はじめに
生産年齢人口の減少、災害の激甚化・頻発化、社会資本の老朽化という社会的背景を受け、生産性向上の取り組みをこれまで以上に加速することが必要となってきました。
そこで国土交通省は今後2040年度までに少なくとも省人化3割、すなわち1.5倍の生産性向上を目指す新たな取り組みを「i-Construction2.0」としてとりまとめ、省人化、持続的なインフラ整備、建設施工プロセスの自動化などを推進していくことを決定しました。
その取り組みにおいてBIM/CIMは必要不可欠な技術であり、今後も引き続き活用方法について検討いたします。
近畿地方整備局ではインフラDXをさらに推進していくため、2024年3月に個別施策の目指す姿、工程などを「近畿インフラDXアクションプログラム」(図-1)としてとりまとめました。
本稿では、アクションプログラムに策定した近畿地方整備局におけるBIM/CIMの取り組みについて紹介します。
BIM/CIMの取り組み
これまでは、紙図面や手作業により事業(調査・設計・測量、施工、維持・管理)を実施してきましたが、BIM/CIM(3次元モデル活用、DS(Data-Sharing )の実施)を活用することで、建設生産システムの効率化・高度化を図る取り組みを実施しています(図-2)。
BIM/CIM原則適用
2023年度より全ての詳細設計、工事でBIM/CIM原則適用となり、業務・工事で 3次元モデルの活用を推進しています。
3次元モデルについては、発注者が活用目的を明確にし、受注者がモデルを作成することで、業務・工事での活用を推進します。
BIM/CIMを有効に活用するためには、各段階での検討事項などをしっかりと次の工程に共有していくことが重要です。
「電子納品保管管理システム」を活用して受注者が希望する参考資料を発注者が速やかに貸与、DXデータセンターを活用して有償ソフトウエアを安価に利用できる仕組みの提供、事業全体にまたがる情報を地図上で検索・表示できるプロジェクト監理ツール(図-3)の試行運用(浪速国道:淀川左岸延伸部)、これらDSを実施することにより、将来の本格的なデータマネジメント実現に向けた第一歩として、発注者が受注者に確実に前段階のデータを共有できるよう取り組んでいます。
3次元データの活用
設計段階で構築された3次元モデルを活用し、ICT土工の工事発注時の効果的な活用手法を検討しています。
具体的には3次元モデルにリンクした2次元図面の抽出、工区分割後の概算数量の自動算定、さらには工事積算データへの変換などを検討しておりBIM/CIMモデル活用が進むことで、発注者としての工事発注の効率化、円滑化が期待できます。
近畿地方整備局のi-Constructionモデル事務所である豊岡河川国道事務所においては、台帳附図の代わりとなる3次元モデル(通称:豊岡モデル)の検討を行っています。
豊岡モデルは、将来の維持管理およびデータ一元管理を目的としています。
一般的な3次元モデルはデータ容量が大きく、高性能なPCなどの環境が必要だという課題がありますが、豊岡モデル(図-4)では現場で使いやすい3次元の線で構成される軽量な3次元モデル(Dラインデータ※)で作成しています。
またモデルを統合プラットフォームとして活用するために、点群・3Dラインデータと維持管理に必要な情報を納めたフォルダーを一元管理することで、3Dラインデータのモデル(橋梁など)をクリックすると、ひも付けられたフォルダーが立ち上がり、効率的に維持管理データを取得できるようモデル検討を進めています。
※3Dラインデータ:点群データのうち、橋梁・擁壁・法面などの道路施設を3次元の線データで表現し、データ容量を小さくしたもの
人材育成
近畿地方整備局では2020年に「近畿地方整備局インフラDX推進本部会議」を設置し、インフラ分野のDXの推進に取り組んでいます。
その中でインフラ分野のDXに関する人材育成として人材育成支援部会を設置し、ICT活用、無人化施工などと合わせてBIM/CIMに関する各種研修などを開催し人材育成に努めています。
BIM/CIM研修
BIM/CIMによる建設現場の生産性向上について理解を深めるとともに、3次元モデルの基本操作、業務および工事での活用に関する知識を習得することを目的として2022年度から整備局職員、地方自治体職員を対象として実施し、3年間で209名が研修を受講しています。
研修は近畿インフラDX推進センターに設置している高性能PCを用いて3次元モデルを操作し、実際に監督・検査・納品などの各場面での3次元モデルの活用方法を実習形式で習得しました。
BIM/CIM施工研修
BIM/CIMは、調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の工事施工、維持管理の各段階においてもデータを引き継ぎ、さらに各段階での情報を付加し、後工程で活用することで建設分野の生産性向上を目指すものですが、現状として各段階での活用にとどまっており、次工程への引き継ぎが十分に行われていません。
近畿地方整備局では2022年度の試行を皮切りに、建設分野でBIM/CIMを取り扱う施工者、設計者、発注者を対象とした設計から施工へのデータ受け渡しに着眼した人材育成のための「BIM/CIM施工研修」を実施しています。
研修では設計段階で作成した設計成果(BIM/CIMモデル)をICT施工に活用するため、3次元モデルの編集方法を習得するとともに、設計者、施工者、発注者など各立場でのBIM/CIMの展望や課題について議論を行い認識の共有に取り組んでいます。
2024年度においては95名が研修を受講しました。
研修に参加した地域建設業の技術者からは、「設計データ作成の内製化によって生産性向上が期待できる」「発注者から提供された3DモデルがICT施工に活用できることが分かった」など好評を得ています。
おわりに
近畿地方整備局においては、今回紹介した取り組み以外にも、管内各事業におけるBIM/CIM活用推進、関連基準改定に向けた検討、3次元データ・デジタル技術を活用できる人材育成などに取り組んでいます。
今後もBIM/CIM活用に向けた取り組みを推進し、事業の各段階に3次元モデルを導入していくことで、建設生産システム一連における効率化・高度化を図り、品質確保とともに受発注者双方の生産性向上を実現していきます。
【出典】
建設ITガイド2025

最終更新日:2025-06-30
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