ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > (一社)日本石綿対策技術協会の活動について

はじめに

2023年6月30日に石綿工事の施工管理技術者のスキルアップと将来的な資格制度の立ち上げを目指して一般社団法人日本石綿対策技術協会を設立した。
 
協会設立後、建物調査や建材分析については資格者による対応が義務化される中、石綿対策工事の施工管理者については日本国内ではまだ専門の資格制度が確立されていない。
 
建物の改修や建て替えに伴う解体工事、災害復興での公費解体等、石綿対策工事の必要性が高まる中、不適切な工事や作業による問題が発生しているのが現状である。
 
石綿対策工事にかかわる事業者や個人に対しての教育や研修、災害現場での支援等、本協会の活動内容、現在の石綿対策工事における現状の課題や協会としての取り組み等について紹介する。
 
 

協会の設立目的

海外では石綿調査や対策工事を実施するにあたっての資格制度が確立されている。
一方、日本では石綿対策工事の施工管理のための資格制度が確立されておらず、工事業者のスキルや技術レベルが不足している工事業者により不適切な工事が実施されるケースも多い。
 
本協会は「新たな石綿による被害の発生を防止をするため、適正な石綿対策工事に関する知識及び技術を有する施工管理技術者及び優秀な技能を有する作業者を育成し、これらの者が活躍できる場を創出すること」を目的として2023年6月30日に設立した。
 
 

協会の活動内容

(1)石綿対策工事等に係る調査研究、技術開発及び啓発普及等に関する事業
(2)石綿対策工事等に係る講習会等に関する事業
(3)石綿対策工事等に係る資格認定等に関する事業
(4)石綿対策工事に係る優良企業認定に関する事業
(5)企業等に対する石綿対策工事に係る指導助言に関する事業
(6)正会員に対する石綿対策工事に係る情報伝達及び情報交換等に関する事業
(7)国、地方自治体及び国内外の関連学協会等との情報交換等に関する事業
(8)災害生発生時の石綿対策工事等に係る国及び自治体等への支援・協力に関する事業
(9)石綿対策工事等に係る書籍等の出版に関する事業
(10)その他本協会の目的を達するために必要な事業
 
 

石綿対策工事要点講習の開催

石綿対策工事は現場によって対象となる建材の種類や工法が異なるため、石綿飛散防止を図り、適切な工事管理をすすめるためには、工事の特徴の理解や適切な作業計画の作成が必要である。
設立時の講習会で実施したアンケートで参加者から要望のあったテーマを中心に作業計画作成から工事実施、完了までのそれぞれのプロセスにおけるポイント(要点)を伝えることを目的に要点講習を開催した。
2024年開催の講習では、石綿対策工事の経験豊かな講師陣が、それぞれの専門分野でマニュアルだけではわからない現場感のある情報をもとに事例紹介等を交えつつ課題や注意点について講義を行い、東京、大阪、福岡、仙台の4カ所で現地参加とWEB参加のハイブリット方式で開催した。
 
民間事業者に加えて多くの自治体担当者も参加し、現状の石綿対策工事の課題や問題点について情報共有し、その対策についての意見交換を行った。
 
《講習会の講義内容》
1.様々な石綿除去工法の紹介「建材毎にどのように除去しているのだろう?」
2.事件事故事例の紹介「あなたは勧告受けて社長印もらえますか?」
3.レベル3建材や仕上げ塗材除去の施工計画書「レベル3建材の施工計画を作らないと法違反です!」
4.完了検査について「検査のやり方や要点をご存じですか?」
 
講義の参加者の立場や役割、経験年数等によって求められる講義内容が異なることもあり、今後は参加者の役割やニーズに合わせていくつかのコースに分けて講習会を実施する必要があると考えている。
講義後にアンケート調査を実施しており、その内容も踏まえて次年度以降の講習会を計画していく予定である。

 
 

アスベスト対策工事 監視モニタリング技術者研修の開催

国内の石綿対策工事はここ数年増加傾向にあるが、適切な工事管理ができておらず、飛散事故が起きる事例が散見されるのが現状である。
2024年より石綿対策工事の作業員ばく露・周辺飛散事故を防止に対応できるモニタリング技術者育成のため、座学と実際のアスベスト対策工事現場での実地研修による「アスベスト対策工事監視モニタリング技術者研修」を開始した。
 
この研修は、石綿対策工事現場での異常発見、工事停止要請、原因特定、改善提案、効果確認、再開承認まで対応できるアスベストコンサルタントを育成することを目的としている。
 
従来の研修は座学中心のものが多く、実際の現場での調査経験を積める機会が少なかったことを踏まえて、本研修では座学講習と併せて実地研修(工事中の監視、完了検査等)を実施し、より具体的な監視方法を体験できるようにした。
2024年は大阪府堺市の石綿対策工事現場での実地研修を含む下記の内容での研修を実施した。
 
《研修内容》
◎座学講習(1日間)
1.自身に対するばく露防止
2.計画書図面及び作業基準と各種点検記録簿
3.作業工区における飛散防止措置の確認
4.吸引ポンプ式デジタル粉じん計の使用方法
5.集じん・排気装置の点検方法(体験型学習)
6.発注者等への説明資料並びに毎日の作業終了時のチェックポイント
 
◎実地研修(2日間)
 
本研修は次年度以降も継続して実施し、適切な現場監視のできる「アスベスト対策工事監視モニタリング技術者」を増やしていきたい。

 
 

能登半島地震被災地での活動

2024年1月1日に発生した能登半島地震では石川県輪島市、志賀町で震度7を観測し石川県に大きな被害をもたらした。
地震だけではなく、津波や火災も発生し、多くの建物が被災して解体を余儀なくされている。
 
公費解体が進められる中、被災地での石綿対策の課題も多い。
2024年8月から9月にかけて環境省からの依頼で輪島朝市の火災現場の被災建物の石綿対策と適切な解体方法の提案、公費解体における解体現場の行政パトロールへの同行等の支援を実施した。
 
被災状況、建物の構造や石綿の使用状況は多種多様であり、適切な対応をとるには、「専門的な知識や経験」が必要で、具体的で効果的な対応をするにあたっての解体事業者と自治体との協議が必要である。
「解体=石綿除去」と思われがちであるが、解体事業者が必ずしも石綿除去や対策の専門家であるとは限らない。
現地での活動を通じて専門家による適切な助言を含めて、自治体や解体事業者を技術的に支援できる体制づくりが必要であると感じた。
 
復興の過程で、建物解体や廃棄物処理は当面の間続き、多くの人が関わり現場での課題も多様である解体や廃棄物処理に関する石綿対策については、課題整理の上、適切な改善のための対策をとること(関係者での共有が必要)、現地確認や助言は定期的に継続することが必要だと感じた。
今後もさまざまな形で協会及び協会会員の経験や知識を生かした支援を続けていく。

 
 

自治体への石綿対策支援

自治体からの委託事業として、自治体発注の石綿対策工事における作業計画、現場管理について除去事業者の現地指導も含めて石綿対策コンサルタントとしての対応をしている。
 
石綿の専門知識の少ない自治体担当者を支援し、工事事業者への助言や指導等を行うことで適切な石綿対策工事を実施するため、現地の石綿除去現場への専門家派遣等を行った。
 
今後も、自治体からの同様の要請にはニーズがあると考えており、現場監視のできる「アスベスト対策工事監視モニタリング技術者」の育成が急務である。
前述の研修を通じて技術者を増やし、多くの自治体に対してアスベスト対策の支援ができる体制を構築していきたい。
 
協会では自治体への石綿対策支援として職員向けの石綿対策や工事に関するコンサルタントの他に行政向けの講習会を実施している。
2024年は新宿区からの依頼で以下の内容で「石綿技術対策講習会」を開催した。
 
《講習内容》
・石綿対策の基本と施設管理について(75分)
・石綿対策工事の課題(60分)
・石綿関連情報の検索方法について
※「現場監視」「施設管理」「営繕計画」「工事発注」の業務に携わる区職員が対象。
 
今後も自治体からの要望に応じた講習会の実施等の対応を継続していく。
 
 

その他の活動

協会として講習会の講師依頼、環境省検討会への委員としての参加等の活動を実施している。
 
《活動内容》

  • ・公費解体に係る石綿飛散防止対策研修会「公費解体における石綿除去作業の注意点」講師対応(環境省、石川県)
    ※石川県構造物解体協会会員及び石川県内の自治体職員が対象。
  • ・大気環境研修「石綿飛散防止対策(施工・管理)」講師対応(環境省)
    ※行政担当者向けの講習。
  • ・アスベスト大気濃度調査検討会委員(環境省)
  • ・災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル改訂検討会委員(環境省)

 
今後も協会外からの各種要請に対して協会の特徴を生かして積極的に対応していく。
 
 

今後の協会の活動内容

2023年10月より建物調査や石綿分析については資格者による対応が義務付けられた。
一方、建物の解体や改修等における石綿対策工事のニーズが高まる中、日本国内では石綿対策工事についての専門的知識を持った施工監理技術者の資格制度はまだ確立されていないのが現状である。
多くの工事現場で多くの事業者が関わることとなり、適切な現場管理がなされず不適切な工事対応や石綿漏洩の事例も散見される。
 
石綿対策工事の監理技術者の育成が急務であり、現在、協会では将来の資格制度の設立に向けた講習会の準備を進めている。
 
現場監理ができる管理者が求められる中、被災地での公費解体の現場等では石綿対策工事に関する経験や知識の少ない従事者も多くみられる。
管理者だけではなく現場に関わる作業者向けに石綿対策工事の基本的な事項についても適切な指導や情報提供が必要であると感じている。
 
今後は受講者の経験や知識に基づきレベル分けをした内容での講習会の実施も検討していく。
 
また、事業者の資格制度やスキルアップとあわせて、工事発注や現場への立ち入り等を実施する立場である自治体職員向けにもニーズに合わせた講習会の実施や工事管理の支援等が必要だと感じている。
協会では今後、自治体職員向けの支援やサービスも充実させていく予定である。
2025年からは協会内に積算委員会を立ち上げ、適正な工事費用の算出を目的に石綿対策工事に必要な見積もり項目や工事費用算定に関する情報収集を開始した。
 
現在対応中の研修や自治体支援については今後も継続し、協会として石綿対策工事の適正化や質の向上について更なる貢献をしていく。
災害時の復興支援や被災地の自治体への協力等についても、今までの経験を生かして協会として積極的に対応していきたいと考えている。
 
協会についてのお問い合わせは下記事務局までご連絡ください。
 
 
一般社団法人日本石綿対策技術協会
URL:https://www.aca-japan.or.jp/
住所:〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-2-31
ヒューリック神保町ビル4階
TEL:03-6630-6623
E-mail:contact@aca-japan.or.jp
担当:事務局 亀元・豊口
 
 
 

一般社団法人日本石綿対策技術協会 (ACA Japan)理事
豊口 敏之

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2025年11月号


積算資料公表価格版2025年11月号

最終更新日:2025-10-30

 

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