ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 カーボンニュートラルと建設 > 「生コン工場から提案できる低炭素型コンクリート」 ~札幌生コンクリート協同組合「SCN-5o」普及促進について~

はじめに

近年の異常気象の中には、地球温暖化による気候変動の影響と指摘されるものがあり、日本国内でも、強い台風が上陸することはほとんどなかった北海道にまで、台風が勢力を維持したまま近付くなど、自然災害のリスクが年々増大しています。
温室効果ガスの排出量増加に伴う地球温暖化は地球全体の環境に関わる問題であり、わが国では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、2021年4月には2030年で46%削減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦すると宣言しました。
国土交通省の直轄工事でも中部地方整備局や九州地方整備局では、受注業者のカーボンニュートラルに関する取組み実績・技術提案を入札契約時に評価する取組みが始まっております。
北海道では、国の宣言より早く2020年3月に鈴木知事が2050年までの実質ゼロ宣言を行い、2022年3月には中期目標として2013年度比で48%削減を掲げ、これらを踏まえ2023年4月に「北海道地球温暖化防止条例」を改正したところです※1
道内の建設業においては国土交通省北海道開発局などが2022年より「北海道インフラゼロカーボン試行工事」を新設するなど、業界内でも低炭素化に向けての試みが進められております(図- 1)。

図- 1  北海道インフラゼロカーボン試行工事(北海道開発局事業振興部技術管理課ホームページより)
図- 1  北海道インフラゼロカーボン試行工事(北海道開発局事業振興部技術管理課ホームページより)

 
「北海道インフラゼロカーボン試行工事」とは、道内建設業において率先してカーボンニュートラルの取組みを進めるため、工事受注者から「ゼロ カーボン北海道※2」に資する工事現場の意欲的な取組みについて提案を受け、取組みの実施を確認できた場合は、工事施行成績評定で加点評価するインセンティブを付与することで、道内建設業におけるカーボンニュートラルの意識醸成を図る施策です。
2022年11月からは新たに独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)・東日本高速道路株式会社北海道支社が参画しています。
コンクリート分野においては、主材料であるセメント製造プロセスにおいて原料の石灰石(CaCO3)を熱で分解して製造することから、CO2が大量に発生します。
スーパーゼネコンを中心に、セメントの配合量を減らした低炭素型コンクリートや製造工程で排出されるCO2を実質ゼロ以下に引き下げるカーボンネガティブコンクリートの開発・使用を模索する動きがあります。
 
本稿では「生コン工場から提案できる低炭素型コンクリート」として当協組での取組みについてご紹介いたします。
 


※1出典:太田正亮:「北海道経済部ゼロカーボン推進局ゼロカーボン産業課ゼロカーボン産業係」―ゼロカーボン北海道」の実現に向けて―
※2温室効果ガスの排出量と、森林等が吸収する量を同じにして、実質ゼロにする取組み。
脱炭素の実現には向けて経済活動を停滞させるのではなく、脱炭素を進めながら経済的な活性化も同時に進めることを目指している。
 
 

1. 低炭素型コンクリートワーキンググループ『SCN-5o』の発足

1-1 発足経緯

当協組では温室効果ガスの一つであるCO2排出量削減対策が重要であるとの認識の下、2022年2月の技術委員会で『SCN-5o』と名付けた低炭素型コンクリートワーキンググループを発足させました。
ワーキンググループの名称は『SCN-5o(エス・シー・エヌ・ファイブオー)』で“S”は当協組のアルファベット表記(Sapporo)の頭文字、“CN”はカーボンニュートラルに向けた取組み、“5o”という数字は札幌生コンクリート協同組合50周年の節目の年に活動がスタートしたことにちなんでいますが、クリンカー由来のCO2を約50%削減する意味もかけています。
 
それ以前から当協組は大手ゼネコンが開発した低炭素型コンクリートを物流倉庫などに納入してきましたが、隣接する北広島市に2023年開業した北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOで低炭素型コンクリートが使用されるなど、道内にもニーズが広がってくると予想されたことから検討を開始しました。

写真-1 小型ミキサ試験練り風景
写真-1 小型ミキサ試験練り風景

 

1-2 開発コンセプト

“地産地消の推進”と、“できるだけ費用をかけずに製造すること”をコンセプトに開発を進めました。
当初は高炉スラグを60%超70%以下で混合した高炉セメントC種の活用を検討しましたが、高炉セメントC種は供給メーカーが限られ、将来的に各工場で広く標準化して出荷することは難しいと判断しました。
このため、まずは分量30%超60%以下で汎用性のある高炉セメントB種と、火力発電所副産物のフライアッシュを組み合わせ、安定した品質で製造できないかを検討することとしました。
高炉セメントB種は道内に太平洋セメント上磯工場(北斗市)、日鉄セメント(室蘭市)などの製造拠点があります。
また、フライアッシュは苫東厚真発電所(勇払郡厚真町)から安定的に供給されることから、地産地消の観点と材料の安定供給の観点から材料選定のカギになりました。
 
初期投資の抑制面では、SCN-5oの検討を始める直前である2019年に開業した石狩湾新港の発電所の液化天然ガス(LNG)タンク向けなどの北海道電力が発注する物件で、普通セメントの一部をフライアッシュに置換したコンクリートが指定されていたこともあり、当協組の組合員23工場のうち11工場がフライアッシュ専用のサイロや計量器を保有していたことが強みとなりました。
それ以外の工場の中にも、フライアッシュを混合したプレミックスセメントを使った配合を出荷した経験がありました。

写真-2 試験練り時の生コン性状
写真-2 試験練り時の生コン性状

 
 

2. 低炭素型コンクリート『SCN-5o』の開発

2-1 CO2排出量を50%削減

高炉セメントB種にフライアッシュⅡ種をセメント質量の内割で15% 混合したコンクリート配合を計画し、普通ポルトランドセメントを用いた同一呼び強度コンクリートに比べ、クリンカー由来のCO2を約50%※3削減できる低炭素型コンクリートを標準化しました(表- 1)。
低炭素型コンクリートワーキンググループ名と同じ『SCN-5o』と命名し、当協組独自生コンとして2022年2月にブランド化しました。

表-1  高炉B種セメントのスラグ含有率と単位セメント量の15%をフライアッシュに置換した場合のクリンカーの削減率の試算
表-1  高炉B種セメントのスラグ含有率と単位セメント量の15%をフライアッシュに置換した場合のクリンカーの削減率の試算
※ 高炉B種セメントのスラグ含有率を45%と仮定する。

 


※3 セメント製造時に排出されるCO2は原料由来と、焼成工程で発生するものがあり、その量はセメント1t当たり788kg/t(一般社団法人セメント協会:セメントのLCIデータの概要2024.4より)。
コンクリートのCO2量は換算値で約240kg/m3となり、セメントの代わりにフライアッシュや高炉水砕スラグなどの産業副産物を大量に用いることで、コンクリートのCO2量をおよそ50%に削減することができる。
 
 

2-2 JIS生コンクリートとして出荷

材料は全てJIS認証に適合したものを使用します。
2024年4月現在、組合員2工場がJISの認証を取得しました。
2024年9月にさらに1工場がJIS認証取得予定です。
SCN5oは、JISによる品質保証を生コン工場側でできることが大きなポイントとなります。
JIS品であることから品質が保証され、複数工場からの大量打設にも対応可能となります。
当面は、2工場からの出荷となるため、大きな物件でも1万m2程度が出荷の上限になります。
さらに大量打設物件で採用されることも見据え、他の組合員にも標準化を呼びかけております。
 
当協組で実施した試し練りや、凍結融解抵抗性、促進中性化、長さ変化といった耐久性試験の結果は、組合員で共有しており、フライアッシュ専用サイロを持つ工場ではすぐにでも取り入れることができる予定です。
これは開発当初に検討した初期投資の抑制が生きてくる結果となります。
また、2024年3月の生コンJIS(A5308)改正で累加計量が認められるため、設備の関係で対応できなかった工場でも、今後標準化作業を進めるところが出てくると予想しています。
 

2-3 地産地消の推進

SCN5oに使用する産業副産物であるフライアッシュ、高炉セメントはともに北海道で産出・製造されるものを使用します。
開発当初のコンセプトである地産地消の推進を実現しました。
また、道内で産出・製造されるものを使用することにより資材輸送に関わるCO2排出量の縮減も期待できます。
 

 

2-4 JASS5(2022年改定)の環境性の評価

2022年度の日本建築学会JASS5(建築工事標準仕様書、鉄筋コンクリート工事)で盛り込まれた環境性(資源循環性、低炭素性、環境安全性)のうち、資源循環性と低炭素性※4の評価を得ることができます。
 


※4 資源循環性サブ等級2、低炭素等級3それぞれに相当します。
 
 

3. 課題と今後の展望

3-1 低炭素型コンクリートの特性への理解促進

産業副産物であるフライアッシュや高炉水砕スラグを含むコンクリートは中性化が進行しやすいことが知られています。
構造体地中部では問題なく打設できますが、通常の生コンと比べて構造体に使用できる部位が地中部などに限定されること、打設部位ごとに最小かぶり厚さや使用するW/Bの値に配慮が必要となることなど(図- 2、図- 3)、低炭素型コンクリートの特性をゼネコンの購買担当者などユーザー側に周知を進めていく必要があります。

図-2 結合材水比と28日強度の関係
図-2 結合材水比と28日強度の関係
図-3 結合材水比と56日強度の関係
図-3 結合材水比と56日強度の関係

 

3-2 他の環境配慮型コンクリートとの差別化

環境配慮型コンクリートには、当協組のSCN-5oのように①セメントを置換する材料技術の他に、②骨材や粉体にCO2を固定化する技術、③コンクリートにCO2を吸収させる技術※5に分類されます。
大手ゼネコンらが開発してきた環境配慮型コンクリートは今後も大手ゼネコンが自社で施工する比較的大きな物件で採用されることが予想されます。
当協組では、低炭素型コンクリートの中では比較的費用が抑えられる点やJIS生コンクリートとして出荷可能であることなどの強みを生かし、適材適所で比較的小規模のマスコンクリートで採用してもらえるようPRしていく予定です。
 


※5 出典:久田真、宮里心一:「土木施工2021.11」カーボンネガティブコンクリートの社会実装に向けて―CO2の受け皿となるコンクリートを目指す―
 

3-3 道内への普及

低炭素型コンクリートの普及は当協組単独で行うことが困難です。
そのためSCN5o の取組みは北海道生コンクリート工業組合へ進捗を報告し連携をとっています。
今後も同工組や他企業とも情報を交換し、協力しながら進めていきたいと考えております。
当協組で低炭素型コンクリートの取組みを先行することにより、道内の他地域でも検討が進めばと思っております。
 
 

おわりに

札幌生コンクリート協同組合の取組みが、建設工事における低炭素型コンクリートの健全な利用拡大につながり、CO2排出量削減等に寄与できることを願っております。
 
 
 

札幌生コンクリート協同組合 技術委員長
神本 邦男

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年8月号


公表価格版8月号

最終更新日:2024-07-19

 

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