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松村組のBIM推進を担う大阪支店に取材

株式会社松村組は、1894年の創業から130年の歴史を刻む建設会社。
パナソニック株式会社、トヨタ自動車株式会社、三井物産株式会社の出資で設立されたプライム ライフ テクノロジーズ株式会社のグループ企業の建設会社として、「これまでにないまちづくり」を担う。
 
今回取材したのは、同社大阪本店。
同社のBIM推進の中核となって活動する建築部BIM推進課の3名(小松 哲幸・大阪本店建築部建築課担当課長兼BIM推進課担当課長、東田 雅夫・同見積課担当課長兼BIM推進課、中西 裕輝子・建築部BIM推進課)に、これまでの経緯と課題について伺った。
 
 

時代の流れを捉えたBIM推進課の創設

同社では2017年に大阪本店建築部建築課および設計課にてBIM導入を開始。
当初はパースの作成や仮設計画などにArchicadを使用していた。
 
BIM推進課の創設は2022(令和4)年、国土交通省が直轄の業務・工事でのBIM/CIMの原則適用を開始する前年で、BIM推進の流れが業界全体でますます高まっていた。
そうした流れに乗るため、BIMの本格活用を進めるべく設置された。
現在、大阪本店が専属2名と兼務による7名体制。
東京本店も専属と兼務を合わせて7名、これとは別に建築本部に3名が在籍する。
兼務でBIMに携わる人員がいることで、各部署でのBIM活用に波及することも考えられている。
大阪本店は、本店内での浸透はもちろん、建築課と連携することで特に現場でのBIM活用に重点を置いて活動中だ。

松村組におけるBIM推進体制の変遷
松村組におけるBIM推進体制の変遷

 
 

現場に直結したテーマでBIM講習会を実施

BIM推進課の主な役割は、現場でのBIM活用の推進と、業務サポートによる現場作業の省力化や現場監督の負担軽減である。
 
現場でのBIM活用を進めるには、まずその操作を知ってもらう必要がある。
そのためにスタートしたのが講習会だ。
その内容は、「Archicad」の基本操作に始まり、仮設計画をはじめ現場寄りのテーマを掲げる。
小松課長は「受講のみを目的に強制する のではなく、例えば現場で掘削が始まる前に掘削工事計画図の描き方を学ぶとか、コンクリート打設前にBIMでコンクリートの数量を拾ってみるなど、実際の現場の工程に合わせて実施し実効性を高めるのを狙いとしています。やはり必要に迫られないと覚えないですからね。まずは基本操作の5プログラムの受講を目標に、具体的な現場を想定して講習テーマを設定しています」と語る。
 
中西氏は「Archicad」の活用が進まなかった時期に、「Archicad」経験者として途中入社した。
実は現場管理の経験はないのだが、他業務を行いながら現在は講師も務める。
 
「最初は、初心者のための入門書『Archicad Magic』を使って行っていたのですが、現場で使われる操作に結び付きにくいため単なる勉強会のようになって、関心の高まりを感じられませんでした。
そこで課内で相談し現場寄りの方針に変更しました。
 
例えば『smartCON Planner』を使って『こんな足場が置けて、立面・断面も見られる』と提示し、次に実際に操作してもらうことで興味を持ってもらい、さらには今動いている現場で実際に使ってもらうことで、より実務的なスキルに磨きをかけてもらう3ステップをイメージして行っています。
そのため練習用のモデルではなく、現場に即したモデルで行うのが必須になります」
 
講習会の効果は、入社4~5年の若手社員を中心に徐々に表れている。
現場でBIMを活用し、それで得た成果や疑問を先輩社員にぶつけてみる動きも見られるようになった。
講習を受けた社員から、中西氏に質問が寄せられるケースも多く、確かな反響を感じている。
 
「やはり『1回、講習が終わってノルマ完了』のように思われては困りますし、逆に週1回の講習会で操作を自分のものにするのは困難です。
従って講習後に訪れる実作業を逃さず『すぐに現場で使って覚えて、分からない点はどんどん聞いてください』と伝えています。
 
現場作業と講習テーマを合致させながら行うので、定期的に開催できない課題があるが、確かな手応えも感じている。
小松課長は「講習会開始当初は、『忙しいから、できない』という声もありましたし、現場所長 が『どんどん使って覚えろ』と言ってくれる現場と、そうでない現場との差が生じていました。
でも現在は、現場所長もBIMの存在は認識しているので、現場間の格差もなくなりつつあります。
最近は『色決めしたいから、パースを作って』など、現場からの依頼も多くなっていて、当初と比べれば着実に理解は進んできていますね」と語る。
これを受けて中西氏は「『Archicad』の講習も、若手社員にはしっかりと操作方法を身に付けてほしいのですが、中堅以上のキャリアの社員は基本操作や全体の仕組みを理解してもらった上で部下に指示したり、課の方にBIMモデルを依頼したりできるようになるなど、階層別に講習内容を変えてもいいと思っています」と構想を語る。
 
現場へのBIM理解の推進には、まだまだ試行錯誤が続くが、現場からの反応が浸透度を実感させてくれている。

BIM講習会の変遷
BIM講習会の変遷
BIM講習会の様子
BIM講習会の様子
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(掘削)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)
BIM講習会で使用したモデル(鉄骨建方)

 
 

AI StructureとBI Structureの連携

一方、現場の業務サポートには課題もある。
 
「3Dモデルを現場に提供するスピードがなかなか間に合わないのが実情です。
施工の案件では、BIMモデルを提供するのが理想なのですが、専属が2名という状況の中で、なかなか思うようにできていません」と小松課長は語る。
 
そこでスピードアップという課題の解決に向けて期待を寄せるのが、株式会社U‘s Factoryの「AI Structure」と「BI Structure」だ。
実際に業務で使用する中西氏は、その利便性を次のように語る。
 
「構造3Dモデル(RC・S・SRC)を作成する専用ツールである『BI Structure』を使っていたのですが、まず部材を定義するために部材リストの鉄筋径・本数などを手打ちで行う作業をしなければならず、かなりストレスを感じていました。
『AI Structure 』を使えるようになってからは、PDFの図面データの配筋リストなどを、AIが自動的に読み取ってくれるので、手作業の時間が約3分の1以下に削減されました。
そのまま『BI Structure 』で統合して鉄筋モデルを作成できるので、現在は仮に見積り案件であっても最初から『AI Structure 』で情報を読み取って簡単に『Archicad 』に変換して提出することが多いです。
受注できればそれ以降もスムーズに進行できます。
 
U’s Factoryのプレゼンテーション時に『簡単に使いこなせます』と言われていて、『それなら活用しなければ』と思ったのですが、神経を使っていた図面を読み込む作業も減って実際その通りだなと思います」前述の通り、建築現場経験のない中西 氏であるが、操作を覚えるだけで3Dモデルが作成できる「AI Structure」のメリットを十分に感じている。
 
それだけでなく、「AI Structure」と「BI Structure」「BI for ac」の連携が業務になくてはならない利便性を生んでいる背景には明らかな差別化があるからだ。
小松課長は他ソフトとの違いを次のように語る。
「いま分かっている範囲では、鉄筋の仕様や本数が自動で正確に出せるのは『BI for ac』だけです。
同種の他社ソフトでは結局、部材リストを見ながら梁1本1本を入力し、定着も自動で出ないので、自分で計算する必要があるなど手間もかかりますね。
また、一度『BI for ac』でBIMモデルを作成すればライセンスをたくさん持たなくても「Archicad」によって共有できるので、その点でも活用しやすいです」

AI StructureとBI Structureの連携 「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
AI StructureとBI Structureの連携
「AI」が図面内容を読み取り自動で部材定義作業を行ってくれるため、手作業の時間が半分以下に短縮
BI for acとの連携 AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる
BI for acとの連携
AI Structureが自動作成したデータはBIにインポートされ、
さらにBI for acで鉄筋を自動発生させることができる

 
 

「BI for ac」も現場サポートで活用

BIM推進課創設時には、設計から見積り、施工までBIMによる一気通貫が話題に上がっていたと言うが、現在は目標を一つひとつ設定しながら進んでいる状況だ。
見積り作業には、今のところ「BI for ac」を使用するに至っていない。
東田課長に、その理由を伺った。
 
「『BI for ac』はどちらかと言えば、現場の施工寄りのソフトで、施工用の実施数量が正確に出てくるのですが、見積り用に使用する以上に細部まで計算し過ぎてしまっているため、再度見直す必要も生じてしまうのです。
ただし、部材の発注時など現場での見積りには有効であろうと考えています」小松課長は、見積り業務の仮設計画に関連して「仮設の配置は『smartCON Planner』が、課内ではこのほか「BI for ac」も活用しています」と述べた。
中西氏に現場サポートでの活用状況について聞いた。
 
「現在使用しているソフトではライセンスがないと3Dモデルが見られなかったのですが、『BI for ac』は『Archicad』で3Dモデルを出せば現場に送って共有できる点が便利です。
ライセンスは現在、一つしかないので操作は課内でしかできませんが、操作性の面でも『Archicad』で一からモデリングするよりはスムーズなのでスピードアップにもつながります。
ただ、本来は現場で配筋検討ができる施工図が望ましいのですが、現在は図面を3D化して現場に渡している段階ですね。
まずはできる範囲で、構造図ベースのモデルを全現場に提供するという目標を立てています」。
これに対し小松課長は「3D化することで干渉している箇所がチェックできるので手戻りも減ります」と現段階での効果を語った。
 
 

着実な成果を踏まえてさらなるBIM活用へ

「BI for ac」をはじめとするBIMソフトに対する要望も聞いた。
最も使用する立場にある中西氏は、次のような体験を語る。
 
「現場からの掘削図の依頼に、どう出せばいいのか分からず自動発生させた寸法で作図して送ったところ寸法を全てチェックされて返ってきました。
依頼者に確認すると『その寸法は必要なかったのです。そのために私が図面を修正しました』と言われてしまったことがあります。
私の建築知識の不足もありますが、仕様をカスタマイズできる機能があればと思いました」
東田課長も「現在、非常に多くの機能が搭載されているのですが、例えば簡単なモデリングで足りる人もいれば、詳細なモデルが欲しい人もいる。
何が欲しいかユーザー側のニーズやレベルが違うので、不要な機能を排除したシンプルなメニューがあるといいですね」と、やはり使う側の選択肢が増えることを希望した。
 
発足からの2年間でさまざまな試みを行い、BIM推進課の活動が大阪本店のBIM活用を徐々に広げている。
小松課長に次の目標について聞いた。
 
「効率化を見据えながら、これまで進めてきた成果を伸ばしていくことはもちろん、全現場でのBIMデータ活用による現場効率化を目指します」
松村組大阪本店のBIM活用は着実に進化していく。

 
 
【出典】


建設ITガイド2025
建設ITガイド2025

最終更新日:2025-06-18

 

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