、今よりも少ない人数で、安全に、できる限り屋内など快適な環境で働く生産性の高い建設現場を実現することを目指しています。
具体的には2040年度までに、建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍以上に向上することを目指します。
省人化3割とは、2040年度には生産年齢人口が約2割減少するという予測がある中で、災害の激甚化・頻発化、インフラ老朽化への対応増などを考慮し、設定したものです(図-3、4)。
抜本的な省人化対策に取り組むためには、一人で複数台の機械を操作することや、設計・施工の自動化、海上工事における作業船の自動施工など、これまで人が手作業で実施している内容をAIやシステムを活用して自動化し、人はマネジメント業務に特化していくよう変革していく必要があります。
併せて、抜本的な変革が実現するまでの対応として、近年社会全体で進展しているDXの取り組みや、BIM/CIM原則化によるデジタルデータの活用、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として急速に進んだリモート技術など、業務の効率化・省人化につながる取り組みを加速していく必要があります。
さらに、省人化対策の推進に当たっては、気候変動に伴い激甚化・頻発化する災害への対応や積雪寒冷環境下のような厳しい現場条件、地域特性も考慮する必要があります。
このため、国土交通省ではこれまで進めてきたi-Constructionの取り組みを深化し、さらなる抜本的な建設現場の省人化対策を「i-Construction 2.0」として、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」に取り組むことで、建設現場のオートメーション化の実現を目指していくこととしています。
これらの省人化・生産性向上を通して、建設産業に携わる方々の賃金水準の大幅な向上も期待しています。
なお、i-Construction 2.0やインフラ分野のDXを進めていくためには、多様な人材に建設産業に関心を持ってもらうことが重要です。
横軸にインフラまわりの関係者、縦軸に整備や管理の高度化、さらにはインフラ利活用という観点を加えて、次のようなイメージで関係を整理しています(図-5)。
i-Construction 2.0-3本の柱-
(1) 施工のオートメーション化
現在、建設現場では経験豊富な技術者の指揮の下、施工計画を作成し、工事工程を定めた上で、指示を受けたオペレータが建設機械に搭乗し操作を行っています。
今後、一人当たりの生産能力を向上するため、各種センサーにより現場の情報を取得し、AIなどを活用して自動的に作成された施工計画に基づき、一人のオペレーターが複数の建設機械の動作を管理する「施工のオートメーション化」を推進します。
「施工のオートメーション化」に当たっては、自動施工の標準的な安全ルールなどの環境整備や異なるメーカー間の建設機械を制御可能な共通制御信号の策定、人の立ち入らない現場において安全かつ効率的な作業を可能にする遠隔建設機械の普及促進等を実施します。
また、さまざまなシステムが活用されている建設現場において、異なる建設機械メーカーであってもリアルタイムの施工データを円滑に取得・共有することで、建設現場のデジタル化・見える化を進め、建設機械の最適配置を瞬時に判断し、効率的な施工を実現します。
さらに、海上工事における作業船の操作の自動化を実現します。
「施工のオートメーション化」により、建設現場の省人化に加え、生産年齢人口減少下においても必要な施工能力を確保していきます。
(2) データ連携のオートメーション化
(デジタル化・ペーパーレス化)
調査・測量、設計、施工、維持管理といった建設生産プロセス全体をデジタル化、3次元化し、必要な情報を必要な時に加工できる形式で容易に取得できる環境を構築するBIM/CIMなどにより「データ連携のオートメーション化」を推進します。
これにより同じデータを繰り返し手入力することをなくし、不要な調査や問い合わせ、復元作業を削減するとともに、資料を探す手間や待ち時間の削減を進めます。
建設生産プロセスにおいて作成・取得するデータは多量にある一方、現時点ではデータを十分に活用できていないことから、各段階で必要な情報を整理した上で、関係者間で容易に共有できるよう、情報共有基盤を構築し、円滑なデータ連携を進めます。
データの活用に当たっては、設計データを施工データとして直接活用することや、デジタルツインの構築による施工計画の効率化など、現場作業に関わる部分の効率化に加え、BIツール等の活用により、紙での書類は作成せず、データを可視化し、分析や判断ができるよう真の意味でのペーパーレス化(ASP(情報共有システム)の拡充といった現場データの活用による書類削減)などバックオフィスの効率化の両面から進めていきます。
(3) 施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)
建設現場全体のオートメーション化を進めるためには、施工の自動化やBIM/CIM等によるデジタルデータの活用に加え、部材製作、運搬、設置や監督・検査等あらゆる場面で有用な新技術も積極的に活用しながら「施工管理のオートメーション化」を推進します。
これまで立会い、段階確認等の確認行為において活用していた遠隔臨場を検査にも適用するとともに、コンクリート構造物の配筋の出来形確認においては、デジタルカメラで撮影した画像解析による計測技術も適用します。
また、小型構造物や中型構造物を中心に活用していたプレキャスト製品について、大型構造物についてもVFM(Value for Money)の評価手法の確立等を進めながら導入を推進することにより、リモート化・オフサイト化を進めます。
おわりに
人口減少社会やインフラの老朽化が進む中、社会水準を維持・向上させていくためには、より多くの付加価値を生み出していくことが必要です。
この鍵となるのがデジタル技術(D:Digital)と、日常生活や経済活動の基盤となるインフラを守り、改善し、より良くしていこう、という変革(X:Transformation)であり、この変革には、業務のあり方や働き方も含まれています。
将来に当たって建設業は欠くことのできない業界であり、インフラ分野のDXをとおして多様な人材にとって魅力あるものにしてまいりたいと考えています。
【参考】
本稿の詳細については、国土交通省ホームページなどを参照いただければ幸いです。
1)国土交通省報道発表
「i-Construction2.0」を策定しました~建設現場のオートメーション化による生産性向上
(省人化)~
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html
2)国土交通省ホームページインフラ分野のDX
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
【出典】
建設ITガイド2025

最終更新日:2025-06-09